「本官の興味を、引くようなモノを貴官がお持ちだと?」
─────。
ばしゃり。
「……た?…ぇ、…きた?」
薄暗く、湿っぽい部屋に水音と愉快そうな、しかしどこか仄暗い声が響く。
ばしゃり。
「ねぇ、起きた?」
二回目の水音の後。
「…ぅ、」
ようやく小さく声を漏らした眼下の軍人に、彼の部下だった青年は、満面の笑みで、声を再度かけた。
「やっと、起きてくれた」
おはよう?とあくまで親しく声をかけてくる青年に軍人は訝しげな眼差しを向ける。
「あは。やだなぁ。そんな怖い顔しないでよ」
水の入っていたバケツを放り投げてお互いの目の高さを合わせる。
「ねぇ貴方がここに来てから何日経ったと思う?」
「さて…五日程でしょうか」
「うん。五日。流石だね!」
五日。そう、五日である。軍人が、この窓一つない独房に繋がれて五日。
書斎で書類を片付けているときに賊が侵入してきて、応戦をして、と、そこで記憶は一旦途切れる。
次に意識が戻った時、身動きが取れず、また視界も奪われていた。
そこで頭をフル回転させる。自分の置かれた状況を把握するのに何時間とかからなかった。
まず、動きが取れないことと腕にかかる負担から、両腕を頭部よりも高い位置で縛られている。
そして膝から伝わる冷たく硬い感触から床は石で、湿っぽいにおいから、恐らくここは独房だろう。
やっぱりまだ狂ってないのかなぁ、と独り言ちる青年の声を聞かなかったことにして、軍人は尋ねる。
「…何が、目的ですか?」
「目的? そんなの決まってる。貴方だよ」
「わけが、わかりません」
しかし。おそらく。“これ”の首謀者はこの青年だろう。
「前。貴方言ったよね。ぼくに貴方の興味を引くモノがあるかって」
「ぼく、他人がどんなことに興味が引かれるのかよくわかんない」
「だから考えたんだ」
その、結論が。
「こっちに引き寄せちゃえばいいんじゃないかって」