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タイトル:約30の嘘さまから

何も始まらないし動かないMHW×Bb話。CP要素はガロギエ少々、鴉烏と盟デュラの予定(限りなく未回収に近い)
相変わらずハンター≠防具だし名無し姿無しモブが出たりする。捏造もいっぱい。​

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 潮のにおいがする。海風が肌を撫でていく。
 ああ、自分は死ぬのだ、とやつしの狩人は思った。この悪夢で死に、この悪夢の一部になるのだ。迷い込んだ狩人を蝕む、悪夢の一部になる。なんて皮肉だろう。かつての狩人たちの罪を知らない狩人たちも、狩人である限り呪われ続ける。ああ、なんて酷い話だろう。
 「……お願いだ、悪夢を、終わらせてくれ……たとえ罪人の末裔でも……憐れじゃあないか。俺たち、狩人たちが……」
 自分を覗き込んでいる狩人に、やつしの狩人は言う。もう自分でできることは無いけれど、せめてまだ狩人と言える者に意志を託したかった。獣から人を守る狩人に、僅かにでも安息が許されるように。
 「……あんまりにも、憐れじゃあないか……」
 身体が悲鳴を上げる。喉か、あるいは胸から嗚咽のような呼吸が押し出される。四肢から力が抜けていき、意識が遠のいていく。ザザ、と遠くで波の音が聞こえた気がした。
 潮のにおいがする。海風が肌を撫でていく。
 ああ、自分は死んだのだ、とやつしの狩人は思った。そうでなければ、あの陰鬱な漁村で倒れた自分が、温かな空気に触れているはずがない。陰鬱な漁村の小屋で倒れた自分が、腰から下に波を感じているはずがない。細かな砂も、近くで砂に何かを叩き付けるような音も、誰かの話声や足音も、すべて夢幻だ。身体を引っ張り上げられ、誰かの背中に乗せられる。妙な夢だ、と思う。薄っすらと目蓋を開けてみると、赤っぽい背中が視界に映る。けれど心地いい揺れに、やつしの狩人はそれ以上目蓋を開けていられなかった。
 チチチ、と姿の見えない鳥の鳴き声がする。ざわざわと風が樹々の枝葉を揺らしていく。鉄臭くない土のにおいは何時ぶりだろう。
 夢を見ていた気がする。不思議な夢だ。悪夢と言えど夢の中で夢を見るとは。それが悪夢でなかったのは幸いだろうか。
 それともこれが死後の世界――とやつしの狩人は思う。思って、そこで身体の自由が利くことに気付いた。
 「ああ、気が付いたんですね」
 まだクラつくような頭を手で押さえるようにしながら上体を起こすと、声がかけられる。顔をそちらへ向けると、何と言うか――見た事のない人、らしき人型、が自分の方を見ていた。
 そいつは、石造りだと思われる簡素なテーブルに置かれていた、木製のジョッキを手にやつしの狩人に近付く。
 「貴方、海岸……エリア4の波打ち際に倒れていたんですよ。倒れていたというか、打ち揚げられていたというか」
 嘴と飾り羽のようなものを持つ頭部は鳥にも見える。ゆらゆらと胴の後ろに見え隠れする外套のような部分が羽のようで、その感想に拍車をかける。けれど全体的に身体を覆う銀板と青い膜――あるいは、皮や鱗のような――は、羽毛のやわらかさとは程遠いだろう。
 油断なく、しかしそれを相手に悟らせないように対象を注視しているやつしの狩人に、近付いて来たそいつは手にしていたジョッキを差し出す。チラと覗き込んだその中には、緑色の液体が湯気を立てていた。
 得体の知れない緑色の液体を口にすることは躊躇われた。仮令それがさも当然のように渡されたものであっても、だ。
 だから、やつしの狩人はジョッキを受け取ったまま、先に口を開くことにした。一先ず、目の前の存在が何者なのか、手掛かりだけでも何かしらの情報が欲しかった。
 かつて街に溢れていた市民とは明らかに違う、馴染みのある感覚。背負われている武骨な得物。それらから、やつしの狩人は目の前の存在が、自分と同じ人種なのではないかと推測する。問題は、相手が正気であるかどうかだ。
 「……あんた、まともな狩人かね?」
 やつしの狩人がそう訊くと、相手は一瞬キョトンとしたようだった。
 そうして、一拍ほど置いて、相手の肩が揺れた。
 「まとも――まとも、ですか。フフ……調査団は奇人変人ばかりですから。良い意味でまともではないでしょうね」
 「ギエナ、」
 まともではない、と言う相手の言葉にやつしの狩人は身体を強張らせる。良い意味で、とはどういうことだ。加えて、また知らない声が聞こえて鼓動が早まる。
 声の方を振り返ると、毛皮を剥がれたような赤い獣面が樹々の間から顔を覗かせていた。どうやらここはそれなりの高所にあるらしい。
 赤い獣面がやつしの狩人を見る。そのまま近付いて来る獣面に、病み上がりとも言えるやつしの狩人は思わず後退ろうとする。そこで初めて自分が柔らかな毛皮の上に居ることに気付いた。しかしその手触りを楽しんでいられるような状況には思えなかった。手中にあったジョッキが地面に落ちて、土や毛皮に染みを作る。
 「……これ、あんたのだろう?」
 やつしの狩人を覗き込むように赤い獣面がその眼前で膝を折る。そうして、スイと差し出された曲剣に、やつしの狩人は目を見開いた。
 「それ……っ!」
 半ば引っ手繰るように差し出された得物を受け取ると、赤い獣面はゆっくりと頷いて立ち上がった。そして青と銀の鳥からジョッキを受け取って、ごく自然に傾ける姿を見る。
 「それが貴方の武器ですか。片手剣……だとしたら盾も探さないといけませんね」
 「近くに盾のようなものは見当たらなかった。片手剣だとしても……細身じゃないか? ハンターの武器じゃないのかもしれない」
 赤い獣面と入れ替わるように再度近付いて来た青銀の鳥がまじまじとやつしの狩人の得物を眺める。その背後で、ジョッキを片手に赤い獣面が答える。自分が倒れていたという海岸で、荷物を探して――くれて?――いたらしい。
 しかしそんなことよりも、やつしの狩人に引っかかった言葉があった。
 「……こいつの本領はこっちさ」
 カシャン、と音をさせて曲剣を展開させる。やつしの狩人の手中に、優美な曲線を持った弓が現れる。
 二人は、仕掛け武器を始めて見るらしい。いつの間にか並んでいて、互いの方に首を傾け合っていた。
 「……剣から弓に変形する武器か。驚いたな」
 赤い獣面が、感心したように言う。けれど、続く言葉は、やつしの狩人が予想していたものとは違った。
 「しかしやはり細いな。これで今まで狩猟していたと言うなら、相当な腕前だ」
 褒められた――のだろうか。今までに出会い、この得物を見た狩人たちは多くが嘲笑を浮かべた。しかし目の前の獣面は、得物を馬鹿にすることもなく、やつしの狩人の腕前を認めるような発言をした。赤い獣面だけではない。青銀の鳥もうんうんと頷いている。滅多にされない反応に、やつしの狩人は面食らう。対して、二人は二人で話を進めていく。
 「とにかく――フィールドに置いていくことはできませんし、拠点に案内しましょう。詳しいことも、総司令たちを踏まえて聞くなり調べるなりした方がいいでしょう」
 立てますか、と訊かれて反射的に頷く。赤い獣面が現れた場所には蔦が這っていて、それを伝って薄暗い細道に降りる。そして、こちらです、と当然のように手を引かれ歩き始める。その、確かな感触に、柄にもなく目頭が熱くなった。


眸まで汗ばんでいた

 

+++

 烏羽の狩人は目を覚ます。地獄のような場所だった。骨と肉が重なり合い、見るからに有害な黄色い霧が立ち込めている。
 これが狩人狩りに相応しい罰だとでも言うのだろうか。知らず、得物を握る手に力が籠る。周囲に転がる骨の大きさからして、出てくるのは聖職者の獣ほどの体躯を持つ獣ども――だろうか。狩人狩りが死んでから獣狩りなんて、と烏羽の狩人は自嘲する。目を凝らし、耳を澄まして周囲を警戒する。そして、サクリ、と足音がした。
 烏の羽を模した装束を翻して烏羽の狩人は足音の主へ得物を突き付ける。これで先手を――と思った。
 「っとぉ! なんだい、危ないね!あたしはモンスターじゃないよ!」
 けれど、足音の主は烏羽の狩人の一撃を避けたのだ。更に、聞こえてきた人語に、烏羽の狩人は嘴の仮面の下で目を丸くした。こんな場所で、会話ができる存在と鉢会えるなど予想できただろうか。
 「……なんだい、あんた……狩人、かい……?」
 そこにはゴーグルとマスクで顔を覆った――声と一人称からおそらく――妙齢の女性がいた。
 「狩人……まぁ、そうだね。あたしもハンターの端くれさ。あんたもハンターなのかい?」
 「……そうさね。そう、言って良いだろうさ」
 警戒を残しつつ相手の出方を窺う。そんな烏羽の狩人の警戒に気付いているのかいないのか、相手はからからと笑ってそうかい、なんて言うのだ。まるで相手を、まずは受け入れることが当然と言うように。
 「とりあえずキャンプに行こうじゃない。ここじゃ落ち着いて話ができないだろう?」
 言うだけ言って、着いて来いと言わんばかりに歩き出した相手の背中を追う。狩人狩りに、意図的に無防備な背中を晒すなどヤーナムの狩人たちならばまずしないだろう。
 まあ、良い。怪しい動きを見せたら、その時点で再度先手を打てば良いのだから――。
 と、烏羽の狩人は思っていたが、結局先導は言った通りにキャンプとやらに烏羽の狩人を案内した。壁面に這った蔦を掴んで岩壁を登るなんて運動をさせられて、キャンプへ辿り着くときには烏羽の狩人の息は上がっていた。
 「大丈夫かい? ほら、飲むと良いよ」
 こちらは慣れているらしく、変わらない呼吸のままの先導役が、水筒のようなものを差し出してきた。そこから嗅ぎ慣れないにおい――薬草のような――を感じて、烏羽の狩人は手のひらを見せて、断りの意思を示す。
 「……はあ……それで、あんたはここが何なのか知ってるのかい?」
 この安全地帯に迷うことなく案内したり、何か知っている口振りだが――と烏羽の狩人は訊く。けれど、そんな烏羽の狩人に対して、相手はむしろ驚いたようだった。マスクとゴーグルの下から現れた、人懐こそうな顔がキョトンとする。
 「何って、ここは瘴気の谷さ。あんたも調査員なら知ってるだろう?」
 「…………いや、あたしは狩人であって、その調査員とやらじゃあないよ?」
 「え? それじゃあ、どうしてあんたは新大陸に居るんだい?」
 「新大陸? ここはヤーナムでも、狩人の悪夢でもないってことかい?」
 「ヤーナム?聞いたことのない名前だね。悪夢って言うのは、まあ強ち間違いでもない気がするけどね!」
  アッハッハ、と快活に笑う相手に毒気を抜かれる。が、事態は思っていたよりも深刻らしい。どうやらここはヤーナムから遥か遠く、新大陸と言う場所らしい。陰気で陰鬱、排他的ではあるが、医療の街としてそれなりに名を馳せるヤーナムの名が届いていない程である。
 何故そんな場所に自分が、と烏羽の狩人は内心頭を抱える。そもそも、自分は死んだのではなかったか。
 「おばさま? おばさまじゃないですか! フィールドでお会いできるなんて!お元気でしたか?」
 烏羽の狩人が、嘴の仮面の下で顔を顰めていると、不意に快活な声が聞こえた。
 声のした方を見ると、まだ年若い少女が、自分たちも上って来た蔦壁を登って来ていた。そして、それまで話していた狩人――調査員とやら、らしい――に駆け寄って来たのだ。
 けれど、駆け寄ろうとした少女は、周囲の岩肌に溶け込むような色合いの装束を纏った烏羽の狩人に気付いたらしい。勢いよく踏み出そうとしていた足を止めて、ゆっくりと歩み寄って来る。
 「あの、おばさま、こちらの方は……?」
 警戒しつつも、好奇心が隠し切れていない少女に苦笑する。同時に、そういえば自己紹介をまだしていなかったな、と。
 「自己紹介がまだだったね。あたしはアイリーン。血に酔った狩人を始末する……狩人狩りさ」
 「私は5期団で編纂者をしています、よろしくお願いします」
 「あたしは1期団。この谷をずっと調査しているんだ。みんなはフィールドマスターなんて呼んでくれているよ」
 編纂者もフィールドマスターも、名前と思しき単語も言ってくれた気がしたが、烏羽の狩人には聞き取れなかった。
 「……あたしが狩人狩りと聞いて、警戒しないのかい?」
 それよりも、狩人狩りと聞いて二人があまり驚いた様子を見せなかったことに烏羽の狩人は驚いた。
 烏羽の狩人の言葉に、編纂者が不思議そうな顔をする。
 「狩人狩り……ハンターを狩るハンター……つまりギルドナイトなんですよね?」
 「ギルドナイト……?」
 どうやらここにも狩人狩りのような人間がいるらしい。ギルドナイト、という語に聞き覚えはないが。
 二人して疑問符を浮かべ合う烏羽の狩人と編纂者に、フィールドマスターがようやく事態の噛み合わなさに引っかかりを覚え始める。思えば、この狩人狩りだと名乗るハンターと初接触した時から話が微妙にズレていたし、武具は見た事のないものだった。調査拠点で新しく開発された武具なら、一部位くらい他のハンターが装備していても良いはずだ。
 「やっぱり、一度調査拠点に行った方が良いのかも知れないねぇ……」
 フィールドマスターがそんなことを独り言ちると、また誰かが蔦壁を登って来る音がした。
 「……あんたたち、探索が終わったら彼女を調査拠点に連れて行ってやってくれないかい?」
 蔦壁を登って来た誰か――青い星が事態を把握するより早く、青い星を振り返ったフィールドマスターが言う。
 「事の経緯はまとめてお嬢ちゃんに渡しておくよ。あたしは谷を調べて行きたい。まだ確信も根拠もない予想でしかないけど……もしかしたら厄介なことが起きてるかも知れないからね。頼んだよ」
 言いながらもノートに何やら書き込んでいたフィールドマスターが、そのノートを編纂者に渡す。そうして、キャンプを出て行く際、擦れ違いざまに青い星の肩を叩いて行った。
 引き留める隙を与えず谷に消えていったフィールドマスターの背を、残された三人は視線で追うことしかできなかった。
 「ああ、えぇと、相棒。こちら、おばさまが谷で保護した狩人狩りさんです。狩人狩りさん、こちらは私の相棒です」
 数秒の後、気を取り直した編纂者が烏羽の狩人と青い星を互いに紹介する。よろしく、と烏羽の狩人が差し出した手を、青い星は小さく頭を下げながら握り返す。そこでふと、烏羽の狩人は相手から懐かしい気配――匂いのような――を感じた。相手もまた烏羽の狩人に何かを感じたのだろうか。数秒烏羽の狩人の顔をまじまじと見たかと思えば――徐に頭をすっぽりと覆う装備に手をかけた。そして、装備の下から現れたのは――。
 「ああ!相棒、ギルオス装備を着けてたんですね! 確かに、狩人狩りさんと少し似ていますね!」
 青い星、と呼ばれる狩人から感じたモノは気のせいだったのかもしれない、と烏羽の狩人は思った。


何千の問いに 何万も返して

(オトモ鴉と化した千景くんに肩や頭を占拠される烏羽さんとかも考えた)(考えてる)

+++

 落ちていく――。胴に開けられた幾つかの穴から、赤い雫が宙に舞う。遠ざかって行く空を眺めながら、あぁ、落ちている、と灰狼の元狩人は存外冷静に考えていた。
 だから、当然自分は死ぬものだと思っていたのだ。時計塔の上から落ちて助かる人間など居ようものか。
 「――っあだぁ!!」
 などと思っていたのに、最期に聞こえたのは、何故か身体の下から聞こえてきた人間の悲鳴だった。
 最期。否。最期ではない。灰狼の元狩人はまだ生きていた。硬い地面に叩きつけられたと思ったが、どうやら下に誰かが居たらしい。烏羽の狩装束でもここまで柔らかくはないだろうという感触が手袋越しにある。
 「痛い! 重――思ったより重くはないけど!なんか硬いの食い込んでて痛い!! ボクの上に乗ってるのは誰さ!?」
 「あっ……ああ、君、すまない。大丈夫か」
 キャンキャンと身体の下から聞こえてくる声にハッとする。慌てて飛び退けば、ふー、と一息吐いたような溜め息と共に、下敷きにしてしまっていた人物が立ち上がる。食い込んでいた硬いものは、おそらく、間違いなく右手武器だろう。
 パッパッと埃払いのような動作をしている相手を、灰狼の元狩人はまじまじと眺めることになった。何故ならその相手は、見た事のない格好をしていた。全体的に、白くてもふもふしているのだ。それはたぶん、軍服等と呼ばれる衣服に近かった。
 「はー……びっくりした。で、アナタは?大丈夫?ケガとかしてない?平気? って言うかアナタどっから来たの?降って来なかった?翼竜から振り落とされた? でもこのクエはもう4人揃ってるし……何よりアナタ、見た事ない装備だね?」
 まるで少年のような言動に思わず面食らう。顔は帽子で隠れがちになっていてよく見えないが――声や所作からまだ年若いのではないだろうかと灰狼の元狩人は予想する。向けられる子供の様な視線。見も知らない人間にじろじろと眺め回されているというのに、不思議と不快感は感じなかった。
 「でも、アナタも災難だったね。どうせ落ちるならボクじゃなくてマムガイラの方が良いクッションになっただろうに」
 「おーい、きんきゅーじたいだよー! 一旦拠点に戻るってー!」
 そういえば周囲の風景に見覚えが無いな、と灰狼の元狩人は思い、ここは何処なのかと相手に訊こうとした時だった。言葉の割に緊張感の無い声が聞こえてきた。
 声のした方に、2人の視線が向く。緩やかな白い丘の向こう側から、幾つかの人影が近付いてきていた。そのうち一人は、2人に手を振っているようだった。
 人影が近付いて来る。人数は3人で、その中の1人は誰かを背負っているようだった。纏っているものは、やはり灰狼の元狩人には馴染みのないものだった。1人――2人に手を振っていた人影――は、体つきからして女性であるらしい。灰狼の元狩人の隣に立っているものと、似たような装束を纏っている。1人は見るも絢爛な金色の甲冑を纏っている。肩や背中を隠す豪奢な毛皮――おそらく――に、あれが件のマムガイラなのだろう。そして、もう1人。シルエットは、ヤーナムの狩人たちのものと似ていなくもない。けれど近付くにつれてそれが三角帽やコートが作る影ではないと知る。ふわふわとした毛皮をあしらった、薄青の装束。
 「緊急事態って? 誰かが大ケガしたようには見えないけど」
 小走りに駆け寄って来た彼女に彼が声をかける。目の前に並ぶと、ますます似ているというか、兄妹のようである。
 「ケガはしてないけど、緊急事態だよ! ホラ、この人。見た事ない人! って、アレ?その人誰?」
 「っ!」
 そこで彼女は灰狼の元狩人に気付いたようだった。けれど、灰狼の元狩人も彼女が示した人物に息を呑んでいた。
 「……っ、彼は、何故、」
 薄青の装束を纏ったものが背負った、黒いフードと外套の男。それは灰狼の元狩人の盟友その人だった。
 「君、彼の知り合いか? 突然どこからか降って来てな。見た事もない装備だし、何より気を失ったまま気付かないから、一旦拠点に戻ることにしたんだ」
 マムガイラが簡単に経緯を教えてくれる。
 「降って来たって、マムガイラに?」
 「そうだな。角に刺さらなくて良かった」
 呑気なことを訊く白装束に、薄青の装束が答える。
 「……というわけだから、そこの君も一緒に来てくれないか。君……君たちにとっても悪い提案ではないと思うが」
 灰狼の元狩人に差し出される手の平は、さながら悪魔の誘いにも見えた。けれどその隣で、悪い人っぽいなぁ、と笑う白装束2人の様子にそれがマムガイラの素であると知れる。
 チラと周囲に視線を走らせる。今まででも、見えてはいた。やはり知らない風景だ。薄青い平皿が重なりあったような壁。白い砂に多くを覆われた地面。血と鉄と、肉の焼けるにおいは無く――むしろ甘さを感じさせるにおいが漂う宙。目の前の人物たちが纏う装束も踏まえて、知らない、まったく知らない場所である。この場に留まったところで、何が分かるわけでもどうにかなるわけでもないだろう。
 「そうだな。では、お言葉に甘えさせてもらおう。どうやらここは……旧市街でも、上の街でもないようだしな」
 灰狼の元狩人は差し出された手を取る。旧市街、上の街、という単語にマムガイラは首を傾げたけれど、深く追究するつもりはないようだった。速やかに拠点に帰還することを最優先事項にしているようだった。
 そうして、現地調査を切り上げた6人は、一先ずベースキャンプを目指していた。
 「にしても降ってくるなんて青い星みたいだねー。次の星はお兄さんたちかな?」
 「……よく落ちて、よく寝る、調査団のハンターだ。たぶん、見ればすぐわかる」
 白装束が零した、青い星、という語に疑問符を浮かべた灰狼の元狩人に、そちらは見ずに薄青の装束が言い添える。
 話によると、青い星という語はある御伽噺に擬えた呼び名らしい。が、由来に対して薄青の装束が言い添えた説明は随分なものに思える。同業者に遠慮はいらないと言うことだろうか。
 「そう言えばあんたのソレ、スリンガーじゃないんだな」
 不意に薄青の装束が灰狼の元狩人の右手を指す。スリンガーと言うのは、左手に付けられた小さな弩のことらしい。道中、それを使ってマムガイラが赤と灰色の奇妙な獣を追い払っていた。これも道中に生えていた、光るコケのようなものを装填、発射していたのだ。獣を狩らずに帰路を往くマムガイラたちに目が丸くなった。思わず、狩らないのか、と訊けば、狩猟対象じゃないし今は拠点に帰るのが第一だから、と答えられた。
 「これはパイルハンマーだよ。そうだな……銃槍と同じ工房の武器と言えば貴公らにも覚えがあるのではないか?」
 「銃槍……銃と槍? ガンランスのことか? あぁでも、この杭……射出されるんだろ?確かにガンランスと似て……うん?でもガンランスって普通に工房が作った武器だろ? ガンランスに限らず、武器はみんな工房が作ってるだろ?」
 まじまじとパイルハンマーを見詰める薄青の装束の口から、ポロポロと違和感が零れ落ちていく。だから、良い加減、一番訊きたかったことを訊こうと口を開いたのだ。
 「……ところで貴公ら、狩人……だよな?」
 「……ところでお兄さんハンターだよね?」
 奇しくも、同じ疑問が元狩人とハンターの双方から飛び出した。


爪先も少しも気を抜けない

(主人公が旧市街に侵入した後に教会の狩人に物量(人数)で負けた感じ)

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 黄装束の古狩人は森に立っていた。自分はオドンの地下墓で、狩人狩りと新人――と思われる――狩人に狩られたはずだ。それが最後の、朧げな記憶。両手の平、両手の甲を見て、装備に触れて、しかし夢を見ているわけではないと確認する。
 呼吸をする。湿った土と、ひんやりとした空気。古狩人が知る森の空気は、血肉が燃える臭いを漂わせる淀んだ空気だ。実際周囲を見回しても何かが燃えている様子は無い。見た事のない大きなキノコや植物、聞いた事のない何かの囁き声が広がっている。頭上には星空。獣を含めた、諸々の死体を焼く煙が立ち上るヤーナムでは滅多に見ることの無かった空。幸いにも、不思議と気分は落ち着いている。何故か、この見知らぬ場所で悪いことが起きる気はしなかった。
 最低限の警戒は忘れずに、古狩人は森を抜けるために歩き出す。
 存外すんなりと森は抜けられた。水音のする方へ行くと、乾いた岩土と小川が接し合う場に出たのだ。小川の、流れの緩やかな場所を覗くと、そこにはやはり見た事のない魚が泳いでいた。
 そこから更に道なりに進むと、ヤギのような生き物が歩いている、拓けた場所に出た。周囲に咲く真っ赤な花は古狩人の背丈にも迫る大きさである。赤い花だけではない。少し膝を折れば身が隠せそうな草むらや、地面を這う虫、視界に入るほとんどのものが見知ったものよりも大きい。なんだここは、とさすがの古狩人も首を傾げざるを得ない。せめて誰か、話ができる人間でも居れば――と思ったのは当然と言えよう。
 古狩人はぐるりと今一度周囲を見回す。すると、遠くない場所でパチリと火が爆ぜるような音が聞こえた。
 枯れた蔦、あるいは木の根が垂れ下がる段差を上る。岩に囲まれているらしい。水の流れる音と、覗き見える樹々の枝葉に、先程通った小川に隣接している場所だと知る。そして、そこには、明らかに人工物だと思われるテントや箱、食事場のようなものが設けられていた。食事場の竈――あるいは、窯――に灯る火に、ここには確かに人が居る、と確信を持つ。
 「あら……? 貴方、誰? 今回の調査はうちのパートナーと指南役の2人だったはずだけど……」
 古狩人の確信を肯定するように、テントの後ろから人影が現れた。
 声の主は、勝ち気そうな少女――少なくとも、古狩人には少女と言える若さ――に見えた。ともすればキツそうに見られるだろう双眸を古狩人に向けている。腕に抱えた小枝の束は、火を保つためのものだろう。
 「私は……狩人をしている者だ」
 「……ハンター? でも、あたし、貴方の装備を今まで見た事がないわ。何期団なのか訊いてもいいかしら」
 「期団?」
 ヤーナムでは少なからず名が知られていると思っていた古狩人は少女の言葉に内心驚いた。何より、装束を見た事がない、と。確かに黄みがかかった自身の狩装束は特徴的ではあるが、しかし他の装束と基本はあまり変わらないはずだ。
 古狩人の思考に、ある可能性が浮かび上がる。それはあまりに荒唐無稽で、あり得るはずの無い可能性だったけれど。
 「っと……あれ?その人だれ?」
 古狩人と少女が見つめ合っていると、古狩人の背後で土を踏む音がして、若者の声が聞こえた。振り返ると、銀と緑の甲冑を纏った青年が目を丸くして立っていた。
 「ハンターらしいのだけど、分からないのよ。悪い人ではなさそうなんだけど」
 「そうなの? まあ、いいや。アンタ、突然で悪いんスけど、ちょっと手を貸して貰えないッスか」
 少女と青年の会話に、今度は古狩人の目が丸くなる。この2人は、今なんと言ったのか。会って間もない、二言程度しか言葉を交わしていない人間を、悪人ではないと言った。そして、手を貸して欲しいと言ってきた。旧市街に消えた顔なじみを思い出す。いや、アレ以上の――お人好しかもしれない、と古狩人は思った。
 「手を貸して欲しいって、何かあったの?」
 「いやぁ、それが。荒地で倒れてる女の人と女の子を見つけて、保護しようと思ったんだけど斧を持ったハンター?に襲われて……たぶん誤解してるんだろうけど、話を聞いてもらえなくて。なんとか指南役が説得を続けてくれてるけど、近くに角竜の痕跡があったから早く誤解を解いて安全な場所で話を聞きたいんだ」
 懐かしい風景に思いを馳せる古狩人を余所に、2人の会話は進んでいた。その中に、聞き捨てならない語を拾って、古狩人の心はすぐに決まる。
 「分かった。手を貸そう。案内してくれ」
 訊きたいことは山のようにあるが、それは事態が落ち着いてからゆっくりと、と古狩人は言う。真剣な眼の古狩人に、青年は無邪気に礼を言った。少女は切り替え早く、なら近場のキャンプに行っているわ、と頷いた。
 そうして、古狩人は青年に先導されて、乾いた大地に踏み出していく。
 「待ってくれ!俺はお前と戦うつもりはないし、その人たちを殺すつもりもない!」
 「どこもかしこも獣ばかりだ……貴様もどうせ、そうなる……」
 「ならないよ!どこにでもモンスターがいるのは当たり前だし、人間がモンスターになるなんてありえない!」
 果たして古狩人が予想した通り、青年の話に出てきた斧を持ったハンターとは、相棒を組んでいた神父であった。彼の猛攻を避け、時には背の大剣で防いでいる青年が件の指南役だろう。そして神父が背に庇う、岩肌にぐったりと凭れ掛かった金髪の女性と白いリボンの女児は、あぁ、見間違えるはずもない――。
 「……女性と女の子は、生きているのか?」
 「息はあったッス。たぶん、気絶してるんだと思う。それもあって早く安全な場所に連れて行きたいんだ」
 青年の言葉に古狩人は泣きたくなった。気絶している――つまり、生きているのだ。相棒の家族が、相棒含め、生きている。ここがどこでも良い。守りたかった人々が生きている、それだけで古狩人は良かった。
 この青年たちが何者にせよ、自分を彼らと引き合わせてくれた。会って間もない自分に協力を仰いできた。何かを隠している様子もない。ヤーナムの民とは違う人々なのだと、それだけで思うことができる。ならば一時とて無下にする理由はない。古狩人ヘンリックは寡黙な男であるが、ヤーナムの人間にしては、他者に対する感覚が外界の人間のそれと近かった。
 音もなく、古狩人の手に小振りのナイフが現れる。
 そうして、それを、ジリジリと相手の動きを窺い合う神父と指南役の間に投げつけた。どちらかと言えば、その軌道は神父の眼前を通り過ぎていく距離感覚だった。
 「――!?」
 突然の飛来物に驚いて両者の動きが停まる。視線が、古狩人と青年の方に向けられた。
 「……ヘンリック……!?」
 斧を構えていた男が古狩人を見て思わず斧を下ろす。包帯の下でその両目は真ん丸になっていることだろう。
 「そうだ。私だ」
 「な……どうして、なんでアンタがここに……そもそもここは何なんだ……?」
 「それは私も分からん。だから、それを知るためにまずは彼らの話を聴く」
 男は殺気を漲らせていた状態から一転、叱られるのを怖がる子供のように大きな身体を縮こまらせる。
 親子にも見える2人の姿に、指南役は古狩人と共に戻って来た青年に近付いて首を傾げた。
 「……なあ、あの人、誰だ?」
 「さあ?ハンターらしいけど、よく分んないッス。でもこうしてあの人を止めてくれたから、きっと良い人ッスよ」


月を背負って走る獣も 天使も

+++

 総司令は今日も会議の開始を告げる。司令エリアの大きなテーブルを囲む面々は、いつもの顔ぶれ。そこに、見慣れない――どころか、初めて見る背格好が、幾つか。言わずもがな、今日の議題の主役たちである。
 「つまり、各地で調査員たちが彼らを保護してきたと」
 「はい。古代樹の森でやつしの方。大蟻塚の荒地で神父さんと彼の家族と相棒さん。陸珊瑚の台地で元狩人さんと盟友さん。瘴気の谷で狩人狩りさん。各地へ調査に赴いていた調査員たちが突然接触、見慣れない装備だったので保護してきたとのことです。彼らもまたハンターであるらしいのですが、我々が用いる武具や道具の類は持っていないそうです」
 各調査員から情報と報告を託された編纂者が総司令に告げる。改めて、突拍子もない現状を確認した総司令は目蓋を閉じて、眉間に少し皺を寄せた。
 「そして、彼らは、曰く、ヤーナムと言う街の人間……ハンターである、と」
 「そうだね。医療の街、古都ヤーナム。医療教会。獣狩り。そういう言葉に聞き覚えは……無いようだね」
 唸るような総司令の言葉に、烏羽の狩人が苦笑する。
 「こちらとしても、貴公らの装束や変形武器は見た事も聞いた事も無い物ばかりだな。そもそも――私たちはヤーナムでの最後の記憶が、死ぬ直前のものなのだ」
 烏羽の狩人の後を、灰狼の元狩人が引き継ぐ。
 聞いたところによると、やつしの狩人は漁村なる場所で刺客に襲われ、烏羽の狩人は大聖堂なる場所で血に酔ったと言う狩人に敗れ、灰狼の元狩人は旧市街なる場所で医療教会とやらの狩人に敗れ、神父はオドンの地下墓なる場所で妻を失うと共に自身も正気を失いある狩人に狩られ、黄装束の古狩人もまた正気を失った狩人として狩人狩りとある狩人に狩られ――各々が死亡、あるいはその直前にあったのだと言う。
 けれど、彼らは死んでいない。生きている。事実、彼らの話を聞いた調査員たちが、当人たちの制止を振り切って怪我の治療をしようとしたところ、出血している傷は見当たらなかったのだ。
 「……現状で言い切るのは尚早かとは思いますが、総司令。彼らは――異世界のハンターと考えるのが自然かと」
 総司令も薄々は思っていたことを編纂者が言葉にした。編纂者の隣でこくこくと頷いているアイルーフェイクの顔がにんまりと状況を楽しんでいるように見えて、少し殴りたくなった。
 「……そうだな。そう考えて良いだろう。では、調査団がすべきことは自ずと決まって来るな。調査団は彼ら――ヤーナムのハンター諸君が元の世界に帰ることが出来るよう、調査と協力を行うこととする!」
 「ほう? あんた、異世界の存在をすんなりと信じるんだな」
 総司令の決定に、それまで会議場の片隅で聞き役に徹していたやつしの狩人が面白そうに声を上げる。
 「ああ……こういう事態には、少し覚えがあってね」
 嘲笑ではない、けれど挑発にも似たやつしの狩人に総司令はどこか皮肉気に口角をあげた。困ったように笑う編纂者。やはりこくこくと頷く猫頭。他にも、総じて動じていない周囲の様子に総司令の言葉が嘘でないと確信する。やつしの狩人含め、困惑する狩人たちに総司令は肩を竦めた。
 「……この新大陸はまだまだ未知のことが多くてな。分からないなりに受け入れて事に当たっていくしかないのだ」
 未知の土地だから何が起きてもおかしくはない、と言うことらしい。なんとも大らかと言うか、緩やかな人々だろう、と狩人たちは思った。唯一、狩人の悪夢などと言う御伽話のような空間に迷い込んでいたやつしの狩人は、まだ受け入れられているようだったが。
 そうして、大体の方針を確認して会議は解散する。
 神父は寝台に眠る家族の安らかな寝顔を見詰めていた。ゆっくりと上下する胸に、無性に泣きたくなる。
 特等マイハウス、と言う部屋らしい。調査拠点にやって来た神父と女性が夫婦で、少女がその娘だと聞いた調査員たちがわざわざ手配してくれたのだ。持ち主と言える狩人がいるらしいが、あまりこの部屋には帰らないから問題無いと――本人からも言われれば断る理由が無くなる。
 忙しなく床を走り回る、植物に似た生き物を手伝いの調査員たちがなんとか捕まえ、軽い清掃と整頓をした室内の、大きな寝台に2人を寝かせたのが、少し前のことだった。会議には自分が出ておくから、と部屋を出て行った相棒の古狩人は、やはり静かに会議を聞いているのだろうか。
 ところで、神父には自身の身で気になっていることがあった。光が眼を刺さないのだ。拠点のあちらこちらで焚かれた篝火の灯りに、眼が痛まない。包帯で眼を覆う前、暖炉や焚き火の火を眺めた頃のように、普通に火の傍に居られる。何より、鉄のにおいが強く鼻をつかないし、いやに気が昂ることもない。これはもしや、と思う。相棒の古狩人が戻ってきたら、1つ確認して貰いたいことがあると、切り出してみよう。
 特等マイハウスと酒場を隔てる壁――扉はそれなりの厚さがある。加えて、特等マイハウスの現状を集会所の各受付嬢から知らされたハンターたちは、特等マイハウス側には寄らないように酒宴を開いていた。
 「それでは――異世界のハンターと!彼らと俺たちが生きていることに!」
 乾杯!と中身を気にすることなく器が掲げられる。ガツンガツンとあちこちでぶつかりあう器の音に、烏羽の狩人は少々呆れる。ヤーナムの酒場だって、ここまで粗野ではなかった。けれど、まぁ、陽気な笑い声と誰を隔てることもなく弾む談笑、各人の飲みっぷりは不快ではない。
 「これがこちらの銃槍か! 盾を使うのか?それにこの部分の……この機構は何なのだ?」
 「アンタ、ガンランスに興味があるのか? アンタ見る眼あるぜ! よし、なら後でトレーニングエリア行こうぜ!」
 「ガンス好きならスラアクも気に入ると思うよ! ところでお兄さんチャアクとか使ってみない?」
 早速異世界の狩武器で、早くも異世界の狩人と盛り上がっている灰狼の元狩人。その横には当然のように彼の盟友が座って料理と酒を摘まんでいる。気を失っていたと聞いたが、案外早く復活したようで何よりだ。きっとトレーニングエリアとやらにも同行するのだろう。自分も、双剣とやらについて話を聞くのも良いかもしれない、と烏羽の狩人は思った。
 「君、あの神父さん一家と家族みたいなものなんだろう? なら、母娘のお見舞いにこれを持って行ってくれないか」
 「そういや神父さんも飯食うだろ? ほら、この辺の料理よそって持ってけって」
 「嫁さんや娘ちゃんはもっとあっさりめで、消化に良いのが良いだろ、たぶん。後で料理長に頼もうぜ」
 無口。ともすれば威圧的に見えるため、他人から敬遠されがちな黄装束の古狩人の周りにも人が要る。見た事のない花が咲く花束や、たんまりと取り分けられた料理に迫られ押されている。滅多に見ない古狩人の劣勢は、烏羽の狩人に微笑をもたらした。そして異世界の狩人たちの、神父一家への気遣いに、胸が温かくなるようだった。
 「えっ、基本的に矢20本で獲物を仕留める? えっなにそれスゴイ。瓶縛りでもしてるの?」
 「いやむしろ俺としちゃあ、あんたたちの無尽蔵の矢が気になると言うか……」
 「そんなことより後で風呂行こうよ。あと防具も適当に見繕おう。ほんとよくその格好で狩りしてたな」
 弓を狩りに用いると聞いた時、自分や黄装束の古狩人、灰狼の元狩人は少なからず驚いた。が、この世界では普通に弓を狩猟に用いるらしく、さして驚きは見られなかった。だから彼らは医療教会のやつしだと言う狩人の武器よりも、確かに狩人にしてはみすぼらしいと言える装束に興味を示したのだ。
 心配事や不安は尽きないけれど、ここの狩人たちを見ていると、不思議と気が重くなることはなかった。


明日の今ごろは 昨日の今ごろは

(翌日流通エリアで狩人さんにアイルーフェイクを引っ張られている青い星の姿が……!)(顔見せろマンとフェイク(重ね着)脱ぎたくないマン)

君に会いに来たよ

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