いばら姫のいばらは姫とは独立した意識を持ってて姫のお世話とかしてたら良いなって夢見てる( ˘ω˘ )
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魔法の荊は眠り姫を守る。
老いることなく、死ぬこともなく、ただ眠り続ける姫を守ることが荊の役割だった。
堅牢強固な砦と化し、姫の眠りを邪魔する全てをその鋭い棘で串刺しにする。
ドラゴンのように火を吐くなんて野蛮な侵入者の排除の仕方なんてしない。
静かに、正確に、姫が眠っている環境をできるだけそのままに、対処するのだ。
あぁ、けれど、その幸福にも終わりは訪れた。
王子様が姫の元へ来た。
ドラゴンは呆気なく退治され、荊は難無く振り払われる。
荊や、ドラゴンや、人形の兵士たちが守って来た眠れる森の平穏が、崩されていく。
そうして姫は百年の眠りから覚める。
愛らしく、美しく、自分を目覚めさせた王子に微笑み、礼を述べる。
それは疑いようもなく幸福な場面。それは紛うことなく幸福な物語の帰結。
物語は、幸せの絶頂で終わる。
その後の物語は、読者に丸投げされ、王子と姫のその後は語られない。
魔法の荊は姫を守る。
鬱蒼とした書架の森を、ナイトメアと呼ばれる敵から姫を守りながら往く。
あの時は王子に敗れ最後まで姫を守ることができなかった分、存分に力を振るう。
作者の復活を!と囃し立てる人形たちは耳障りで目障りだと思うけれど、姫が作者の復活のために動くならば、従うまでだった。
姫が作者を復活させる目的は、延々と眠るため。
ならば眠り姫を守るものは、延々と姫の傍に居られるようになる。
あの頃よりもずっと思うままに動けるようになった荊は姫の代わりに武器を振るう。
直近の護衛を魔法人形に任せ、大口径をぶっ放し大剣をぶん回し大槌でぶん殴る。
屠る。屠る。屠る。イノチを奪う。
奪われるイノチの傍で姫は無垢な顔で微睡む。
荊は幸福だった。
幸福という感覚を、魔法の荊が知っているか定かではないけれど、それは確かに人間が言うところの幸福だった。
書架の森――ライブラリには他にもひとがいて、同じように作者の復活のために動いているようだった。
鉄のにおいが色濃い赤ずきん、独善的な正義を振るう白雪。
どれも歪な、とても歪な少女たちだった。
汚れない無垢は自分が守るこの姫くらいだと荊は思った。
思って、姫が汚れることのないようにと武器を持つ手に力を込めた。
守らねば。今度こそ、守り抜かねば――。
眠り続ける姫を守ること、姫の安眠を守ることこそ我が使命。
引き千切られ、磨り潰され、燃やされたとしても、この荊の揺り籠の中の少女の眠りを妨げてはならない。
頭の無い荊はもちろん話すことができない。だから黙って欲しい相手は力でもって黙らせる。
それで十分だった。
それが当然だった。
魔法の荊は少女の忠実にして誠実な騎士だった。
「おやすみなさい…………起こしたら、いばらの鞭で百叩きね……」
小さく欠伸をした少女が黒々とした荊の上で横になる。
しゅるしゅると幾重にも絡んだ荊を編み替え、少女を覆い隠す。
ぐるりと自分たちを取り囲んだナイトメアたちを前に、荊は武骨な武器を構えた。