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どこか互いに満たされない接続(別にえろくない)(やっぱり)

それはある種の子供の様な独占欲と子供の様な渇望。 

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 冷め切らない熱にその顔は上気している。

 普段バイザーとマスクで隠されているその顔の様子が分かるのは、外す外さない――その必要は無い――で問答した結果、焦れた男が強引に剥がして以来、外されるようになったマスクのおかげだった。バイザーの方は、何故かこちらは頑なに外そうとしない。男の方も、薄らと透けて見えているのだからと、外させることにマスクの時ほど躍起にならなかった。

 機体が揺すられ、粘質な水音に息が詰められる。緩やかに、呼吸の間隔を整えようと機体の肩が震えた。

 それは然して時間がかからず落ち着き、はふ、と短く排気して、次に相手を捉えた顔は、艶やかに口端を上げて見せていた。

 男の接続器を包んでいるケーブルが窄まり心地良く締め付ける。挑発的な返答に、男は面白そうに笑う。戯れにだろうか――或いは試すように、機体情報が抜かれている感覚に気付く。抜かれたところで何の支障も出ない程度のものだったが、それならば、と男は逆に自ら多量の情報を相手へ流し込んでやる。誰がどれだけの情報を得たとしても、自分に勝てる者など、どうせ居まい。胎奧の基盤を抉りながら情報を叩きつけると、受け入れている側の機体はビクリと跳ねた。掠れた呼吸音だけだった中に、小さな嬌声が混じる。けれどそれはすぐに吞み下され、その機体にまだ多少の余裕があることを窺わせた。悶えるように蠢く受容器の内部はもっと寄越せと乞うているようにも思えた。透けるバイザーの奥に見えるオプティックには冷却水が浮かんでいて、外気に晒されている口元は緩く開かれ、濡れた舌を覗かせていた。

 余裕を――この機体を追い詰めて、情報の処理がし切れなくなるほど余裕を奪ったらどうなるのだろう、と、ふと思った。

 バヂリと紫電が走る。加減を間違えれば相手を殺すことすら容易いその刺激に悲鳴が上がる。痛みから逃げる術の無い機体の腰や顎が跳ね、弧を描いた。反らされ、目の前に晒されることとなった頸部――急所となり得る場所――に歯を立てながら、キュウゥ、と熱を銜え込む受容器にオプティックを細める。軽くヒューズを飛ばしてやってもいいかもしれない。

 噛みついた場所に薄く罅を入れ、口を離す。そうして、痛いかと問えば、いたいと答えが返された。なぜ、とか、いやだ、とか譫言のように平時よりも拙い音を吐きながらポロポロと冷却水をオプティックの縁から零す機体は、この接続がいつもとは様子が異なっていることを察したようだった。多少の気紛れはあれど、大概の場合は双方共に意識を飛ばすまでは続けないと言うのに――最悪このままでは壊される可能性も、と不安が過る。容易く壊される、だけの能力差であり状況であり、可能性は大いにあった。そんな胸中を知ってか知らずか、主導権を握っている機体は相手をじわじわと追い立てる。

 接続を行う場所はどこでも良かった。けれど選ばれる場所に傾向があると気付いてからは、その理由が少しばかり気になった。青白く――もしくは黄金色に――輝く衛星がある場所、見える場所が多く選ばれる理由。それは分からないし敢えて訊こうとも思わない――が、快楽にとけたその視線を追うと、最後には宙に浮かぶ衛星に辿り着く。そうして、そのオプティックが男の姿を再度捉えると、至極嬉しそうに細まるのだ。

 誰を――誰を、見ているのだろう、と。何者と自分の姿を重ね、自分に抱かれながら誰を想っているのだろう、と。

 はく、と反った頸部の先で上下していた顎を掴んで自分の方へ向かせる。キュル、とオプティック――視覚器が駆動する音。バイザー奥の双眸は確かに男の姿を捉えている。けれど、その表情はやはりすぐにとろりと歪んだ。背中に腕が回される。縋るように寄せられる機体は、気紛れにその上を這う紫電に時折跳ね、そして確かに痛みも享受していた。聴覚器の側で震える悦楽の音は、自分が与えた痛み、快楽に返されたもの――である、はず。

「……お前は、誰を見ている?」

「――ッぁ、あなた、を……、」

それなのに、何故、この熱に浮かされた視線も言葉も、自分に向けられたものだと、腑に落とすことができないのだろう。

「ずっと、あなたを、見て、います、」

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