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ロゴーンさんにCBCD→CACE貰ってやっぱり死んだ(こころが)

プラネットX健在時の捏造話……色々捏造はいつものことだコレェ…( ˘ω˘ )
というかプラネットX出身型の機体がわちゃわちゃしてるだけの話。
年下な本編ノイ音ちゃんが見たかtt誰だお前ら!?( ノД`)ウワアアア…誰おまもいつものことか……。

だいたいこんなイメージ↓
・白ノイメイくん…GF音撃さんの側付きで恋人。エリート。黒ノイメイくんとは相部屋で弟のように思ってる。
・GF音撃さん…音波さんほどお堅くない。普通に自分で喋る。年下組かわいいなぁって思ってる。
・黒ノイメイくん…将来GF音波さんの側付きになる予定。特訓中。片思いだと思っている。若い。
・GF音波さん…自分の役目や仕事を大事にしている。黒ノイメイくんとは幼馴染のようなもの。

ちょっとだけ撃波ちゃんの姉妹百合がログイン。ちょっとだけ。

元ネタ:ARIA - Navigation52 海との結婚 -

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 星との結婚、という行事が彼らの故郷にはあった。それは数百年に一度、盛大に催される式典で、永久の繁栄と幸福を故郷たる星に願い、また生命ある限り忠誠を誓い星を守るというものだった。そしてその宣誓が結婚と呼ばれる所以は、式典を行う、そのやり方にあった。

 何やら最近街が俄かに賑わっているな、と青年は思っていた。どの店に行ってもどの家に行っても、ここのところ隅々まで綺麗に整えられている。何かあるのかと年上の機体に訊いても機嫌良さそうにはぐらかされ、答えを知ることが出来ない。親友なら、と思ってその活動区域を訪ね、他の機体にも訊いたことを尋ねてみれば、少し驚いたような反応を見せてから微笑と共に優しい手のひらを頭部に貰った。つまり、結局親友からも答えは得られなかったのである。自室に戻って来た青年を見た相部屋の機体は訳知り顔で肩を揺らすのだから青年の機嫌は更に傾いた。幸か不幸か明日も正式な側付きになるための訓練――それも座学――が入っていて、半日以上親友やこの兄のような機体と顔を合わせることもない。明日は所用で街へ出掛けるのだと声が聞こえたが、青年はハイハイと適当な返事をしてスリープ台に潜り込んだ。

 弟のように思っている機体が不貞腐れたようにスリープに入ったのを見届けて、青年とは違い白を基調として纏っている機体は苦笑するように肩を竦めた。この若い機体は知らないのだ。否、知らない者に教えてはいけない、という恒例なのだから仕方がない。だが、弟分が今回の式典を知らないとなると――どうしようか、と少しばかり困ることがひとつ。式典で使う小物を、弟分の親友はどうやって弟分から入手するのだろう。明日、街に出た時にその身内に聞いてみようか。自分は、自分が側付きをしている機体――その身内であり自身の恋人――へ贈るつもりであるし、自分も相手も式典のことを知っているから困ることなど、無いのだけれど。

 街と言うか、星の全地域を挙げて執り行われる式典は、しかし全ての機体が参加できるわけではない。一握りの選ばれた者以外は式の華やかさや成功を祝う観衆になるのである。選ばれるのはもちろん式典を知っている者、相応の教養や地位がある者である。故郷へ捧げる所作は生半可なものなど許されず、当然厳しい練習の繰り返しが付いている。式典の参加者に選ばれることは名誉であり、ちょっとした不幸であった。忠誠を誓い、その守護を謳う騎士を表す所作も、不変を願い、また誓約を認め伴侶となる意思を表す所作も、壮麗であるだけの労力がかかるのだった。

 式典で使う小物とは所謂指環のことである。用いるのは騎士となる機体ではなく、俗に花嫁と呼ばれる機体だけなのだが――この時期になるとその売り上げが上がるのだとか。

 合流する約束の場所になっている、広場のモニュメントの傍に白い機体は立っていた。落ち合う予定の時刻までまだ十分ほどある。けれどまぁ、予定より少し早いくらいに落ち合えるだろう、と、相手を思い出して小さく笑い声をこぼした。

 果たして相手は約束の時間五分前に合流場所へ姿を現した。そうして、そこに佇んでいる白い機体を捉えて、僅かに驚いたような反応を見せた。

「お前の方が先に来ているとは珍しいな……」

「その言い方だと俺がいつも遅れて来るみたいじゃないか?」

近付いてくる恋人である機体へ手を差し伸べ、応えるように伸ばされた手を取り、その甲へ口付ける動作をする。

「ふふ。他意は無い。気を悪くしないでくれ?」

「解ってるよ。俺もいつまでもガキじゃない」

昼前の光景にしては少しばかり雰囲気のあり過ぎる二機だったが、自身たちのことには頓着せず、予定通り目的地へ向かって歩き始める。その際、合流した際に触れあった手は、そのまま繋がれ二機の間に落ち着くのだった。

 大通りに沿って歩くと衣料品からファストフードまで様々な店が煌びやかに立ち並んでいる様を見ることが出来る。その中に二機の目的地となっている宝飾店はあった。

 初めての式典、初めての来店、というわけではないので二機は勝手知ったる様子で店の中を見て回る。数百年という時間が経てば、さすがに店頭に並ぶ宝飾品のデザインや種類は変わっている。誓いの証として用いる指環を適当に選ぶわけにもいかないので慎重に、ゆっくりと吟味していく。けれどその中には普段多忙な相手――特に恋人である黒い機体――に息抜きをさせるという意図もあった。

 ぐるりと店内を見て回り、目当ての品である指環が陳列されているケースの前で足を止める。時期のものであるので、他の装飾品よりも多くの種類が並べられている。今回はどんなものにしようか。こういうのはどうだろう。なんて透明な板越しに指をさしたりしながら見ていく。

 そうして、ふと目に付いた指環の一つを、白い機体は手に取った。それはシンプルな甲丸のリングで、やわらかな白は光に翳すとその色味を変えて見せる。ほう、と感嘆の声を小さく漏らしながら眺める。ケースから商品を取り出し、客に任せた店員も、どことなく微笑ましそうな雰囲気を滲ませて客の様子を見ている。これをあの指に嵌めてやれば、さり気なく自分との仲を周囲に知らせられる――牽制できるのでは、なんて白い機体は思った。

 ちょいちょい、と白い機体は、他のケースの中を見つめていた黒い機体を呼ぶ。

「? どうした?」

「なぁ、これ――試しに嵌めてみてもいいか?」

訊きながら手を掬う白い機体に、あぁ、と黒い機体は愛おしそうに頷く。

 黒い指に白い環がやわらかな線を描く。それを見て、あぁやはりよく映える、と内心笑みを浮かべた。

「――……ふふ、」

指環を嵌められた方は、こちらも小さく笑声をこぼしていた。こそばゆそうに、幸せそうに白い環の嵌った自分の指を店の照明に翳してみて、それから胸の前に下ろしてそっと撫でる。

「なんだかお前の一部を身に着けているみたいだ」

そして、そんな、指環を――試着だとしても――嵌めた思惑を言い当てて見せるのだから、白い機体はこいつには敵わないと思うのだ。

 けれどその指環はあくまで試着であり――当初の目的の品ではないので、今日のところは置いておく。取り置きをしておいてまた来た時に買えばいいだろう、と白い機体も特に後ろ髪引かれることなく、指環を恋人の指から外そうと手を伸ばす。その考えは相手もわかっているようで、伸ばされた手に指環の嵌っている手を素直に差し出した。

「……ん?」

指環を掴んだ白い指先の持ち主が僅かに首を傾げる。

「……、」

また、指環が嵌っている指の持ち主も異変に気付いたらしい。

「……、」

互いに顔を見合わせる。

 気のせいだろうと半ば現実逃避のように考えて、再度指環を外そうとする。

「…………、――、」

掴んで、引き抜こうとして、つまり、抜けなかった。最初は加減をして。次に多少力んで。最後に思いっきり指輪を引っ張って、結局抜けなかった。

 そして、ぐぐぐ、二機揃って小さな装飾品と格闘している姿に店員が気付く。

「おや、」

店員の楽しそうな声に背中が――主に白い背中が、ピャッと跳ねる。もちろん黒い機体の肩も少しだけ跳ね上がった。

「花嫁様が選ぶまでもなく騎士様がお選びになられたご様子で」

上がった口角が容易に想像できる声音が聞こえたものだから、白い機体の機嫌は少しだけ傾く。特に、それぞれのことを式典になぞらえて花嫁と騎士、と呼んだこと――特に恋人のことを花嫁、と呼ばれたことが、機嫌を傾けた一番の理由だろう。

「あいつは、花嫁じゃあない」

だから、白い機体は一言、それだけ答えた。

 一瞬でムッとした空気を滲ませ、実際それに見合った不満げな声を発した白い機体に、少しだけ困った様子で黒い機体は肩を竦める。けれど同時に、白い機体の、ではなく、故郷の花嫁、と自分が呼ばれたことに反発を見せてくれた機体に胸が温かくなるのを感じた。

 仕方がないので購入の手続きを進めたが、どうにも決まりが悪くて落ち着かない。恋人の指に自分と同じ色を持つ環を嵌められたと言うのは、まぁ、喜ばしいことではあるけれど――そのまま抜けなくなって、だから購入だなんて間が抜けているにもほどがある。一足先に店を出て、道端の段差に腰掛けた白い機体は溜め息を吐いた。連れはもう少し見たいものがあるらしい。どうせ店を訪れた目的の――本命の――品を見るのだ。気を遣ってくれたのだろうが、折角久々の二機揃っての外出なのにと恨めしさや情けなさが募る。なんだかどこまで行っても恋人とその身内の念頭には故郷があるようで、自分たちはどう足掻いても一番にはなれないのではないか――と。

 なんて内側に沈んでいくようなことを考えながら、白い機体が視線を足元に向けつつ何度目かの溜め息を吐いた後、閉まっていた店の自動ドアが開いた。その奥からは当然黒い機体が出て来る。立ち上がりながら見遣った閉まる自動ドアの隙間には、礼をして客を見送る店員の姿がチラと見えた。

「待たせて悪かった、」

「いや――そんな、気にしないでくれ……っていうか、すまん……」

「指環のことか? ふふ、面白いこともあるものだな……いや、そうじゃない。実はな、」

色違いのものを買ったんだ、と黒い機体が面映ゆそうに白い機体へ囁く。そっと差し出された手には白の機体色に映える、黒のリングが収められた箱があった。それは黒い機体の指に嵌っているものと同じデザイン、似たような質感で――正しく色違いの品だった。白い指輪の嵌った指先が、黒い指輪を箱から取り出し、もう片方の手が力なく下げられていた白い手を掬い上げる。指環に通る自分の指を眺めながら、先程と立場が逆になっている、と思った。

「良かった、サイズは合っているな」

白い機体の指に指環を嵌めた黒い機体がほのかに安堵したように言う。そしてそのまま手のひらを重ね合わせて指を絡めると、カチリと指環同士が擦れ合う小さな音が立った。

「……互いの一部を交換したみたいだな?」

互いの指に嵌った互いの機体色の指環に、嬉しそうな声。その声音に、相手の一番になれている、と思わず自惚れかける。

「っ、なん――! っじゃなくて!式に使う指輪! そっちは買ったのかよ!」

「あぁ、そちらもちゃんと買ったから安心してくれ…………こちらは……このまま抜けなくても構わないし、な」

それは認められず、許されないことだと理解していたけれど、自制の意も兼ねて語気を強めながらも、手は振り払わず――むしろ両の手で握り返して言う白い機体に、相手もごく自然に頷きながら答える。互いの指に灯った互いの色は、さながら所有の証のように見えた。

「――……なら、それを、俺だと思ってくれないか。会えない時でも、そうしてずっと俺を傍に置いていてくれないか」

だからきっと、故郷の花嫁と呼ばれる立場にも関わらず、恋人という関係になっている機体へ、吐露したのだ。

「星の花嫁と呼ばれる私を、束縛させてくれ、と言いたいのか? 騎士殿は」

「ああ。そうだ。お前を、俺のものだと言わせてくれ。もちろん、俺はお前だけのものになろう」

一個と一個として向き合った二機は、星に従い星のために生きるべき立場にある二機は、個として相手を想っていることを確かめ合った。

 外から帰って来た黒い機体から話の大筋を聞いた紺藍の機体は考えられない、というように機体を仰け反らせた。

「な――何をしているんだ、そんな……不敬だろう!」

「抜けなくなったのだから仕方ないだろう? それに、見て触れて感じられる相手と結ばれた方が幸せだと思わないか?」

「…………で? どうするんだ、本番」

うっとりと愛し気に指環のある方の手を胸の前で包む。そんな、幸せそうな黒い機体に溜め息を吐いて、もう関わるまいと話を進める。

「あぁ――それについては大丈夫だ。ちゃんと式典用にもう一つ買ったからな」

これだ、と見せられた指環はややくすんだ黄金色のリングだった。心配無用とばかりに心なしか胸を張る相手に肩の力が抜ける。プライベートな時間ということもあり、マスクに覆われていない口元にはやはり弧が描かれていた。これで年上だと言うのだから我が故郷は平和である。最近の点検で異常無しと診断された頭部がズキズキ痛むような気がした。

「式典の指環をついでの買い物にするなど……やはり不敬だ……」

額の辺りを押さえながら呆れたように呟く。

「まぁ私のことは良い。それより――お前の方が大変じゃないのか?」

呟いた機体に、式典で使う指環を仕舞った機体は苦笑した様子で首を少し傾げて言った。

「彼は知らないのだろう?式典のこと」

「――そ、れは…………余計なお世話だ」

刹那息を詰め、視線を逸らして答えた紺藍の機体へ黒の同型機は微笑ましげな視線を送る。普段は悠然と下へ指示を出し、他機を動かしているこの機体が時折垣間見せる年下らしさが、黒い機体には可愛くて仕方がない。それがいじらしい理由から来るものであれば、なおさらだった。

「そうか。では健闘を祈ろう」

逸らされた視線を、頬に手を遣ることで合わせる。そうして、微かに熱を帯びている気のする頬をそっと撫で、覗き込むように顔を近付けていく。

「式典当日までに結果を報せておくれ、私の可愛い同型機」

「…………? ……ッ!」

そして、そのまま音もなく唇を自分のそれで掠めていった黒い機体は、その至近距離で卑怯にも年上の声音で囁いた。バイザーの奥にやわらかく細められたオプティックを見て顔が熱くなる。じわじわと事態を認識していく時間が既に恥ずかしい。

「ぜッ――絶対!報せるものか!!」

質の悪い不意打ちを受けた機体は顔を上気させて叫び、当然と言うべきだろう、目の前の機体を突き飛ばして脱兎のごとく姿を消した。少しやり過ぎただろうか、あぁけれど可愛らしい反応だったな――なんて、他人事のように突き飛ばされ床に座り込むかたちになった黒い機体は思った。

 年上から思ってもみなかった揶揄いを受けて部屋を飛び出した紺藍の機体はその数日後、未だ件の物を手に入れられていなかった。恋心なんてものは無い――と自身では思っているだけである――が、それでも貰うならあの機体が良いのだ。別に自分で用意しても何ら問題は無いし、むしろ手軽で良いのだが――できれば、と。

 仕事の合間を縫って件の機体の部屋へ行ってみると、自主点検を行っているようだった。相部屋をしている白の機影は見られない。特に駆動音や気配を潜めることなく、手を動かしている機体に近付くと、よう、と気兼ねない声が聞こえた。あくまで友人として接してくれる姿に、自然と表情が綻ぶ。

「調子はどうだ?」

「んー。まぁ、問題ない範囲だな。一応やっとけって言われたからやってるけどさ」

大方相部屋の機体に言われたのだろう。あまり慣れていない様子で関節部分や配線を確認していく青年――橙の機体はどこか面倒臭そうな空気を発している。

「そう面倒がるな。もしもの時にもしもの事があったら困るだろう?」

くすくす小さく笑いながら言い、視線をフイと動かした時、部屋の住人が腰掛けている台の脇――少し小さめの、もう一つの台が目に入った。

 正確には台の上だが――そこには点検に使う道具の他に、交換する予定の部品や調整で不要になったパーツが置かれていた。その中に、バラバラに分解されたベアリングや、内側に掘られた溝が摩耗してしまっているナットが幾つかあった。リング状の部品たちを見て、かたちとしては、指環とほぼ同じだよな、なんて思い、そこから一つを手に取り指に嵌めてみると、それはぴったりと紺藍の指を飾って見せた。

「──……。ここに置いてある部品は、貰っても問題無いか?」

「へ? あ、ああ、別に良いけど……何に使うんだ?そんなん」

平静を装いつつ持ち主に訊くと、不思議そうに首を傾げながらも色よい返事をくれた。新品のものならまだしも、お役御免になった部品を譲ってくれと言う機体に至極尤もな疑問も一緒に寄越した機体へ、答えるべき相手は微笑だけを返した。

「ありがとう。点検は念入りにな」

「あ、あぁ……?」

そうして上機嫌に去っていく機体の指に自分の部品が嵌められていることなど、まだ若い機体は気付かなかったのだった。

 数日後、その星の中心部にあたる街はひどく賑わっていた。喧騒や密度に辟易しながらも、知り合いに誘われるまま訪れた橙の機体は式典の会場となる広場に辿り着く。

 今日は何か祭りの日だったのか、と遠からずも近くない答えを胸中吐露して周囲へそれとなく視線を遣る。その視覚器が探したのはやはり紺藍の機体で――多忙とは言えこれだけの規模の祭りなのだからもしかしたら、なんて考えたのである。白い機体色が圧倒的に多い風景の中、居たならば容易に見つかるはずの色は、しかし見当たらない。沸き立つ群衆の中で一機肩を落とした機体はぼんやりと広い空間が確保された広場の中央へ視線を移した。

 ふと気付けばあれほど騒めいていた周りがシンと静かになっている。無数の視線は一様に広場の方へ向けられており、そこからは期待と緊張と、微かに畏怖のようなものが感じられた。

 斯くて式典は厳かに開幕を告げたのだった。

 カツ、と揃えられた踵が鳴る。さながら自動制御された人形のように一糸乱れぬ動きで広場に現れたのは幾何学的な塗装を施された白の機体たちだった。彼らは簡潔に見えてその実なかなか他機と揃えることが難しい動きを粛々とこなしていく。その姿は、いつかどこかで聞いたような、騎士という存在を彷彿とさせた。そして橙の機体はその騎士たちの中に、相部屋をしている機体の姿を見つけた。まさか、と注目すれば、普段とは違った空気を纏う機体がそこに居て、若い機体は息を呑む。だけではなく、他にも見知った機体の姿が幾つか見え、この祭り――式典――の意味とは、自分が考えているよりもずっと重要なものなのでは、と思考回路が忙しなくなる。そして、騎士たちが整然と並び、頭を垂れ、跪いたところで現れた機体の姿に、忙しなく動いていた思考回路は完全に停止する。

 元より優美な機体を彩っている塗装はより精緻にして秀麗。それは一目見ただけでもかけられる手間は途方もないのだろうことを容易に想像させる。騎士たちが膝を折る場所よりも高い位置――祭壇のような舞台の上に降り立った黒と紺藍の機体は、つまり言いようもなく美しく、そして淡々と動作をこなしていく姿は、神に捧げられる運命を受け入れている贄にも見えた。

 群衆のあちらこちらから、微かに感嘆の声が漏れる。

 羨望の眼を、好奇の眼を、憧憬の眼すら歯牙にかけず、舞台に降ろされた二機は自分たちの役目を務め上げていく。朗々と祝詞を故郷へ捧げ、民の平穏と繁栄を祈念し、恒久の誠意を誓う。聞き慣れた声の、聞き慣れない声音で紡がれていく言葉に、橙の機体はようやく今日と言う日の意味を理解した。

 そうして、祭り――否、式典は終曲を迎える。

「――我ら此処に汝との婚礼を行えり」

何と言っていたのか、全て聞こえていたわけではないけれど、最後に言い切られた言葉にハッとする。登場の衝撃で、ただ追うだけになっていた姿を再度捉えると、舞台上の二機はいつの間にかせり上がっていた祭壇のようなものの前に立っていた。そして己の左手へ右手を持っていき――指から何かを引き抜いているようだった。その仕草は、言わずもがな、指環を指から抜き取る動作で、抜き取られた物を注視してみれば、紺藍の指先で光を返すそれは、何時かあの機体に譲った自分の一部であった。

 黒い指先が黄金色のリングを、紺藍の指先がややくすんだ銀色のリングを、それぞれ台座に置く。すると台座は置かれた二つの環を飲み込むように閉じながら引っ込んでいった。次いでそれぞれ環を捧げた機体たちも瀟洒に一礼をして厳かに退場していく。

 さほど長くない時間のことだったが、その場は時が止まったように静まり返っていた。そうして、数秒の後、騎士たちが先に退場した二機に続いて退場を始めた辺りで、割れんばかりの歓声が上がった。

 広場から機体が去り始め、流れができる。興奮冷めやらぬと言った様子の知り合いを適当に往なして、橙の機体は周囲の流れに逆らい、舞台の方へ向かう。

 舞台脇を通り過ぎ、その裏へ回れば、ごく普通の舗装された道が走っている。そして広場の周りには、他の広場や公園と同じように、道路を挟んで建物が建っている。その中でも舞台の裏に近い建物を、この行事の日には控え場所として使用していた。

 式典で見た、日常とは異なる塗装を施した機体が出入りする建物を見つけた機体は、その屋内へするりと入り込む。

 幸いにも部屋の扉にはそこを控えとして使っている者の名前が張り出されていて、目当ての部屋を見つけることは容易なことだった。

 黒い機体と、親友――紺藍の機体の名が張り出されている部屋の扉を、勢いよく開ける。

「あぁ……噂をすれば何とやら、だな?」

その室内には、部屋を与えられた二機と、よく見知った機体が一機、居た。特に、よく見知った白い機体は橙の機体が部屋へ入って来たのを見て、それを予想していた――実際予想はしやすかっただろう――反応をして見せた。黒い機体は、何を言うでもないが――小さく肩を揺らしていた。

「――……さっきの、アレは、」

麗しい塗装が施された三機を前に、やや圧倒されつつ式典のことを知らなかった機体は、特に紺藍の機体に訊く。

「……数百年に一度催される式典だ。星との結婚、と呼ばれている」

「けっ――!?」

橙の機体の声音にだろう、どこか気まずそうに答えた紺藍の機体は、やはり次に言葉を詰まらせた橙の機体から少しだけ視線を逸らした。

「ふふ。責めないでやってくれ。これも私たちの仕事だ」

そんな二機の様子を微笑まし気に眺めていた黒い機体が助け舟を出す。

「別に責める気なんて無い……けど、どうして何も言ってくれなかったんだ?一言くらい何か、」

「知らない奴には教えるなって恒例だからなぁ……仕方ないだろ?」

誰でも何でも初めては驚くよな、と笑う白い機体は、それからまた続けた。

「まぁ、したい話や聴きたい話は山ほどあるだろうが、それは明日ゆっくりするといい」

「……? 明日?今日これから帰ってできるだろ?」

「悪いなぁ、若人。まだ二人にはお仕事っていうかさっきの続きでやらなきゃならないことがあってな?」

「なんっ……あれで終わりじゃないのかよ!他に何かすることあるか?!」

「まぁ初夜ってヤツをなぞるだけなんだが、つまり専用の場所に一晩泊まるだけだから」

「結構快適だぞ」

「そうなのか? お前たち以外は入れないからなー」

橙の機体が固まっているのを余所に白と黒の機体は呑気な様子である。紺藍の機体は、将来自分の側付きになるだろう機体が滲ませる苦々しい空気にどう対処しようかと声をかけあぐねているようだった。

 そして、そんな風に和気藹々とする二機とどこか気まずげな二機が話している部屋の扉が不意に叩かれた。なんだ、と黒い機体が反射的に返事をする。

「場の整備が完了しましたので、移動のお知らせに参りました」

「了解した。準備が出来次第お連れする」

扉の向こうから聞こえた報せに答えたのは白い機体だった。部屋を与えられた機体ではないのに返事をしても特に何も言われないのは、その機体の側付きだから、という理由に他ならないだろう。そうして、扉を挟んで交わされる会話に、橙の機体が微かに揺れた。

「……ってことだから、挨拶するなら手短に頼むな」

扉の向こう側で遠ざかって行く足音を背景に、白い機体が未だ何も言えずにいる一番若い機体へ向き直る。

「もう時間があまりないから」

「――」

ポンポン、と弟分にも等しい機体の肩を叩いて自分は黒い機体の方へ向かう。後は、当事者たちがどうするか、である。

 紺藍の機体にしてみれば予想していた以上に友人の反応が苦々しいものだったので――恒例とは言え――今日のことを伝えなかった後悔がおずおずと顔を覗かせている状態だった。或いは、譲ってもらったものを他者に贈るようなことをしたから、それに怒っているのだろうか、なんて。主の揺らぎが伝わったのだろう、胸部に収まった小さな命がカタリと震えた。

 先に動いたのは橙の機体の方だった。小さく排気して、その雰囲気をゆるりと和らげる。

「……わかった。明日、帰ってきたら教えてくれ」

「え――あ、ああ」

まだ少しだけ硬さを残した声音だったけれど――いつもの友人のものに戻ったと言える声を聞いて、紺藍の機体も肩の力を抜く。

「話は纏まったか? なら移動するぞ」

「折角だ。付いて来くるか? どうせ将来することだ」

タイミングを見計らったように白と黒の機体が切り出した。

「まぁ、部屋から出た瞬間から、私たちはお前たちとは話すことが出来なくなることは留意しておいて欲しいが」

「……花嫁役たってのお誘いなら同行しても構わないよな。他のやつらには俺から言っておくな」

「ふふ。さすが私の側付き機体だな。頼もしい」

「お前の側付きだからな。当たり前だろう?」

気を抜くとすぐに花を飛ばし始める年上二機から視線を外して、紺藍の機体が橙の機体をちょいちょいと小突いて自分へ意識を向けさせる。マイペースな年上たちに、こちらも辟易していたらしい橙の機体も、これ幸いと自分を呼んだ紺藍の機体に応える。

「…………私は、」

「……わかってる。お前の仕事、だろ? いいんだ。気にするな」

そこで、紺藍の機体が少しだけ排気を詰まらせた真意を、橙の機体は汲み切れなかったけれど――。

「俺は待ってるから」

「――あぁ……ありがとう」

面映ゆそうな声と、幼生の機体が笑う時にするように微かに傾げられた首を見て、今はこれだけで、と。

 そんな年下二機の様子を、白と黒の機体が微笑ましげに見ていた。

以下、没案

(原作通りに進めてまった)

指環を買うところ

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 ぐるりと店内を見て回り、黒い機体が店員に式典用の指輪を探している旨を相談し始める。白い機体の方はと言えば、連れを店員に任せて単機で指輪の売り場を眺めていた。そうして、ふと目に付いた指輪の一つを手に取った。それはシンプルな香丸のリングで、艶やかな黒は光に翳すとその色味を変えて見せた。ほう、と感嘆の声を小さく漏らしながら眺めていた。これをあの指に嵌めてやれば、さり気なく自分との仲を周囲に知らせられる――牽制できるのでは、なんて思った。けれど、その時、ツルリと手にしていた指輪を滑らせてしまったのである。

 白い機体の指先から逃げ出した指輪は、しかし存外近い場所に着地した。スポン、と白い機体の空いていた方の手へ、指へ綺麗に嵌ったのである。不意の事態に多少焦ったが、商品を落として傷物にしなくて良かった、と胸を撫で下ろす。それにしても珍しいこともあるものだ――と指に嵌ったリングを外そうと手を伸ばし、指輪を掴んだ。

「…………、――、」

掴んで、引き抜こうとして、つまり、抜けなかった。最初は加減をして。次に多少力んで。最後に思いっきり指輪を引っ張って、結局抜けなかった。

 ぐぐぐ、ひとり指輪と戦っている白い背中に店員が気付く。

「おや、」

店員の楽しそうな声に白い背中がビクッと跳ねる。もちろん黒い機体も店員と同じく白い機体の方を見ている。店員はともかく、黒い機体の視線は――向けられたく、なかった。

「花嫁様が選ぶまでもなくそちらをお選びになられたご様子で」

上がった口角が容易に想像できる声音が背後から聞こえたものだから――。

「あいつは、花嫁じゃあない」

一言、それだけ答えた。

 連れより一足先に店を出て、道端の段差に腰掛けて溜め息を吐く。その指には黒の指輪が嵌っている。仕方がないので購入したが、自分が付けてどうするという話である。想い人を思い起こさせる色ではあるけれど。

「待たせて悪かったな、」

視線を足元に向けていると、店から黒い機体が出てきた。閉まる自動ドアの隙間には礼をして客を見送った店員の姿がチラと見えた。

「いや――そんな、気にしないでくれ……っていうか、すまん……」

「指輪のことか? ふふ、面白いこともあるものだな……いや、そうじゃない。実はな、」

色違いのものを買ったんだ、と黒い機体が面映ゆそうに白い機体へ囁く。そっと差し出された手には黒の機体色に映える、白のリングが光っていた。それは白い機体の指に嵌っているものと同じデザイン、似たような質感で、正しく色違いの一品だった。白い指輪の嵌った指先が黒い指輪の嵌った指を手を取って包む。

「互いの一部を交換したみたいだな」

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