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音波さんこんなチョロくない……チョロくないもん……こんな感情豊かじゃない……ちがう……

って理想と現実の差に泣きそうになりながらポチポチしました ゆるされたい_:(´ཀ`」 ∠):_ ...

 

​べつにえっちくないです(´・ω・`)アレー?

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 喧嘩をした。

「あのな、俺だって人並みには怒るんだぜ?」

否。喧嘩と言うよりは、一方が一方を怒らせてしまった。

「大袈裟だな。このくらいなんともないだろう」

「このくらい? このくらいって、お前なぁ……」

事の発端は何だったのか。もう定かではない。けれど一方にとっては大事無く感じられたことが、一方には大事有ることに感じられたと言う、見解の食い違いからだったような気がする。

「……いい。なら、わかった。仕事は一段落ついてるんだよな?」

「あ、ああ……急ぎの仕事は、無いが」

「だったらちょっとした耐久テストしようぜ。俺が外から帰って来るまで、お前がどんだけ負荷に耐えられるか」

「……? 別に構わないが、私の機体スペックくらい知っているだろう?」

彼にとって不幸だったのは、相手が以前の任務で回収した他星の器具を未だ処分せずにいたことだった。図ったわけではなく、処理しそびれていたままだったと言う巡り合わせが悪かったのだ。

「ああ知ってるさ。よく知ってる。けど、偶には良いだろ?」

剣呑な怒気はそのままに、けれど声は上機嫌に笑っている。何も知らない第三者が聞いたなら、それは不気味なものに聞こえただろう。

 

 鼻歌混じりに拘束具が腕の自由を奪う。おまけに飾り気の無い首輪。二つは繋げることが可能で、実際に繋げられると胸の前で釣られる腕は神に祈るようなかたちになった。そして腰部の装甲が外され、その奥にある受容器へいくつかの器具が容れられていく。そこで、ようやく耐久テストとやらが性感的な意味を持つものだと彼は気付く。気付いて、狼狽した。まさか目の前の青年がこう言ったことを仕掛けて来るなんて。揶揄っているのかと、まだ何やら器具を弄っている青年に訊けば、ただの耐久テストだろ、と真意の読めない答えが返って来る。がちゃ、と拘束が不安気に揺れた。

 「それじゃあ俺は仕事行って来るけど、しっかりテスト受けといてな?」

「ぇ、あ――、っ!」

普段通りの――普段よりも上機嫌な声が笑う。同時に掲げられたリモコンのボタンが押された。躊躇うことなく、青年の指は器具の電源を入れたのだ。その瞬間、受容器内の器具が動き始める。平時使うことのない場所から、慣れない刺激が回路を這い伝う。感覚の処理に戸惑った彼は呆気なく膝から崩れ落ちた。内腿の辺りに固定された器具も動き、こそばゆいような落ち着かない刺激が機体の中を闊歩していく。

「俺が帰って来るまで器具も拘束も取ったら駄目だぞ?」

彼はぺたりと床に座り込んでいた。慣れない感覚を逃がそうと、健気にもぞもぞと足掻く彼を青年は覗き込む。あくまで優しいその声音は、けれど逆らうことを許さない表情だった。

「……すぐに、帰って来る、だろう?」

懐かしいような、手を伸ばしたくなる顔だ、と翳った青年を見上げて彼は茫洋と思う。そしてそんなことを考えながら、彼は窺うように青年へ訊いたのだ。仕事に行く親を見送る子供の様に。

「予定通り、恙なく事が進めばな」

 その日の青年の仕事は難しいものではなかったはずだ。日を跨ぐことはないだろう。彼はメモリから仕事の予定を呼び出す。青年が手間取るような仕事ではないことを確認。そして、呼吸を整えようとする。スキップにも近い、軽やかな足取りで部屋から出て行った様子からしても、仕事は予定より早く終わるのではないだろうか。今と変わらず帰って来た青年を迎えられるはずだ。

「――ッ!? ぅ……ッなか、何……?」

けれど、そう思って胸を撫で下ろした直後。ドロリと生温かいものが受容器の中に広がる感覚。すぐそばの、自身の機体で起こっていることなのに、それは視認することができない。今度こそバイザーとマスクの奥で彼は表情を強張らせた。

 故意か偶然かはさておき、青年が帰って来たのは日付が変わろうかと言う頃のことだった。

 青年は軽微な損傷と破損をそのままに部屋の扉をくぐる。そこには、あまり広くない部屋の隅には、外に出る前と変わらず、確かに紺藍色の機体が居た。

「良い子にしてたか? サウンドウェーブ、」

背中は幼子のように丸められている。声をかけると、小さく震えていたそれはひくりと揺れた。青年は正面に回り、しゃがみ込んでやる。ゆるゆると緩慢に見上げてきた顔は上気していた。

 留守番の途中、息苦しくなったのだろう。マスクは外されている。晒された口元はてらてらと溢れた口内油で淫靡に濡れていた。その、いやらしくなった、綺麗なかたちの口部が開かれ、音を吐く。

「ン――、ッふ……、ァ、も、いや、」

はやく。もういやだ。と、たどたどしく零される言葉はひどく幼く聞こえた。機体の下部、受容器の辺りからは音が聞こえている。それは器具の動き続ける駆動音と粘性を持った水音だった。けれどそれらを無視して、青年は小首を傾げて見せる。

「そうじゃないだろ? その前に、まず俺に言うことあるだろ?」

ぽろぽろバイザーの下から冷却水が零れ落ちていく。胸の内で落ちていく水滴を数えながら青年は彼を覗き込む。

「ぇ……? ぁ、その、ごめん、なさい……?」

フェイスパーツがあれば間違いなくニコニコと言う表現になっただろう。青年の声音と雰囲気はその場にそぐわない。熱に浮かされた頭を必死に回して答えた彼の解答に対して吐かれた排気も楽しげである。しかしそれを汲む余裕の無い側からすれば、つまり自分の解答は不正解であり、正解を出せない自身への呆れや失望に受け取れてしまう。実際、彼はわかりやすく狼狽と焦燥を示した。

 なんとか彼は二の句を紡ごうとする。そんな健気さを余所に、青年は水溜まりのできた床へ手を伸ばした。

「そういえば。なぁ、ここ、わかるか? こんなに濡らしてる」

指先で水溜まりを叩き、彼の視線を誘う。従順に従うオプティックがバイザーの下に見える。そして床から指を離して見せる。とろり、と糸を引いた水分が、青年の指と床を繋いだ。眼前の機体の温度がまた少し上がる。戦くように震えた機体から、またポタリと一滴が床へ落ちていった。

「汚さないようにって俺言ったのに」

「──ッ、」

受容器内部を守るために分泌された緩衝液。繊細な部位を嬲る刺激に耐えきれず溢れた生殖液。だけではなく、受容器へ容れられた玩具の一つに貯められ、一定間隔で排出されていた潤滑油。上昇した機熱に結露した水滴などが混ざってできた水溜まり。こぷ、と溢れる淫液は、受容器の容量を超えてしまっているのだから仕方のないものなのに。

「あ、ぅ……し、しかし、」

「言ったのになぁ」

青年から視線を逸らして彼は身動ぐ。すらりと綺麗な脚部を濡れたままの指先でなぞりながら、演技染みた呆れを吐いてみせる。叱られる子供のように、目の前の機体が小さく跳ねた。

「ひッ――、ぁ、その、ごめ、んなさ……ァ、」

「いけないひとだなぁ、情報参謀殿は」

 反射のように吐かれる言葉を聞きながら、青年は笑っている。迷子の様に竦められる機体を見ながら、青年は楽しんでいる。言っていないことを、さも言ったかのように言い続ける。ぴしゃ、ぱた、とまた液体が糸を引く。

 自分の意思で抑えられるものではない。だのに、それを見とめた青年は彼を非難するように声を上げた。あー、と、わざとらしい子供じみた声。短く、浅くなった呼吸が引き攣る。

「ここは一つ──お仕置き、イッとく?」

チラつかせるリモコンは見覚えのあるもの。もう随分と前に感じられるけれど、青年が部屋を出て行く時に、その直前に見たもの。彼の、耐久をテストしている器具を、操っているもの。他の星で違法に改造され、今はこの拠点で解析と処理を待っていた器具を操っているもの。やだ。いやだ。もうイヤだ。それは。もう、やめて。小さく振られる頭部に、またポロポロと冷却水が落ちていく。リモコンにある目盛りが未だ最大ではなかったことに、彼は気付いただろうか。

「嫌?」

「や、いや、だ……ぃや、こわれ、ぅ、」

「じゃあ素直にどうして欲しいか言ってくれないとな?」

慣れない感覚を長時間多量に与えられて軽くトんでしまっているのだろう。彼ほどの情報処理能力を持つ機体が、この程度で壊れるわけがない。いや、むしろ受容器からの刺激だからこその状態なのかもしれない。情報に特化した精密な機体の、特に繊細な部位から強い刺激が送られてくると言う状況。知らず、弱点をついていたのかもしれないなとほくそ笑む。兎角。普段からは想像できない、可愛らしい弱音に青年は噎せかけた。あの怜悧さはここまで溶けるのか。

「――も、もう、ゆるして、ほしい……っ、らくに、してほしい……!」

「このままオモチャで?」

内心ニヤニヤ笑っているのを押し隠して、あくまで真面目な声音で質問を重ねる。

「ぅあ、ア、ちが、ゃあッ、のいずめいず、が、いい、ッ」

返って来た答えは青年から余裕を奪うに十分なものだった。それに加えて、縋るような、その声音。

「おまえを、かんじたい」

甘く融けた音が機体を焼いていく。ドロドロと、熱く爛れた感情が、機体に沁みていく。

 「ひッ! んァ、あぅッ!」

ちゅぽん、ぷちゅっ。くぽり。と音だけは愛らしく器具が受容器から取り去られる。視界から消えた青年を、彼は辛うじてその足音で追った。刺激にヒクつく機体は、くぷくぷと受容器から名残惜し気に透明な糸を引かせた。いやらしい。お前もこんな格好するんだな。違う。俺がさせたんだ。無感動に他者を苛む玩具を適当に放り投げる。カシャンだかゴトンだかの音が遠く聞こえた。目の前に晒された受容器は緩衝液を滴らせ、呼吸と共に接続器を誘っている。やわらかそうだ、と僅かに覗く受容器内の機構を見て思う。シュル、と青年は普段のデータの送受信にも使っているコードを呼び出した。

 そういう生き物のように青年のコードが受容器の中へ這い入っていく。機体内に侵入して来た細いものに、彼が戸惑いの声を上げる。まさか普段使われているものが自身の秘部に突き込まれているなど思い至らないらしい。ズリュ。ぐちゅ。と音を這いずらせながら進むコードは、けれどそれなりの勢いを伴っていた。そして、がちゅん、と衝撃に視界が振れる。

 あ。と、掠れた声がこぼれる。バイザーの奥で、冷却水に溺れるオプティックが見開かれる。

「あ――ア、ァアアアアア、ッ!」

それまでの単調な刺激、信号とは違う、生きた衝撃が機体を駆け抜けていく。暴風。暴力的。蹂躙。そんな表現が似合う。

「ぐ、ぅ、――ッア、んひッ、アツぃィ……!」

パルスを送るコードは熱を帯びる。その量が多ければ多い程、情報の伝達に使われるエネルギーは増え、生じる熱も多く高くなる。責め立て叩き付けるような信号とそれに付随する熱を、本来丁寧に扱われるべき部位が一手に引き受ける。本人の意思に関係なく内部機構は勝手に動いてしまう。逃れたいはずの熱を締め付けて、彼はまた切なげに啼いた。

「――っ、はぁ……ッ」

艶やかな悲鳴を聞きながら。悶え跳ねる機体を見ながら、青年は熱の籠った排気を一つ。詰められる呼吸の端は笑んでいる。さすがだ、と。パルスを送り始めてから一拍。一拍ほど遅れて、それでもパルスを送り返そうとしてきた能力の高さに称賛を贈る。それだけでなく、波や強さが不定と言えど、届けば確かに快感を煽るものを返す技量と健気さに慕情が募る。基盤を叩くと言う刺激が無くなり、最後の一押しを欲しげな受容器へ、青年はまた数本のコードを伸ばす。

 きゅうきゅうくぷくぷと基盤と噛み合ったコードの先が食まれている。太さを失った異物を覗かせる受容器は物欲しげに見える。もう少し、あと少しで届くのに――。なんて位置で、快感の波が寄せては退いてを繰り返す。

 頸部と手部を繋ぐ枷が擦れ鳴る。平時数多の機器や情報を扱う指先には、掻き毟った自身の塗装が移っていた。そして、その受容器の奥部へ、数本のコードが押し寄せる。ひゅく、と受容器の口が綻んだ瞬間だった。

「――ァ、」

小さな、ちいさな声が聞こえた。

 

 彼は起動する。何時ぐらいかぶりに、天井を見上げながら彼は目覚めた。目覚めて、自分の手が誰かに握られていることに気付く。すわ何者かと起動したばかりの彼はからだを強張らせ、そっと視線を天井から逸らす。そこには、黒と橙色の、見慣れた機体がいた。

 バイザーの光量からして、軽いスリープに入っていたらしい。彼が眼を向けた、丁度そのタイミングで、バイザーがぼんやりと明かりを灯して機体が身動いだ。どちらからともなく、繋がれていた手が離される。

 「――……あの、さ……俺のこと、嫌いに、なった?」

上体を起こそうとする彼の手伝いをして、それからまた寝台横の椅子に座った青年が言った。彼は首を横に振った。

「その、確かに、驚いたが――お前のことを、嫌いになるわけがない、だろう」

窺うように青年は小首を傾げている。しかし視線は真っ直ぐに向けられているとわかる。見るものが見れば、それは、下手に出ながらも相手が自分を赦し、嫌わないと解っている上で答えを待つ眼だと読み取れただろう。

「……それに、今回のことは、私にも非があった」

言いつつ、先に視線を逸らした彼に、青年は内心で綺麗に口角を上げる。上がった機熱を隠すように俯く動作も可愛らしい。

「……じゃあ、もうあんな無茶しないって約束してくれ。な?」

「ぅ……。わ、わかった。善処……する」

まぁたぶんこの機体は何時かまた無茶をするのだろうけれど――その時はどうしてくれようかと、青年は未だ眼を合わせようとしてくれない機体を眺めながら思った。

 

 

 

 

 

「だからと言っては何だが――詫びに何か、私にできることなら何でもしよう。何か欲しいものやして欲しいことはあるか?」

「……。あー。じゃあ、その、起動したばっかのとこ悪いんだけど、口で良いから。コレ、処理、してくれると嬉しい」

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