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色々捏造とかあってなんでも許せる人向け。破損描写有。唐突に始まってぼんやりと終わる。

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 ちゅぷ、ちゅぽっ、と粘着質な水音が薄暗い洞窟の中に響く。下卑た笑い声と、喉奥に押し込もうとして押し込み切れなかった声が空間を震わせる。

 複数の手で撫で回された機体の感度は平時よりも上がってしまっている。普段触られることもない箇所を撫で回され、誰に見せることもない箇所を暴かれ、そこが元より繊細な部位であれば嫌でも反応してしまうのは仕方のないことだろう。今以上に自分の機体が生きているということに煩わしさを覚えたことは無い。
「――ッ、ぁ」
じゅぷ、と受容器の中に太い指が突き込まれ、小さな声が漏れた。先程まで浅い場所ばかりを弄っていた指が、内部のケーブルを押し広げながら奥に入り込んでくる。繊細な内部を保護するための保護液が滲み出て水音を促す。
「ふッ……っぅ、」
無遠慮に機体を拓かれていく羞恥と屈辱に声を抑える。けして快楽からの声ではないと目の前の機体を睨め付けた。けれど剣呑な空気を帯びた視線など気にした様子もなく、目の前の機体――男は笑いながら聴覚器に顔を寄せる。ぐちゃぐちゃ内部が掻き回される音と近付く湿った息遣いから逃げるように顔をそむける。剥がされたマスクの代わりに口を手で塞ぐ様が、艶のある造形をした機体とは対照的に初々しさを感じさせる。
「やっぱイイんじゃねぇか。こんなに保護液出しちゃって……声我慢すんなよ」
「ぁ、やっ、やめ……こ、の……へんた、ぃ、ッ――!」
「ハッハ。お前、変態だってさ!違ぇねぇな!」
「うるせぇよ。カワイイ子はイジメたくなんのが男ってモンだろ?」
受容器を弄る一機とは別の機体が、口を塞いでいた手を引き剥がして、抑えられていた声を解放させる。水音を立てながら弄られている内部からは、滲み出た保護液がタラリと漏れ出て糸を引いていた。
 縁をなぞり、浅いところで焦らすように抜き差しすれば、それだけで物欲しそうにヒクつく。入り口ギリギリまで抜いた指を出来る限りの奥部まで突き入れてやれば溢れた保護液が散りながら内部のケーブルが蠢き指を包み込む。衝撃に顎を跳ね上げて悶える様子は実に色めいている。実に良い物件に巡り合えた、と男は思った。
 さすがに受容器だけで達することは出来ないのか、面白半分に解放された接続器からは先走りばかりが溢れていた。
「んっ……ン、ふぁ、ゃ、んぐっ――ン、ンぁ、」
不意に受容器から指が抜かれて機体が震える。そして、何を、と疑問符を浮かべるよりも早く、引き抜いた指で溢れた先走りを掬い取った男は、その指を薄く開かれていた口の中に突っ込んだ。
「自分の保護液と先走りの味はどうだ?美味いか?」
「ぅあ、ひゃ、あ、ヤッ……ん、んぅ……」
舌を弄り、口内油の分泌を促しながら上顎や舌自体に擦り付けていく。時折、喉まで侵入してくる指を排そうと、やわらかなケーブルが騒めいてくぐもった呻き声が上がる。覗き込んだバイザーの奥には潤んだオプティックがあるような気がした。
 口内からもぐちゃぐちゃと水音が聞こえ始めるようになると、その音が受容器への刺激を彷彿とさせるのか、機体の下部もビクリと跳ねるようになった。
 突っ込んだ時とは違い、口内油でテラリと濡れた指を抜けば、口端から口内油と受容器の保護液と接続器の先走りが混じったトロリとした液体を垂らし、顔を上気させた機体がぐったりとしていた。ごくり、と喉が鳴った。
「――はっ、あんた、ヤラし過ぎでしょ」
肩で排気を整えている機体に跨り、その眼前に自分の接続器を晒す。
「わかってるよな? 噛んだら承知しねぇぞ。噛んだらあんたの可愛い小鳥ちゃんがどうなるか――」
「――ッ」
危ういバランスで積み重なっている岩の下に置かれた六角形にチラリと視線をやって男が言う。機体の一部だと言ってもいい小型の機体が生きるか死ぬかは自分の行動で決まる。短い間、とろけていた視線をギリ、と引き締めて、従順に男の接続器を口内に迎え入れた。
 腕は男の脚部に押さえつけられているから使えないと判断して、仕方なしに口部だけでの奉仕を想定していた思考は、喉を犯す勢いで突き込まれた接続器に霧散した。
「ぅぐ――ぅえ、ぉッ、ンぐッ、おぇッ」
「はァッ……堪んね」
ぐぽぐぽ粘着質な音を立てながら口内――喉を犯す男は至極気持ちよさそうにオプティックを細める。
「んんん? ハハ、なんだよ、お口ン中犯されて感じてんの?下の方ヒクヒクしてるぞ?」
「マジかよ。イイならイイって言ってくれよー」
二機のことを観察していた男が外気に晒されたままの受容器をいたずらに弄りながら揶揄うように知らせると、口内を犯している男がおどけたように笑った。そんなわけないだろ馬鹿か、と罵りたくても喉からは意味のない音しか出ず、首を横に振って否定を示したくとも固定されていて自由は利かない。
「あー、ヨ過ぎて何も言えないって? そっかー。なら仕方ないよなー」
何の反応も返せない機体に、男は自分の欲をそのまま吐き出した。ケーブルを塞ぎながら内部機関に落ちていく熱い生殖オイルに機体が跳ねる。その反射の中で受容器がキュンと収縮して、中に刺し入れられていた指を締め付けた。
「ちゃんと全部ごっくんしてなー?」
「わ、すげぇ指締め付けてくるぜコイツ」
「――ッぇほ、ぅぇ、ぁ、ハッ、」
口からズルリと萎えた熱源が引き抜かれ、喉に絡みつくオイルに噎せながら空気を取り込んでいる姿を気に掛ける様子もなく、小さく跳ねている脚部を掴んで大きく開脚する。決定打となる程の刺激が得られず、首を擡げたままの接続器は健気に可愛らしく見えた。足元で手遊びのように受容器を弄っていた機体が、ちゅぷ、と音を立てながら再び受容器の浅いところを指でなぞる。反射的に漏れた声に誘われるように、未だ跨ったままでいる機体が上体を折って聴覚器に口を寄せた。
「なぁ、欲しいだろ?さっき頬張った熱くて硬いヤツ、受容器にもさ?」
言葉と共にジュルリと下品な水音が聴覚器の側を舐めていった。出来る限り顔を背けて拒絶の意思を示す。ツ、と滲んでいた冷却水の雫が一粒落ちて行った。
「いらな……ッも、放してくれても、いいんじゃ、」
「大丈夫だって。今はそうでもすぐにずっと入れてて欲しくなるからさ?」
気軽にそんなことを言いながら、機体を跨いでいた男が徐に退く。男の機体に遮られ、ろくに見ることが出来なかった機体の脚部の方がよく見えるようになった。
「は、何、言って――ッァア!やっ、やめ、痛い!いたい!ぃやだ! 抜いてッ!」
それまで一本、時々二本の指でしか触れていなかった受容器に、男が形を成した接続器を宛がい、腰を進め始める。
「ぃぎッ……ぃあ、ヒッ、痛いッ……そんな、入らない、から……!」
「だいじょーぶだいじょーぶ。痛くない痛くない。すぐ気持ちよくなるからねー」
ぐち、ぐぷ、と無理に侵入してくる異物に内部が圧迫され排気が詰まる。小さな機体をあやすような猫撫で声が耳元で囁くも気は一向に紛れず、寧ろ嫌悪感が募っていく。そうして痛みを訴えるばかりの機体に、男は萎えてしまった眼下の接続器を握り、上下に扱き始める。痛みと快楽が混じった今まで感じたことのない感覚に機体が一瞬だけ弛緩した。
「ふアッ、ア、ぃッ――あああ!」
機体のぶつかり合う硬い音と保護液が接続器を受け止める音が重なって、ガチュン、といやらしい音が響いた。
「ほーら入った。ね?」
「ひぃっ――やっ、いた、ひあ、あ、ああっ!」
「おいおい、嫌じゃねぇだろ? しっかりイッといてよぉ」
猫撫で声が笑いながら首のケーブルを吸う。機体の下部では、接続器を捻じ込んで来た男が口角を上げながらパタパタ機体の上に飛び散った生殖オイルを掬い上げてにちゃにちゃ弄っている。挿れられて達したという事実を突きつけていた。違う、嘘だ、と羞恥と熱に滲んだ淡い声が届く。緩やかに、内部を撫でるように腰部を動かすと、ぐちょ、ぬちょ、なんて音が聞こえてきた。ハァ、と息を吐きながら手を結合部へ持っていき、指先でなぞると、蛍光色の循環油が白く濁った液の中に混じっていた。内部のケーブルが傷付いたらしい。処女機体みてぇだ、と笑って男は指先を白い太腿で拭う。
 機体を押し返そうとしたらしい両腕は力が入っておらず、胸の辺りに添えられるだけになっていた。その両手を掴んで、まるで恋人がするかのように指を絡めて握る。
「あッ、は、あ、ぃや、やめっ、」
獰猛に口端を釣り上げた男に制止の声を上げようとするも、ヂュ、ガチュ、と律動が始まった。
「あ、待っ、あッ、んあ、ゃあああっ」
「待たねぇよ……ッ、誰が待つかってんだ、こんな――」
「そんな……ンッ! ぁ、んぅッ、ぬ、抜いてっ、」
「はァ――っ、抜いても何も、あんたが締め付けて抜けないようにしてんだろ……っ?」
「ちがっ、ちが、そ、なの、嘘……!」
「嘘なもんかよ……あぁ? こんなキュンキュン締めやがって!」
不本意な快楽信号を無意識に処理してしまう、情報の扱いに特化した機体は、幼子がするようにいやいやと首を振る。バイザーの奥にあるオプティックの縁に溜まっていた冷却水がポロポロ滑り落ちていった。
「わー、そんな盛り上がって、妬けるわー。俺ちょっと外出てくるからごゆっくりー」
「ん? あぁ、そろそろあのバカも帰ってくるだろうしな」
まったく、欠片も思っていないことを口にしながら一機が洞窟から出て行く。ジャリジャリと遠ざかっていく足音に何故か機体温が引いていくのを感じた。あの機体が、もしかしたら助けてくれるかも――など、考えていたわけではないが、それでも自分を蹂躙している機体と二機きりになることが嫌だ――或いは怖い――と思った。
「じゃ、ま、あいつらが帰ってくるまでふたりで楽しもうぜ」
「ぅぁあっ!」
ごりゅっと接続器が受容器の中を抉り、短い間ながら停まっていた律動が再開される。
「あ、あああッ、ぅあ、はあ、あッ」
男の腰部が前後する度に抽挿は滑らかになっていき、無意識にだろうが、その動きに合わせて組み敷かれている機体の腰部もまた動くようになっていった。両手を捉えられ、塞ぐ術の無くなった口からは甘さを含んだ声が零れていた。
 一機分、増えた足音はそれほど時間を置かずに聞こえてきた。男が身じろぐと、くぷ、と泡立った液体が受容器から垂れ出る。その感覚に短く小さな声が上がった。
「あっは。なにその機体、チョーイケてんじゃん。ずっるいのォ!」
「うるせぇバカ。勝手に手間取ったおめーがいけねぇんだろうが」
飄々とした様子で顔を覗き込んでくる三機目の機体は、しかしそのオプティックに危うげな光を灯している。
「……ゃ、っ」
「あれ、お疲れな感じ? 何回ヤったんだよお前」
覗き込んで来たオプティックから逃げるように顔を逸らすと、見覚えのある方の機体が冷却水やオイルで汚れた顔の、頬の辺りを指の背で撫ぜながら首を傾げた。
「そんなにヤってねぇよ。これからがお楽しみなんだし」
仲間の問いに少しだけムッとした様子で答えた男は、合流した三機目の仲間に、アレは手に入ったんだろ、と訊く。
「えー?そりゃ、まあ? このボクですから?ばっちりしっかり確保しましたけどォ?」
じゃじゃーん、と古くて安っぽい効果音を自分の口で言いながら、何かのカプセルが詰められた小瓶を掲げて見せる。小瓶が揺らされると中のカプセルと瓶のガラスがぶつかり合ってジャラ、と鈴の不良品のような音がした。
「さいッこうにヨくなれちゃうデータが入ったカプセルもちろん非合法! うふふッとっても使いたいねー!」
「さっさと寄越せ」
「エエエ? 冗談キツイでしょ。どんだけ楽しんだのよアンタ。大分楽しんだでしょ。少なくともボクらよりはさァ」
「…………チッ」
自分の機体の上で交わされるやり取りがどこか遠くのことのように聞こえていた。だが、男が舌打ちをすると同時に両足の間から退き、機体の内部を散々掻き回していた接続器がズルリと抜け出ていく。内部を満たしていたモノが出て行く喪失感に、受容器はヒクリと名残惜し気に収縮してしまう。
 はしたない――この短時間でここまで堕ちた機体が恥ずかしい。このことを主にどう言うべきか――否、言うべきでは、知られるべきではない。恥ずかしい。意識したものではないにしても、自分の機体の動きに仕える主への想いが溢れ出す。こんな汚れた機体で、機体を、主はどう思うだろうか。破棄までいかなくとも、軽蔑されるのではないか。現状で唯一絶対となっている存在に、突き放されるようなことがあれば――。
 グルリと思考を巡らせていた機体の前に、にんまりとした笑顔が現れる。いつの間にか機体を起こされていたらしい。
「やっほぅ。お疲れなのか何なのか知らないけど、付き合ってねェ?」
「ぁ……? ッ?!」
「ったく、よくやるぜ」
他者のオイルで汚された口と自分の口を合わせるなんて、と呆れたような目付きで男がぼやく。声の主にチラと投げられる視線は上機嫌なものだった。
「ン――んんっ、んぅ……んぐっ」
逃げを打つ機体を引き寄せ、塞いだ口内へ自分の口に含んでおいたカプセルを一粒押し込む。他機と比べて長い舌を持つ機体は、それを存分に使いカプセルを機体の奥へと押しやろうとする。ゾロ、と生温かくぬめった軟体動物が口内を這いずるような感覚。長い舌から流し込まれる口内油の量は多く、反射的に喉を開けば他機の口内油と共に押し込まれたカプセルは喉のケーブルを通り機体の深部に落ちていった。
「んっ……ぇほッ、ごほッ、っぁ……」
「どお?イイ感じ?」
ジュルリと水音を立てながら舌を抜いた男がニヤニヤしながら機体の線をなぞる。捕食のような口付けに茫洋としていた機体の変化はすぐに現れた。
「イッ――あっ?! ひっ、やめ、あ、さわ、触る、な……ぁッ!」
スル、と男の手が機体を撫でる、それだけで大袈裟なくらいにビクリと跳ね上がる。拾い上げているものは明らかに快感で――カプセルの中から溶け出したデータによって蝕まれていく機体の反応は意思と乖離していく。排除しようにもそのデータは循環型らしく、プログラムを展開して削除出来る類ではなかった。自然に消滅するまで待つしかない。ほぼすべての刺激を快感として処理し始めるようになった感覚回路を覆う装甲に、スルスルと手が這い回る。
「や……あ、ああっ、ぅあ、あ、は、あ……」
熱に潤んだオプティックはバイザーの奥だったけれど、ぼんやりと光を灯すバイザーの側の、上気した頬の赤さは薄暗い中でも男のオプティックに映っていた。
 線を辿るように、決定的な場所には触れずに機体をなぞっていた手が腰部に回される。男性型らしい、逞しい力で膝立ちになるように腰を浮かせられ、脚の上に引き上げられた。その勢いにグラリと揺れた視界に思わず目の前の機体に腕を伸ばしたおかげで、抱き着くようなかたちになる。背部の装甲を誰かの指がなぞり、男の聴覚器の側で切なげな排気が漏れる。
「ふあ、ぁ、んっ、はぁッ、ぁ」
「ん。感度リョーコー、おっけーおっけー。さっすが非合法」
「そーだね。保護液こんなに垂らしちゃって、オンナノコみたいだね」
更にもう一機が受容器に指を二本入れ、中で左右に開く。多くの快感を受け止めている機体の受容器からは突き入れられる衝撃を想定した多量の保護液が分泌されていて、広げられた受容器口からとろりと滴った。外気に晒された内部が、ヒクヒク収縮して、その度に一滴また一滴と保護液や生殖オイル、少量の循環油が混じった液が糸を引いて落ちていく。
「ヤーラしいなぁ。もう接続器触らなくてもイケるよね」
「んあっ!あ! やっ、ひ、い……ああッ!」
受容器口を広げている男が空いているもう片方の手で既に数度の絶頂を迎えながら、ほぼ強制的に高められて震えている接続器を掴むと、その刺激だけで再び達したようだった。ビクビク絶頂の衝撃に跳ねる機体を男たちが喉奥で下品にわらう。
「それじゃあそんないやらしいアンタにはもう一粒サービスしたげるねェ」
ナカ入れてあげてよ、と脚の上に機体を引き上げた男が言うと、接続器と受容器を両手で弄っていた男が笑って首肯する。下腹部にある両器から手が離れ、ジャラジャラとあの瓶が傾けられる音。それから、また受容器に指が入れられて――何か、小さな、塊が、奥までぐっぐと入れられる。最後に先程のように広げられた受容器口に熱くて硬い熱が蓋をした。それは接続後の気怠さに身を委ねたのだろうか、何時の間にか少し離れた場所でスリープに入っている男がしたように、受容器の奥を突いて掻き回す熱源で――これから訪れる快楽を、無意識に期待した。
「――……、?」
が、いつまで経ってもそれは訪れず、それまで合っていなかった視線がおずおずと合わされる。
「んー?どうしたのォ?そんな顔してさァ?」
「ぃや……だ、って、ぇ……その、」
「欲しくなっちゃったんでしょ?さっきは要らないって言ってたの」
「っ! な、そんな……ッ!」
腰は支えられていて下ろすことが出来ない。否、そもそも腰を下ろしてしまえば内部に入れられたカプセルが潰れて受容器で直接あの厄介なデータを受けてしまうことになる。ああけれど。さわ、と戯れのように触れられる感覚に機体が反応してしまう。ヒクリと受容器が反応して、浅いところで止められた熱い接続器を締め付けて、与えられた受容器での快楽を思い出させる。
「大丈夫だよォ。ボクたち優しいからね、欲しいって言ってくれればちゃあんとあげるから。カワイくおねだりしてみて?」
あくまで優しく促す男の言葉に理性が揺らぐ。ただでさえ熱に融けおちそうな回路に、その音はポタポタ落ちていく。
「奥まで入れて、犯してくださいって。お願いしますって、言えばいいんだよ」
ねぇ、と男たちは互いに目配せする。機体を支えている男が一瞬腕の力を抜いて、少しだけ接続器が受容器の中に進む。機体が下降した勢いと擦れる熱。しかし濡れた内部を貫かれないもどかしさ。しばらくの間せめぎ合っていた理性と欲望が、均衡を崩す。
 それまで静かに筋を描くだけだった冷却水が、ボロリと大粒の雫のまま紅潮した頬を伝った。
「ひッ……ぁ、お、奥まで、入れ、て……っ、犯して、くださっ……おねが……しま、す」
「わあ。ほんとに言ってくれたよ。そんなに欲しかったんだ?」
「そんなに欲しかったから言ったんでしょォ?」
そうして、腰部が鷲掴まれて、勢いよく下ろされる。ガチュ、ごりゅ、と受容器の最奥が接続器の切っ先で抉られ、間に挟まれたカプセルが耐え切れずに弾けて中に詰まっているデータをぶちまけた。
「アッ――あ、あああ! がッ、は、ぅア、ヒッ、あ、アアあッ」
四方を岩盤に囲まれた洞窟に高らかな甘い声が響く。
 ビクビク跳ね上がる機体には自身の接続器が――挿入された際に触れられもせず――吐き出した生殖オイルが新たにかかり、放たれたばかりのオイルの温かさにも感じているらしかった。バイザーの光もぼんやりと仄暗くなり虚ろな雰囲気になっている。はく、と動く口の端からは幾筋か目の口内油が垂れていた。
 男が緩やかに機体を揺らすと、ズッ、ずちっ、ぐぷ、と絡みつく内部ケーブルの間に空気が入って音が鳴る。
「中入ったの、わかる? きもちいィ?」
「ぁ……、なか…… 、ナカ、はぁッ……んっ……いっぱい……」
甘えるように頸部に頭を擦り付け、恍惚と呟く姿に理性は見られない。口端を釣り上げ、長い舌で唇を濡らすと、男はいよいよ乱暴に機体を揺すり始める。
「あっ、ひィっ、ア、やッ、だめっ、あっ、ああッ!」
「だめでも嫌でもないでしょォ? イイならイイってちゃんと言わなきゃ。イク時もちゃんと言おうねェ?」
「ぃぎッ、あっ、ふあッ、あ、ぅあ、」
「ねェほら、イイの?イイんでしょ? そんなヨさそうなんだからさァ」
男が動きだけは不満げに激しくすれば、がちゅんぐちゅんと更に水音が酷くなった。ごちゅ、と受容器の最奥に当たった接続器の先が、繊細な基盤をゴリゴリ抉る。傷付いたケーブルや抉られた基盤の傷からカプセルのデータが機体の中に滲み込んでいく。
「イッ……イイ、きもちイイ……ッ、あ、ンンッ、おく、は、らめ、ィああッ」
首を振る仕草は幼く、喘ぎ悶える様は艶やかで――発せられる声は心地よい音の波だった。
「ぅあ、も、いく、やら、アァ、も、いきたくな、ッアアアアア!」
「ハッ――……ッ、ふ、ぅッ」
「――っぁ、ゃ……あつ、熱い、」
受容器が収縮し、男の接続器をぎゅうと圧迫する。その締め付けに促されて勢いよく生殖オイルが吐き出される。吐かれた熱はジリジリと受容器のケーブルや基盤を焼いていった。欲を外に吐き出した接続器は、非合法のデータのおかげだろう、緩やかながら未だなお上を向いていた。
 はく、と上がった排気を整えている背後から不意に声がかけられる。
「じゃあ次相手してもらおうかな」
後ろから腰に腕が回され、二機に前後を塞がれる。自分と同程度か、少し大きい機体と向かい合い、一回り大きな機体に背後から抱きすくめられるかたち。
「なに言ってんの。まだボクのターンだよォ」
「あー? なら二本目入れるかなー?」
「うっわサラッとえげつないこと言ってる」
「まぁ、もう大分慣れてるだろうし、いけるでしょ」
自分を挟んで交わされる会話についていけない。ただ、ぐちぐちと内部で動く接続器に再び熱が上がっていく。そして、結合部を男の指が広げて、ひたりと硬い熱が押し当てられる。受容器には未だ目の前の機体の接続器が入っているというのに。
「――っ、ぁ、ぅ」
ぎぃ、ピシ、と装甲の歪む音。これまでの熱と暴虐で柔らかく融けた受容器が更に拡げられていく。
「ぁっ……ひ、ぃ…… ッ、ぁ、」
「くそ、さすがに……キツいな」
接続器すべてを挿入することは出来なかった男が大きく息を吐いた。
 そもそも受容器は二つの接続器を受け入れるようには出来ていない。先に挿入していた男の方も、接続器を多少抜いて協力してやっていて接続器すべてが受容器に収まっている状態ではなかった。
 限界まで広げられた受容器から二機分の信号が機体へ入ってくる。はくはく開閉する唇は排気を整えたいのか何かを訴えたいのか――何も音を吐かないのだからわからない。許容以上の質量が詰められ、やや丸みを帯びたような気のしてしまう機体の下腹部を、前からさわりと撫でられる。
 動き始めはぎこちないものだったが、抽挿を繰り返すうちに要領を掴んで来たらしい男たちは、ずちゅ、ぐちゅ、と交互に狭い受容器を甚振っていた。その最中、不意に後ろの男がうつくしい翼を指先で辿り、そして徐に手をかける。
「折角キレイな翼だけどさ、ちょっと邪魔なんだよねー……勿体ないけど壊していい?」
「はッ……ぁ? え、ぃ、」
持ち主の答えを聞くよりはやく、男の手が翼を砕いた。
「ぎッ、ぁ、が、あああああ」
バキバキバキ、と音をさせながら歪に小さくなっていく。蛍光色の循環油が流れ出て、装甲に守られていた導線が露わになる。ひぃ、あぁ、と漏れる声は、翼の傷口に舌を這わせてやれば震えながら跳ねた。

 痛みと快感で融けた思考回路に、悠々とスリープしていた機体が動き出した映像が届く。その機体は緩慢な動作で起き上がり、間接や駆動を確認してこちらに顔を向けた。無意識に視覚器の機能や聴覚器の機能を切っていく中で、最後に感じたものは恍惚とした絶望だった。

 

 

 

 キュル、と静かな駆動音がして、それが自身の起動音だと気付く。ぼんやりとした視界は薄暗く、周囲の様子からしても意識を失う前と現在地は変わっていないことがわかった。
 痛み軋む四肢を叱咤して、ノロノロと彼は機体を起こす。こふ、と咳き込めば喉のケーブルに引っかかっていた白濁がパタパタと落ちていった。顎に伝う液体を拭い、自身の機体を見下ろすと、散々に嬲られた機体は後処理などされず放置されていたようだった。ベッタリと付着した誰の何とも言えない液体を拭い落していく。
「……っ、く、ぁ――…… んぅ……ッ」
受容器に指を突っ込むと、ぐちゅ、と音がした。努めて音を聞かないようにしながら中のものを掻き出すと、それはドロリと後から後から流れ出てきた。粘性のある液体がトロトロ太腿を伝っていく感覚に機体と排気を震わせながら大方を機体外に出す。すべてとはいかずとも、見られるようになれば、ひとまずは良い。
 そうして、機体を見た目だけは普段と変わらない程度に整え、彼はずっと放置されていた六角形に手を伸ばした。積み上がっている岩のバランスを崩さないよう、自分の方へ引き寄せる。不安定な岩の下から出ると、六角形は忙しなく変形して主に体当たりをかまし、傷付いた機体に己の小さな機体を押し付けた。無体を強いられていた機体の、一先ずの無事を確認するように、労わるように喉を鳴らし額を擦りつける。そんな健気な仕草に彼は口元を綻ばせる。
「……帰ろう。時間が押している」
頭部や翼を指先でゆるりと撫ぜながら呟いて、壁に手をつき立ち上がる。壁を伝いながら洞窟を抜けた紺藍色の機体は荒れた地表を蹴り、小さな惑星の重力圏から離れた。主から申し付けられた任務は済んでいるが――思わぬハプニングで時間を食い、定められた時刻まであまり余裕がない。機体内の残存エネルギーも心許ない。傍らを飛ぶ小型機体の力を借りながら彼は出来る限りの速度で帰路を急ぐ。
 かたちが崩れた翼の、剥き出しになった導線や基盤に風や熱が直接当たる痛みを堪えながら拠点に滑り込むと、未だ不安気に彼の様子を窺う小型機に先に休憩を取るように言う。そして自分はそのままの足でフラフラと任務の報告に向かった。
 殺風景な広間の、大体中央の辺りで跪き頭を垂れる。
「ただいま戻りました」
誰の影も見えないそこで声を発する姿は奇妙な光景だったけれど――彼の声に、答える反応はあった。周囲の空間がざわりと波打ち、続きを促した。
 促され、報告の許可を与えられたことに従い、彼は淡々と事務的に、簡潔に今回の任務の成果と収集してきた情報についての報告を上げる。
「――以上です。集めたデータは解析した後、改めて」
一通りの報告を終え、主の言葉を待つ。常ならばここで下がれとの指示が下され、次の任務まで機体のリペアや調整に時間を割くのだが、一拍置いてもその指示が出されず、彼は内心首を傾げた。不備でもあっただろうか。
「あの……何か……?」
「言っていないことがあるな? すべて報告しろと言ったはずだ」
主の声に排気を詰まらせる。機体が硬直し、しかしその頭脳回路はどうするべきか最善の回答を探し、忙しなく演算を繰り返している。けれど彼が答えを見つけるまで、彼の主は待ってはくれなかった。
 シュルリと床から無数のケーブルが現れる。それらは傷付いた機体の四肢を絡め取り自由を奪う。
「っ、お戯れは、お止めくださ……ッ!」
下腹部に伸びていくケーブルから身を捩って逃げようとするも疲労した不自由な機体で叶うことはない。まだ機体内に僅かに残っているデータがケーブルの感覚に反応を示してしまう。翼の傷口に触れられ、生じる痛みすら微弱な快楽信号に置き換わり、詰めた排気が零れ落ちる。するする装甲の上を走るケーブルに、あの男たちの手ほどの嫌悪感を感じることはないが、その時の感覚を思い出させるには十分な既視感だった。
「ぅあ ……ひっ、ゃ、やめ、」
成りきらない懇願の声を無視してケーブルは接続器と受容器のハッチを開く。大方を出したとはいえ、洗浄はしていないのだから受容器の中のケーブルや基盤の隙間には男たちの生殖オイルが多少残ってしまっている。
「予定外に時間を食われた、な……食われたのはお前のようだが?」
「――ッあ、あ! それ、は……ッ!」
ずる、と何の前触れもなくケーブルが複数本、受容器に入り込んで来た。保護液がジワリと滲み、すぐにぐちゃぐちゃと水音がし始める。内部の繊細なケーブルが擦られ基盤を抉られ、快感を受け取りやすくなっている機体の接続器は既に触れられてもいないのに緩く首を擡げていた。二本のケーブルが左右に受容器の縁を広げると、その内部は淫靡に濡れてひくりひくりと蠢いていた。そこを覗き込むように、鎌首を擡げたケーブルが一本伸びてきて、真正面でゆったりと揺れる。姿は無くとも、主の御前で接続部位を晒しているという状況に羞恥が煽られ、冷却水がオプティックに溜まっていく。
「随分と可愛がってもらったようだな?」
ガチリと侵入したケーブルの一本が基盤の一部に噛みつく音がした。小規模ながらも接続の衝撃に拘束された機体が跳ねる。きゅう、と受容器口が収縮しようとするも、二本のケーブルがそれを許さなかった。
「――ァ、ひァッ、」
基盤に噛みついたケーブルが獲物の血を吸い取る蛭のように脈打つ。機体内の情報をズルズルと引き出されていく、滅多に感じることのない感覚に機体が震え、喉が逸れて急所となるケーブルが惜しげも無く晒される。
「……ふむ? 此方の情報は抜かれていないか」
「んッ、あ、ぁ、やめ、も、ゃ、」
そして細いケーブルが蠢く受容器の中へ、それらよりも太いケーブルが更に入り込んだ。
「かふッ、は、はッ、ア、あ、ぅあ」
受容器内で脈打ちのたうつケーブルの動きは生き物のようで――普通ならば違和感や気色悪さを感じるのだろうが、既に情報を上手く処理しきれなくなってきている機体は、それすら快感として拾い上げてしまっていた。太いケーブルがズルズル、ぐちゅ、と緩やかに動く。太いケーブルが奥に進めば細いケーブルは入り口の方へ退き、太いケーブルが退いていけば細いケーブルは奥へ進む。穏やかな、決定打を与えない動きに拘束された機体が小さく揺れる。
「どうだったのだ?好かったのか? ん?」
する、と一本のケーブルが上気した頬を撫ぜ、バイザーを取り払う。冷却水をポロポロ零しているオプティックが、キュル、と切なげに細まった。
「あ、あ……ごめ、ごめ、なさ、ぁ――ふゃっ!」
基盤に吸い付いていたケーブルが離れ、噛みつかれていた場所に仄かな熱と痛みが残る。
「ふッ……ぅ、ごめ、なさ……ごめんなさ……っあ、やぁあッ」
「何に対する謝罪かわからんが、まあ良い。口や理性が否定しても――機体が待ち望み、受け入れる」
「ゃ、なにを、なさるの、で――ッアアア! ひぃッ、ア、あ!」
頸部と後頭部の境辺りにある小さな受容器に端子が刺し込まれ、覚えのある感覚が信号になって機体に流れ込んでくる。それは主の元へ帰ってくるまでにあの機体たちに嬲られた感覚だった。二度と遭うことはないだろうと思っていたものを、こうも早く感じることになるとは、思っていなかった。機体を撫でる主のケーブルが、いよいよ男たちの手に変わっていく。嫌悪と快楽に機体が震え冷却水が止めどなく流れ落ちていく。そして、次いで眼前に展開された映像に、彼は愕然とする。
 ヴン、とどこか気怠げな起動音をたてて映像が映し出される。紺藍色の機体。その機体には男性型機体が無遠慮に手を伸ばしている。暴き、弄り、嬲って、思うままに己の欲を押し付け汚していく。嬌声と荒い息遣い。機体のぶつかり合う音、粘着質で卑猥な水音。それは見間違えるはずもない、数時間前の自身の姿だった。
 主に引きずり出されたデータに視覚器の機能を停めたくなる。けれどそれは頸部の受容器から送られてくる指示信号で許されず、また顔を逸らすこともケーブルに固定され叶わない。気付けばいつの間にか受容器を犯すケーブルの動きも荒々しくなっていた。ケーブルがなぞるあの動きと感覚に映像が重なり、男たちに再び、この場で凌辱されている錯覚を覚える。
「やめっ――やめて、おやめくださっ……ひぅ、ぁ、見たくないっ……やっ、み、みないで……っ」
今この機体に触れているのは主。あの男たちではない。そう自身に言い聞かせながらぶり返してくる嫌悪感と不本意な快感を堪える。と同時に、数時間前に自身が晒した醜態を主にも見られているのだと思うと恥ずかしくて情けなくて――いっそ壊して欲しいと思った。
 未発達の機体のようにオプティックからボロボロと冷却水を零し、回らなくなってきた呂律で必死に乞う眷属の姿に、その主は喉奥で笑う。
「まったく……余の眷属がこのように淫猥な機体だったとは、嘆かわしい」
「ぁ、それ、は……っ、ちが、ちがい、ま、あ、ああッ」
収縮を妨げるケーブルは既に退いていて、主の揶揄に反応した機体は、侵入してきたケーブル群を、今度は受容器全体で締め付けた。ぱたぱた、と粘度も色も大分薄くなった生殖オイルが接続器から――これで何度目か――吐き出される。
「口答えをするつもりか?ただの傀儡風情が?」
彼の頸部に巻き付いたケーブルが緩やかにそこを締めながら、先端で濡れた頬や顎をスルリと撫でる。
「あっ!あああッ! ひぃ、ぎッ、あ、ぁっ!」
優しげな上部の動きとは裏腹に、下部では受容器から強い信号が送り付けられていて――悶える姿は、さながら蜘蛛の巣に落ちた蝶が藻掻くようだった。機体が跳ねてケーブルを軋ませる。間隔を開けない絶頂。けれど接続器の先、小さな穴には細いケーブルが潜り込んでいて、放出されるはずの熱は塞き止められていた。外に出られない熱は機体の内側でグルグルと渦を巻く。懇願と否定の声が熱の中に溶けて消えた。
「――ッア、ひ、は、ぁ、あ……あ……ぁ、」
エフェクトではなくノイズの混じり始めた音を吐き始める発声装置が、やけに熱いな、と思考がロクに纏まらなくなった頭脳回路の片隅で、他人事のように彼は――自身の機体の一部に起きていることを――思った。
 いつの間にかその場に響く音は、掠れた嬌声と幾分か穏やかになった粘着質な水音になっていた。音源となっている機体からは無数の警告表示と警告音が発せられていることが、繋がったケーブルから伝わって来る。緩やかに排気系ケーブルを絞められている機体の排気は細く切なげで、オプティックは茫洋と光量を落としている。そんな様子に、あぁそういえば平時よりも機体が――一部欠けていたとしても――軽いな、と思っていれば、内部のエネルギーが心許無い量まで減っているというデータを覗くことが出来た。ならばそろそろ落ちるか、と駆動音の小さくなった機体をケーブルで包みながら窺う。
 そして、プツンと呆気ない音がして、考えた通り、手中の機体は動かなくなった。ぐったりと身を委ねられたケーブルがザワリと割れて、支えている機体を包み込むように呑んでいく。その様は正に獲物を嚥下する捕食者だった。
 ズズ、と床が動いて元の殺風景な広間に戻る。飛び散った冷却水やオイル、毀れ落ちた部品の一欠片さえ消え、知らぬものが何処をどう見ても先程まで展開されていた事柄を察し知ることは出来なくなった。

 

 時は流れ、件の拠点には機影がひとつ増えていた。
「今日は外へ行くんだろう?」
「そうらしい。そっちはまた内勤だって?」
「そうだが……なんだ、不満気だな。外に行きたくないのか?」
「別に、そういうわけじゃない、けど――」
最近――彼らの感覚で、最近、である――目覚めたその機体は、大きなモニターの前の椅子に座ったまま振り返り、肩を震わせている彼の前で言葉を切った。記憶にある限り、この機体が外に出ているところを、見たことがない。自分たちの主はどういうわけか、外勤を自分に、内勤を彼に、分けて充てているようだった。
「……ほら、もうそろそろ行くべきだ。任務は受け取っているだろう?」
コツンと綺麗な指先が腕のパーツを小突く。
「しっかり任務を片せて来れたら、ご褒美をやろう」
「――っ! 子供扱いしないでくれ! 行ってくる!」
見上げて来るバイザー越しのオプティックがゆるりと細められているのが見えて、子供扱いしないでくれと子供の様に言ってしまった機体は、しかし自身のその様子に気付くことなく足早に部屋を出て行く。そんな黒と橙の後姿を彼は微笑まし気に見送っていた。
 外へ向かう途中、ふと足音が止まる。与えられた任務のデータを再確認して首を傾げる機影。標的として指定されている機体たちはどこにでもいる破落戸で、それぞれの型も特別珍しいものではない。そんな機体たちを、何故わざわざ自分たちが始末する必要があるのか、と。
「あー……良かったら、その、理由とか、教えていただけたり……」
半ば独り言のように問うてみれば、予想に反して、反応があった。ざわ、と空間が波打つ。
「なに。以前、礼をし忘れてしまってな――他言は無用だ」
「へ? は、はあ……?」
主の声がそれだけ告げて掻き消える。過去に取り逃がした機体たちらしい、と黒と橙の機体は認識する。見覚えは無いから、たぶん彼がまだ単機で主に仕えていた頃のことだろう。大概のことはそつなくこなし、任務も完遂が常だと思っていた彼の機体にも、そういう時期があったのかと思えば、愛おしさがより募る。他言は無用と言いつけられたこともあり、過去のことをその眼前に引っ張り出して言ってやることもない。相手は複数とは言えありふれた機体。彼のリベンジだと思えば幾分か気は晴れた。今回の任務は楽に終われそうだ、と今度こそ意気揚々と足音が外へ向かう。
 外に出て行った一機と、内に残った一機の様子を確認して彼らの主がひとつのデータを握り潰す。それは何時かの映像、音声データで、元の持ち主は憶えていない。機体を、言葉通り新品同様にリペアした際に抜き取ったのだから、憶えているはずがない。その分だけ記憶を入れ替えてやった。機体が再起動するまでの間、あの場に居合わせた六角形の小型機体からも記憶データを抜き取った。これであのことを知っているものは自分とあの男たちだけである。その男たちには、始末しろという指示を与えた、新しく目覚めさせた機体を向かわせた。数時間後には、あれを知るものは自分が唯一になる。そうなれば、紺藍の機体を再び外に出してもいいだろう。
 相変わらず膨大な情報を処理していた機体の足元で、シュルリとケーブルが一本、首を擡げる。おや、とそれに気付いた紺藍の機体は邪険にすることなく、機体に接触してくるケーブル――主の一部――を綺麗な指先で、するりと撫でた。

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