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……ほぼMH(ハンターさん)のターンになってしまった……_(:3 」∠ )_スマヌゥ…

小話もとい断片を集めた感じ_(:3 」∠ )_

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 ガチャガチャと身に纏うものを鳴らしながら走っている青年は狩人だった。

 ハンターである。依頼を受け、人々の生活を脅かす生き物を狩り、自然の均衡を保つ役割を負った人間である。依頼の中には代わりにキノコ狩りとか魚釣りに行って来てくれ、なんてものもあるけれど――まあ、むやみやたらと死体が増えてその肉を喰らう生き物たちが続々と増えるよりは調和のとれた選択であるから気にしない。

 また、生態調査も兼ねて天然の迷路と言っても良い広大な樹海へ赴くこともある。今のこのハンターが走っている場所である。

「あっ、トニーさん!どこ行くんですか!ダメですって! 撤退!撤退!!」

「旦那さんのサインですニャ。はいニャんですか旦那さん」

「今爆弾投げに行こうとしたでしょうトニーさん!撤退ですから……って筆頭オトモさんも!!」

「ボクを呼んだかニャ? せめて一矢……一槍入れないと気が済まないニャ?」

「アレに一矢でも一槍でも入ると思ったんですか!?」

ぴょんこぴょんこと駆けるオトモである獣人のアイルーと仲良く言い合いながら走るハンターは、決して弱くはない。未だ自身を駆け出しだの見習いだの言うが、大老殿に出入りする実力や実績は持っている。そんなハンターが、下位の探索で逃げの一手のみを取っている。当人が軽装であるから、そもそも戦闘をそこまで好まないから、と言う理由も当然あったが――それ以上に、相手が異常であったからだった。

 ギギギ、とハンターの防具とは違う金属のような音がする。そして空を震わせる咆哮は、やはり金属音めいていた。そこそこの柔軟性を持った金属の板が撓り軋むような音――声。時折飛来する火球自体は珍しいものではないから避けることに大した苦労はしない。けれど少なからずの恐怖は感じるので、ハンターは緩やかな丘陵を持つ広場をオトモと共に駆け抜けていく。チラと背後を確認すれば、普段ハンターが相対しているものと、かたちはよく似た、しかし有機物には見えない竜がいた。

 はじめて見る竜を撒き、無事到着できた探索終了地点から拠点であるバルバレへ戻ったハンターは集会所でギルドマスターに樹海で体験したことの報告をしていた。オトモ二匹はハンターの足元でゴロゴロじゃれ合っている。

「ふむ……それは何とも……既存種の変異種か、未知の竜か……わからないね……」

「全体的な姿?かたち?としてはリオレウスやリオレイアに似ていました。似ていたんですが、大きさは2倍から3倍はあるような印象を受けました」

「体色も黒っぽかったんだっけ? いや、黒と言うよりも鉄のよう、かな?」

「はい。なんて言えばいいか……こう、甲殻や堅殻に隙間があって、そこから筋繊維にしては太い筋?みたいなものが見えました。でもなんでしょう……血や粘膜で濡れてるって感じはしなくて、でも光は反射してて……あ、そういえば体表もなんだかテカテカしてました、砥石で研いだ大剣みたいに」

遠からず情報は開示されるだろうことから、世間話のように話すハンターとギルドマスターである。その自然過ぎる姿に立ち止まり、身を入れて話を聞いていく狩人の姿はない。けれど定位置から二人の会話をずっと聞いていた受付嬢はふと口を開いた。

「一応聞いておきますけど、鱗とか拾わなかったんですか?爪とかでも良いですけど」

言われ、困ったような表情を浮かべるハンターの人となりを受付嬢は知っている。現に、ハンターに訊いたその顔は、やわらかな悪戯っ子の笑顔になっていた。ギルドマスターが、ほっほっほ、と朗らかに笑いながらぷかぷか白い輪っかを宙に描く。そうして、面映ゆそうな顔をしていたハンターは、そこで何かを思い出したように顎に手を遣った。

「鱗……鱗の一枚……そうですね……そういえば、鱗らしい鱗は見かけなかったですね……」

「ブラキディオスのように?」

「ええ、ブラキディオスの黒曜甲みたいに、ツルッとして見えました」

火竜の姿に砕竜の覆いを持っているけれど、筋繊維は甲殻の合間から見える程度には露出している。どうにもわからないねとギルドマスターは指先で顎を撫でた。なぜ柔らかい場所を露出させているのか。生物ならば柔らかな肉は甲殻や鱗で守ろうとするはずである。まさか守るための部位が守る対象――例えば肘や膝と言った可動部――の動きを妨げるなんて進化の仕方はしないだろうし。ぽわ、とまた一つ白煙の輪が浮かぶ。

「まあ、とりあえずは様子見になると思うけれど……たぶん調査を頼むことになると思うから、その時はよろしく頼まれてくれるかい?」

「ええ。僕で良ければ」

 

 その日もハンターは探索に来ていた。上位の探索場だった。

 黒鉄の竜、と仮称されることになった竜の情報は程なくして開示され注意喚起がなされた。報告によると既に上位の狩場でも姿が確認されていると言う。更にその種類や個体も増えているらしく、そろそろ通常狩猟に支障が出かねないと言う状況だった。攻撃の威力自体は出現する場の狩猟対象とあまり変わりないが、装甲の硬さと体力の多さに、ほとんどの狩人は対象を退け切れていなかった。

 今回は戦闘を想定して、ハンターはアイテムもしっかりと持ち込んでの探索をしていた。しかし不思議なことに、準備をして来た日に限って相手に出くわさないのである。元から出現が予測され、狩猟許可も出ていた影蜘蛛や鎧竜を狩りながら進んでいく。今日の樹海は異常無し――ギルドマスターへの報告をそう考えていたハンターは、そこで不意に走り出したオトモの小さな背中を見た。向かっていく先には、樹海でも時々見かける、前文明の遺跡のような柱。

 不思議と今まで見かけたことのないその柱――のようなもの――は、やはり不思議と古い物だと言う印象を受けなかった。所々傷がついていたり少し錆びていたりするけれど、それは今を生きている、と思った。

 思いつつ、柱へ近付いていくと、一足先に駆け出していたオトモが徐に柱へ攻撃した。

「えっ。ちょ、なにしてるんですか」

「ニャにって、旦那さん、コレはとてもキナ臭いニャ。先手必勝ニャ」

「うーん、ギルバートさんのトレンドは回復のはずなのにどうしてそんなに血気盛んなんです?」

「私は血気盛んじゃないニャ。仕留められる時に仕留めるだけニャ」

声をかければ案外あっさりと手を止めてくれたオトモを抱き上げてやる。もう一匹のオトモ――筆頭オトモは頭を低くして、威嚇の格好をしていた。

「……それで、筆頭オトモさんもこの柱が気になるんですか?」

「旦那さんは臭わないニャ?」

「におい……?」

「くろがねのと同じ臭いがするニャ」

「くろがねのよりは臭くニャいけど、近い臭いニャ」

口々にそう言われ、へぇ――と柱を仰ごうとした、その時、背後で轟と乱れる風の音と軋み擦れ合う金属の音がした。

「――ッ、」

風に乾き細まる目を腕で庇いながら振り向くと、そこにはやはり黒鉄の竜が舞い降りて来ていた。

 腕の中に居たオトモが主の手を踏み台に軽く跳び、シュタッと地面に着地する。自然、その立ち位置は主であるハンターよりも前で、ハンターを守るようにも見える。筆頭オトモもその隣に立ち、武器を構える。ハンターもハンターで、無理はダメですよ、なんて呑気に言いながら武器を構えた。冷たい青味を帯びた爆破の操虫棍が、静かに未知の獲物を視ている。

 けれど、そこで、ハンターが操虫棍を振り腕に留まらせていた猟虫を飛ばそうとしたところで、ズシンと背後が揺れた。そして、ぎゅうと身体が締め付けられる感覚。ふわりとハンターの足が地面から離れた。うわぁ、とどこか緊張感の無い悲鳴。

「旦那さん!」

どちらともなく叫んだオトモたちが急いでハンターの足に飛びついてその身体をよじ登っていく。対するハンターは猟虫を頭に移動させ、操虫棍を抱えるようにして守っていた。防具を傷つけたり変に歪めたりしないよう、無駄にじたばたと動きはせず、高くなっていく視線に息を呑んでいた。そして、そうしてジッとしていると、視界がぐわんと上下に揺れて、ガションと硬い物同士がぶつかったような音がした。ハンターはその理由を――黒鉄の竜が大きな拳にぶん殴られる様を、その目で目撃した。

 殴り落された竜は怒りを露わにハンターたちの方を見ながら体勢を立て直そうとしている。その隙を、ハンターたちを捕まえたものが逃すわけもなく、ズシンズシンと大地を揺らしながら走り出した。踵を返されたことで、ぐぅん、と回った視界、振り回される身体にフッと意識が薄まる。

 かっこよくないなぁ、とハンターは思っていた。結局あの場は探索終了地点に近く、自分を捕まえたひとに任せて黒鉄の竜を撒いてから来たのだけど、結局自分は何もしていないし、かっこよくないな、とハンターは少々傷付いていたのである。華麗な狩猟ができるまではまだ時間がかかるだろうが、ハンターも男なので小さくとも良いかっこしいのプライドは持っていたのである。けれど当然そんなハンターの複雑な男心など知らない客人――ハンターたちを鷲掴んで運んでくれたひと――は実直そうな眼にハンターたちを捉えたまま、首を傾げる。

「……少々訊きたいことがあるのだが、良いだろうか」

大きい。やはり改めて見ても大きい。鎧竜くらいはあるだろうかなんて考えていたハンターの前に、ズイと目や鼻や口のある顔が下りて来る。淡く光を灯す青の双眸は、原生林の豊かな青を思い出させた。

「……まずは、そうだな……まさかとは思うが、君は先程あの敵と戦おうとしていたのか?」

低く、思慮深さを表すような声が、ハンターに訊く。ハンターは、当然で自然なことだと言う風に頷いた。

「ええ。まあ、そのために来たようなものですから」

「あの小さなネコのようなものと共にか?」

ネコ、と鸚鵡返しをしたハンターに、相手は視線で山菜爺さんと何やら交換をしているオトモたちを示した。ちなみに、探索終了の報せはまだ出していない。

「共に狩りをする仲ですから、そうですね。頼りになるんですよ」

あんなに小さな生き物を、とその相手は思った。思ったけれど、当の小さな生き物も目の前の人間も納得して、それが当然だと言わんばかりだったので言葉を呑み下す。何より、自分たちの知らない異文化にとやかく言うものではないと判断したからだった。それに、足を小突かれた時、確かに地味に痛かったから、それなりの攻撃力はあるのだろう。人間のそれとは異なる頭脳回路をぐるりと回し、話題を変える。

「……そういえば、自己紹介がまだだったな」

自分たちのような異種生命体と出会っても大した動揺を見せない青年を、未だ微かに警戒しながら、大きな人型の鉄は名乗りを上げる。現地の人間と対話ができるなら、この状況下でも希望は持てるだろう、と。

 

 未知の樹海からハンターが連れ帰った未知の人型は、発見者であるハンターが所属しているからと言う軽い理由で我らの団の預かりとなっていた。

 最初に出会った赤と青の司令官は、あの自己紹介の後、技術兵と軍医を呼んでくると言って、実際に二つの大きな人型を連れて戻って来た。話によるとまだ仲間がいるらしいが、逸れてしまっているのだとか。その時は早く会えると良いですね、なんてハンターは言ったが、後日探索に向かったところでノラオトモと戯れている、見るからに彼らのお仲間な人型と出くわしたのだった。放置するわけにもいかず、その都度ノラオトモを雇用するように連れ帰っているが、あと何人いるのだろう。ついでに、雰囲気が比較的穏やかな人型の目が青で、剣呑な人型の目が赤なのは何なのだろうと思っている。だが、思っているだけで、深くは気にしてない。ハンターと言う青年はそういう人間なのである。樹海から帰る出発間近の荷車の横で人型が荷車に似ているような自動荷車に変身しても、わぁすごいですねぇ、と感嘆して済ませる人間なのである。

 そうして着々と増えていく新入りたちは、その体躯の大きさから各村には入らず、村の傍で固まって野営してくれと言い渡されていた。当然の配慮と言えた。それでも、団員たちは入れ替わり立ち代わりやって来るから、村の内外と言う差は無いようなものだった。

 さてまずこの新入りたちもとい司令官たちはどうやら別の世界から来てしまったようであった。スペースブリッジとやらの暴走だか爆発だかに巻き込まれ、その衝撃で歪んだ次元の狭間を越えてしまい、この世界に来たらしいという旨の話を、ハンターは聞いたままギルドマスターへ報告した。ハンター自身はよく理解していないだろう。害意や敵意が無いと判断──正に野生の勘と言えるだろう──され、そんなこんなで司令官たちは客人と言う立場に落ち着いたのである。

 同時に、司令官たちには活動のためのエネルギーが必要なのであった。ハンターや我らの団たちに異世界の事情を教えられ、また軽く身体を動かす程度だが、保有残量が半分になった辺りで、念のためにそれを申し出たのが、その日の昼頃。探索ではなく、狩猟依頼を受けて村を出ようとするハンターに声をかけると、一瞬キョトンと小首を傾げ、わかりましたと頷いて依頼へ赴いた。わかりましたと言われても、どうするつもりだろうと思っていたが、その夜帰って来たハンターが一度戻った私室から抱えてきた物を見て、ほう、と声を漏らす。

「色々見てもらうために清算するものも特別に持ち帰る許可もらってきました」

そんなことを言いながら、ハンターは抱えていた物をゴロゴロと焚き火の周りに並べ始める。司令官たちが見やすいようにと気遣ったようだった。

 採取しやすい鉄鉱石やマカライト鉱石、ドラグライト鉱石にレビテライト鉱石、カブレライト鉱石をはじめとして、エルトライト鉱石、ユニオン鉱石、メランジェ鉱石、紅蓮石、真紅蓮石、獄炎石、鎧石が並べられていく。その傍には大地の結晶、天空の結晶、星石の結晶が置かれた。そうして腕が空いたと思えば、今度はポーチからまた色々と出し始めるのである。ポーチから取り出される分が、許可をもらったという清算アイテムたちらしい。化石骨や硫黄結晶、竜骨結晶、垂皮油、血石、更にはどうやって持って来たのか熱石炭や火薬岩の欠片と言った品揃えである。見本の一つずつとは言え、よくもこんなに抱えてきたものだ、と大きな人型たちは思った。

 ハンターは周囲の様子に頓着せず、いつもの調子で口を開く。

「今のところ、一番エネルギー源として期待ができるのはこの結晶辺りかな、と僕たちは思ってるんですよ」

大地の結晶がある辺りを指差してハンターは言う。

「と言うか、これらの結晶が一番質の良いエネルギーを精製できそうなんです。たぶん元が生き物の遺骸だからでしょうね。他者の命を自分の命の糧にする、道理には適っています。まぁ、それが皆さんに当てはまるかって言うのは僕にはまだ判りませんし、エネルギーにできるのかも――他の鉱石と一緒に、実際に精製して、皆さんが使えるか試してみてもらわないと何とも言えませんけど」

「ふむ……一通り試す価値はあるだろう。緩やかに朽ちるつもりはない。それで……精製する設備はあるのか?」

興味深そうに天空の結晶を眺めていた軍医が訊いた。

「とりあえず試作設備は加工屋さんとナグリ村の職人さんと、14代目にも協力してもらって、ナグリ村に用意してもらいました」

軍医の問いに、頷きながら答えたハンターが挙げた村の名前に、あぁあそこか、と技術兵たちは排気した。火山や真っ赤なマグマと共に生きる土竜族の村である。加工屋と言うのは我らの団の寡黙な男性だろう。14代目は――シナト村と言う高地の村にいる、錬金屋だったか。司令官たちは未だ実際に会ったことはなかった。とかく、各地の技術屋を集めて試行錯誤してくれていたらしい。素直な、感嘆と感謝の言葉が述べられる。

「皆さんが生きるために、出来得ることをするまでです。あ、それとついでに皆さんの武器も点検してもらいましょう」

あくまで朗らかにハンターは言う。物騒だとか言う者はいなかった。元の形よりも幾分か重装備になった得物を、各々がそっと撫でた。

 異世界から来た彼らの武器をハンターたちの世界に合ったものにしたのは、やはり加工屋やナグリ村の職人たちだった。もちろん人や生き物に向けるには威力は高すぎるのだが、件の黒鉄の竜を相手取るには力不足だった。厄介になるからには出来ることを協力したいと申し出、試しに探索へ行った際にわかったことである。同時に、彼らと黒鉄の竜たちは丁度ハンターたちとモンスターたちの関係に当てはめても違和感が無いことも。ハンターとモンスターのように調和と共存を目指す関係かどうかまではわからないけれど、狩って狩られると言う図に置くことが自然かもしれないと言う、ギルドマスターたち上役の見解だった。実際にそれぞれの出現時期はほぼ同時であった。

 

 黒鉄の竜は異世界からの客人に合わせて姿を現すことが多かった。通常の狩猟依頼を受注しても、彼らと一緒に行くと黒鉄の竜が乱入することが多々あったのである。数度の遭遇で、これは自分たちが相手をするべきモノであると認識していた司令官たちは、危険だから自分たちの狩猟――司令官らも狩人社会に従い、世話になる以上はと情報収集も兼ねて狩りに出ているのである――に同行してくれなくて良いとハンターに言った。言ったのだが、ハンターは通常のモンスターよりも装甲が硬く体力が多くて少しだけ攻撃の威力があるだけで行動パターン等は変わりないから大丈夫だと笑った。加えて、できるなら自分も戦ってみたいなんて言うものだから、異世界からの客人たちは呆れたものである。我らの団の団長は笑って済ませるし、看板娘が是非特徴や動きを教えてくださいと訴える姿にも、何を考えているんだと思った。

 しかし未だ不慣れな狩猟生活でハンターに助けられている事実は大きく、今日も黄金色が眩しい平原へ共に訪れていた。人間用のベースキャンプに入れない同行者には、近くに簡易的なキャンプが用意されていた。そこからフィールドへ向かいハンターと合流するのである。

 草食竜だけがその姿を見せるエリアで落ち合ったハンターは、何と言うか、いつにも増して笑顔だった。

「な、なんか良いことでもあったのか?」

「どちらかと言えば、良いことがある、ですね。ふふ。今回も頑張りましょうね、みなさん」

「は? あ、あぁ、まぁ……」

「……<私たちにとって><も><良いこと><だと良いけど!>」

将校が笑顔の理由を訊いても、ハンターは上機嫌に言葉を返すだけだった。けれど悪い意味での裏があると言う雰囲気ではなかったから、結局それ以上訊くことをやめた。そういえば狩猟に出かける際、技術兵や軍医の視線が心なしか哀れみを帯びていた気がする。先にこのクエストを受けていたのだったか。内容を聞いておけばよかったかな、と今更ながらに思った。斥候がペチペチと自分の頬を両手で叩いた。

「えぇと、今回もきっといつもの乱入があるはずなので、そちらも狩ります。と言うよりも、みなさんのメインターゲットはそちらになるので、本クエストのターゲットは僕に任せてください」

不思議なことに――否、ある種当然のことなのだろう――司令官や将校たちと共に依頼に赴くと、メインターゲットと同じかたちをした黒鉄の竜が現れる。ギルドでは通常のメインターゲットに加えて、それらの黒鉄も狩って依頼完了とすることにしていた。もちろん彼らと狩猟へ赴かなければそのようなことは無い。極稀の黒鉄たちの乱入に出くわしても失敗とは扱われないようになっている。たぶん、我らの団のハンターが、現状黒鉄の竜たちと最も多く接触した人間のハンターだろう。大きく武骨な大剣を背負ったハンターは事も無げに続ける。

「今回のターゲットは轟竜ティガレックスとその黒鉄――機巧轟竜ティガレックスです。行動パターンや攻撃動作はどちらも同じだと思うので、まずは尻尾を落として、次にサブターゲットになってる爪を壊して報酬の確保を。余裕があれば頭部の部位破壊をするという流れで良いと思います。切った尻尾の剥ぎ取り忘れに注意してくださいね」

「頭部……って、真正面から突っ込んでくのか?」

「こちらが突っ込んでいかなくても向こうから来るのでそんなに動かなくて良いと思いますよ」

「ニャ。ティガレックスは突進と身体のぶん回しと岩飛ばしに注意するニャ」

歩きながら話をしていたハンターたちに、オトモが割り込んだ。その割り込みに、そうそう、とハンターは頷く。

「そうですね。デンカさんの言う通りです。あとは飛び掛かってくるのと、咆哮はかなりうるさいので気を付けてください」

「距離をとるか、盾持ちはガードして対処するニャ。ティガレックスの咆哮は、痛いニャ」

「サウンドウェーブ、気を付けといた方が良いんじゃないか?」

「俺の心配ではなく自分のことを心配したらどうだ、将校殿?」

「<って言うか><どうして><ラヴィッジ><いるの?>」

それまでごく自然に一行の一部として馴染んでいた金属の黒豹――と、その背に乗っているオトモ二匹へ斥候がツッコミを入れた。

「この世界で言う、オトモだ。ドローンはオトモとしてフィールドに出られるという許可が出されている」

鳥型のドローンはあの航空参謀が余計なことをしないよう、監視役として置いてきたと情報参謀は排気しながら答えた。件の黒豹の上の猫獣人は何やらオトモとしてハンターをサポートする動きや罠の設置法を話していた。今日のトレンドはアシストなのだとハンターがニコニコしていた。

 岩山――と言うよりも、大きな岩が段々に切り立った崖の横っ腹へ続く穴があるせいか、土よりも岩でできている印象の、段差のあるエリアへ踏み入れると、そこには露草の散った山吹色の竜がいた。

「あれがティガレックスです。僕がちょっと行ってくるので、みなさんは動きの把握をしてください。あと、向かって来た時の迎撃も。それで、筆頭オトモさん、みなさんについててもらえますか?」

「ニャ……ニャニャ。仕方ないニャ。筆頭オトモであるボクが、お客さんたちに、こと細かにティガレックスの解説とアドバイスをしてやるニャ」

待機を言われ、刹那呆然とハンターを見上げた筆頭オトモは、けれどその意図を瞬時に汲んだらしく、ニヤリと笑って胸を張る。黒豹の背の上、筆頭オトモの後ろに乗っていたオトモが、身軽に地面に降り立つ。

「ひとりで大変だとは思いますが、頼みますね、デンカさん」

「ひとりでもハンターをアシストできてこそ一人前のオトモだニャ」

「うニャ。下位とは言え、油断なく旦那さんをしっかりアシストさせてもらうニャ」

最後にアイコンタクトをひとつして、一人と一匹は今ようやく侵入者に気付いた轟竜の方へ駆け出して行った。

 轟竜の討伐にさして時間はかからなかった。自分で言っていた通り、ハンターはまず轟竜の尾を切り落とし、その攻撃範囲を削った。そして何度か撥ね飛ばされつつも頭部に損傷を負わせ、うっかり岩に当たりながらも爪を壊してダメージを蓄積させていった。途中、筆頭オトモが、やっぱり旦那さんにはボクらがいなきゃダメだニャ、なんて独り言ちていた。そんな筆頭オトモのことなどいざ知らず、当のハンターは討伐した轟竜を背景にいい汗かいたと額を拭っている。切り落とした尾も含め、いつもより手早い剥ぎ取りは高速収集の賜物だろう。皆さんもどうぞ、と勧められた剥ぎ取りをしていると、離れた場所に重量のある何かが着地する音が聞こえた。それまで吹いていた風とは方向の違う風が流れた。来ましたねとハンターが笑みを浮かべる。

 赤っぽい岩が露出した、ひらひらと散る落葉が風情を見せる場所に、機巧の轟竜はいた。

「見たところガードできる武器種はいないようなので、無茶はしないでくださいね」

「……まあ、そうだな。キミほどの無茶はできなさそうだから、その辺は気を付けるよ」

「そうだニャ。旦那さんみたいに真正面から突っ込んでくのは危ないニャ」

「うっ……耳が痛い……いや、ツイ、ですね……」

「――おい、気付かれたぞ」

情報参謀が一行に頭部を向けた機巧轟竜を指す。ゆっくりと歩いていた足を止め、前足で地を捉える。その動作は先程ハンターが勝利した轟竜が、狩人を視認した際にもしていたもの。

「あぁ……じゃあ、みなさん頑張ってください。僕はなるべく邪魔にならないようにしてます」

そう言って、ハンターは岩山へ続く道に近い場所まで走っていった。標的の視界から外れたのである。

 そして――轟音。

 轟音だった。通常種と同じように鋭い牙が並んだ上下の顎を開き、空に向かって咆えた――咆哮は、轟音となって周囲の落ち葉や砂利を吹き飛ばした。カンッコンッと小石なんかが装甲に当たる音がする。ビリビリ震える空気を感じながら、やっぱり咆哮も大きいですねぇ、なんてハンターが独り言ちた。

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力尽きた_(:3)∠)_

 

この後狩猟は無事成功しました。クエストは「愛と恐怖のティガレックス」のつもりでした。駆け出し狩人なら順当に下位クエかな、と。人選は気付いたらこうなってました。たぶん斥候くんと将校さんが双剣で情報参謀が軽弩。

上位解放クエの報酬受け取りでウィトウィッキーくんと合流(斥候くん参加報酬・初回のみ)とかG級解放クエの報酬受け取りでレノックス氏と合流(技術兵さん参加報酬・初回のみ)とか考えt……力尽き……_:(´ཀ`) ∠):_ …

 

設定メモ

・TF仕様のモンスター(黒鉄の竜)はモンスターが機械化したような姿。そのモンスターのクエストを受けてTFたちと一緒に行くと現れる。メインターゲットと同じく狩らないと成功にならない。変形、変身はしない。

・行動や攻撃パターンは同じだけど身体の大きさと体力が倍近いので人の手で削り切るには骨が折れる。あくまでTF仕様。与えるダメージがやや減るが、ハンターの武器も通じる。TFたちは狩り用に武器を改造してもらっている。

・黒鉄の竜は基本的に黒や銀の金属色そのまま。発光部分がある場合は元になったモンスターの基調色で光る。亜種や希少種を模したものは黒や銀の装甲にそれらの色が模様的に入る。

・古龍種、超大型モンスターの黒鉄は見つかっていない。

 

ハンターさん・オトモのメモ

・ハンターさん…フツメン(TYPE1一式)の青年。狩りは好きと怖いが交互に半々くらい。割と脳筋。

・筆頭オトモ…旦那さんはボクら(オトモ)がいないとダメだニャ。

・トニー…トレンドはボマー。時々空気を読んだタル爆弾投擲をする。

・ギルバート…トレンドは回復。ターゲットには積極的に殴りかかっていく。

・デンカ…トレンドはアシスト。ターゲットの捕捉が得意。

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