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負傷して皆に心配される先生が見たかっただけ なんだけど力尽きてる感_(:3」∠)_
細かいこと気にしちゃダメだと思いまァす!

ハン→ソドに見えなくもない気がする_(:3」∠)_

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 自然とは大概気紛れなものである。自然の一部であるはずの人間は、父母たる自然の急変に抗えず、なすがままに嵐が過ぎ去るのを待つしかないことが往々にしてある。その日も、例によって自然は気紛れを見せた。そんな話であった。
 打ち付ける雨と吹き荒れる風に狩人たちは雨風を凌げる場所を目指す。先程まで晴れていたのに――とつい数刻前を思い返す。おそらくこの風雨の原因は鋼龍だろう。彼の青い星が収束させた冥灯龍に関する一連の調査以来、時折この古代樹の森に鋼龍が姿を見せることは調査団の誰もが知っている。雨が降り、風が吹き始める前に森中の小型モンスターはもちろん、大型モンスターすら鳴りを潜めたことからも見立ては間違いないだろう。
 「……っ、とりあえず、古代樹の中へ行きましょう。あそこなら屋内みたいなものですから」
森のどこに居ても折れた木々が風に飛ばされてきて落ち着かない。ベースキャンプへも距離があり、こんな天候で翼竜を働かせるのも忍びないと狩人たちは古代樹が巨大な空間を形成するエリアへと向かっていた。
 普段はモスや奇面族、翼竜の姿が見えるそのエリアにはザアザアと降りしきる雨とゴウゴウと鳴り荒ぶ風、いつもより水量を増した小川の音だけがあった。ようやく雨風を凌げる場所まで辿り着いた狩人たちは大きく安堵の息を吐く。樹々が絡み合ってできた傾斜を上り、踊り場のようなところから森を望めば、嵐に揺さぶられながらも耐えようとする森の植物たちが見えた。森に極近い拠点は大丈夫だろうかと思いつつ、狩人たちは自然の踊り場の隅に身を寄せ合って腰を下ろし、持っていた携帯食料を齧る。生態研究所から異常の報告はされていなかったし、一過性のものだろうと狩人たちの見解は一致する。ならば待てばいい。無理に抗う必要も無い。調査と探索の予定はダメになってしまったが、今回限りの機会というわけでもない。
 雨に濡れた装備で森を歩き回った疲労と寄せ合った身体から伝わる人の体温に狩人はうつらうつらとし始める。轟々と鳴る風雨が心地良い子守唄に聞こえる。そこで、狩人の一人が何かに気付いた。
「――伏せよ!」
その場で最も年上の狩人が不意に声を荒げる。え、と他の狩人が目を丸くすると同時に、その狩人は傍に居た狩人に覆い被さった。
「ぐ、ぁ……っ!」
ひどく苦しげな声が聞こえた。と同時に、ゴッ、と鈍い音がした。何かにぶつかったような衝撃。先生、ともう一人の狩人――同期が叫ぶ声がした。
 暴風に飛ばされてきた木にいち早く気付き、後輩を庇いその飛来物をまともに受けた先達の身体が脱力する。庇われた後輩がその身体の下から抜け出すと、先達の背の上には決して細くはない木の幹が乗っていた。それを、もう一人の狩人と共にゆっくりと退かす。
「せんせ……っ、大丈夫ですか、先生!」
「……息はある。気絶してるだけだ。なるべくそっと、拠点に運ぼう」
ぐったりとした身体を背負い、二人のハンターは雨風の中を拠点に向かう。なるべく岩陰や木陰と言った、雨風を凌げる場所を選んで進み、出来得る限りの速度で拠点への帰路を急ぐ。
 フィールド――特に古代樹の森に出ているならば現地のキャンプでの待機が妥当だと言える悪天候の中を走って来る人影に、外の様子を窺っていた総司令は何事かと外へ出る。森に面する拠点最大の出入り口から帰って来たのは同期と共に森へ赴いた4期団の2人だった。物資や人影がほとんど消え、閑散とした流通エリアで総司令は2人と合流する。そうして、何事かと口を開きかけた総司令の目に、ジャグラス装備の4期団に背負われた同期の姿が映った。常と同じように祖父の背を追って外に出て来ていた調査班リーダーが、先生、と叫んだ。

 青い星、と呼ばれる5期団のハンターは研究基地から調査拠点へ帰って来た。鋼龍によるものと思われる嵐に森、ひいては拠点が見舞われたと聞いたが、正面の門をくぐって眺める流通エリアは特に変わらないように見える。普段よりは、人影が少なく見えるけれど――雨にやられた物資の片付けや拠点の点検をしているのだろう。少しばかり拠点を空けたせいか心なしか遠慮がちに出迎えてくれたプーギーを撫で、マイハウスに向かう。1期団の先生にも挨拶をしていこうかと司令エリアへ眼を遣るもそこに先達の姿は無かった。けれどそれに対して、仮眠中だろうか、と特に深く考えることはなかった。だから青い星がマイハウスでオトモダチ探検隊の成果を受け取ったりオトモの装備を整えたりアイテムの整理をしている時に聞こえてきた外の会話に思わず目を丸くしたのは無理のないことだった。
 先生の様子はどうだ。まだ目を覚まさない。大丈夫かな。学者先生にも診てもらったし、薬も調合してもらってるんだ――きっと大丈夫だ。解熱剤を貰って来たわ。悪いな。でも、先生まだ気を失ってるんでしょう?どうやって飲ませればいいのかしら。云々。
 思わず声のした方へ顔を向けていると、そんなことを話していた4期団の先輩たちがマイハウスの一室へ入っていく姿が見えた。その姿を追うように青い星はマイハウスの外へ飛び出した。
 先輩たちが入っていったと思しきマイハウスへ駆けつけると、足音で気付いたらしい先輩たちが青い星を振り返る。マイハウス内のベッドには、いつものレイア装備ではなくいつかの宴で見たような軽装で横たわっている先達の姿があった。その周囲には薬と思われる瓶やタオル、桶と言ったものが置かれている。一体何が、と頭部防具を外した顔にありありと浮かべる後輩に、先輩は安心させるように笑顔を作って見せた。
「こないだの嵐の時、飛んできた木からオレたちを庇ってくれたんだ……けど……」
「命に別状はないみたいなんだけど、まだ意識が戻らなくて……」
「……!!」
言っているうちに先輩の顔から笑顔は消えていく。青い星もまたそんな先輩たちの胸中を汲む。
「……え? 自分に何かできることは、って……でも、そんな、5期団さんに迷惑は……」
「うぅん……そもそも今は先生が気が付くのを待つしかできなくて、オレたちもできることがないんだよな……」
「……」
「……まあ、今できることと言えば先生が目覚めた後にすぐ対応できるように薬なんかを揃えておくことと、静かに待機することくらいだろうな」
話し合いながらシュンと肩を落とす同期と後輩に、持ち込まれたアイテムを整頓していた冷静な4期団が口を開いた。冷静な同期の言葉に、そうね、そうだな、と頷き合う。空から来た5期団はと言えば、そんな先輩たちの傍で何かを考えるような素振りを見せて、小走りにマイハウスを出て行った。思えばいつも動いているような気のする後輩の背中を微笑ましげに見送って、その先輩たちは一先ずマイハウスでの待機係を決めようと話し合い始める。
 「――あんた、時々すごく突飛なことするよなぁ。さすが調査団の青い星っていうか」
待機係となった4期団――通称熱血漢の4期団の元に戻って来た青い星はアイテムポーチを抱えていた。普段ハンターたちが装備のどこかしらに提げているポーチを、抱えていたのである。そのポーチは真ん丸に膨らんでいて、アイテムが目一杯詰め込まれていることが容易に察せられた。
「まったくニャ。ボクが止めなかったらマイハウスからアイテムボックスを引っ張って来てたと思うニャ」
「うわぁ……それは……さすが過ぎじゃね……?」
「……ボクも先輩さんも別に旦那さんのこと褒めてないニャ」
オトモと先輩の会話に、やや恥ずかしそうに頬を掻いたハンターへ鋭いツッコミが入った。
 ともかく、とアイテムポーチの中身を青い星は取り出し始める。回復薬はもちろん回復薬グレートや栄養剤、栄養剤グレート、秘薬の類に加えてマンドラゴラそのものや滋養エキス、ケルビの角と言ったものまで登場して熱血漢の4期団はいよいよ破顔する。きっと、自分も10年前に先達が寝込むような事態に出くわしていたら今のこの後輩と同じことをしただろう。
「うーん……とりあえずコレは先生が起きた後に使えそうで……こっちは調合しといた方が良いのか? うーん」
後から後から後輩が自身のアイテムポーチから取り出してくるアイテムを仕分けていく。アレやコレはどうしておけば良いのだろう、こっちは他の同期に相談したいな、など突然の物資の供給に先輩が頭を悩ませている横で、後輩は更にオトモを抱え上げて眼前に差し出した。
「……? 今度は何だ……?」
オトモがゴソゴソとオトモ用のポーチをまさぐる。そのポーチは、よく見ると、否――よく見ずとも、つい先ほど見たハンター用のポーチのように、真ん丸に膨らんでいた。
「ニャ。こちら旦那さんからのお見舞いの花束ですニャ」
そんなオトモの言葉と共に蓋を開けられるポーチ。そこには花束と言うか――新大陸で採取できる、花系の植物アイテムが詰め込まれていた。

 優しげな4期団が同期から待機係の交代を伝えられた時、拠点に帰って来た大団長が偶々近くに居た。だから同期との遣り取りを聞かれた優しげな4期団は、大団長とともに先達が眠っているマイハウスを訪れたのだ。
「あら――」
部屋に踏み入った優しげな4期団が小さく驚きの声を上げる。その視線の先には、律儀にも待機係用の椅子には座らず、床に座ってベッドに突っ伏して寝ている青い星と、その向かい側には同じように突っ伏している調査班リーダーの姿があった。仲の良い兄弟のような二人の狩人の身体には、身体を冷やさぬようにと布がかけられている。交代を告げに来た同期からそんな話は聞いていない。つまり、この場でそんなことができるのは――。
「お目覚めになったんですね、先生。おはようございます」
ベッドのヘッドボードに背を預けて、近くにあったのだろう適当な本を開いている先達だけである。
「具合はどうですか? どこか痛むとか、身体が怠いとかありますか?」
人を待っている間に寝てしまったと思われる二人を起こさないように優しげな4期団は声と足音を潜めて先達の傍に行く。優しげな4期団の後ろに続いていた大団長は少し離れた場所にある樽で作られた机の上に置かれていたジョッキ――中身は水――を手に取り、それをベッドの上の同期へ差し出した。開いていた本を戻し、受け取ったジョッキを緩やかに傾けた先達は、小さく息を吐いた。一先ず用の済んだジョッキは、再度大団長の手の中に戻る。
「……すまぬ。世話をかけた。少々身体が痛むが、この程度ならば問題ない」
「ほんとうですか? 無理はいけませんよ、先生」
言いながら、優しげな4期団は負傷した個所を確認のために触れる。すると案の定先達は小さく呻き声を上げた。軽く触れただけでこれなのだから、まだしばらくは安静にしておいた方が良いのは確かである。また、軽装とは言え防具越しに温かい体温を感じたということは、熱もあるだろう。優しげな4期団は苦笑する。
「熱もありそうですし、しばらくは安静になさってください」
「相棒の飯食ってよく寝ろ。そしたらすぐに良くなるからな!」
まるで子供のような扱いをされる好敵手に大団長が笑った。
 そんな遣り取りを続けていたからだろうか、ベッドの上でむずがるような声がした。
「……? ……、……!」
もぞり、と先に動いたのは青い星だった。目覚めたばかりの双眸を何度か瞬かせ、それから室内の気配を追うように優しげな4期団、大団長を捉え――既に起き上がっている先達を二度見した。
 真ん丸に見開かれた目が、そして徐々に潤んでいく。膝立ちのままヘッドボード側へ移動する青い星に道を開けてやりながら、優しげな4期団はその動向を見守る。
「そなたにも、どうやら世話をかけたらしい」
ずりずりと近付いて来る後輩を見とめ、礼を言おうとして、先達は自身の手を両手で握りしめた後輩に言葉を詰まらせた。
「――っ、――!」
両手で包んだ手を額に押し当てて背を丸める後輩に何事かと固まる。ぽたぽたと防具の上に落ちてくる雫は、他に考えようもなくこの後輩の涙、だろう。現に、ぐずぐずと鳴る鼻も聞こえて来ているわけだし――。
「……? ! 先生っ!気が付いたのか!?」
そして、そうこうしているうちにもう一人の狩人も目を覚ましたらしい。
「よか、良かった……! ほんとうに、良かった先生……!」
こちらもうるうると目に水分を溜めたかと思うと腕で顔を隠してしまった。
 これは――どうすべきなのだ。どうすれば良いのだ、とベッドの上の狩人は狼狽する。この後輩たちをどうすれば良いのだ、と、ベッドの傍らに立っている優しげな4期団と同期に視線で助けを求める。求めた、けれど。
「ハッハッハッ! さて、ならオレは相棒にとびきり美味い飯を頼んでくるからな、楽しみにしてろよ!」
「それなら私は総司令に報告をしに行ってきますね」
双方、いい笑顔でそう言ってマイハウスを出て行ってしまった。後に残されたのはベッドの上で呆然とする老練な狩人と、滂沱と涙を流す若き二人の狩人である。
 その後、先達の回復を聞きつけ、マイハウスを訪れた熱血漢の4期団が青い星と調査班リーダーに加わり更に先達を困惑させたとか何とか。加えて、しばらくの間、真ん丸になったアイテムポーチを抱えて、あるマイハウスの一室に通う青い星の姿が見られたとか――は、また、別の話。

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