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証言その1(大帝音波)

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 えぇ、確かに。確かに居ました――見ました。

 憶えていますとも。あれは、あの人たちは、忘れようにもなかなか忘れられないでしょう。それくらい強烈でした。

 何がって、そりゃもう、存在感って言うんですか。そういうのですよ。テレビとか雑誌に出てる人たち――芸能人とか有名人っているじゃないですか。そういう、なんか眼を惹くっていうか、つまりそんな感じです。たぶん、あの人たちはどこでだって大体ひとの注目を集めるんじゃないですかね。道歩いてても、店で買い物してても。いや、自分の貧相な頭じゃなんかもうそういうとこ行くのかすら想像できないんですが。

 えぇと、つまりです。つまり、自分はその、あの人たちの目撃証言を提供できます。その、えっと、あなたがあの人たちとどういう関係かは知りませんが、知り合いってことは分かりますし、つまりあの人たちがどういう人たちかって言うのも――あぁすいません。言います、言いますから!

 あー、自分があの人たちを見たのは、あの商店街にある、どこにでもある食堂型チェーン店の中で、でした。

 …………。

 開店してから二年くらいは経ってる、食堂型チェーン店は、いわゆる行きつけっていうかお得意様っていうか、週五くらいで通ってるとこなんですよ。自分みたいな低所得者でもそこそこの味と量が楽しめるんで、学生とかで結構儲かってると思います。学生街でもありますから、あそこ。

 で、ですよ。

 で、なんでそんなとこにあんな人たちが居たのかってそんなこと、こっちが聞きたいくらいでさァ。逆にあなた、あの人たちって普段どんな店に行ってるかとか知ってたり――いや、いや、そんな別に詮索なんて。えぇとでもつまり、その反応から察するに、少なくともあんな庶民的な店に行くような人たちではないと。イメージ通りってことですね。

 あぁはい。それで、えぇと、何をしていたか、ですか。そりゃまぁ食事じゃないですかね。食堂ですし。

 わっ! わ、わ、やめ、落ち着いてくださいよ! 自分が席に就いた時にはもう食べ終わりだったんですから詳しいことなんてそんなこと!

 ハァ――。テーブルの上は、チラッとしか見てないですけど、普通に定食だったように思いますよ。日替わりか固定かはさすがに分かりませんが。なんか普通に、和気藹々っていうんですか。そんな感じで向かい合って座って食べてましたよ。まぁふたりの空気感が空気感だったんで、近くの席は空いてましたけど。や。いや。そこは、たまたま偶然ってこともありますよね、えぇ。何か話し声は聞こえたかって、うーん、どうでしたっけ。自分もチラチラっとしか見てませんし――あのですね、そんな、見知らぬひとをガン見できるほど図太くないんですよ、しがない庶民Aは。だから会話の内容とかは、そもそもパッと見た印象の通り、くっちゃべっちゃいませんでしたし。ほんと、なんであの食堂を選んだのか分かりませんよ。お上品、お行儀良し、育ち良しって感じの人たちが――あぁ、そうそう。そういえば、会話はよく聞こえませんでしたけど、時々なんか顔寄せ合って、そう、内緒話みたいに囁き合って?それで、クスクスって小さく笑ってるとこは何度か見ましたね。いやー。横顔しか見てないですけど、あれ絶対イケメンとかイイ男ってヤツですね。良い歳の取り方してますよ、きっと。お相手の方も――そういえばもう一人の方ってどっちなんですかね。女性型にしては大きい気がしたし、でも男性型にしては細い気がして。あなたどっちか知って、あ、ハイ、そうですね、いま関係ないし詮索はNGでしたね、すいません。

 で――つまり、安易に言うならお似合いのセレブ二人が庶民体験デートをしてるって感じでしたかね。個人の感想ですけど。え、なんですかその顔。

 というか、そもそもどうしてあなたはあの人たちの話を聞きたがったんです? え、そんなもういいって、ちょっと!

 な、何なんだったんだ。あの人たちのこと探してんのか? でもあの一回しか見てないし、見つけるアテあんのかね。

スタ音

証言その2(スタ音)

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 えぇ。そうね。知っている――と言うより、見たことがあるわ。

 今どき流行のカフェに今どき滅多に見ない綺麗な造形の二機だったからよく覚えているわ。私が居たのは向かいの喫茶店だったから、目撃しかしていないけれど、それでもいいのかしら。

 そうね――第一印象は、呆れたわ。あの機体は嫉妬すらさせてくれなかった。それぞれ戦闘系飛行型と支援系飛行型の粋を集めたような二機だったわ。前者は結構しっかりとした造りみたいだったし男性型でしょう。でも、後者は判断しかねるかしら。女性型にしては大きかったと思うし――そもそも本当に支援系なのかしら。もっと他の、別な仕事に向いた機体なのかも知れないわね。まぁ、そんなことはこの際どうでも良いことね。ここで重要なのは、つまり、私が目撃して、貴方が私からその情報を得ようとしている二機が、とても見目の良い二機だったってこと。ふふ。貴方も十分魅力的な機体だと思うわよ。そうね。脱線は良くないわね。

 私は喫茶店の店内に居たから、テラス席に就いていた二人を窓越しに見ていたけれど、テーブルにあったのはコーヒーとパフェだったわ。

 それぞれ、想像の通りよ。戦闘系と支援系の機体を、それぞれ仮に彼氏と彼女としましょう――あら、変な音がしたけれど発声装置は大丈夫? 続けても? わかったわ。

 そう。想像の通り、彼氏側にコーヒー、彼女側にパフェがあったの。彼女は、それはそれは楽しそうに嬉しそうにパフェを食べていたわ。彼氏はちびちびコーヒーを飲んでいたわ。面倒そうと言うか不本意そうと言うか――そんな顔をしていたけれど、心底嫌そうって感じではなかったかしらね。あれは、むしろ一緒に居られて嬉しいって言うのを悟られまいとしてる顔だったのかしら。あら。だって、彼女が時々差し出すスプーンの上の、パフェの一口をちゃんと食べていたのよ? 差し出されたスプーンを直接くわえていたかって? さぁ、ふふふ、どうだったかしら。

 そんな風にお茶をしていたわ。お茶しながら、時々何か話していたと思うわ。内容までは知らないけれど――ふふ、そうね、見ていた様子からして、悪くはないんじゃないかしら。

 あら。そんな渋そうにしないでちょうだい。私は見たままを言っているだけなんだから。ええ。私の主観が入っていることは否定しないけれど。それに、なぁに? 貴方はあのどちらかに片想いでもしているの? だったら、そうね。私に言えるのは頑張りなさい若人ってことくらいかしらね。あら、そんなんじゃない? ふふ。そういうことにしておきましょう。

 そうそう、知ってる? 私が貴方の探し人たちを見たカフェの、彼女が食べていたパフェのウワサ。なんでも、カップルで食べると末永く一緒に居られるとか何とか。まぁ、ウワサの出所がどこかなんて知らないし、信憑性もないモノだけど、いつの時代もそういうのはあるし、みんな好きよねぇ。でも、そこで一緒にお茶してる瞬間は確かに幸せなんでしょうね。それに、味は確かみたいよ、あのパフェ。あの二人がそのウワサを知っていたかどうかは知らないけど、パンケーキやワッフル、クレープ、サンドイッチの類も扱ってるカフェでパフェを選んでいたってことは、少なくとも彼女はパフェが美味しいってことを知っていたんでしょうね。

 それから? 他に? そうねぇ――そうだわ。彼氏の方がホットサンドをテイクアウトしていたかしら。パフェの容器が空になって、少し談笑してから会計に店内へ消えたけれど、店から出てきた時に彼氏がテイクアウトの紙袋を持っていたの。どうしてパフェと一緒に頼んで食べなかったのかしらね。誰かに差し入れるのかしら。あぁ、それでどうして紙袋の中身がホットサンドだって分かったのかだけど――簡単よ、袋のプリントがね、品物ごとに変えてあるのよ、あのカフェ。そう。だから分かったの。それで、カフェを出た二人の行き先? それは分からないわね。駅とは逆の方向へ歩いて行ったみたいだけど。どこへ行ったのかしらね――。ええ。私が見たのはこのくらいよ。そう。行くのね。ふふふ。会えると良いわね。

 ……本当、呆れるくらい綺麗な二機だったわ。近寄りがたいけれど、だからこそ羨望や憧憬を集める芸術のような――。

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