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 若い女性が多い店内の片隅。そこに、周囲の客たちが頼んでいるものよりも大きなパフェを囲んでいる男性が、三人。スプーン片手に談笑しながら、紅白の山を崩していた。

 会話の内容からして大学生ふたりと社会人ひとりらしい。彼らは前々から気になっていたこの店に、休日を利用して訪れていた。その言い出しっぺは最年長であった。彼がちょいちょいと年の離れた親友の袖を引っ張って誘ったのである。気になっている相手からの、願ってもないお誘いに若人が二つ返事で了承したことは言うまでもない。妹に微笑ましく苦笑される程度に浮足立っていた。

 そしてもうひとりの大学生。こちらは単独で店に来ていたのだが、入店前に店先でふたりとばったり出くわしたのだ。奇しくも若人の親友の兄であるこの青年とは二者共に面識があった。そうして、どうせならと同席することに相成ったのである。悪意のない好意に、親友――当人はそれ以上だと思われたい――は涙目になる。青年へ悪い印象が無い分、余計に視界が滲む気がする。青年の方もそれを察して、その肩をポンと叩いてやった。

 気を取り直して入店し、この年長者が何を頼むのかと思えばデカいパフェであった。そのパフェの小さいものを頼もうと思っていた青年はもしよければ少しもらってもいいかと彼に訊いた。すると彼は笑顔でもって答えてくれた。

「ああ、もちろん。というか、ぜひ。大きなパフェを複数人と食べるというのを、一度やってみたかったんだ」

いいよな、と伺いを立てられた親友はブンブンと首を縦に振る。カワイイという言葉が、でかでかとその整った顔に浮かんでいるのを、青年は見ていた。

 斯くて、運ばれてきたパフェを三人でつついているところである。ほぼペースを変えずに平らげていく彼を見る青年の眼は微かに丸い。

「あぁ、トキは知らなかったか? 大の甘党なんだよ、シュウ。あんまそんなイメージ無いけど」

そんな青年の様子に気付いたらしい親友がこっそり小声で教えてくれる。

「本人は隠してるつもり無いらしいけど、知ってる人は少ないと思う。まぁ、今日のためにちょっと我慢してたらしいから最近はもっと判りにくかったと思うけどな」

「いや……あぁ、そうだな……自分も結構な甘党だと思っていた分、少し、驚きだ」

「だろ? おれも最初は驚いた。ちょっとな」

ニシシと白い歯を見せる弟の親友に、青年は口元を綻ばせた。親しいひとでなければ知らない秘密を自慢できることが嬉しいという気持ちはよくわかる。同時にこの若者が年の割に甘酸っぱい恋をしているのだと再確認できて、余計微笑ましい。相手はこの好意を親友からのものだと、勘違いしているようだが、そこもまた微笑ましい。スプーンを片手に珈琲を口に含みながら青年は笑む。ひとが悪いと言われそうだが、ひとの恋路は見ていて楽しいのだから仕方ない。

 白い生クリームがやわらかそうな赤い口内に消えていく。指で摘ままれて齧られる赤いイチゴの瑞々しさに視線がつられる。僅かに目元を染め、嬉しそうに甘味を頬張る姿に思わず見とれる。普段は落ち着いた光を灯す紅色の双眸が、キラキラと輝いて見えた。

 甘いもの好きのふたりが、幸せそうにパフェを食べ進めていく様子を眺める。

「――? どうした、レイ。何か良いことでもあったか?」

頬杖をついてふたりを眺めていた親友に彼が小首を傾げて訊いた。その顔は、相手の表情につられてだろう、やわらかい。パフェを彩るイチゴよりも淡く優しい紅と、それよりも濃く若々しい赤が絡んだ。かち合うふたつのあかの様子を、涼やかな青がチラリと盗み見る。

「ああ。まあ、な。うん……あんたが、すごい可愛い顔してるからさ、今日この店に来れて良かったって、思って」

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