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海外の人々はお酒に滅法強いものだと思っていたが、案外そうでもないらしい。

否、もしかしたらこれが彼の素なのかもしれない。多くの他人と接する仕事柄、お客様に失礼のないように振る舞うということは少なからず自分を押し殺すということで、彼の素を自分たちが知らなかっただけなのだ。とノボリはウーロン茶の入ったグラスを片手に海外から研修に来た後輩をちらりと見やった。

仕事帰りである。

制服そのままにサブウェイマスターの二人と海外から研修に来た二人――カポメトロの二人の計四人は居酒屋にて飲んでいた。流石に慣れているのかカポメトロの二人は目立って酔った様子もなく飲んでいる、が、心なしか、黒い方――つまりアンディのテンションがいつもより高くなっている気がする。

「トーン!貴方もお飲みなさい!」

「うわわわわ、アンディ飲み過ぎだよぉ」

「だいじょーぶ!だいじょーぶ!ほら、トーンもっと飲もー!」

あぁ、トーン様。申し訳ございません。クダリもアルコールが入るとテンションが上がる性質なので御座います。

「ちょ、クダリ、やめっ、の、ノボリっ、助け、」

アルコールが入っても通常時と変わりないのはトーン様だけのようですね(本日私はお酒を飲んでおりません)。

「こらクダリ、おやめなさい」

「んふふーノボリが言うならやめるー」

この酔いどれめ。にへらと笑う弟を引っぺがして溜め息をつく。明日のクダリは使い物にならないでしょうね。

「…申し訳ございません、トーン様」

「ううん。いいの。こっちもごめんね? でもアンディ、実はこっちの方が普通に近い」

普通はもうちょっと扱いやすいけどね?と頬を掻く彼の話によると、やはりアンディ様は本来よく笑いよくしゃべる方だそうだ。しかし生来のシャイな性格と仕事のイメージ柄、多くを語らない、表情の起伏が少ない方だと誤解をうけているらしい。……なんとなくわかるような気がする。

「みんな、あんまりこのこと知らない。たぶん、メトロのひとたちもあんまり知らない」

「ほぅ…それは、光栄に御座います」

「ふふふっアンディかわいい!」

確かに、無邪気な子供のような無垢な笑顔を浮かべる彼の兄は小動物のようでかわいらしい。

「しかし、私は業務をこなしているアンディ様も好きですよ?」

というか、カポメトロのお二人が可愛らしくて好きなのですが。一生懸命業務をこなす姿やお互いを尊重、助け、支え合う姿勢。休憩中の何気ない会話に見られる純粋な感情。どれも微笑ましく、応援したくなるのだ。そういう点では彼らによく慕われているメトロマイスターの二人が少し羨ましい。

「だめ! アンディぼくの!」

「いえ、恋愛感情ではないのでご心配なく」

頬を膨らませるトーン様に、言いながら運ばれてきたおつまみのチーズを回す。

「しかし!わたしの!シャンデラが一番愛らしく美しいです!」

「んー!僕のデンチュラの方がかわいいよ!青い目綺麗だし!」

「ならばシャンデラのこの繊細な炎を!ご覧ください!」

「デンチュラの!キレのある!綺麗な!電撃!見てよ!」

何やら盛り上がっている二人の方を見れば、どうやらポケモン自慢をしているらしく、普通のトレーナーではついてこれないような内容が飛び交っていて周囲のトレーナーが一歩引いていた。

「シャンデラの!特攻種族値は145!虫・電気で炎タイプの攻撃でダメージ2倍になり、特防の種族値が60で半分以下のデンチュラなど敵ではありません!」

「甘いよ!アンディ!たしかにデンチュラは耐久型じゃない!だけどシャンデラの素早さ種族値80に対してデンチュラの素早さ種族値は108!そして特攻は97!これで先手を取れればこっちにだって勝機はある!」

「ふふふ、たしかにシャンデラの素早さはそこまで高くありません…しかし防御、特防ともに種族値は90!1ターンでも凌げればあとはこちらのものです!」

種族値だの耐久型だの…あなたたち公衆の面前で廃人さらしてどうするんですか。

「あの、お二人、もう少し自重してくださいまし…」

「あ、ノボリもする?ポケモン自慢!」

「自覚があるなら自重なさい!性質が悪すぎます!!」

「ご安心くださいノボリ様。わたしは安全運転しております」

「いやいやいや。アンディ危ないよ?脱線フラグ半端ないよ?」

さり気なくトーン様がアンディ様のグラスを退かし、お冷を置く。よくできた弟様ですね。

「ノボリ様も!シャンデラの良さが!わかりますでしょう?!」

「え、えぇ…」

こちらがわたしのシャンデラです、とお冷を片手に写真を見せてくださいました。

「!! ブラボー!!なんと!素晴らしい炎でしょう!!流石でございます!」

「ほらー!ノボリもするでしょー!トーンもしよー!!」

「え、ぼ、ぼくアーケオス派…」

「Σ(゚▽゚;)」

「クダリ様、ぼっちですねw」

「で、でも!デンチュラも好きだよ!うん!」

笑うともっと似ていますね。柔らかい混じりっ気のない笑顔が眩しいです。

私今、天使が二人ほど見えます。

「ノボリー!僕シングルじゃないよー!!」

「ふふふっ。カポメトロのお二人は本当に可愛らしいですねぇ…」

「ノボリー!!」

 

ウチのポケモンが一番可愛い!

(非の打ちどころなど何処に御座いましょう!)

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