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傲獅ハフメアのジョブストパロ(的な)

ノーマルは狩人姉貴固定だけどハードはPT自由に組めたので。

 

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荒れ果てた世界にぽつりと残された教会。その残骸の中に、男は遺されていた。否。男はそこに自らの意志で遺っていたのだろう。もはや守る必要もない小さな亡骸を、しかし守るために。

 

終ぞその願いは叶わなかった。平和な世は訪れなかった。戦禍が自ずから砂塵と瓦解するまで、人々の欲望と憤怒と憎悪は世界を荒らし続けた。だが、そんなことは、男には関係のない事だった。

 

男には主がいた。若く優しい主だった。主は平和な世を望んでいた。祖国、もとい自分の父親が放った戦乱の火を消し止めようと、そうして国を出た。長い長い旅の始まりだった。

 

100年と少しが経った。主に近付くすべてを退けながら、男は未だそこに留まっていた。錆を纏い劣化に蝕まれつつも主に寄り添い続ける男の前に、男と少年が現れる。「どうして私は守れなかった!」男だった殺戮兵器は軋む声で吠えた。

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主従に追いつく狩人姉貴(パラレルというかif世界線?)

 

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辿り着いたのは古びた教会だった。人の足が絶えてもう久しいと見えた。けれど狩人であった女は見逃さなかった。木々の葉が落ちた地面に残る、まだ新しい足跡を。その足跡を、女は辿ったのだ。

果たしてそこに仇はいた。およそ人とは思えない肌色の人型は、王国が用いた、忌まわしい機械兵のひとつに違いなかった。そして、その後ろ。機械兵が立ちはだかる後ろ。やはり古びた朗読台に、ひとりの少年がぐったりともたれかかっていた。年頃は、失った妹と同じか、少し上くらいだろうか。ボロボロの床に、半ば横になるかたちで背中を朗読台に預けている少年は、その身なりと滲む雰囲気から、恵まれた場所に生まれた人間だったであろうと思われた。

 

突き付けられた銃口の奥で厚手の上着が小さく上下しているのが見えた。くたびれたように見える銀糸から覗く肌色は、けして血色の良いものではなかった。ここで女が手を下さずとも、近いうちに少年が最期を迎えることは容易く察せられた。

小型剣を握る女の手に力が籠る。その人間の小さな変化に応じて、機械兵が撃鉄を倒した。そこで、「待って」と小さな声がした。掠れた声に、機械兵が背後へ視線を向ける。王子、と少年を呼ぶ機械音を、女は確かに聞いた。小型剣を握り締める女の視線の先で、少年が身体をずり起こそうとしている。ひゅうひゅうと乾いた呼吸をする身体を、当然のように機械兵が支える。伸びた前髪の隙間から、今なお意志を失わない眼が女を映した。「あなたは僕たちを殺したいのですか」と少年は訊いた。少年の問いに、女は小さく声を震わせた。

 

女は小型剣の切っ先を地面に向けていた。けれどその刃はいつでも奔り出せる。女の言葉を、少年は静かに聞いていた。そして、女が口を閉じたとき、少年は両の目蓋を閉じて、それで精一杯なのだろうけれど、小さく頭を下げた。髪が流れ、少年の表情が隠される。「本当に申し訳ない」と、血の通った人の言葉が聞こえた。「だから、はやく、戦争を止めるために、行かなければ」と、まるで民を思う王のような言葉が聞こえた。

志を果たそうと、立ち上がろうとする少年を機械兵が止める。少年は諦めていないようだったが、猶予が無さすぎることは、女の目にも明らかだった。同時に、機械兵ながら少年を案じる男に、やはり人の心を見た。そんな2人の姿は、まるで、仲の良い兄弟にも思えた。

 

ふざけるな、と女は喘いだ。ぐしゃり、と義手が色の抜けた髪を乱す。涙がこぼれ頬を濡らしていく。ふざけるな、どうして、おまえたちのせいでわたしは、わたしたちはすべてをうしなったのに、どうしていまさら、あなたたちのようなものにであうの。王国を許すことはできないけれど、王国の人間だからと平和を願うこの少年を切り捨てることは躊躇われた。機械兵の方だって、少年に待てと言われてからずっと、警戒はすれど攻撃してくる様子はない。

女の手から小型剣が滑り落ちる。年頃の女性が持つには、武骨すぎるひと振りだった。手袋に覆われた手と機械であることを隠そうともしない義手が女の顔を覆い隠す。「王国など嫌いだ!きらいだ……! なのに、どうして……!」とうとう地面に崩れ落ちた女は嗚咽を抑えきれなくなった。

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主従にお菓子を作ってくれるお姉ちゃん。檻(ケージ)空間にて。

参考: もっちりプリンケーキ!りんご🍎のファーブルトン by きゃらきゃら | レシピサイト Nadia | ナディア - プロの料理家のおいしいレシピ (oceans-nadia.com)

 

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食事風景に出くわす度にリンゴを食べているな、と女は思った。だからふと気になって2人に訊いてみたのだ。いつもそのまま食べているのか、と。そうしたら、案の定、そうだ、なんて当たって欲しくなかった予想通りの答えが返ってきた。だが考えてみれば仕方のないことだろう。片や(おそらく)温室育ちの元王子様。片や(元来)壊すことと殺すことが仕事である機械兵。おまけに調理器具の類が無い環境。それでも焼きリンゴやリンゴの擦りおろしくらいはできそうなものだが、彼らには及び至らぬ発想だったのだろう。「そうか……」と女は2人を憐憫の眼で見る。けれどそれに気付かない2人は女の反応に疑問符を浮かべるばかりだった。

 

「せっかくだから、リンゴを使った料理を教えてあげたら?」不意にかかった声は、やはりママのものだった。「おいしいリンゴを、もっとおいしく食べられたら素敵じゃない?」いつの間にか現れたママは、コロコロと笑う。確かに女は料理ができる。妹の母代わりをしていたのだから当然だ。けれどそれは、昔の話だ。もうずっとそんなことはしていない。だから、女はママの提案を断ろうと思った。けれど。「お気遣いありがとうございます。だけど、僕たちは今のままでも大丈夫ですよ」なんて背伸びしたような言葉が聞こえてきたから、少しやる気が出てしまったのだ。「そうだな……たまには、良いな。覚えて、自分たちで作って食べると良い」女はママの提案に頷いて答えた。

 

「髪を結べ!手を洗え!エプロンをしろ!」ママに借りた台所には大体の物が揃えられていた。そこで女は簡単なリンゴのプディングケーキを2人に教えることにした。初心者にはこのくらいのものが良いと考えてのことだった。実際その感覚は正しかった。リンゴの皮むきはお約束として、その実を適当な大きさに切るよう言えば、適当な大きさとはどのような大きさか、と返ってくる。とりあえず、食べやすい大きさだと返せば、機械兵は擦りおろしにも近い状態まで細分化して見せた。病人食を作っているんじゃないんだぞ、と女が呆れたのは言うまでもない。少年も少年で、薄力粉と強力粉、砂糖と塩を間違えると言ったお約束を披露してくれた。幸いにも少年が念のためにと女に確認を取ったおかげで被害は免れたが、容器のラベルに中身を書いておいてもらおう、と女は思った。

 

ボウルに量った薄力粉と砂糖と卵を入れてよく混ぜる。そうしたら、温めた牛乳をそこに少しずつ注いで、また混ぜる。バターを塗っておいた耐熱容器に、適当な大きさに切ったリンゴを入れる。混ぜたボウルの中身も、同じ耐熱容器に入れる。そして200度に予熱しておいたオーブンに入れて、50分。熱いまま食べても、冷やして食べても美味しい、リンゴのファーブルトンが出来上がる。

オーブンから漂う甘い匂いは台所を抜け出し、檻に広がっていった。それに誘われて、他の面々もいつの間にか台所にやって来ていた。ある者は茶屋に寄ったのだと団子を持参し、ある者は道中で汲んだのだと清水を持参し、またある者たちは合うと思ったのだと紅茶の茶葉を持ってきていた。そして、やや遅れて「いい匂い!」とまだ幼い少女が、黒い怪物と共に顔を覗かせる。

台所に集った人々を前に「みんなで食べましょうか」と少年が笑う。まったく幸福な風景だった。女は溜め息を吐いて、追加の分を作らないと足りないのだろうな、と思った。

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荒野を旅する三人(パラレルと言うかif(ry

 

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少年がメンテナンスをしよう、と言った。荒れ果てた地平に珍しい、緑に囲まれた湖のほとりでのことだった。男は少年の提案を受け入れ自身の電源を落とす。文字通り沈黙した男を前に、少年はひとつ大きく息を吐いた。それは、溜め息と言うにはあまりに重々しいものだった。少年の背が丸まる。けほり、と乾いた咳がこぼれた。痛みを堪えるように胸元の服を握り込む指先は小さく震えていた。

少年の背後で足音がした。瞬間、少年の身体が強張った。その足音は少年に近付いてくる。さくりさくりと草木を踏む足音は一定の間隔で、そして、穏やかなものだった。旅の中で幾度となく向けられた敵意や悪意の類を感じさせない気配に、少年は安堵の息を吐く。

 

緩慢に振り返る。そうすれば、やはりそこには義肢の女が立っていた。「僕にメンテナンスされるのは、やはり嫌ですか」と少年が額に薄っすらと汗を浮かべて訊く。女は少年の傍に膝を折りながら「診せても良いが、あいにく私はその男とは違う」と答えた。義手と義足以外は生身である女に、少年は「失礼しました」と眉を下げた。

「つらいか」と女は少年に訊く。その問いに、少年は女から視線を逸らして俯いた。「はい。少し」小さく丸まった背中へ女は手を伸ばす。少年が咳き込むたびに揺れる背中は、どうにも「少しつらい」ようには見えない。だからきっと、女は義手ではない方の手を少年の背に添えたのだ。

 

少年は女の前で旧い機械兵のメンテナンスをする。咳は落ち着いたけれど、疲れの色は未だ薄っすらとその顔に残っている。「もしもの時は、彼のことを、頼んでもいいですか」メンテナンスも終わりに差し掛かった頃、少年が言った。女は嫌そうな顔をした。「きっと僕は彼を残していってしまう。だから、その時はどうか彼をよろしくお願いします」女の反応に少年は眉尻を下げて笑う。「…………同じ墓に入れてやる……くらいなら、善処、する……」盛大なしかめっ面で、それだけ絞り出すように言った女に、少年は、やはり困ったような笑みを見せる。はは、と笑おうとした声が、ヒュウと引き攣った。

 

キュルリと視覚器が鳴る。ややあって視界が光や色を捉え、聴覚器が音を拾い始める。そうして男は目覚める。目の前には、主である少年の姿。「おはよう。調子はどう? 大丈夫そうかな」いつもと同じように、穏やかな顔をして少年は男に訊く。「問題ありません。良好です」礼を述べる男に少年は「良かった」と笑う。丁度その時、義肢の女が湖のほとりを歩いてくる姿が男の視界に入った。

戻って来た女は担いでいた麻袋を下ろしながら「明日、対岸の村に王国からの視察隊が来るらしい。どうする」と2人に訊いた。麻袋の中身は食料や薬、武器や機器の整備に使う消耗品だった。「そうですか……では、これから村へ行って、少し話をして、発ちましょう」杖を支えに少年が立ち上がる。その背を支える男は、おそらく少年に今しばらくの休息を促しているのだろう。そんな2人を、女はどこか痛みを堪えるような顔をして見ていた。

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まどろみのはなし(檻空間)

 

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少女は木陰で眠る女を見つけた。ママの部屋を訪れた時のことだった。

女は大きな木の幹に背中を預けて眠っていた。それは自体は特別なことではない。少女と女に限らず、檻内で時々見かけたり見られる風景だ。穏やかな場面に遭遇した少女は、そしてふと何かを思い出したようにママの部屋にある扉の一つへ小走りで向かっていった。

少女はママの部屋から借りた薄手の毛布を抱えて女の元へ戻ってきた。昔、両親がそうしてくれたように、眠る女に毛布をかけてあげようと思ったのだ。女はよく眠っているようだった。少女が近付いても目覚める気配がない。少女も、少女なりに女を起こさないよう、静かに気を付けながら毛布を広げて女の身体にかけようとする。そこで、少女は女の寝顔が険しいものであることに気付いた。小さな呻き声に混じって、女の子の名前のようなものも聞こえた。少女は眉尻を下げる。

義肢の女にそっと毛布がかけられる。そして色の抜けた髪を、小さな手が撫でた。小さく、やわらかく、あたたかな手だった。

 

はらはらと赤く染まった葉が落ちる檻の中で少年は眠っていた。散歩中に休憩として足を止めて、そこで睡魔に襲われたのだった。珍しく単独で他所の檻に来た少年を起こす者はいない。また記憶の修復も終えられた檻の中は穏やかで、少年は紅葉に埋もれていく。少年についてきたオトモが、その眠りを見守っていた。

少年の帰りが遅いと、様子を見に来た男は赤い落ち葉の山を視認して小走りになる。小山の傍に、少年の傍に居るはずのオトモを見て、胸部の機関が一瞬停止したような感覚を覚える。「まさか」と「ありえない」が回路を巡る。だって「ここ」は安全で、少年を脅かすものは排除されているはずで、だから、それは杞憂に過ぎない、と。けれど、落ち葉を除けて少年の様子を確認する男の手は微かに震えた。体温も、呼吸も、脈も、正常だ。判っている。わかっていた。それでも、目蓋を閉じてわずかにも動かない少年の姿は男の胸部を軋ませた。普段銃火器を扱う手が、少年の身体をすくい上げる。

少年を抱えて帰路に就く男の前方から、この檻の記憶を担う夫婦が歩いてくる。夫婦は2人の姿に幼い迷子の兄弟を見た。一瞬顔を見合わせる。そして、「どうしたの」と優しい笑みを浮かべて、まずは「母親」が声をかけた。

 

 

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