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「ねぇねぇフェロ!今日って甘いモノ食べる日なんだって!クダリが言ってた!だからフェロ食べるね!」

「は、何言ってんですかわけがわかりません大体あなたいつも甘味ばかり食べているでsy――アッー」

2月14日はバレンタインデーである。

古代ローマ帝国の皇帝が兵士の婚姻を禁止したにもかかわらずキリスト教司祭が秘密で兵士を結婚させ、それがバレて捕らえられ、その司祭が処刑された日であり、またユノの祭日でルペカリア祭の前日で、今日では恋人たちの祭日である。

日本では製菓会社が販売促進のために多くの女性に男性へチョコを愛情表現として贈れ贈れと謳い、巷にはチョコレートの甘いにおいと恋人たちの甘い空気が溢れ返っている。

「…バレンタイン、ですか」

ネオンが煌めくライモンの町を歩きながらノボリは溜め息とともに言葉を吐いた。抱える紙袋ががさりと音を立てる。中には綺麗に包装された色とりどりの箱が入っており、甘いにおいが漂う。

女性の行動力には畏怖の念すら感じる。それに対して自分は。少女漫画の主人公のように、うだうだと考え込んでバカみたいだ。いや、しかし。世間一般に考えて同性、しかも家族に贈るなど。だが、最近巷では日頃の感謝や親愛の意を込めて同性や家族にチョコレートを贈ることが増えているらしい。

「…まぁ、人目に触れることはありませんし……、いいですよね、」玄関の前でそう呟いて鍵を回しドアノブに手をかけた。

「ただいま戻りました」と帰宅を知らせればリビングから弟がぱたぱたと足音をさせて出てきた。

「ノボリおかえりー」

チョコあるー?とふにゃりと笑いながら抱き着いて来る弟を“あるわけないでしょう”と引っぺがしながらリビングに移動する。先程帰宅したばかりなのか、弟の白いコートがソファにぞんざいにかけてある。

「えーないのー…?」

捨てられたバチュルのような目で兄を見る弟は兄がこれに弱いことを知っている。机に置かれた紙袋を退かして、抵抗のない兄をゆっくりと机に押し倒す。紙袋が騒がしい音を立てて中身と共に床に落ちた。

「じゃあしょうがないね…」

「え、くだ、クダリ……?」

「ノボリ、連想ゲーム。今日、バレンタイン。バレンタイン、チョコ。チョコ、甘い。甘いは?」

兄の耳元で囁くと、その体が僅かにはねた。それを見て口角をぐっと上げた弟は兄の顔を覗き込む。そして、答えを促すように正面から合わせられた、その目は先程のものとはうってかわって獣のような光を宿している。逃げ場など無い。

「……、来月は倍返しですからね」

今日くらいは流されるのも悪くない、とノってやると、えー、返さなきゃダメー?と楽しげな返事が返ってきた。

 

そして翌日、クダリが冷蔵庫を開けて再度ノボリを押し倒すのはまた別の話。

 

バレンタインデー

(たいせつなひとに、おくります!)

ホワイトデー

「サーンヘン!今日はホワイトデーだよね!今年はお返し何くれるのかな?くれないの?くれるまで寝かせないけどね!」

「おや、何か貴方からいただきましたっけ?いただいていない気がするのですが。というか贈った記憶も御座いませんが」

一か月後の3月14日。

日本で発祥したバレンタインデーのお返しをする日、クダリは異国で同じくサブウェイマスターをしているシャマルに相談を持ちかけていた。内容は至って簡単。バレンタインのお返しとはどのようなものが好ましいのか、というものだ。欧米圏なら贈り物の扱いに強そうだと目星をつけて最も無難そうなチーフメトロを頼ったのだが、その返答は意外なものだった。

「え?!そっち無いの?!ホワイトデー!!」

『…えぇ、どうやらホワイトデーがあるのは日本や韓国など、東アジア圏だけみたいですね』

「んー…どうしよ。僕贈り物なんて考えれないよ…」

『何か、仰っていませんでしたか?ノボリ様は』

「え、っと…そう、倍返しって言ってた!」

『倍返しですか…ちなみに何をいただいたのですか?』

「ノボリ!」

『………それは、とても高いですね…』

困ったように頬を掻くシャマルの後ろから挑戦者を知らせる放送が聞こえてくる。どうやら時間のようだ。

お力になれなくてすみません、と眉をハの字にしてシャマルが謝る。

「ん。いいの。僕も仕事中にごめんね?」

『いえ、いいのです。では、Au Revoir、クダリ』

画面が黒くなったライブキャスターをしばらく見つめていたが、動かなければ何も始まらない、と取りあえず何を贈るか頭の中にピックアップする。やはりクッキーやマシュマロのようにお菓子がいいのだろうか。というか、返せるものではなさそうだが、何倍で返せばいいのだろうか。

「……いや、っていうかもう僕贈っちゃえばよくない? うわ、頭いいな僕」

下になる気は無いけど!と心の中で突っ込みつつ己の発想を称賛する。

「いらないついでに言いますと貴方それ自画自賛ですよ」

「句読点無くて読みにくいね!…ってノボリ?!」

「私ですが何か」

「なら話はやい!僕あげる!」

「いらないと言ったはずですが。もっと実用性のある逸品をくださいまし」

リゾチウムとかタウリンとか、と言う兄に、さすが廃人だ、という若干失礼な感想を抱きつつ弟は提案する。

「欲しがらせてあげる!」

 

ホワイトデー

(まごこころ、れんぼ、したごころをこめて!)

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