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知力0くらい。ふわっとふいんきで読むと良い感じ(だと思う)

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Never attribute to reason that which is adequately explained by love.
(愛で十分説明できることに理性を見出すな)
 



「――愛を! 世に愛のあらんことを!」
 ヤバイ奴がいる。
 客観的にブライヴはそう思った。

 ちょっとした害獣駆除の帰りである。
 鬱蒼とした森を抜けた緩やかな丘陵にソイツは居た。
 調香師らしい。ゆったりとした装束の裾を舞わせながら、訳の分からないことを叫び、何やら粉を振り撒いている。遠巻きに命乞いのような格好でソレを見ている混種は連れだろうか。
 ――いや、まあ。
 訳の分からない、とは言ったが、理解できなくはない。愛とは大切だ。尊いものだ。しかし。それを口にするものと言うか、状況も、やはり大切だ。通り魔的に謎の粉と一緒にぶっかけられても困る。むしろ困惑を通り越して迷惑だ。
 道行く他の戦士やら星見やらも「なんだこいつ……」みたいな顔をして、かなり距離を取って通り過ぎていく。当然の反応だと思う。総じて厄介な拡散範囲を持つ調香師の粉末を完全には回避できないだろうが、直に被るよりはマシだろう。
 斯く思うブライヴも厄介事は御免だとそこを通り抜けようとする。が。
 「…………ハア、」
 チラチラと向けられる混種の視線に思わず溜め息が出た。乱心した連れをどうにかしてくれと助けを求める健気な眼。あの不審者とこの混種は随分信頼関係を築いているらしい。素晴らしい事だ。
 ブライヴはポーチからぬくもり石をひとつ取り出す。少し大きめなものだ。それを確かめるように、あるいは別れを惜しむかのように、指先で刹那弄び――ヒュッ、と調香師へ向かって投げつけた。
 軽く腕を振るった程度の投擲。だが、勢いよく飛んでいったぬくもり石は、ゴ、と調香師の頭部に違わず噛みついた。
 元気よく騒いでいた調香師の動きが止まる。一拍。どうと音を立てて、調香師が地面に倒れ伏した。成り行きを見守っていた混種がソレに駆け寄り、そしてブライヴの方を見て両手を合わせて何度も頭を垂れる。なんとまあ、健気な事だ。
 いらないと言っても押し付けてくるロア・レーズンを仕方なく受け取って、調香師を担いで丘を下っていく混種の背を見送る。戦闘など無く、大して動いてないはずだが、ひどく疲れた。カーレに会いたい。癒されたい。無意識にそんな言葉をこぼして、ブライヴはリムグレイブへ向かう道をまた歩き始めた。

 結論から言えば――ブライヴは件の調香師から被害を被っていた。
 さもありなん。
 遠巻きとは言え、あの場にいたのだ。撒き散らされていたあの粉は風に乗り風に流され、周辺へその効果をもたらしていた。当然、ブライヴ以外の人間やら亜人やらの生き物も被害を被っていたらしい。
 至極迷惑な話だった。

 リムグレイブ、エレの教会に辿り着くなり、ブライヴはひしと赤い商人を抱擁する。商人――カーレは挨拶もそこそこに、飛び込む勢いで突っ込んできた半狼の巨躯を、それでも受け止めた。
 一体何事かと口を開こうとして、半狼の身体からふわりと立った甘いにおいに「おや」と僅かに目を見開く。
 甘い――だけでなく、微かに香辛料のような良い匂い。素直に良いにおいだ、と思った。グルグルと喉を鳴らしながらギュウギュウ抱擁してくる半狼を甘やかすと、半狼自身のにおいと不思議なにおいに包まれる。毛皮を撫でればふわりと立つ匂いに、いつしかカーレは夢中になっていた。
 抱擁はやがて愛撫へ変わり、かち合った双眸は引かれ合い接吻となる。かたちの違う口で、それでも慣れた様子で口付け合えば、どちらからともなく熱っぽい息がこぼれた。
 体温の上昇に因ってだろうか、巡りの良くなった血色を映してほのかに赤みを帯びた半狼の紫眼が商人を捉える。
 カーレ。確かめるように、噛み締めるように、ブライヴはその名を呼ぶ。カーレ。カーレ。二言は無く、ただ飴玉を転がすように商人の名を呼び、その細い身体をそっと押し倒す。
 睦言と言うには拙すぎるブライヴの誘いに、けれど堪らなく悦んでいる己がいることを、カーレは自覚していた。
 だが、ダメだ。
 カーレの理性はまだ健気に働いていた。押し倒されはしたけれど、半狼の腕に縋り「待ってくれ」と声を上げることはできた。
 「ブライヴ――さすがに、このまま進めたりは、しないよな……?」
 身体がその気になってしまっていることは解っている。が、さすがに陽のある時分から、それも壁などあってないような場所で行為に及ぶのはいかがなものか。
 そも、ブライヴだって、そう言うことには気を遣う質なはずだ。カーレはそう認識していた。
 「――……ダメか?」
 けれど、当のブライヴから返って来たのは、叱られるのを恐れる子供のような声と、悲しげな視線で。
 「…………」
 ――まあ、こんな日もあるのだろう、と。
 「……や。いや、良い。悪いな、少し驚いただけだ。大丈夫だ」
 カーレは自分を覗き込む半狼の頭をそっと抱き寄せた。そうすれば、指先がシュンとヘタった耳に触れたので、もう一度「大丈夫だ」と言ってやった。

 するすると衣擦れの音。雰囲気と言うか勢いと言うかで押し倒した身体は、けれど少し戯れたところで起き上がってしまった。クゥン、と無意識に鼻を鳴らしたブライヴをカーレは宥めた。悪いようにはしないさ、等と。

 「――んッ……、ちゅ、ぢゅる……、んぅ、んん……ッ、」
 細い指先が首をもたげた雄棒を辿った。かたち、長さ、あるいは硬さを確かめるように、愛しさすら乗せてカーレの指先はブライヴの雄に触れた。それでも十分腰が重くなると言うのに、半身に触れている時の顔が――とろりと蕩けていたものだから、愚息の機嫌は良くなる一方であった。
 大切な商品を検分するかのように雄に触れ、しかし双眸は恍惚と熱に浮かされ鼻はスンスンと鳴る。はじめに啄むようなキスを何度か落とし、次いで遠慮がちに舌が伸ばされ、そうして、はぷりと口内に迎え入れられた。
 んく、んぐ、と事故か故意かちいさな呻き声がこぼされる。ぢゅる、ぢゅぷ、と水音があふれる。熱くて柔らかな粘膜が、敏感な部位を丁重にもてなす。細い指先は幹を撫でていたかと思えばあやすように袋を揉んでくれる。
 ああ、その、心地好さ!
 乾いた白金の髪に触れる手が、それを握り潰してしまわぬよう、ブライヴは歯を食い縛る。叶うことなら、許されるなら、その喉に欲を突き込んで満たしたい。腰を、使いたい。だがそんなこと。狼藉を。できるわけがない。
 ぐぅ、と喉が鳴る。堪えたのは快感だったか、欲望だったか。
 半狼の唸り声が聞こえたのだろう。伏せがちになっていた商人の眼が、上げられる。
 ぱちり、と眼と眼が合う。その、瞬間。ふにゃりと、熔けた黄金の双眸が、細められた。
 直後、くぽりと雄を呑んだ喉が、きゅうと締まる。んく、と小さく嚥下の動きをしたのは、偶々だろうか。
 「――カーレ、っ、」
 ひどい声だ。劣情と熱情と期待あるいは懇願に掠れている。自分の口からこぼれた声を、どこか他人のように聞いた頭がそんなことを思った。
 一方身体は欲望に素直だった。あれだけ堪えていたのに視線ひとつで焼き切れた箍は、今度こそ遠慮なく手中の白金を鷲掴んだ。腰が振れる。ぐぽ、と音が鳴った。
 「ん゛っ゛――、ん゛、ごっ、お゛っ゛、お゛ごッ、ぁ゛、ぐ、ッ゛、ぅ゛、オ゛ッ゛、」
 がぽッ、ぐぽッ、ずりゅごちゅり、とやけに嘘っぽい音が――しかし確かに最愛の男の喉から鳴る。
 大きな獣の手に頭を捕らわれて、長大な雄を扱くのに喉を使われる。なんという無体だろう。苦しくないわけがない。だのに。
 「ふぁ゛っ゛、ァ゛――、ん゛く゛っ゛、ン゛ン゛ッ゛、――ッ♡」
 双眸は優しく蕩けて。指先は愛しげに動いて。歯を立てようと思えば立てられるだろうに、生き物の身体の中でも特に急所と言える部位を受け入れている口腔は健気に従順なまま。あまつさえ抽挿の合間にこぼれおちる声からは媚びるような気配。
 この細い身体は、そう簡単には組み敷かせてくれない代物であることを、ブライヴは知っている。
 だからこそ、今のカーレの姿は非現実的なものに思えた。
 「ぐっ――、ぅ、出すぞ、カー、レ、ッ、」
 「――」
 半狼を上目遣いに見上げる琥珀の双眸が細められる。かと思えば、硬く張り詰めた雄をはぷりと喉奥まで咥え込んだ。
 ああきっと――。現状を下から見上げることができたら。きっと、普段静かに笑みをこぼす細い喉は、熱欲をいっぱいに溜め込んだ雄のかたちを浮かび上がらせていることだろう。
 びぐり、とブライヴの熱がふるえた。
 「ん゛――、ぐ、ぅ゛、ォ゛、ゥ゛、ン゛ン゛ン゛ッ゛、」
 ごぷごぷと柔く熱い喉奥に獣欲を流し込む。白濁を健気に飲み下そうとする喉の動きは次を求めて煽るよう。散々狼藉を働いた雄を、しかし未だ吐き出さずにいる様に、鼻筋に皺が寄るのを感じた。
 きゅうきゅうと引き留める喉を振り払うように腰を引けば、ずゅるり、と唾液に塗れた半身がカーレの口から姿を晒す。
 「――ぷぁ。んっ……、ふふ……、ふっ、さすがに元気が良いな。やはり、若さか?」
 口腔から抜け出た雄を柔く指先が追い、捕らえたかと思えば口付けられる。ちゅぷ、ちゅむ、と薄いくちびるに啄まれる幹はてらてらと陽光を鈍く返す。陽のある時分。倒錯を感じさせる光景だった。グルグルとブライヴの喉が鳴る。けれどそれは、思いがけない奉仕サービスに因るものだった。
 「おまえがこんな淫売だったとは」
 まさかカーレがする――される――とは考えもしなかった口淫。それも、それなりの快感をもたらすものを披露されて、ブライヴは嫉妬を覚えた。どうしておまえがこんなことをできる。
 「ふは。売れば買ってくれるのか」
 けれど対するカーレは、ブライヴの心情を知ってか知らずか、挑発的に口端を上げて見せた。
 「俺以外には売るな。絶対だ」
 「あんた以外に買うやつなんていないだろうよ」
 「もしこれまでにお前を買ったやつが居るなら――ひとり残らず教えてもらう」
 逢瀬に不似合いな剣呑さを帯びた声音に、きっと商人は気付いていただろう。
 「居ないよ。俺を買ったやつなんて、ひとりも」
 それでも、浮かべた笑みをそのままにしていたのは、所詮過去のことだからだろうか。

 つぷりと後孔に挿し入れられる指先に身体が強張っている。指の一本だけではふはふと息を上げる様に、庇護欲と嗜虐心が湧くのをブライヴは感じた。
 「はッ――、ぁ……、ンッ、ん……、」
 くち、くちゅ、と鳴る小さな水音に、細い指先が細い身体の中で動いているのだと知る。
 遂に装束を脱ぎ捨てた四肢は相も変わらず細い。見せつけるように開かれた両足の間、股座には慎ましやかなカーレの半身が、こぷこぷと涎を垂らして緩く立ち上がっている。
 おそらく、これまでに使われたことなど大してないのだろうソレは随分きれいだ。だと言うのにブライヴと言う雄を得てしまったから尚更本来の役目を果たす機会を失い、より愛らしいモノへと成ってしまったらしい。
 当人がそれをどう思っているのかは分からない。けれど、ブライヴは、そんな哀れで可愛いカーレの身体が好きだった。当然だ。自分が作ったようなものなのだから。
 「んっ……、んぅ……、ふ、ぅ……、」
 幹を伝い垂れてきた先走りや腸液の滑りを塗り込むように、指が狭い穴を出入りし拡げていく。ぬち、くゅぬ、と控えめに立つ音と、熱を帯びる呼吸が重なっては消えていく。
 「はッ――、ぁ、んンッ……、」
 ブライヴは手持ち無沙汰にカーレの薄い胸をまさぐる。すっかり芯を持った乳首を掠めればぴくんと身体が跳ね、呼吸に合わせて隆起する脇腹を擦ればひくんと身体が強張った。はう、とこぼれた吐息は実に好さそうだ。
 けれど。
 緩慢な快楽にちゃぷちゃぷと揺蕩うのは、未だひとりだ。
 「……カーレ?」
 ぴくぴくと身体を跳ねさせながら準備を進める相手の名を呼んだのは――確認の意図もあった。
 当然、それが汲めないほど浅い付き合いではない。ひくり、と体内外からの刺激とは異なる理由で薄い肩が跳ねる。
 「ッ、ぁ――ちゃ、ちゃんと、してる……、」
 言いながら、2本目の指を差し込む様はどこか焦って見えた。
 クツクツとブライヴの喉が鳴った。
 傍らに置かれたままの油壷へ、指を浸す。
 「カーレ。手伝ってやる」
 「あ、あ――、ゃ、だ、だいじょうぶ、だ、か、ァ――」
 小さな焦りと恐れと、その奥に確かな期待を湛えた眼がブライヴに乞うた。それを、素直に、愛らしいと思った。牙を覗かせて笑いながら、ブライヴは細い指を咥えこんでいる秘所に、ずぶ、と指を滑り込ませた。
 「ぅあ、ひ、ィっ、」
 手袋を着けたままなのは、どう足掻いても鋭さを削ぎ落とせない獣の爪から柔い肉を守るため。けれど、そのおかげで太さを増した雄の指は、確実に薄い腹を拡げて埋めた。
 そして――それは遠慮なく動き出す。胎を慣らすために。この後に訪れる、更なる質量を迎え入れるために。カーレの意思の外側から、身体の内側に収められたものが動く。
 「ああ。やはり。避けていたな」
 「イッ――ぎ、ィッ、ひいぃッ」
 ぐじゅ、とブライヴの指がしこりを押した。
 細い身体が、鞭打たれたように跳ねる。
 「あ゛、イ゛ッ゛、ま゛ッ゛、ぁ゛――、~~~~~ッ゛!゛♡゛」
 噎せるようにカーレの半身から白濁が吐き出された。
 だがそれを黙殺して――がくんと晒された顎下に舌を這わせながら、ブライヴは熱を隠そうともしない声で囁く。
 「ちゃんと解せ。お前のためだ」
 ごりゅ、ぐりゅ、と大きな指が胎の中を探る。
 「あ゛、あ゛あ゛ぁ゛、っ、ひッ、ぅ゛、あぅ、う゛……ッ゛」
 ろくに動けなくなったカーレの指を巻き込んでブライヴの指は動く。細い2本と、太い1本。前者は意思などとうに取り落としていて、後者は元気な盛り。不規則に粘膜を擦る不可思議な感覚にカーレは身悶えた。せめて自分の指を抜かなくては――と靄がかかった頭が必死に理性へ手を伸ばす。
 けれど。そんな、時に。
 「ぁ――、」
 きゅ、と。胎の中で。指と指が。
 ブライヴの指が。甘えるように、カーレの指と、絡んだ。
 クゥンと聞こえた子犬のような声は気のせいだったろうか。
 「…………ばか」
 思わず子供のような言葉がカーレの口からこぼれた。
 ぶわりと朱に色付く顔。キュンとヒクついた胎は、またポタリと涎を垂らした。
 「――あんた、本当に…………、……、俺を、どうしたいんだ」
 泣きそうな顔で、声で、カーレはブライヴに訊いた。訊かれたブライヴは――ただしたくてしただけだったので、不思議そうな顔をしてしまった。
 「俺は、べつに、お前をどうこうしようとは、思っていないが」
 お前はお前だ、とブライヴは言い切る。
 カーレがそうであるように、ブライヴはそのままのカーレを好いていた。だからべつに、カーレをどうこうしようなんて、これっぽっちも思っていないのだ。
 そして、ブライヴのそんな答えに、カーレの胎はまたキュンと嬉しげに縮こまったのだった。

 鎧を脱ぎ去り、簡素な服すら脱ぎ捨てた肢体は、前に触れた時よりも逞しくなっている気がした。
 自分のものよりもずっと厚くて硬い肩に手を掛けて、カーレはゆっくりと腰を落としていく。胡座をかいたブライヴの股座――その中心を、自ら受け入れようとしていた。
 「まだキツくないか」とこちらを窺う声を「大丈夫だ」と宥めすかした。確かにまだ少し早かったかもしれない。だって、けれど、欲しくなってしまったのだから仕方ない。ブライヴだって興奮と期待を圧し殺した声をしていた。空いていたもう片方の手でその体躯に見合った雄を確かめれば、随分待ちくたびれているようだった。だから。
 ちゅぷ――。
 「ひ、ァ、ッ、」
 はじめに、熱欲と秘所がそっと触れ合った。
 それだけで身体に電流が走ったようだった。
 気持ちが良い。
 ちゅ。ちゅぷ。くぷ。
 ピリピリとした快感を楽しむように、カーレは浅く腰を揺する。時折食い込む雄の先端が、ひどく熱い。
 「はッ――、んっ、ンンッ……♡」
 けれど、対するブライヴは、そんなカーレの動きを予想していなくて――いわゆる、焦らしプレイの被害者となっていた。
 否。普段結構な時間をかけてとろかさないと理性を保ったままでいる商人の、控えめに言っても厭らしい姿をこんな早くに見られたことは幸運と言えるのだけれど。
 くちくち。ちゅぷちゅぷ。
 いっそ楽しげに見えるカーレの一人遊びに、ブライヴは我慢ならなくなった。確かに良い眺めではあるが――当初の目的を忘れてやしないか!
 「…………カーレ? ひとりで挿れられないなら、手伝ってやろうか?」
 優しく問いかける語尾。
 しかしその手は細い腰をしっかりと捕らえている。
 カーレ自身が外させた手袋。ひたりと肌に食い込む冷たい爪は、できる限りの手入れがされていた。だが、やはり、人肌を裂くには十分な鋭さ。
 「あ、」
 と。商人の口から、幼気な音が、ひとつ。
 瞬きひとつ分のことだった。
 「待っ――、わ、ァ、ひ、」
 待ってくれ。悪かった。そんなことを言おうとしたのだろう。
 じゅぷ。ずずっ。ずりゅりゅっ。
 ぐ――じゅりッ。
 「ッあ……、あ、ッ、―゛―゛~゛~゛~゛~゛~゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛!゛♡゛♡゛♡゛」
 「ふッ――、ぅ、ぐッ……、う゛ぅ゛ッ゛、」
 長大な雄をしっかりと受け入れた肉筒は、しかしその衝撃に激しく揺さぶられた。小径を抉じ開ける質量を。柔肉を焼き融かす熱を。収縮を押し拡げる硬度を――反射的に押さえ込もうとする身体の動きすべてが、裏目に出る。
 「ア゛、ァ゛ア゛ア゛、か、ひゅッ、――ッぁ、ひ、ぎィッ」
 びくびくと跳ねる細い身体を半狼の大きな身体が覆い隠す。商人の控えめな性器がふたつの腹に挟まれ、ごりごりと轢き潰されていったしこりに押し出された精が、ふたりを汚していた。
 「うあ、ァッ、ふッ、うぅッ――~~~ッ♡」
 カーレの指先が縋るようにブライヴの背を掻く。
 肩口や胸元に額を押し付けてふぅふぅと呼吸を落ち着けようとするカーレに、その胎の中でブライヴの半身がまた少し成長した。
 凶器とも言える雄を収めた腹はそのかたちに薄く膨れている。
 「…………もう少し、大丈夫か」
 まだ完全には腰を下ろしていないカーレにブライヴが訊く。
 もう少し――つまり腰を完全に下ろせば、カーレの胎はブライヴの雄をすべて呑むことになる。それが如何程のことか。どちらも知らぬわけではなかった。
 が。そんなこと。
 すっかり互いに酔った恋人たちの前では些細なことだった。
 「ん……、んっ、」
 こくこくと頷く度に色素の薄い髪が揺れる。ぱさぱさと乾いた髪が毛皮を叩くのをブライヴを愛しく感じた。
 ずぶり――。
 ず。ずゅ。
 ごちゅ。
 粘質な音を引き連れて、残りの幹がゆっくりと胎に呑まれていく。
 「ひっ――、ぐ、ぅ……、ンッ……、ん……♡」
 平生、滅多なことでは波立たないカーレの声がふわふわと浮わついている。黄昏の砂礫を思わせる声が、熱を吸い、柔く溶ける。多幸感に満ちたそれを、ブライヴは世界で唯一聞くことのできる男だ。
 細く薄い腹には過ぎた質量を収めた商人は、けれど愛しげに腹を撫ぜた。臓腑を貫かれ揺すられるだけでなく、腹の奥の奥――未だ閉じた場所に触れられるのは、至極辛く恐ろしいだろうに。近しい色彩を持ちながら黄金の祝福の外に置かれた金の眼は、とろりと笑んだのだ。
 その現実に。ブライヴは堪らなくなる。
 「――時に、カーレ。おまえは、時々ひどく好さそうな声を出しているが、気付いていたか?」
 「……? そう、か……?」
 「ああ、そうだ。お前は時々、とても甘い声で鳴いている。こんな言い方はあまりしたくないが――雄に媚びる、雌のような声だ」
 「ん……、んっ。そいつ、は、悪か、ァ、った、――はッ、ぁ、これか、ア、気、を、付け、」
 「否――逆だ」
 小さな尻を掴み、ゆさゆさとカーレの身体を軽く揺すっていたブライヴが、その動きを一瞬止める。
 「もっと、聞かせてくれ」
 大きな手が細い身体を掴み直す。
 ヒュ、とカーレの喉が鳴ったのは、動揺からだろうか。それとも、期待からだろうか。
 「――、」
 ず――ゴッ。
 鈍い、音が。
 薄い腹の、奥底から。
 「ア――、……?」
 カーレの目が丸くなる。自身の身に何が起こったのか、把握できていない顔だった。
 先に状況を呑み込んだのは身体の方だった。
 それまで胎の最奥を小突くだけだった剛直が、力任せにそこを穿ったのだと――ぐずぐずに拡げられた肉筒が悲鳴を上げる。全体で以て潜り込んだ雄を締め上げ揉み上げる。
 ぶわりと、快楽の花が咲く。
 「か、ひゅッ――、ぇ、あ、待、ア、ぁあ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛ッ゛ッ゛!゛?゛!゛?゛!゛?゛」
 「ぐッ――、ぅ、」
 「ひッ、イ、ぐ、ぐぅぅ……ッ、あ゛、う゛、ヒュッ、ひ、ぁ……、ぎィッ」
 ガクガクと痙攣する身体が、抱擁の名を借りて押さえ付けられる。体温を移すように、鼓動を合わせるように。けれどそうされることでブライヴの雄がカーレの胎の奥底をぐりぐりと更に抉ることなど、思考の外だった。
 ぶぢゅりと、理性の紐が押し潰される音がどこか遠くで聞こえた。
 「かはっ……、ぐ、ぁ……ッ、この、……ッ、はらが、やぶれた、ら、どうしてくれる……ッ♡」
 するりと細い腕が太い頸に絡む。吹けば飛ぶような重さの肢体が、屈強な身体を地面へ誘う。
 「俺はお前を傷付けない。そうだろう?」
 脱ぎ散らかされていた布の類いが、やはり雑に集められる。随分な寝台だ。
 ブライヴの手のひらに支えられたカーレの背が地面に着く。果たして地面と背中に挟まれた布たちは最後まで耐えてくれるだろうか。
 そんなことを蕩けた頭の片隅で考えていると、ブライヴの頭が足の間から覗き込んできた。身体を折り畳まれていることに思い至らなかった。
 息苦しさは、不思議と感じない。白昼夢のような視界で手を伸ばせば、指を絡め手のひらを握る確かな感覚が訪れる。それが、ひどく嬉しく思った。
 「はっ――、ァ、あ、」
 ぢゅぐ、と熟れた果実が潰れるような音。
 ぱかりと開いた口に、吻が合わせられ、ぴちゃりと長い舌が降りてくる。
 口付けと言うにはあまりに歪な接触。けれど恋人たちには関係のないことだ。ぴちゃり、ぢゅる、と口端から唾液を溢れさせ夢中で相手を味わう。舌が擦れ合う度にちりちりと痺れるような快感が背を奔る。合間合間、聞こえる呼吸にすら煽られる。
 嗚呼――何もかもが好い。
 ずゅ、とはじめられた律動は唐突とも言えた。
 ゴッ。ぐちゅ。じゅぶっごちゅっぐぷっ。
 「ん゛っ゛――、ンッ、ぷぁ゛、あ゛ッ゛、ぉ゛ッ゛、ア゛ァ゛ッ゛」
 上からのし掛かられる体勢で熱杭を叩き付けられる。絡んでいた手指はどちらからともなくゆるりと離れ、今度は互いの身体に回った。弾む身体が離れぬように。跳ねる身体が逃げぬように。
 「ア゛、ァ゛ッ゛――、~゛~゛~゛~゛~゛ッ゛ッ゛ッ゛♡゛」
 じゅぽっ、ごぢゅっ、ぐぽっ、と今度こそ遠慮なく抉られる最奥に、カーレの爪先がピンと伸びる。ガクンと身体が跳ねて顎が天を見た。そうして晒されたやわらかな顎下を、じゅろりとブライヴの舌が這う。
 「ィ゛、っ、ひ、いッ、」
 熱に踊る肢体はその感触にすら快感を拾った。
 「あ゛っ゛――、ア゛ア゛ッ゛、ぐ、ぅ、オ゛ッ゛、ォ゛ッ゛♡゛」
 「ハッ――、ふッ、うッ……、くッ、」
 重なった身体。触れ合う肌。接点から伝わる、相手の存在。感知するすべてが快感に変換される。
 「~~~ッ♡ ~゛~゛~゛~゛~゛ッ゛ッ゛♡゛♡゛♡゛」
 「ぐうッ――、く、ぅ……♡」
 びくびくと震える身体は気を遣ったらしい。触れられもせず、ぱたぱたと薄い白を散らす半身は魔花の類いの芽に見えた。カーレ自身の肌を汚す白濁を見たブライヴの目が細くなる。良い眺めだ。加えて、気を遣った身体――胎に揉まれる半身の心地良さ。わななく肉筒を振り切るように抽挿を続ければ、熟れた媚肉に半身が扱かれる。口端が無意識に上がる。恍惚の声がこぼれたとて、ごく自然なことだろう。
 もはや意味ある声は無く、獣のような息遣いばかりが膨らんでは弾けていく。身体も理性もぐずぐずに熔け、しかしそのどちらもが目の前の相手を欲し続ける。原始的な感情で欲望だった。
 「――ァ、っ、カーレ……ッ、」
 喉をぐるぐる鳴らしながらブライヴが呻く。
 「カーレ、っ、出すぞ、」
 バツバツとぶつかり合う肉の音に、ぐぽっぐぽっと粘ついた音が混じる。ふてぶてしさすら感じさせる、肥大した雄が、その先端を、本来ならば拓いてはいけない場所を抉じ開けている。外界と接することのないはずの、繊細なそこに、熱く滾る劣情を吐き出して良いかと。
 「ぁう――ッ、っ、ぁ゛、へぅ、っ、く、ぉ゛――、ん゛、んぅ゛う゛ッ゛、ッ゛♡゛」
 熱に掠れた声を受け取った身体が、また強張りふるえた。
 「ひ、ぐ、ぅ――、」
 ブライヴの、自身を組敷く雄の言葉がカーレに通じているのか、判らない。ずっと快楽の波に呑まれているらしい。蜜に塗れた琥珀のような目はぐるりとあらぬ方を向いている。開きっぱなしの口からは涎と嬌声ばかりが溢れている。
 だがそれでも、いとしい雄の種付け伺いに、身体は応えようとした。
 ただでさえ大きく開かされている脚を、更に広げ、ひうひうとしゃくりあげながら身体の力を抜こうとする。眼前の雄のすべてを受け入れるために。
 ぷつぷつと獣毛が千切れ抜け落ちる音。獣毛の絡んだ指先が、普段は届かぬ毛皮にガリリと爪痕を残す。
 そして、声に成らぬ声が、半狼の名を呼んだ――気が。
 「――、」
 ブライヴの体毛が燃え上がる炎のように立ち上がる。
 ぐぼ、と人体からしてはいけない類いの音がした。
 「オ゛ッ゛ッ゛ッ゛―゛―゛―゛―゛」
 もうずっと絶頂から降りられなかった身体に、それは止めを刺したようだった。
 首が、背が、腰が反り返り、ガクガクと揺れる。身体の中も、びぐびぐと震え、暴れ、縮こまる。
 どぷり、だか、ごぷり、だか――堰を切る音。
 ヒュ、と細い喉が引き攣った。ゆらゆらと焦点を失っていた双眸が、パチリと見開かれた。
 だが、それも一瞬のこと。
 「ひ――、ぁ、あ゛―゛―゛~゛~゛~゛ッ゛!゛♡゛♡゛♡゛」
 ごびゅるるるる、と勢いよく、多量に、子種が胎を満たしていく。
 身体の中から焼かれるような熱。ぼこりと内側から腹を脹れさせる量。拷問にも近い種付けを、しかし商人は腕を突っ張るなりして逃げ出そうとすることなく、むしろ自分を押し潰さんとする身体に縋って乞う。
 「ぐ、う、う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛……ッ!♡」
 かぷりと狼の吻が人の肌に歯形を遺す。恐ろしさすら感じさせる唸り声には確かに充足の色が乗っていた。ぎゅうと瞑られた目蓋の下には欲と執着と思慕を綯交ぜにした色の紫水晶。
 どぷりどぷりと、実を結ぶことのない種を植え付けながら、ブライヴは愛しい男の肢体をがっちりと抱擁していた。
 「あつい、はらむ、」と掠れた譫言は、狼の敏い耳には毒でしかなかった。
 太陽は、その姿を水平線に隠そうとしている。
 あの甘いにおいは、もうしない。





 半狼の騎士と放浪商人が仲睦まじくヨロシクすることをしている頃。導きの始まりでは――。

 「ここが狭間の地k――ウワアアアアア」
 「エルデ王に!俺はなr――ホギャアアアアア」
 「クソッ!なんなんだあのパンジャンもどきh――ギャアアアアア」
 「クソッ!最初の敵に勝っても結局死んだじゃねえk――ウギャアアアアア」
 「ええ……なんでココこんなに血痕あるn――ピギャアアアアア」

 「…………貴方いつからツリーガードからチャーチガードになったんですか」
 「……」
 「まあ、べつに。どうでも良いですけど――私だってまあそれなりにあの商人には世話になっていますし……馬に蹴られて死にたくはないので、多少は手を貸しますが」
 「……」
 「ハア……それにしても最近の褪せ人はダメですねえ…………指のストックが増えることは良いのですが。ああほら、だからちゃんと残しておいてくださいよ、手は」

 ツリーガードと白面と言う、奇妙な組み合わせのふたりが、漂着墓地を経てやってくる褪せ人を狩り倒して(特にエレの教会方面へ行こうとする者への攻撃は苛烈だった)いた。

ある調香師の走り書き
 実験は成功した。これで世界は愛で満ちることだろう!
 杞憂があるとすれば――これは相思の相手が居なければ効果が出ないことだ。
 ああどうか、皆が誰かを愛し、愛されていてくれ。

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