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総司令の遺志を継いだ星と先生ちゃん、幼年期を始めた星と先生ちゃん。と新しいハンターくんの短い話。

メモ書きみたいな断片的な感じ。当然のようにハンソド(☆ソド)。

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助言者星と先生ちゃんと新しいハンターくん
 

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 ハンターは門をくぐる。何か大きな、モンスターの爪か牙、あるいはどこかの骨が、左右に立てられている。それが門のように見えるのだ。
 そんな門をくぐり、この新大陸でハンターたちが活動の拠点とする「調査拠点」に足を踏み入れる。
 閑散とした拠点は、しかしそれなりの規模があり、かつては多くの調査員たちで賑わっていたことが容易に想像できる。空になった籠、底を晒している箱、打ち捨てられた朽ちた素材たち。どこからか飛んできた落ち葉もそのまま。褪せた過去の日常。風や水と言った自然の力を動力源としているらしい、歯車だけが過去と変わらずに動き続けている。
 どうにも寂しさと空しさが込み上げてくる風景の拠点を進んで行くと、右手側に大きな机のあるエリアが現れた。机上に広がる書類や蝋燭、机の周りに置かれた幾つかの椅子から察するに、会議場だろうか。
 そこに、人影がひとつ。
 人影――男は、机上の書類を捲ったり裏返したりして、眺めていた。
 そして、ハンターに気付いて、伏せていた顔を上げた。
 「ああ、お前が新しい狩りびとか」
 初対面の相手にするには愛想の欠片も無い無表情で、男はハンターを見つめる。
 「ようこそ、アステラへ。調査が終わるまでの間とは言え、ここがお前の「帰る場所」になる」
 男の右腕は、やたらと防具で補強されていて――太腿の辺りが見えている脚も、右側が補強されている。怪我でもしていて、不自由なのだろうか、とハンターは思った。
 「俺は調査団の指揮をしている者だ。とはいえ、現状調査団は指揮を執れるような状況でもなくてな……助言者、と言うくらいが相応だな」
 調査団。しかし今に至るまでハンターは、確かに目の前の男以外の他者を見ていない。
 「……今は不安もあるだろうが、大丈夫だ。お前は、選ばれたのだから。調査をするために此処に来たんだろう? 此処での狩りも直に慣れる」
 言いながら、男――助言者は再び机上の書類に眼を向け、捲ったり裏返したりし始める。
 「知っての通り、ここは元々調査団の活動拠点だった。寝食はもちろん、狩りによって得る素材で武器や防具を生産し強化する……。人手は足りていないが、施設や設備はすべて自由に使ってくれて構わない」
 そこで、助言者はチラリとハンターを見た。
 「……お前さえよければ、そこの防具もな」
 そこの防具、と言われてハンターは周囲を見回した。そして助言者と机を挟んで対面している自分の左手側に、誰かが座っていることに気付いた。
 それはレイア装備だった。
 四つの期団旗が並べられている傍に置かれた椅子に、古めかしいレイア装備が座って――座らされて?――いた。
 調査団に参加するハンターの標準装備である導蟲の籠もスリンガーも見当たらないその装備は、間違いなく剣士とガンナーで防具が分けられた旧式の、現大陸仕様の剣士装備だった。
 大小様々な疵が見られるそれは、しかしハンターの生き様を映したようで美しい。
 これを使えと助言者は言った。つまり、これを装備しても良い、と言うことなのだろうか。
 見るからに数多の狩り場を越えて来た防具。これを自分が――。と、ハンターは畏怖と、しかし抑えきれない憧憬を胸にレイア装備をまじまじと見つめる。

***

 「よく来た。狩りびとよ」
 レイア装備が発した言葉にハンターは弾かれたようにそちらを見る。
 助言者と話し、拠点の周囲に広がる森はどのようなものかと探索に行ってきたハンターは、会議場から聞こえてきた声に肩を跳ねさせた。
 「某はここで、そなたの世話をするものだ」
 声に誘われるように、ハンターは会議場へ恐る恐る踏み入る。
 やはり、喋った。喋っている。声を発している。あの古びたレイア装備が。
 ただ椅子に在っただけの「防具」が。まるで人のように言葉を――言葉だけではない、窺うように小首を傾げてこちらを見てきている。動いている。
 「狩りびとよ。調査の結果を求めるのだ。某がそれを、普く結果を、そなたの力と成そう」
 朗々と話すレイア装備とは対照的に、驚きに動けないでいるハンターはただレイア装備の言葉を聞いていた。
 「モンスターを狩り……そして何よりも、そなたの目的のために……某を使うのだ、狩りびとよ」

 そこで、ふと、ハンターは助言者の姿が無いことに気付いた。
 助言者に、このレイア装備のことを訊こうと思ったのだが――。
 しかし先手を打つように、レイア装備が口を開く。それはまるで助言者を探すハンターの内面を、見透かしたような言葉だった。
 「総司令……助言者には会ったか? あの者は優れた狩りびと、そして狩りびとの支援者だ。今はもう曖昧で、姿が見えることも稀だが……それでも、ここに居るのだ」
 つまり、レイア装備曰く――どうやらあの助言者は見えずともここに居るらしい。
 「……それが、あの者の役目であるが故に……」
 ならば、呼べば現れてくれるのだろうか――そんなことを考えたハンターは、レイア装備の言葉を特に気にすることは無かった。

 ハンターはレイア装備の足元に調査員のメモを見つける。それも一つや二つではない。それなりの数のメモが、レイア装備の周りに残されている。
 ハンターにメモを見せようと紙片を差し出してくる使猫たちを一先ず無視して、ハンターはレイア装備に話しかけた。調査ポイントがそこそこ溜まったのだ。
 「ああ、小さな彼らは、彼らもまた調査団の仲間だ。そなたのような狩りびとを手伝い、慕い、従う……言葉は分からぬが、愛らしいものだ」
 話しかけられる直前まで、ハンターが足元の使猫を気にしていたからだろうか。そんなことを言って、フフフ、とレイア装備が静かに笑う。
 レイア装備の微笑ましげな様子に、ハンターは少しの気恥ずかしさを覚える。使猫のみならず、自分も気にかけられたような気がして――。

***

 工房から外に出て、長い階段を下りて来たハンターは見てしまう。会議場の片隅で、レイア装備の前で膝立ちになり、その胴に腕を回し、腹に顔を埋めている助言者の姿を。
 柔らかくはないだろうに、温もりもないだろうに、子供が親にするように、顔を防具の腹に押し付けている。
 平時の、ハンターが何を言っても動じない姿からは思いもよらない。
 対するレイア装備も当然のように助言者を受け入れている。
 それはやはりあのレイア装備が「そう作られた存在」であるから、だろうか。
 けれど、否、とハンターは自分の考えを否定する。
 だって二人の様子は――二人の周りに漂う空気感は、そんな無機質なものではない。
 助言者の髪を梳く指先には、背や頬を撫でる手には、確かに相手を気遣うこころが感じられる。
 中身が人かどうかも判らない「防具」にも関わらず――ハンターは、あのレイア装備に、助言者に対する「心」を感じ取ったのだ。
 そして、正面からレイア装備の腹に埋められていた助言者の顔が、横を向く。手すりの間から、目蓋を閉じた助言者の、どこか幼くも見える顔が見えた。それを、優しげに撫でる防具に包まれた指先もまた。
 ハンターは調査団について多くを知らない。新大陸についても、多くを知っているわけではない。しかしハンターは「知らない」ことを特に気にしていなかった。自分はハンターなのだから狩りをすれば良い、と。そう、思っている。
 思っていたけれど――今は。調査団や新大陸について、気になることが多くなっている。知りたい、否、知らなければならないことが、あるのではないか、とハンターは考え始めていた。
 あの人は、あの人たちは、何者なのだろう。
 会議場の片隅を凝視していたハンターの足が、古びた空籠を踏む。
 パキリ、と乾いた音がした。
 ハンターはハッとする。足元を見、そしてすぐに二人の方を見る。ふわりと助言者の姿が霧散していくところが見えた。その、時に。一瞬、助言者と眼が合った――ような気がした。
 「よく帰った、狩りびとよ」
 助言者の姿があった場所から目を離せないでいたハンターに、レイア装備が声をかける。いつもと変わらない、穏やかな声音。
 ハンターは踏み割ってしまった籠から足を退かして、レイア装備の前へ歩いていく。
 その眼の前まで来て、ハンターは今見たものについて触れるべきかどうかを考える。きっと、このレイア装備は何かしら答えてくれるだろう。
 けれど、ハンターの言葉を待つ様子が、常と変わらなくて――変わらなさ過ぎて。今さっき見たものは、本当に、自分はあの光景を見ていたのだろうか、と。
 結局、迷いに迷ってから、ハンターは口を開く。
 「承った。では、調査の結果をそなたのためにまとめよう。少し近付く故、目を閉じていてくれぬか」
 それは、いつもと変わらない、いつも通りの言葉だった。

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異形星と先生ちゃんと新しいハンターくん

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 ハンターは会議場の外に出ているレイア装備を目撃した。
 レイア装備がいつも座っている場所から離れること自体は、今までも複数回確認しているから驚くことではない。
 あのレイア装備は、時折椅子から立ち上がり会議場から出て、拠点のあちこちに転がる武具の掃除をしているのだ。
 そこかしこにある武具をどこかへ持っていくことはない。ただ、それ自体やその周囲を掃除しているのだ。とはいえ、拠点の規模に見合った数の武具が点在しているわけだから、その進み具合はあまり良いものではない。
 そして今日は――かつて生態研究所と呼ばれていた場所で、かつての調査員たちの名残を世話していたのだ。
 そこで、ハンターは、レイア装備の近くに見慣れない影があることに気付いてしまう。
 ふわふわと、レイア装備の周りを漂う、長い触手を持ったクラゲのような影。
 親アイルーに構ってもらおうと甘える子アイルーのように、くるりくるりとレイア装備の周りを漂っている。
 その姿を見て、ゾワリとハンターの背筋が粟立った。
 悪寒を感じて思わず立ち止まったハンターの足が、転がっていた空の小タルを蹴飛ばした。カラカラともコロコロともつかない、乾いた音が転がった。
 レイア装備の動きが停まり、音もなく立ち上がる。そしてレイア装備はハンターの方に向き直る。
 それに伴って、あのクラゲのような何かも、ハンターの方を向く。
 消える気配が――無い。
 つまり、やはり見間違いでも何でもないのだ。あの、クラゲは、確かにそこにいるのだ。
 じぃ、とクラゲもどきがハンターを真正面から見詰める。目のようなものは見当たらないけれど、頭部だと思われる部位が、ずっとハンターの方を向いているのだ。
 しかし、レイア装備はそれを気にしていない。
 首元や防具の部位に絡み触れる、半透明な触手が、見えていないのだろうか。
 ハンターは、恐る恐る口を開く。
 「よく帰った、狩りびとよ」
 けれど、それに対して返ってきた言葉は、常と変わらない――。
 その時のハンターには、レイア装備にその異形のことを訊くべきか否か、分からなかった。

 その後、ハンターはしばらく拠点内で「何か」からの視線を感じ、姿を見かけることになる。
 そしてHRの取引をする使猫や小さなレイア装備と、ある程度取引をした後には、あの異形の気配を感じなくなることにハンターが気付くのは、もう少し先のことだった。
 

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