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お題は約30の嘘さまから。ありがとうございます。

 

下位、上位、MR、MR後 みたいな気持ちで(気持ちは)

備考:ハンソドはデキてない

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 防具に包まれた指先が落ちていた羽毛を拾い上げる。摘まみ上げたそれを陽の光に透かして見れば、翳す角度によってきらきらと色味を変えて見せた。詰まる所、その一見草木のような青緑色の羽毛は光を当てる角度によって色が変わるのだ。サリ、と指先に感じる粒感に蝶の翅が頭を過る。あるいはこの粒子を集めてみれば、また新たな素材として用途が見出せるだろうか。何にせよ、折角拾った素材である。アイテムポーチの、特に素材の類を入れるポーチへ拾った羽を押し込んで、ハンターはまた歩き出した。

 しばらく歩くと、また違った羽毛が落ちていた。大きく、そして鮮やかなそれに、今日は比較的穏やからしいと森の様子を推測する。そんなことを考えながら羽毛の前にしゃがみ込んだハンターは、やはりそれを拾った。指先に伝わる羽そのものの感触。こちらは羽自体が色付いているようだ。光に当てて見ても見る角度を変えてみても、先程拾ったもののように青緑が赤、赤が薄茶と言うようには色を変えない。一口に羽毛と言っても様々あるものだ、と自然の多様性を再確認する。そして付いていた砂利を払い、拾った羽を遠慮なく素材ポーチに押し込んだ。

 現大陸に居た頃、王国の方から若者が狩り場まで狩りをしに来る話を聞いた。多くの場合王国から遥か遠く、辺境も辺境であるハンターたちの活動場所や内容や存在自体は、王国やその周囲の地域の人間たちには伝承や御伽噺だと――「王立」書士隊があるにも関わらず――思われている節がある。つまり王国から狩り場までくる若者たちは、彼らにしてみれば眉唾物の話を信じて旅をして来たということだ。そしてその理由は「気になる婦人にモンスターから取れる美しい羽を贈るため」だとか。健気な話であった。しかしその若さ故、狩りを甘く見て痛い目に遭うという話も付いて回っている。

 確かに女性は「綺麗なもの」を好む人が多い気がする、とハンターは拠点で擦れ違う女性調査員たちを思い出した。女性用の防具には男性用防具よりも装飾的なデザインのものが多いし、工房に居る2期団の人に時折デザインのリクエストと思われる意見を訴えている姿を見かける。彼女たちも、王国周りの婦人たちのように「綺麗なもの」を贈られると嬉しく思ったりするのだろうか。消耗品を貰ったり報酬の旨いクエストに誘われる方が嬉しいと思ったり――しないのだろうか。そういった方面での女性との交流経験が少ないハンターにはよくわからなかった。

 けれど、ハンターは「綺麗なもの」がそれを持つ者に多くの場合プラスの結果をもたらすことは理解していた。それは富や名声を表す指標になったり、自身をよりよく演出できるものであったり、誰かから誰かへの好意を明確に示す「かたち」であったりするからだ。付属品によって魅力が最大限引き出されることなど、よくあることだ。だからハンターはふと思ったのだ。あの人に自分が集めた「綺麗なもの」を渡してみたい、と。常日頃武骨――あるいは質素な格好ばかりしているあの人が綺麗なものを身に付けたらどうなるのだろう、と。好奇心の皮を被った好意を、ハンターは抱えた。

 綺麗に掘り出せた鉱石。上手く摘み取れた花や実。拾ったものばかりではなく剥ぎ取りで手に入れたもののある羽や鱗、甲殻。気付けば丸々と膨らんでいるポーチの中身を確認して、ハンターは拠点へ帰還するために翼竜を呼ぶ。

 工房エリアに隣接する小さな門へ降り立ったハンターと編纂者はそれぞれ一等マイハウスと食事場へ向かう。途中、多めに手に入った生肉と果実を編纂者に手渡すと大いに感謝され食事に誘われたが丁重に辞退した。今彼女の傍に居ると、あれやこれやと何かしらを聞きまくって編纂作業の邪魔をしてしまうと思い自制したのだ。誘いを断られるも、気を削がれた様子もなく「それではまた今度一緒にご飯食べましょう!」と朗らかに笑った編纂者の背中を見送ってハンターは自身の借りている一等マイハウスへ続く階段を上って行く。轟々と流れ落ちる滝の飛沫が月の光に照らされて「綺麗だ」と思った。

 導蟲の光だけでは、手元を見るには心許なかった。新大陸に渡ってからとんと使う機会の無くなっていた燭台に火を灯す。テーブルの上に、ポーチの中から鉱石やモンスターの素材を取り出して並べていく。花や実は水を張った桶に入れておいた。そうして、今まで気にしたことのなかったそれらの形や色をまじまじと眺めて、用意したタオルやヤスリで磨いていく。砂や埃を払い、くすみを拭う。月光を受けて静かに呼吸する硬物の、なんと美しいことか。磨けば光るとはこのことだった。今まで気に掛けていなかったけれど、素材にはこんな一面もあったのだ。

 これを贈ろう。贈りたい。あの人に。工房に相談して、何かアクセサリのかたちにしてもらおう。そうすれば、あの人を邪魔することなく、あの人を「綺麗に」飾ってくれることだろう。羽や毛皮の類もまた加工して――ポーチや羽ペンなどが良いだろうか。ハンターは想像する。自分が贈ったものを身に付け、普段使いしてくれる相手の姿を。まだ受け取ってもらえるどころか、渡す品を手に入れてもいないのに。初めてだったのだ。人に何かを贈るということに、こんなにも胸が躍ったのは。だから贈り物になる予定の品々を眺めるハンターの目が、どんなクエストを受ける時よりも、どんなモンスターを相手にする時よりも輝いていたのは、当然のことと言えた。

結わいだ羽

 

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 一部のモンスターは体内で玉石を生成することが知られている。それが実際彼らにとってどのようなものであるのか、完全には解明されていない。人体で言う結石や血栓、不純物の塊なのかもしれない。しかしその美しさや希少性から多くの人間に求められている。

 討伐した古龍を前に、ハンターは剥ぎ取りナイフを手にする。損傷の少ない、良質な素材が取れそうな個所を探し、目星をつけた辺りにそっとナイフの刃先を潜り込ませる。ナイフ自体と素材を傷付けないように、しかし手早く手を動かして素材を剥ぎ取っていく。そうして、ふと、切り開いた外殻の下――狩猟中に自分が負わせたと思われる傷口から、何かが覗いていることにハンターは気付いた。まだやわらかな肉の中にそっとナイフを差し込み、それを外界へと引き寄せる。

 と、それは宝玉のようだった。けれどまだ小さく、素材として工房に持ち込むことはできなさそうだった。加えて罅が入っていたらしく、取り出してから程なくハンターの手のひらの上で崩れてしまった。

 欠片を指先で手のひらに広げると、ザリ、と尖った痛みが柔く肌を引っ掻く感触。そして散らばった欠片たちは、玉の姿を失っても、その光までは手放していなかった。キラキラと周囲の光を反射して、存在感を主張していた。

 玉――ハンターはふと古龍の顔の方に眼を向けた。そういえば、目とは眼球である。ならば、抉り出した眼球もまた美しいのではないか?と。事実、現大陸ではごくごく一部のモンスターの「眼」を素材として扱っていた。ならば、ここは、あらゆる挑戦が試される新大陸。この古龍の「眼」も使えはしないだろうか――と考えたその時、拠点への帰還準備完了の報せが編纂者から届いた。色々と思考に気をとられて剥ぎ取り自体はまだ上限いっぱいまでしていなかったけれど、あまり遅れて日頃世話になっている編纂者に迷惑をかけるのも良くないと思い、ハンターは剥ぎ取りナイフを収めて引き上げる。手のひらに広げていた、小さな宝玉だった欠片たちは、持っていた空き瓶に入れて持ち帰ることにした。

 カラカラともチリチリともつかない音が鳴る。宝玉の欠片を入れた瓶を、ハンターは目の前に翳して揺らす。転がり、あるいは跳ねる不揃いな塊たちは、それでも十分綺麗だと言えた。宝石は砕けても宝石であった。無論、形の整った――整えられた――ものよりは、価値が落ちるけれど。大小様々な輝きを眺められる点は、星空にも似て好ましいと思う。日ごと、夜ごとにこの瓶を揺らすことは、ここ最近ハンターの日課になっていた。当然、砕けた未生成の宝玉を持ち帰ったなんて誰にも言ってはいないから、秘密の日課である。この小さな輝きと音を、誰にも邪魔されることのない、束の間の憩いと位置付けていたのだ。

 しかし自分が持つ細やかな秘密――後ろめたいことでもない――を、誰かと共有したいと思うのもまた人の性だった。

 善は急げとばかりにハンターは自室を抜け出し、拠点の1階――流通エリアに降りる。そこそこ夜も更けているが、夜間調査なんかから帰還した調査員たちでまだ賑わいはある。そしてハンターは目的の、秘密を共有したい相手である1期団の狩人がいるであろう、司令エリアに向かう。

 果たしてそこに彼はいた。相変わらず、定位置で椅子に腰かけている。最近席を外して昼寝をしている姿を見ないけれど、ちゃんと休めているのかハンターは気になっていた。

 一見、起きているのか寝ているの分からない「彼」の前に立つ。そうして「先生、」と一言。相手を呼んだ。

 ふわりと旧いヘルムの羽飾りが揺れて、彼が顔を上げる。

「うむ」

起きていたのか寝ていたのか、やはり分からない声音と言葉で返事をした彼に、ハンターは自室への誘いをかける。見ていただきたいものがあるのですが、今お時間いただけますか。等と。彼はハンターを見て――同期である総司令の方を見た。それはごく短いやりとりのようだった。5秒にも満たない目配せの後、彼の首は縦に動いた。

「外へ行くわけではないのだろう?」

総司令から声が飛んで来る。地獄耳か、とハンターの目が僅かに丸くなる。一応、総司令の確認の言葉に首肯を返して、ハンターはよっこらせと椅子から立ち上がる彼の手を握る。ハンターの行動に「む、」と小首を傾げかけた彼を待たず、ハンターはさっさと司令エリアから立ち去ろうとする。その姿は他人の眼から逃げるようにも、はやる気持ちを抑えられないようにも見えた。

 ああ、星と月だけが知る、小さな宝玉のもたらしたる大きな幸福の時よ。

微々たる宝石

 

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 ハンターは布団の中に居た。寝台から出られない。出たくないのである。

 ハンターは前線拠点のマイハウスの布団に包まったまま、かれこれ数十分は転がっていた。

 だって寒いのだ。前線拠点は雪深い山の奥に建てられている。寒くないわけがない。朝と夜は特に冷え込む。潜り込んだ布団の温もりから、どうして逃れられよう。急ぎの任務も無い。報告書も調査活動も、期限にはまだ余裕があるものばかりだ。そもそも――自分で言うのも何だが――自分はこの組織の中でもよく働いている方だ。こうしてダラダラとダラける日があったとして、バチは当たるまい。

 ああ、睡眠こそ至福。至福の睡眠よ。

 等とハンターが微睡んでいる時であった。寝台の縁がぎしりと沈んだのは。

 何事か。誰か。とハンターは布団から首を伸ばす。するとそこには、自分が背を向けていた側の寝台縁に、前線拠点にはいないはずの人物――1期団の老狩人が腰掛けていた。思わず呆けた声がハンターの口からこぼれた。

「よく寝たか?」

呆けた顔をしたままのハンターの、頬の辺りを防具に包まれた指先が撫でる。かけられた穏やかな声音は子や孫に対するそれのよう。カァ、と頬が熱くなるのを感じた。

 何故ここに、とハンターは老狩人に訊く。寝返りをうち、老狩人の腰の辺りに横になったまま纏わりつくかたち。熱が昇った顔は、恥ずかしいので下を向きがちだけれど。

「物資補給の護衛と書類受け渡しの遣いを承ってな……故に司令エリアに寄ったのだが、その際そなたの様子を見てきてくれと頼まれたのだ」

良い部屋だな、と大して装飾も調度もいじられていない、規模にしてはこざっぱりとした室内を褒めながら老狩人はハンターに事情を答えた。そうだったんですか、とハンターが呟く。そして同時に、ハンターは「今現在この老狩人が前線拠点に滞在している」という事実を、遅まきながらも認識したのだった。

 ぐりぐりとハンターが老狩人の身体――防具――に頭を擦り付ける。まるで親モンスターに甘える子モンスターのようだ。そんな様子のハンターに、老狩人はやはり「いかがした」と伺いを立てる。ハンターは、くふくふと上機嫌に笑った。せんせいがここ(前線拠点)にいらっしゃるのが、うれしくて。

 夢見心地な言葉(こえ)だった。どうやらまたうとうととし始めているらしい。身体全体で老狩人を抱きしめるように布団に包まったままのハンターが丸くなる。老狩人を引き止めて、傍に居させようとしているのが明らかな挙動だった。

 けれど老狩人当人はハンターの意図に気付かなかったらしい。

 やがて、やはりすうすうと二度寝――実際は何度寝か定かではない――をキメこんだハンターを見届けると、老狩人は穏やかに微笑んで、静かに寝台から立ち上がった。

「狩りびとよ、良い夢を」

来た時と同じように、気配や足音を出来るだけ殺して部屋を出て行く。それは単純に、眠っているハンターへの配慮だった。入室した時も、室内の静かさから老狩人はハンターが寝ていると思ったのだ。部屋を出る前にハンターのオトモやルームサービスにも挨拶をして――そうして、老狩人はハンターの元を後にしたのだ。そもそも彼は「ハンターの様子を見てきてくれ」という任務を預かったためにこの部屋に訪れたのだから。様子を見たら、後は、報告をしなければならない。報告するまでが任務だ。狩りに生きている老狩人は、ひとの機微に疎いところがあった。

 数時間後、至福の二度寝から目覚めたハンターは傍に老狩人の姿が無いことに困惑した。そして温かな布団、ひいては自室から出て、司令エリアにいる同期や指南役に聞き込みをして――確かに老狩人は来ていて、自分の様子を見にも来たが、数時間前に拠点へと戻ってしまっていたことを知る。

 つまり、貴重な前線拠点での先達との交流を棒に振ったと思い至ったハンターは、肩を落として自室の布団へ舞い戻っていった。

生まれて眠るの

 

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 空を往く飛竜の翼を壊す。地を駆ける飛竜の翼――前脚を壊す。舞い上がる古龍の翼を壊す。舞い上がらない古龍の翼も壊す。翼を壊せば、その持ち主たちは行動や能力に支障を見せた。言うまでもない。必要な器官なのだ。人には無いけれど、その生き物として必要不可欠な部位。人で言う手や足のような物。であれば――「翼を捥がれる」という言い回しを、人で物理的に再現すると、手や足を奪うことと言って差し支えないだろう。

 クエストを経て得た、あらゆる翼を眺めつつハンターはアイテムボックスの整理をしていた。他にも鱗や甲殻の類を手に取り時々眺めている。どれも思い入れがある――とまでは言わないが、新大陸へ渡って来て今まで過ごしてきた軌跡と言える。それを、汲んでくれているのだろう。同室内で、アイテムボックスの整頓を手伝ってくれている老狩人は、時々ハンターが手を止めても何を言うことも無かった。

 老狩人がハンターの「掃除」を手伝っているのは、ハンターが老狩人を指名したからであった。次の休日、部屋――主にアイテムボックス――の掃除をしたいのだが、少し人手を借りたい、と。総司令に申し出て、まあ、「青い星」の名前を使って我が儘を聞いてもらったのだ。別にそう頻繁に「我が儘」を言っているわけではないから、引け目を感じることも無い。それに、老狩人当人だって嫌な反応はしていなかったのだから、別に良いではないか。個人的に頼んで「調査や任務の先約がある」と断られるのが怖かったとかそんなんではない。

 「国が――恋しく思うか」

ふと、回想に耽っていたハンターに老狩人が声をかけた。それまでよりも少し手を止めていた時間が長かったことと、手にしていたのが、赤い翼膜だったからだった。ハンターが老狩人の方を見ると、その視線はハンターではなく翼膜に注がれていた。老狩人の視線を追い、ハンターも手中の燃えるような翼膜に視線を落とす。

 いえ、とハンターは老狩人の問いかけに否定を返した。少し考え事をしていました、と。

「そうか。しかし――そなたはまだ若い。実力も十二分にある。此度の功績も含め、国へ戻っても、何も不自由はすまい」

郷愁に駆られ、帰りたくなった時は帰ると良い、と老狩人はしかしハンターに言った。穏やかな声音だった。ハンターに帰郷の意思など、今更無いと言うのに。この老練の狩人は、少し人の機微に疎い。だから少し、拗ねた頭が意地悪なことを言わせたのだ。先生こそ、国に帰りたくなったりはしないんですか、等と。

「某は……フフ。この地に生きるのみ」

ハンターの問いに少し目を丸くしたらしい老狩人は、そこではじめてハンターの方を見た。そして、微かに笑って、時折ハンターとの世間話で聞かせてくれる「いつもの」返事をした。

 その意図を、ハンターは汲み切ることはできなかった。ただ、唐突に、手中にある「素材」が、この先達にとっては国を思い出させるものなのだと理解してしまった。

 やはり、過去の思い出には勝てないのだと。

 「俺は……、俺も、帰りませんよ。貴方がここに居るのに」

炎龍の剛翼を取り落として、ハンターは寝台の上に手をつく。少し離れた場所で作業している老狩人の方へ、身を乗り出していた。

「そうか。それは、心強い」

「貴方に俺の背中は見送らせません。俺が生れる前から、何人もの仲間や後輩の背中を見送って来た貴方に――俺は見送らせない。貴方だけをここに残すようなことを、俺はしません」

幼い子供のような言い分だった。帰るも残るも与えられている選択であり、誰かのそれに他者が口を出して良い道理など無いと言うのに。

 聞く者が聞けば叱咤してもおかしくはない幼稚な発言を、しかし老狩人は、やはり穏やかな笑声をもって受け止めた。

「そうか。それは――実、心強きことよ」

彼は新大陸に骨を埋めるつもりで渡航して、それが叶わなかった――そうならなかった好敵手と、その後を知っていた。

 ハンターは老狩人の手足を、言葉通り奪ってでも傍に居たかった。けれど、あるいは老狩人が居なければ、翼を失った竜のようにハンターは身体を動かすことすらままならなくなるのかもしれなかった。そう思わせる空気が、昼下がりの一等マイハウスに滲んでいた。

つばさの脆さ

 

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 同期が女性調査員から解毒草を受け取っているところを、5期団のあのハンターが注視しているのを総司令は目撃した。同期の方は「大分前に採ったものがアイテムボックスの底から出てきたのだが、調合しても大丈夫だろうか」と単に相談を受けていただけなのだが、彼らの姿は傍から見れば花を贈っている――あるいは受け取っている――姿に見えるだろう。案の定、あのハンターの眼にもそう映ったらしく、一切の動作を止めて一点を凝視する様は、ハンターというより年頃の少年のようで、総司令は思わず小さく噴き出してしまった。

 あのハンターは、どうやら同期のことが気になっているらしい。総司令がそのことに気付いたのは、そこそこ前のことだ。

 はじめは、ただの興味か好奇心だったのかもしれない。司令エリアの片隅に待機している同期の元に訪れては、彼には必要の無いだろう助言を仰いでいた。若者によくある、年上の力量と言うか実力を図ろうとしていたのかもしれない。まあ、彼と同期を同じフィールドワークに参加させたことは無かったから、彼が同期の実力を知りたがったとしても無理はないだろう。だが結果として――自覚があるかどうか分からないが――彼は5期団の中でもかなり頻繁に同期と言葉を交わしている調査員となっていた。しかし付かず離れずの接触に変化が訪れたのは、やはりあの時からだろう。

 滅尽龍を追っていた同期が大峡谷で調査団と合流した時のこと。熔山龍の背から振り落とされた同期を、彼が真っ先に助け起こしに行ったのだ。自分もまた振り落とされたと言うのに。居合わせた調査員曰く、血相を変えて。それ以来、同期の元へ訪れる彼の雰囲気が変わったのだ。なんと言うか、より「お近付き」になりたがっているような空気を見え隠れさせていた。おそらくあの直前――乱入した滅尽龍を同期が相手取った時が決定打になったのだろう。ハンターは感性や思考が「武人」のそれに近い者も多い。性別や種族など関係なく、武具の扱いや立ち回りを見てそいつに「惚れる」ことなど、よく聞く話だった。

 やがて各地に現れた古龍の調査で、ある古龍に対する任務の際、彼と同期を共にフィールドへ向かわせた。双方共に信頼に足る実力をこれまでの経験から培ってきているし、何より同期はあの古龍と対峙した経験が複数回ある。上手くやってくれるだろう、と。だが上がって来た報告は意外なものだった。彼が「自分に任せろ」と単独で対峙したと。提出された報告書――彼の活躍だけでなく同期の動向や助言の様子なども事細かに記されている――に眼を通しながら、司令エリアの片隅で同期に労われ、ご満悦な空気を醸す彼に少々呆れを抱いたのは仕方のないことと言えよう。おそらく彼は、同期の労いを「同期からの褒め(賞賛)」と受け取っていた。まあ、同期の言い方もそれに似たようなものだったから仕方ないというか、どう受け取っても良いのだろうが。

 そんなこともあって、総司令はハンターの、旧友に対する大きな感情を認識、把握したのだ。

 そしてハンターの、先達に対する、憧憬や崇拝とせめぎ合う慕情は今もなおすくすくと育ち続けているようだった。

 調査の拠点を寒冷地に設けられた前線拠点に移しても、それなりの頻度で調査拠点へ顔を出すし、先達に「あちら(前線拠点)の様子を見には来ないんですか」等と誘いをかけている。ついでにクラッチクローの存在を教えたのもこのハンターだろう。どうやら新大陸の寒冷化について探った一連の調査の際、本当に「仕事」だけしに来てすぐに帰って行ったことを惜しく思っているらしい。他の先輩の中には温泉を楽しんでいったひとも居ると言うのに。防衛戦で負傷した時でさえ、湯治をしたとも聞かなかった。宴の時は、まあ、酒が入っている状態で温泉に入るのは危ないことだから仕方なかったけれど。

 等と、傍から見ればわかりやすいアピールをハンターは先達に対して繰り返していた。暇さえあれば、彼の弟子――調査班のリーダーをしている総司令の孫――を差し置いて「新しい物」のことを教えているのも良い例だろう。

 ではその「先達」の方はどうなのかと、総司令は同期を見遣った。今は偶々調査の予定について話していたから近くにいる。渡された資料に俯いていたレイアヘルムが、気配の変化にフッと総司令の方を向いた。こてり、と小首が傾げられ、促される。

「いや――なに。彼は良いハンターだと思ってね」

大きな机の反対側で、編纂者と共に資料を見ているハンターを小さく顎で指す。旧友は合点が言ったように、うむと確かに頷いた。

「うむ。某のように知らぬ者にも蒙を啓いてくれる――すばらしき狩りびとだ」

狩りのこと、新装備について話しているハンターの姿を思い出しているのだろう。嬉しさと楽しさを滲ませた答えを返してくれたが――あのハンターは、どちらかと言えばそういう人付き合いは得意ではないタイプのようだぞ、と同期がいない時のハンターも見ている総司令は思った。

知ったかぶり

ゆびうつし

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