「マフィアですか?」
「いいえ。違います」
アンディはよくマフィアに間違われる。確かに、黒を纏い凛々しくメトロロッタを総べる姿は畏れの対象にはなる。
しかしアンディは普通に己に与えられた業務をこなしているだけで、マフィアだとかコーザ・ノストラだとかの物騒な奴らとは一切関係のない一般人だ。そもそもアンディの性格はシャイであり武闘には向いていない。
「ねぇねぇアンディ、大丈夫? またマフィアって言われたの?」
パスタ伸びちゃうよ?と弟に言われてハ、とフォークを持ち直す。
「…えぇ、まぁ」隠しても無駄だろうと思い肯定する。そのついでに弟に訊いてみる。
「トーン、わたしはそんなにマフィアに属していそうですか?」
「んー…ぼくはアンディみたいなマフィアみたことないなぁ…」
だってアンディすっごい優しいしドジッ子!と弟は無邪気に笑う。訊く人を間違えたか。
「あ、でもね、本気のアンディは敵にしたくないかなぁ」
「それはわたしもですよ、トーン」
言いながら弟はマルゲリータに手を伸ばす。バジルの良い香りがふわりと広がる。
「でもさぁ、マフィアのカポと、ぼくらカポメトロのカポ、意味は一緒だよね」
「まぁ、組織の頂点には変わりないですからねぇ……」
「結構似てる、かもね。マフィアと」
もぐもぐとマルゲリータを頬張りつつ、トーンは別のピザに手を伸ばす。
「……否定は、出来ませんね」
複雑そうな顔をするアンディは時計に目をやる。12時45分。挑戦者の連絡は無くてもボスとしてそろそろ業務に戻らないとほかの鉄道員に迷惑をかけてしまうかもしれない。トーンに声をかけると了解の返事。
机に並べられた皿を見ると、その上には何も残っていなかった。コップに入っていた水を飲み干しハンカチで口元を拭う。
ハンガーにかけてあったコートを取り扉へ歩いていくとトーンが悪戯っぽく前へ回り込んできて跪いた。手を取り、甲に口付ける。さながら、ボスに忠誠を誓うメイドマンのように。小さなリップ音が部屋に響く。
「…トーン、」
「えへへ。アンディかわいい!」
してやったり、と言うように跪いたまま笑う弟に兄は一時思考を停止させて、それでも上体を礼をするように折り、そのやわらかい頬にお返しとばかりに不意打ちでキスを落とした。耳を赤くして、精一杯。シャイな彼にしたら上出来な方だ。
これは永遠に続く誓いなのです。
黒と白の誓い
(あなたにわたしの全てを預けましょう)