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お題さん

CP向お題さんから「15歳の攻受の夏休み」

君と過ごす夏さんから「璃本の大帝音波の夏。ソーダ味のアイスキャンデーを嬉しそうに頬張る君が、愛しくて、溶け合ってしまうようなキスをした。」

 

みたいな感じの大帝音波(15)。一行程度のスタアレ要素。

いつもの誰おま✌('ω'✌ )三✌('ω')✌三( ✌'ω')✌

 

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 折角の夏休みに水を差すような出校日、ようやく面倒な集会とホームルームが終わり、生徒たちは思い思いに学校から捌けていく。名前も知らないクラスメイトや後輩のキャッキャと弾む声を聞きながら、少年も後輩の一人と校門へと向かっていた。いつもより静かなのは、もう一人の後輩が補習に行っているからであった。なんでも、新しく買ったゲームをやり込んでいたら兄弟だか親だかに勝手に申し込まれたのだとか。

 オレきっと戻ってきますからー!とよく分からない叫び声が校舎の上の方から降って来るのを無視して校門へ行くと、そこには少年たちの学校のものではない制服を着た――いわゆる他校生が立っていた。女子生徒のものを中心に、生徒たちの視線を集めていた彼は、少年の姿を捉えると、ゆるりと表情を崩した。

「やはりこちらも出校日だったようだな」

「今日は大体どこも出校日だろう」

 学生にはお高めな乗車賃がかかる電車で往くと、二つほど街を挟んだ場所にある学校に通っているこの他校生は、夏の間にこの近所で知り合った。聞けば、避暑がてら幼馴染と一緒に親戚の家に身を寄せているのだと言う。今日は出校日で在籍校のある街まで戻り、その帰りに寄ったという具合だろう。

「……? そういえば、あいつはどうした」

件の幼馴染の姿が無いことにどちらともなく気付く。学校が同じなら――その仲の良さからして――一緒に来ている方が自然なのだが、近くに居る気配は無い。

「部活の大会で他の街へ行っている。明日には帰ってくると思うが」

幼馴染について、そう答えた彼の表情はどこか誇らしげだった。

 いつの間にか先輩と知り合っていて、気付けば度々行動を共にするようになっていたな――と少年の隣でその後輩は夏の間にできた友人について回想する。制服を着崩さず、薄く色のついた眼鏡をかけている、振る舞いも絵に描いた優等生のような他校生は、育ちの良さを感じさせながら平然と少年たちについて回っていた。思ったより、自分たち側の生徒なのかもしれない、と後輩は思ったものだった。

 見てくれは良い少年と他校生の組み合わせへ集まる視線に、後輩は居心地の悪さを感じていた。そこへ嵐が訪れたのは、話があるなら場所を変えた方が良いのでは、と後輩が口を開こうとしたその時だった。

「アレクサへの手紙(おもい)が!まとまらない!! 手伝え弟!!!」

「なんっ、待っ、やめ――カハッ、放せ愚兄!!!」

風のように何か――誰かが走り去っていった。誰かとは後輩の兄だった。何故か剣道着を纏ったままの肩に10キロ入りの米袋ように担がれ、遠ざかって行く後輩の姿は、少年たちよりも遙かに目立っていた。わぁわぁと賑やかに去っていく喧騒を見送りながら、相手と同世代の女の子の意見を仰いだ方が建設的なのでは、などと彼は冷静に思った。少年の方はと言えば、賑やかな兄弟の嵐を気にかけることもなく、泰然と帰路に就こうとしていた。

 「昼、まだだろう?」

何事も無かったかのように学校近くの駐輪場まで歩き、自転車を引き出しながら少年は言う。

「いや、もう摂ってきたから気を遣わなくてもいいぞ」

「……また流動食で済ませたのか」

カゴに鞄を放り込みながら少年が眼を細めた。不健康なヤツ、と皮肉げに浮かべられる笑みへ、彼は苦笑を返す。

「固形物を胃に入れるのは苦手なんだ」

そうして、彼はごく自然に自転車の荷物を置く場所――後輪上部に付けられたリアキャリアに腰を下ろした。くすくす、と近くなった笑声に少年は鼻を鳴らす。

 地面を蹴り、自転車が徐々に速度を上げていく。強まっていく風と共に、腹に回された腕へ力が込められていくのを少年は感じる。布越しでも触れ合う人肌が熱い、と思ったけれど、この状況で言ったところでどうせ聞こえないだろうと何も言わなかった。

 一旦少年の家に寄ってから二人は街外れの川へ向かった。学生鞄を置き、クーラーボックスと釣竿を取りに寄ったのだった。つまり川で昼食を調達しようとしているのである。近い場所で自転車を降り、石が一面を埋める川原を曳いていく。釣り道具を持ち、先行していた少年が大きな岩の上から釣り糸を垂れる。自転車を曳いていた彼は、それを適当な近場に停めて、少年が腰を下ろした岩の傍に腰を下ろした。ぷかぷかと水面で上下する浮きに、蝉の鳴き声と眩しい空が降る。

 ぽつりぽつりと、他愛のないことを話す二つ声を背景に、少年が持って来たクーラーボックスへ釣り上げられた魚が抛り込まれていく。針から魚を外し、再び水中へ戻すという作業を繰り返すこと何度目か。ふと少年は岩の下へ視線を遣った。

「……、……?」

遣ってみると、そこには鳥に集られている連れの姿があった。

「昔から鳥との相性は良い方でな?」

少年の視線に気付いたらしく、ゆっくりと首が回される。次いで、その眼は少年の傍らの小さな影を捉えた。

「……そちらも、小さな客人がいるようだが」

「野良だ」

「見ればわかる」

鳴きはせずとも機嫌良さそうに目を細め、尾をゆらりと揺らした黒猫だった。

 その後黒猫には少々の愛撫と新鮮な魚が与えられた。

 元より大きくなく、さして重みもなかったクーラーボックスは確かに重みを増していた。それを自転車のカゴへ乗せ、来た時と同じように少年たちは帰り道に入る。こうして川に釣りに来ることは特別非日常というわけでもない。後輩たちも含めて釣りへ赴くことは度々あるし、夏季休暇以外でも気が向けば訪れているのである。ただ、他所から来ている彼はあまりそういう経験が無い――そもそも経験できるような場所が無い――らしく、実に面白そうに少年たちの日常を観ていた。

 少年の家は小高い坂の上にある。年の離れた兄二人と暮らしているという。反射的に親はどうしたのかと訊けば、知らんと返された。物心ついた時には既に家には居らず、兄曰くどこかで生きてはいるんじゃないか、という見解に収まっているのだとか。子不孝な親も在ったものだ――と思ったが、生活費や養育費は振り込まれているらしい。よくわからない家庭状況であった。

 兄二人のいない家に帰宅した少年は彼と共に洗面所で手を洗ってから真っ直ぐに台所へ向かった。そこでクーラーボックスの中へ氷を幾らか足して置く。その際、ボックスの中から手頃な一尾を取り出し、サッと流水で洗い水気を切り、グリルの上へ乗せて塩を振って焼く。同時に、冷蔵庫から残り物の白飯を出し、レンジで軽く温めた。

「……あ、この本は以前話していた本の続きか? 読んでもいいか?」

少年が、そうして昼食を用意していると微かに弾んだ声がした。ひょいと声のした方を見に行くと、彼が本棚の前に立っていた。

「あぁ、好きにしろ」

住人の許可にほくほくとした顔で彼は棚から本を引き抜く。少年は台所に戻り、少し焦げてしまった魚をひっくり返す。同時に、小鍋に水を入れ火にかける。

 昼食は焼き魚のほぐし茶漬けだった。焼いた魚の身を解し、温めた白飯の上に乗せる。そうして、めんつゆを少々回し掛けて、柚子胡椒を乗せて、沸かしておいたお湯をかけて食べるのである。お湯の温度を上げ過ぎたらしく、椀に氷を三つほど入れていたが、調理は成功と言えるだろう。

 片付けを終えた後は二人で本を漁りながら時間を潰した。普段の素行からは想像しにくいけれど、少年は座学も得意だった――というより、興味のある事物に対する集中力は素晴らしいものだった。客人であるもう一人の少年もまたその歳に見合わない知識量を有していたから、専門書や小難しい内容の本も、片っ端から漁り、話題にすることができた。学校から出された課題は、双方共に9割終わっている。

 気付けば外は昏み始めていて、傾いた太陽に空が鮮やかな蜜柑色に色付いていた。庭に面した部屋でごろごろしながら本を広げていた二人はそれらを片付けて縁側に並んで座る。背後で回っている扇風機とは別に、外からの風に目を細める。はふ、と息を吐けば体内の熱が外へ押し出されるような気がした。そして、不意に隣の影が動いたと思えば、少年が台所からアイスキャンディーを持って来た。

「溶けて液体になる氷菓なら腹に入れられるだろう?」

目の前に差し出されたアイスキャンディーと、それを自分に差し出している少年を見比べてから、彼は出されたものを受け取った。

 しゃく、と空色のアイスキャンディーが噛み砕かれる音。きめ細やかな氷の繊維の軋みを感じながら、崩れ零れた一欠片を舌に転がすと、清涼感のある冷たさと甘さが口の中に広がっていく。

 菓子の類を食べることは少ないらしく、溶けた雫の一粒も逃さないというように舐め取る姿は幼く見える。平時より赤く見える頬は、この暑さからだろうか。それとも、それ以外の理由だろうか――。なんて、らしくないことを考えた。

「美味しいな」

そして、彼の方もまた、らしくなく、気の抜け切った顔で笑ってみせるものだから、流れのままに動いてみるのも一興かと思ってしまった。すべて、茹だるよな夏の暑さのせいにして――実際、夏の暑さのせいもあっただろう。

「そうだな」

 衣服の擦れ合う音がして、二つの影が一つになる。

 触れ合う唇は仄かに冷たく甘い。けれど触れ合うだけに留まらず、彼の唇を撫でた舌は無防備な咥内へ歯列を割って入って来た。

 自分を喰らおうとしているような口付けに圧され、彼の身体は後ろへ倒れていく。手にしていたアイスキャンディーは3割か4割ほどが残っていたけれど、滑り落ちて無残に地面で崩れ、溶け始めていた。名残惜しく手を伸ばすなんてことは、できなかった。少年の方は、もう食べ終わっていて、ハズレと記された木の棒が縁側の床の上に取り落とされていた。しかしそのどちらも気にされることなく――少年より幾分か細い彼の身体は木の板の上に倒される。ギュッと閉じられた目蓋の先、反った睫毛がふるえていた。

 「甘い」

そして、巧いとは言えず、また、優しいとも言えない接吻が去っていく。されるがまま流されていた彼は笑いを帯びた声を聞く。閉じていた目蓋を開けば、視界はじわりと滲んでいた。水中にいるような錯覚を覚えたその身体は呼吸を浅くした。見上げた先には、斜陽に翳った少年の顔がある。平生、空の青が映ったような髪色、萌え出ずる碧のような瞳の色が、赤い陽に溶かされていた。

「――ふッ、ぅ、」

炯々とした、端に緋を乗せる眼に捉えられて、ゾクゾクと背筋が震える。唾液に濡らされ、テラリと光る唇が戦慄く。意識が、思考が、甘く熱に溶けて浮かんでいく。

「さいごまで、してやろうか」

「さいご、?」

「夏を終えても、この街を離れても、忘れないよう」

それは多分、所有欲のようなものだった。

「っ、ぁ、忘れ、ない、」

言葉の裏の、少年自身も意識していなかったその意図を汲んでか偶然か、彼は自分を見下ろしている顔へ両手を伸ばす。

 知り合って程ない他校生のことを、存外気に入っていたらしい、と胸中で口端を上げる。伸ばされた両手が頬に触れ、首へ回される。その間に眼鏡を外しておけば、再度の口付けは最初のものよりも楽に自由に感じられた。くちゅ、くちゃり、と水音が鳴る。

「は、ァ……ッ、その、仕方、は……わかってる、のか?」

相手の唇が離れていくと、彼の唇は弾んだ吐息を零した。律儀に閉じていた目蓋をゆるゆると開きながら彼は訊く。

「したことはないが、予想はできる。そうだろう?」

問いへ事も無げに――お前も解っているだろうと言わんばかりに――答えながら、少年は彼を抱き上げ縁側から部屋へ移動させる。実際、彼もまた人間の身体の知識は有していたから、これからすることされることを想像して頬を更に熟れさせながら視線を泳がせた。少年はそんな彼の様子に頓着することなく、部屋の隅に畳んで置かれていたタオルケットを蹴り広げ、その上に抱えていた身体を下ろす。薄暗くなった室内で、肌の上に浮かんだ汗が光の粒に見えた。

 口付けで脱力した身体は大人しくタオルケットの上に横たわっている。少年は三度台所へ向かうと、棚からオリーブオイルの瓶を持ち出した。途中、ソファの上のクッションも手に、所在なさげに天井や周囲へ視線を巡らせていた彼の元へ戻って来る。

 「んッ……、ふぅッ、ぁ、」

シャツのボタンを外し、開けた上体を指で辿る。汗のおかげで滑らかに肌の上を往く少年の指に、腹がヒクつき喉が震えた。

「人の身体構造からして――仰向けよりうつ伏せの方が楽だと思うが、どうする」

「え……ぁ、ゃ、このままで、いい……、」

「そうか」

するするとベルトを抜き取り前を寛げ下着ごと剥ぎ取りながら言う少年に、言われた方はあまり動かず喋らずに済む返答をしてしまう。冷静に考えれば楽な体位――うつ伏せになること――を後のためにも選ぶべきだったのだろうが、羞恥と暑さにそれはされなかった。いよいよ脚を開かれ腰の下へクッションを入れられ、対面したまま準備が着々と進んでいく。他者を窺うように、慎ましやかにヒクリヒクリと収縮していた窄まりへ、タラリと鶸色の油が垂らされる。

「――っ、ァ、……く、ふぅッ、」

油の滑りを借りながら、つぷりと指が刺し込まれて、体内へ異物が分け入ってくる感覚に彼は喘ぐ。紅潮した頬と逸らされた首筋に汗で張り付いた髪が、やけに色めいて見えた。タオルケット越しに、床へ立てられる指先は畳の繊維を捉えられず布地をぐしゃりと波打たせるだけで――無力で、愛らしい。

「力を抜け」

「ひぅッ、ひッ、ィっ……、ぁ、だ、って、仕方な、ア、ァ……!」

ギチギチと不規則に緩んだり締まったりをする身体は、本人にも上手く制御できていないらしかった。眉間に寄せられていた皺が浅くなり、痛みを堪えるようだった表情が今度は困ったような表情になる。それでも少年は気の長い方ではなかったから、指の太さ、かたちを覚えさせるように緩慢に動かしていたところへ、更に指を押し込んでいった。同時に半身を触られ、彼は圧迫感とささやかな快感に息を詰めた。

 にゅぷ、と音がして、体内から体外へ指が出し入れされたと思えば、くちゅ、ぐちゅ、と体内を掻き回される音がする。確実に身体を拓いている指たちは、また触れれば反応を返す――快感を生む――場所も覚えていっているようだった。不意打ちにビクつく身体を面白がるように、中に埋められた指たちは気紛れにその弱いところに触れていく。

 そうして気付けば彼の身体には少年の指が三本埋められていた。何回か慣らすように出し入れし、確認するようにぐるりと回して、少年は指を引き抜く。その後には、ぽっかりと口を開け、開いた隙間を埋めるモノを欲するようにヒクヒクと震える淫孔があった。こんなものか、と事務的な眼でそれを確認した少年は自分のズボンの前を寛げる。淡々とした所作、表情の裏で、しっかりと反応を示していた少年の半身に、彼は安堵と喜悦の表情を浮かべた。

「いれるぞ」

数度首を擡げた楔を扱き、孔に宛がうと、そこは触れた熱にヒクリと怯んだ。けれど当人の方は少年の問いに頷き、その侵入を受け入れようとしていた。答えを聞いた側も、遠慮することなく身体を沈めていく。

「――ァ、く、ぅッ……ひっ、ィ、ぁ、ァ……っ!」

「俺を見て、息をしろ。力を抜け」

ずぷずぷとゆっくり体内を割り拓いていく熱に呼吸が詰まる。その度に硬くなる身体は小さく震える。少年の言葉に従おうと、閉じていた目蓋を持ち上げながら呼吸を整えようとした彼は、けれど、自分を見下ろしている少年と眼が合った途端に再度目蓋を閉じ顔を逸らしてしまう。滲み出ていた涙がポロリと汗に濡れた肌の上を伝い落ちる。口元へ遣られた手は、指が轡の役目を与えられたようだった。

「……ハ、っ」

「ふッ、ァ、んンッ――、ふぅッ……! ……ッ!」

既に半ばほど収めていた楔を、焦れたように少年が勢いよく突き込んで彼の胎内へ収める。肌のぶつかり合う音と、喉の引き攣る音がした。

「ぁ――、ぁ、ひ、ぃ、はひ、ィッ……ァ、んぁ、あ……、」

「……すべて入ったが、わかるか」

「あ、ぁ、はいッ、ァ、わか、る……ンッ、ぜんぶ、入って、る――」

他者の熱が収まった下腹部を、歯形と僅かな唾液が付いた指先が撫でる。一先ず落ち着ける段階まで進めた二人の視線が、互いのものと真っ直ぐにぶつかる。少年の顎先から滴る汗がパタリと眼下の肌に落ち、彼の汗と混ざってその肌を伝い落ちていった。

「失礼します。せんぱ……兄君の所在を教えていただきた…………ア?」

けれど、その時、敷居の向こう側から第三者の声がした。

 緊張から強張った身体に半身を締め付けられ少年が眉を顰める。暗がりの部屋に誰か──背格好からして、少年──が居るという認識だけで寄って来たらしい闖入者は、どう見ても割り込んではいけない状況に息を詰まらせて狼狽していた。少年に組み敷かれつつ咄嗟に両腕で顔を隠したのが初々しいなとか、ほぼすべて剥がれた衣服の中で唯一ちゃんと穿かれたままの靴下が厭らしいなとか、否そもそもこれは誰だ、なんてことを狼狽した頭の冷静なところは考えていた。

 答えたのは――案の定と言うべきか――少年で、薄く笑みの浮かんだ音が吐かれる。

「……お前か。生憎ここには居ないぞ」

普段と変わらない調子の声が返ってきて、闖入者の青年は当然面食らう。しかし意味は理解しているようで、戸惑いながらも、ぅえ、と間の抜けた声でもって情報を受け取っていた。

「ここには居ないが、そうだな……あの廃寺は確認したか? 解体予定だったんじゃないのか?」

敬語も何も用いない言葉遣いをされている青年は、見るからに少年よりも年上なのだが――どうやら慣れたことらしい。どこか少年の後輩に似た、神経質そうな顔立ちが顰められる様子は無かった。その口の中で、少年に提示された単語が小さく繰り返される。

「廃寺…………あ、あぁ……! ありがとうございます」

そして、少年の言葉に何か心当たりでも思い出したらしく、では、と青年は家具や壁に四肢をぶつけながら家を出て行く。二人から離れていく背中がよろめいているのは、決して室内の明かりが乏しいという理由からだけではないだろう。

 その姿を最後まで見送らずに少年は視線を下方へ向ける。二本の腕で隠された顔の、隠し切れていない肌はどこも赤く染まっていた。腕に手をかけ退かそうとすると、第三者が去ったおかげか、すんなりとその腕たちは隠していたものを露わにする。

「ぁ――ありえない、こんな……っ、ふッ、ぅ、」

「あの間の抜けた顔は見物だったな」

他人に見られた羞恥に震える彼とは対照的に、ニヤリと少年は笑みを浮かべる。一人涼しげなその様子に彼はぎゅうと握り締めた少年のシャツを引っ張って抗議する。

「他人に言いふらすようなやつでもない。まぁ、兄に漏らすくらいはあり得そうだが――気にすることもないだろう」

「そっ、そういう問題じゃ、ない……!」

揶揄い半分の少年に、彼は割かし本気で不安がっていた。けれど少年の方は、実際あの青年が自身のもの含め身内以外に今さっきのことを話さないだろうと確信にも近く、思っていた。

 一つ上の兄と同じ解体屋で働いていて先輩と後輩――上司と部下――の関係にあたる青年は兄の右腕と言っても過言ではないらしい。ある仕事現場で火災を伴う倒壊事故が起きた際、助けられてから特に熱心になったのだとか。大きな事故だったが、顔の左半分に薄く火傷の痕が残る以外は、頭を打つ程度の怪我で済んだことは幸いと言う他ないだろう。ちなみに一番上の兄は学童のようなものをしていて、そこでは青年の兄――少年の後輩を担ぎ去っていった剣道着の青年――が手伝いをしている。

 ついでにそこそこ信用できる誠実さを知っているから、少年は余計に彼の反応を面白がった。

「……それで? どうする? そんなに外が気になるなら止めるか?」

そうしてゆっくりと、身体を退かそうとする素振りしてやると、下にある身体が微かに強張る気配がした。

「――、」

何か言いたげな唇が小さく開閉して、一度コクリと喉が上下する。服を掴んでいる手はそのままで、退こうとした身体を引き留めようと、指先が皺を更に深く描き出していた。

「ゃ、ぁ……ァ、っ、このまま、続けて、いい、」

いいのか、と鼻先が触れる距離まで顔を突き合わせて少年が訊く。瑞々しく潤んだ双眸が細められ、一筋の雫が切願と共にこぼれ落ちる。

「はやく、うごいて、欲し……ぃッ、」

溶けかけた声を聞いた少年の顔は、表情が無かった。

 けれどそれはほんの僅かな間のことだった。スッと凪いでいた表情は、すぐに歪められた。

「ひぃッ――アッ、ふぅッ、ア、ア、待っ、ゃアアアッ!」

その場に似合わない、渋そうと言うか――苦々しげに眉間に皺を寄せながら、獰猛に口端を上げた表情。獣を思わせる顔で、少年は彼を穿ち始める。制止しようとした声を捻じ曲げて、衝撃から逃げようと悶え捩れる身体を押さえ付けて、正しく征服するかのように無垢だった身体を貫く。

「あっ、あっ、待っ――、つよい、ィ……!」

「はやく動けと言ったのは、お前だろう……?」

「ちがっ、そ、そ、じゃ、な、ァアアッ」

濡れた肌のぶつかる音と粘膜の擦れ合う音が部屋に溶ける。ぐぷ、じゅぽ、と鳴る水音も、言葉の合間に吐き出される湿った吐息も、実にいやらしい。

「――なら、どう動けば良いんだ? なぁ?」

「そ、なのッ、ふァッ、ァ……ッ、や、やさしく――っ」

喉奥で笑いながら少年は目を細める。黄昏時の暗さに慣れた目には、熱に歪んだ相手の顔がしっかりと映っていた。タオルケット越しに畳を引っ掻いていた手は、気付けば、背中に回されていた。

「やさしく? 可愛らしいことを言うんだな」

制服の、少し硬い布地が握り込まれ、引っ張られている感覚を感じる。きゅうきゅうと柔らかな肉壁が半身を締め付ける感覚も、ほぼ同時に感じ、身体は雄弁だと笑みを深める。逃げるように顔が逸らされ、目の縁に溜まっていた水分が玉になって零れ落ちていった。

「ふッ、ぅ、うぅッ……ふ、くッ、ィ、ひッ……!」

逸らされた顔の、開かれた口が、腕が通ったままの制服の袖に噛みつく。先走りや腸液、油が広がる胎内からぐっちゃぐっちゃと聞こえる音の間隔が近く荒くなっていた。ヒクヒク震える腹や胎に気付いた少年が、自身も高めながら彼を追い立てていたのだった。そして、与えられる快楽に釣られてか、袖を噛んでいない方の腕を相手の背から下ろし、首を擡げながら解放を健気に待っている自身の熱欲へ伸ばす。けれどビクビクと跳ね、溶かされた身体では上手く触れられないようだった。

「……、」

そんな、たどたどしい自慰に気付いた少年は、背中に回されていた腕を自分が支えていた脚へ移動させる。

「自分で開いていられるな?」

そうして片方の脚を自らで開かせ、自由になった手を、半身を撫でる程度に留まっている自慰中の彼の手に重ねた。濡れた横目が少年を映す。

「ふぅッ――んッ、んああッ、」

きらきらと潤んでいる眼を見た少年は口端を上げ、その手を上下に動かした。滲み出ていた淫液に、ぐちゃ、と音がたつ。それまでふわふわとしていた刺激が明確なものに変わり、その口は噛んでいた物を放して艶声を発した。身体の内外から寄せる快感の波に彼の身体が跳ねる。そして少年もまた、昇り詰めていく彼の身体に半身を締め付け食まれて、せり上がる欲望をその胎内へ叩き付けようとしていた。

 「ぁ、ふァッ、アアア、ア――~~~~~ッ!」

「――ッ、くッ……はァッ、」

彼が達してその半身から白濁を溢れさせる。それとほぼ同時に、ぎゅうと収縮した胎内へ少年も白い欲を吐き出す。絶頂の余韻に身体は不規則にビクつき、特に少年を受け入れている淫靡な孔は最後の一滴まで絞ろうとしているようだった。茫洋と天井を見上げている顔を覗き込むと、その眼はゆっくりと少年を捉えた。

「ァ――……、やさしく、してくれと、言った、のに」

「女子でもあるまいし……いや、だが処女だったな。まあ次があれば試してみよう」

掠れた声に笑って返せば、苦笑と溜め息が返された。そして、何とはなしに周囲へ視線を上げると、敷居の傍に盆に乗せられた二つのコップが見えた。手を伸ばし、盆の縁に指先を引っ掛けて手繰り寄せると、それは麦茶のようだった。途中、乱入してしまったあの青年が去り際か何かに気を利かせたのだろう。一口飲み、二口目を含むと少年はそのまま彼に口付けた。

 二杯分の麦茶を綺麗に飲み干し、けれど未だ繋がった状態で二人は向かい合う。

「このまま風呂場へ行くが、いいな?」

「主導権は、そちらに、ある、だろう?」

好きにしてくれ、と身を委ねる彼を、言い終わらないうちに少年は抱き起して風呂場へ抱えていく。彼の脚には、それぞれ少年の指と彼自身の指が食い込んでいた痕が残っていた。

 風呂場で少年が彼の胎内から半身を引き抜くと、白濁やら油やらが混ざったものがドロリと滴り脚を汚した。背筋を震わせる彼は緩慢な動作で、それでも口を開けた孔へ指を刺し込み、内に残っているものを健気に掻き出す。その横で身体を洗っていた少年は、それが大方済んだと思われるタイミングで彼を引き寄せ、ついでと言わんばかりにその身体を泡塗れにした。バスタブに張られた湯やシャワーから流れる湯は、ぬるま湯の中でも水にほぼ近い温度だった。

「……帰りはどうする。泊まっていくか?」

彼を抱きかかえるかたちで風呂に浸かりながら少年が言う。外は当然陽が落ち夜の気配が濃くなっていた。

「そうだな……帰ったところでまともに動けるとは思えないし、可能ならば一晩厄介になりたいな」

彼が部屋から出ることはないだろうし、一日程度なら兄たちに見つかることもないだろう。それに、どうせ兄たちもこの客を見つけたところで何を言うこともないだろう、と少年は思いながら、そうか、と了承の返事をする。はじめての泊まりだ、と腕の中からどこか楽しげな声が聞こえた。

 バスタオルで水気を拭い、自分は用意していた替えの服に袖を通す。二人分の制服は洗濯機に抛り込み、着る物を失くした相手にはバスタオルを羽織らせる。そのまま負ぶって自室へ運び、ベッドへ座らせ適当な服を貸してやると、少年はバスタオルを持って脱衣所へと戻っていった。そうして洗濯機を回して、先程まで自分たちが使っていた部屋から学生鞄二つと、彼の眼鏡を回収する。汗を吸ったクッションは縁側へ置き、タオルケットは庭の物干し竿へかけておいた。

 自室に戻るとベッドの上の着替えは終わっていた。サイズが合わず、いつもより幼げに見えるのはおそらく気のせいではない。少年は回収してきた学生鞄を投げて寄越してやる。それを受け取り、彼はその中から携帯電話を引っ張り出した。少年の方は、勉強机に自分の鞄を置き、エアコンのリモコンへ手を伸ばしていた。

 彼が電話をかけたのは言わずもがな、身を寄せている親戚の家で、電話にはその親戚と同居している幼馴染の兄が出た。友人の家に泊めてもらう旨を話すと、どこか嬉しそうな声。

「……ああ、だから、今晩は帰らない。大丈夫だ、心配はいらない。素泊まりのようなものだから」

「わかってる――わかってるよ。お前が喉を嗄らすくらい遊んだ相手なんだろ? きっと大丈夫だ」

喉を嗄らす、という語に、彼が小さく息を呑んだ。それに気付いたのかどうか――幼馴染の兄は喉奥で笑って続けた。

「でも、もし何かあったらちゃんと言うんだぞ?」

 通話を終えた彼は気が抜けたようにベッドへ身体を倒した。ボフ、ギシリ、と間の抜けた音がする。

「特に制限は設けないが、兄に見つかった場合、状況の説明は自分でしろ」

「残念ながら、兄上殿らに挨拶へ行けるほど、体力は残っていなくてな……」

「コンビニへ行くが、何か要るか?」

「…………スポーツドリンクの類を、頼む」

身体の痛みに呻きながら財布から代金を取り出し、少年へ手渡すのだった。

 結局一晩の間、彼が部屋から出ることはなく、件の兄たちと顔を合わせることは無かった。洗濯物などで気付かれている気はするが――少年が特に何も言わないので彼もまた何も訊かなかった。翌日、目が覚めたのは陽が昇りきってからで、それぞれ仕事のある人間たちは既に家を出ていた。

 まだ朝の涼しさが残る静かな家の中、一人用のベッドに身を寄せ合っていたふたりは、目覚めてまず互いの顔を視認した。せまい、と朝の挨拶をした少年に、おはよう、と彼は返した。身体の痛みは、夜よりもマシになっているように思えた。

 一緒に顔を洗い、彼は朝食を摂る少年に付いてリビングへ向かい、隣接する食卓の一席に就く。特に何かを期待してはいなかったけれど、その前には粉末のコンソメを溶かしたコンソメスープが出された。同じように自身の分も作り、冷蔵庫から作り置きされていた朝食を取り出して少年は食べ始める。

「……静かだな」

スープに口を付けながら彼がポツリと呟いた。

「朝から騒々しいよりは良い。それに、俺も一日家に居ることは少ない」

「気にしていないんだな」

「そう言っている」

いつもより量がやや多いような気のする朝食を食べながら少年は答えた。テレビもラジオも付いていない静寂に、くすくす、と穏やかな笑声が溶けていく。

 食器を片付け、歯を磨く。部屋に戻ると、壁に二人分の制服がかけてあった。乾燥器も回し、昨夜のうちに回収して来ていたらしい。少年の手際の良さに彼は内心感嘆した。

 自分の制服に着替えると、いつもとは違う洗剤、柔軟剤の匂いがした。

「送っていく」

こちらは私服に着替えた少年が、貸していた服を腕に引っ掛けてまとめながら言う。少ないながら荷物を詰めた学生鞄を肩にかけた彼は微かに驚いた顔をした。

「意外だな。だがそこまで世話になるわけには――」

「図書館へ普通科の奴らを冷やかしに行くついでだ」

けれど少年の答えに、あぁと納得したように頷いた。少年やその後輩二人は特進科なのである。彼は補習行きにされた方の後輩から以前聞いていた。当然、名前の通り特進科の方がより難しいカリキュラムを組まれているが、普通科にも特進科に居ても遜色ない生徒はいる。生徒会長や副会長がその例だろう。そして生徒会長と少年はあまり仲が良くなかった。

「今日も懲りずに後輩の宿題を見てやっているらしい。ご苦労なことだ」

「あまり見くびっているといつか痛い目に遭うかもな?」

「ほう? その時が楽しみだな?」

「特に、その生徒会長殿とやらに」

「ますます楽しみだ」

 空は雲一つない青に染まっていた。活気付いてきた街を眼下に、自転車へ今日も仕事が与えられる。昨日のようにサドルに少年を、リアキャリアに彼を乗せて目的地まで走り出す。坂を下るにつれて少年の腹へ回された腕へ力が込められていく。背と腹に触れる人肌に、熱いと言おうとして――どうせ聞こえないだろうと少年は止めた。二人乗りの自転車が、夏空の下、速度を上げていく。

+++

​・設定メモのような

少年の家

長男…大学生。たぶん四年生。学童やってる(引き継ぎ)。親代わり。

次男…大学生。たぶん二年生。解体屋で働いてる。アットホームな職場。

三男…中学生。三年生。大体のことは一人でできる。本当に15歳か怪しい。

 

後輩の家(1)

長男…大学生。たぶん一年生。剣道部。学童手伝い。彼女持ち(年下)。

次男…高校生。たぶん二年生。解体屋で働いてる。真面目。

三男…中学生。二年生。大体先輩や長男に振り回されてる。

 

後輩の家(2)

親か兄弟…いるらしい。たぶん声がオッサンっぽかったりする。

後輩…中学生。一年生。頭は悪くないけど詰めが甘い感じ。

 

生徒会

会長…三年生。普通科。真面目で誠実。喧嘩も結構強い。

副会長…二年生。普通科。先輩と言うよりオカン。

会計…二年生。特進科。三人組とは仲良くない。副会長の幼馴染。

 

他校生の家

他校生…三年生。在籍校は進学校。実は学帽もある。

幼馴染…一年生。たぶん二学期から転入してくる。囲碁部(安定)。

幼馴染の兄…社会人。弟とよく似ている。他校生の親戚とは恋人。

他校生の親戚…社会人。あまり喋らない。幼馴染の兄とは恋人。

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