つまり君、技術を上げたまえ
元ネタ(発想元):この動画(https://www.youtube.com/watch?v=H4udyfpIXsU)
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鐘の音に応じてみると、そこには何故か最近狩人狩りと共に自分を殺したはずの狩人と、古狩人らしき狩人が居た。
曰く、どうしても黒獣に勝てない新人に泣きつかれて古狩人が古人呼びの鐘を鳴らしてみたのだとか。
えぐえぐと見苦しく口布を濡らしている狩人を見て、黄装束の古狩人――ヘンリックは大変な疲労感を感じた。
兎角――標的は細い道を進んだ先の広場に居る黒い獣。
この場合、見通しの良い屋外であったことが幸いと言えよう。
さっさと狩りを終えて帰ってしまいたいヘンリックが口を開く。スラリとスローイングナイフがその手の内に姿を現した。
「……ヘンリックの狩りを知るが良い」
「それ古狩人の常套句か何かなんですか」
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狩人は友達想い
友人を大事にしたい系狩人
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狩人が旧市街にやってきた。
何かガタゴト動くトランクを背中に括りつけてやってきた。
道中獣にド突かれつつも、なんだかとても楽しそうに走って来る狩人にデュラはそこはかとない面倒の気配を感じた。
「デュラさんデュラさん、あの俺ちょっとお願いしたいことがあるんですけど良いですか?」
少しして梯子を上る音がしたかと思えば、姿が見え始める前から狩人の声が聞こえてきた。
「わあ、姿が見えないと思ったらここに居たんですか。ほんとうに仲が良いんですね!」
賑やかな声、気配にデュラの膝を借りて仮眠していた盟友がのっそりと起き上がる。それをにっこりと視認した狩人は、デュラが居なければ恐らく梯子から突き落とされて死んでいた。
梯子を上りきった狩人が、背負っていたトランクを地面に下ろす。ガタガタと揺れるそれを囲んで、狩人三人は地面に胡坐をかいている。
「それでですね、お願いしたいことなんですけど、俺の友人……ギルバートさんをここで暮らさせてあげて欲しいんですよ」
言いながらパカリとトランクが開かれる。その中には、どうやったのやら、拘束された一匹の獣が詰め込まれていた。
「ちゃんとギルバートさんって判るようにリボンも結んだんですよ! コートの裾を切って!」
にこにこと話す狩人の声に獣の唸り声が重なって、ひどく異様な状況に置かれているような気がする。
「……貴公、良い狩人だな」
「わぁいありがとうございます! あ、ところで病めるローランの遺跡でも同じタイプの獣に会ったんですけど、彼らも保護してきた方が良いですか?」
デュラが居なければ、恐らく狩人は二度死んでいた。
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幸せの夢は毛玉に視る
死んだら動物姿で狩人の夢に来てる感じの(感じの)
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何が何をどう間違えたのか、最近狩人の夢は賑やかだ。
猫の家族と大犬が仲良く戯れていたり、烏が優雅に羽繕いをしていたり、灰色の狼一匹と黒っぽい狼三匹が固まって眠っていたりする。
まるで動物園か何かだ。
けれど緩んだ空気は決して悪いものではなく、動物たちからは懐かしさのようなものも感じる。
人形も、狩人や使者以外の存在に触れて、楽しそうに見える。
狩人と共に動物たちの世話をしてみる姿など、人の少女にも劣らぬ可愛らしさである。
まぁ、ひと時の夢とて、悪くはないじゃあないか、と助言者は思う。
思うのだが――最近、狩人がいつか夢を訪れいつからか夢を訪れなくなった狩人の遺体を持ち帰るようになったのは、如何なものかと思う。
彼らに墓を作ってやりたいのだということは、実際に墓を作っている姿から理解できるししている。
しかし遺体と共に持ち帰った物品はそのまま置いておくから、物が溜まっていくのだ。特に椅子が最近そこらに置かれている。
現状では動物たちが利用しているから良いものを、これ以上増えたらどうするつもりなのだろうか。
否、椅子だけでなく、動物たちもこれからまた増えていったらどうなることやら。
車椅子の上で助言者はうぅむと小さく唸る。
そこに、ズシリと頭に感じる重み。チラと視線を上げて見ると、どうやら烏が帽子の上を陣取っているらしかった。
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旧市街が燃やされたり官憲隊がやって来たりする前のヤーナムの、ある狩人たちのあったかも知れない話。独自解釈と言うか捏造いっぱい。火薬庫や連盟に夢を見てるのは自覚してる……してます。ヴァさんが来る前の連盟ってどんな感じだったんだろう。
いわゆる「うちよそ狩人様」の創作はあまり得意ではないですが名前も無いモブ的な狩人で色々妄想するのは楽しいと最近気付きました。
CPのつもりは無いです。
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夕暮れ時のことだった。教会を見下ろせる小さな広場で、男は仕事終わりの一服を楽しんでいた。得物を足元――手すりを支える柵――へ立てかけて、真っ赤な夕日を臨む。
今回は少ない方だった、と「狩り」を振り返る。獣の数が少ないに越したことはない。だが、今回は何故か「良かった」と言い切れない空気を感じた。まるで嵐の前の静けさのような――。
「やっぱりここに居た」
そんな物思いに耽っていた男の背に、朗らかな声がかかった。男は思考を切り上げて、背後を振り返る。
「お疲れ。今回も生き延びたようで何よりだ」
そこには教会の黒装束を纏った青年が片手を挙げていた。
その手に通された腕甲は、しかし教会が支給するものではない。よく見れば脚衣も教会由来のものではなく――青年が心身共に教会に籍を置いていないことは、誰が見てもすぐに気付けることだった。
「相変わらずのようだな、君は。教会の装束を着るのに抵抗が無い事も含めて」
隣に来て、同じように手すりに持たれて夕日を眺め始める青年に男は小さく笑った。乱雑に丸められた黒装束の帽子が悲しげに見える。
「オレにだって生活がありまさァ。異邦人に厳しいこの町じゃ、使えるものは使うしかない」
今や方々から疑念と失望を向けられつつある「教会」に仕事を貰いに行くことを男は問うた。けれど青年はあっけらかんとして答えた。
異邦人は金が欲しい。教会は人手が欲しい。異邦人なら、特に死んだところで市民から何をか言われることもない。異邦人も、死んだならその時はテキトーに処理をしてもらえる。利害は一致しているのだ。
そんな青年の答えに、男はどこか面白くなさそうに眉を顰めた。
「アンタみたいに狩りの腕だけで生計を立てられないんでね、オレは」
男の表情に気付いた青年はヘラリと笑う。教会由来の装束に触れたことも無い男は、青年の言葉に少し居心地悪そうに視線を逸らす。
「……俺は、まあ、工房に居候してるだけだ。そんな大したモノじゃない」
短くなった煙草を押し潰して、懐のシガレットケースから新しい煙草を取り出す。それから徐に足元に立てかけていた得物――爆発金槌――を掴むと、慣れた手つきでその小振りな炉に火を入れた。男の手は厚手の手袋に包まれていた。つまり、その手は金槌の頭に極近いところを掴むことができる。ゆらゆらと周囲を揺らめかせる打面へ、俯きがちに煙草の先が寄せられた。
男が顔を上げる。スッとその手中で爆発金槌の柄が滑っていく。ゴキャリ、と骨肉を砕く音がした。
ガァ、と恨めしげな断末魔を最後に、2人の背後に迫っていたカラスが事切れる。それを振り返ることなく、男は先ほどのように得物を足元へ置いて手を放す。
「あの工房に入り浸る奴らは変わってるのが多いよな」
男の一連の動きを横に見ていた青年は頬杖を突きながら言った。ニヤリと細められた双眸は、男を面白がっていた。堪らず、男は「俺を見ながら言うな」と口端を下げる。
「あの灰色のとか。最近は黒フードの異邦人に構ってるのをよく見る」
「灰色……ああ、あいつか。あいつは、まあ、特に変わってる部類だから……と言うか、君だって異邦人だろう」
この町の人間にしては「誰にでも」優しい灰色の狩人の姿を思い浮かべる。否。あの優しさは――案外あれも「元は」この町の人間ではないのかもしれない。
だが、他人の素性など男にはどうでも良いことだった。そもそも詮索はあまり褒められたことではない。踏み入らなければ、踏み入られない。それで良かった。
「まあ。でももうここに来て何年か経ってるし」
男の言葉に青年は頷きつつ、どこか諦めたように小さな笑みを浮かべる。
「つまり、先輩ぶりたいのか」
「まさか。ただ、まあ、あの黒フード異邦人クンがこの町の排他性に晒されてると思うと、同情は禁じ得ない。だから機会があれば声をかけてみるかとは思ってる」
「連盟に?」
「ああ。連盟には異邦人も多い。多少の安息は得られるだろ」
男も青年も、連盟と呼ばれる組織に属していた。
連盟と言う組織は、この排他的な医療の町において異質な存在であった。いつから存在していたのか、男たちには知る由もない。ただ、連盟は異邦人を拒まなかった。地元の人間を拒むことも無かったけれど、異邦人を許容する連盟に近付く市民は当然と言うべきか多くはなかった。だから連盟は、異邦人にとって比較的居心地の良い場所だと男たちは認識していた。きっと立ち上げた人間が、あの工房やそこに集まる人間たちのように変わり者だったのだろう。そもそも代々継がれている「長」の証が穴の開いたバケツのような被り物なのだ。変わり者でないと言う方が納得しかねる。
「まあ、機会があれば、だな」
「無理強いはしない。当然だろ。ヤーナム野郎じゃねェんだ」
クツクツと喉を鳴らした男に、今度は青年が面白くなさそうな顔をした。
「そうだな。君は異邦人だ」
「アンタもな」
もう一押し、揶揄するつもりで言った軽口への返しに男の目は丸くなった。幅広なツバの下でキョトリとする目を見て、青年は悪童のように笑う。
「アンタも元は異邦人だろ?」
どうして、と男は青年に訊いた。指に置いた煙草の先から、灰が落ちていく。青年は、工房の人に聞いたのサ、と答えた。
「まだ小さい頃に町の外に捨てられてたのを、狩人に拾われてあの工房に引き取られたんだろ?」
「……そうだな。昔の話だ」
隠すようなことでもない話だが、今更青年に知られたと言うことに、何となく気恥ずかしさを覚えて男は帽子を目深に引き下げる。
「あの工房で良かったなァ。他の工房や孤児院に持ってかれてたら、今頃お天道様を拝めてなかったかもだ」
「おかげで俺は市民でも異邦人でも無い半端者だがな」
市民からは未だに「異邦人め」と唾を吐かれることがある。だが、人生の半分以上をこの町で過ごしていると言えば、異邦人からは「ならばもう市民じゃあないか」と言われる。正直、面倒な身の上だった。それもあって男は自分の話をあまりしなかった。工房で顔を合わせる狩人たちにも、酒場なんかで顔を合わせる連盟員たちにも。
堪らず、男は溜め息を吐く。
けれど青年は、そんな男の背中を楽しそうにバシバシと叩いて言った。
「まあ、アンタがどこの誰かなんてどうでもいいさ。少なくともオレァ、オレを構ってくれるお人好し(アンタ)が目の前に居てくれりゃ良い」
「ハァ……良いな、君は。楽しそうで」
青年は刹那的な享楽に耽っているように思えた。今が良ければ、それで良い、と。この町に囚われて、自身の進退を諦めているような姿だった。
しかし今の男にはそれがありがたいものだった。内側に淀みがちだった思考が解けてどこかへ流れていく。目の前の青年があまり無茶をしないよう気をかけておかねば、と人らしい考えが浮かぶ。ふにゃりと緩んだ口元は、この町にしては柔和なものだ。
「アンタが楽しまなさすぎるだけだろ。で、どうするこの後。飲みに行くか?」
「悪いが俺は工房に行く。武器のメンテナンスをしてもらわないと」
「オレァあの工房に置いてある酒あんま好きじゃないんだけどなァ……」
「……どうして一緒に行く前提で話を進めているんだ。工房は酒場じゃないぞ」
「あ、おい。歩き煙草やめろよ、危ないだろ」
日の落ちていく石造りの町に2人分の影が伸びる。ゆらゆらと昇る紫煙はやがてポタリと地に落ちた。そうして、やがて夜が来る。
グシャリと右足が水たまりを踏んだ。心なしか、水がねばついている。
「――、」
銃声が聞こえたのだ。獣狩りの夜には珍しくもない音。けれど違和感を感じた。獣に対する銃撃であるなら、あまりに間隔が短かったのだ。
群れに囲まれた者がいるのかと思った。だが、狩りは既に終わりの頃を迎えていた。
何か――無性に、嫌な予感がした。
青年は市街を駆けた。銃声が聞こえた方へ急いだ。
そうして辿り着いたのは、ある路地裏だった。
むせ返るような、血と獣のにおい。襤褸を纏った人影が、ひとつ、佇んでいる。その前には、左膝から下と、右肘から先を失った、人影が、倒れている。
ふわりと、嗅ぎ慣れた煙草の匂いがした。
獣が吠えた。
石畳の上に転がった仕込み杖の悲鳴は、絶叫に掻き消された。
破れた脚衣の引っかかる足で石畳を蹴り、襤褸を纏った人影に手を伸ばす。獣毛に覆われ、鋭い爪の生えた腕だ。人の身など容易に引き裂けよう。
けれど人影は動かない。静かに獣を見ている。
そして、タァン、と銃声が路地裏に響いた。
獣は銀色に光る熱を見た。瞬間、衝撃が頭を揺らして視界が半分消える。あつい、と思ったその直後――今度は細長い銀色が迫ってくるのを、見た。
ズブズブと獣の眼窩に細い剣先が埋まっていく。それは先に放たれた水銀弾を獣の肉の内へ押し沈めもしていた。溺れるような視界に、気取ったような赤い五指が見えた。
ややあって、フッと水銀弾の進攻が止む。ヒュ、と圧迫感が遠のいていく。ズルズルと獣の身体から引き抜かれる刃は今やヌラリと赤く。
閃きは一瞬だった。
どこか呆然と赤い手袋の動きを目で追っていた獣の胸に、トスリと穴が開いた。
「――仕事熱心なことだ、騎士殿」
襤褸を纏った人影が声を発した。崩れ落ちた獣を脇へ避けていた人物は、人影の方へ向き直り恭しく頭を垂れる。
「出過ぎた真似をしました」
「謝るな。貴公は良い腕をしている」
「恐れ入ります」
さっさと身を隠せ、と襤褸の人影が「騎士」へ自身が纏う物と同じような襤褸を投げて渡す。チラリと、銀製の腕甲が襤褸の下から覗いた。投げ渡されたそれを「騎士」は言われた通りに纏って、その貴族的な装束を襤褸の下に隠す。
「行くぞ。直に夜が明ける」
忌々しげにも聞こえる声に、騎士は従僕のように静かに頷いた。
そうして、2つの人影が市街の路地裏から消えていく。右手に握られた細身な仕掛け武器も、左手に携えられた細身の銃も、見た者は誰もいない。かつて「浄化」されたとされる勢力の武器を、見て分かるものが今日居るかどうか定かではないけれど。
人狩りと獣狩りが去った後に残されたのは、人と獣の死体が、ひとつずつ。
(近衛騎士は血の狩人で騎士は獣の狩人(処理係)ってネタ。それぞれの対応として2人1組で動いてたりしないのかな……。
カイン組はひっそりと活動してる潜伏者みたいな。でもそのうち教会に見つかってまとめて処理される。)
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ある聖歌隊と墓暴きの噺(途中)
「きみ、きみ。そこの君、」
地下遺跡から這い出た墓暴きの男を、草臥れた声が呼び止めた。はて自分に何者が何用かと男は一握りの警戒を携えて周囲を見回す。けれど、声の主は見当たらない。あるいは背後――?と男はぽっかり口を開けた地下遺跡へ降りる石段を振り返ろうとして、
「ここだよ、こっち」
もう一度聞こえた声が、自分の眼下、足元の辺りからしていることに気付いた。
「……なにを、しているんです、こんなところで」
足元で座り込んでいた人物――着ている装束は聖歌隊のものだ――を、見下ろしたまま、男は思わず訊いた。この手の装束を着ている人間は、大方内勤と言うか学者の類いだ。
「いや、なに。偶には実地調査をと思ってね」
はは、と疲れたように笑う相手の装束はあちこちが汚れている。そりゃ探索に向いてないにも程がある服だろうと男は思った。
「はぁ……そうだ、君、何か食べるものは持っていないかい」
「……支給品のチョコレートで良ければ、どうぞ」
ポーチから小さな包みを取り出して相手に渡す。「チョコレートか、いいな。甘いものは好きだ」なんて言いながら相手は無邪気に菓子を食べ始める。それを見て、男はその隣に腰を下ろした。さっさと帰還する予定だったが、地下遺跡初心者と見えるこの学者(おそらく)を置いていくのは憚られたからだ。
「……今日はあなたお一人で?」
一応、同行者は居ないのか訊いておく。声からしてまだ若そうであるし、探究心から単独で調査に来たのだろうかとも思えたが、もしも同行者が居るならそれらも連れ帰らねばなるまい。
「いいや? でも待つ必要はないよ」
けろりとして相手は答える。
「ふたりとも中で死んでしまったからね」
ムグムグと菓子を頬張りながら事も無げに吐かれた言葉に、男は刹那目を丸くした。
「なんともふとましい守り人に遭遇してね。ひとりは鉈で引き裂かれて、ひとりは棍棒で叩き潰されてしまった」
今頃あの守り人の胃袋に収まっているかもね、と付け加える。
相手の語る「守り人」に、男は心当たりがあった。男自身、地下遺跡の探索で何度も遭遇しているし、仲間を奪われている。そして確かに、あの守り人は死肉を食らって生きている――。
「……、軽率なことを訊きました。申し訳ない」
男は自身の軽率さを詫びた。まさか同胞を失っていたとは。
喪失とは悲しいものだ。たとえロクに接点のない者であっても仲が良いとは言えない者であっても、同胞を喪うと言うのは。
フ、と俯いた墓暴きの黒いフードに、菓子を食べ終えた目隠し帽がカクリと傾いた。
「なぜ謝罪を? 逃げられなかったのは彼らだし、君が気にすることじゃないだろう?」
ぼくも気にしていないさ、と口元が緩やかに弧を描く。
「物事とはなるべくしてそうなるものさ」
つまり、件の二人もそうなるべくしてなった、と相手は言った。男は鼻白む。やはり、頭の良い人間は何を考えているのか分からない。
そんな男の様子に気付いたのだろう、相手が小さく笑った。
「ともかく、ぼくは君と合流できて幸いだった」