やっぱり総司令の目が死んでそう(他人事)
---
調査団のトップは風来坊である。
未踏未開の場所が多い新大陸を、単身歩き回っている彼は、どの調査員よりも新大陸の自然に触れていると言っても過言ではないだろう。
故に彼が調査拠点に帰って来ることは稀である。帰って来ることが稀――と言うよりも、帰ってきている姿を見ることが稀である。
そして更に稀な光景が彼によってもたらされると、一部の調査員は彼の帰還をある種の運試しのように捉えていた。
彼は拠点に帰還すると、順番はその時々によるけれど、多くの場合食事場で食事をとって高台に向かい、しばらくしたら再度放浪へ赴く。
しかし時々、彼が司令エリアに足を向ける時があるのだ。
彼には好敵手が二人いる。ひとりは現大陸へ帰国していて、ひとりはまだこの新大陸に残留している。
「よう」
「……戻ったか」
「おう、戻ったぜ」
彼の好敵手は、基本的に司令エリアと呼ばれる会議場の片隅に居る。椅子に座って、静かに待機している。
冥灯龍に連なる古龍渡りの調査が一段落してからは、時折――それでも前線に最も近い――二等マイハウスで仮眠をとっていることもあるけれど。
拠点を空けがちな彼が好敵手のそんな変化に気付くのに同期や後輩の説明を要したことは想像に難くないだろう。
つまり、この好敵手二人が顔を合わせるのは存外珍しいことと言えるのである。
「コレやるよ。炎王龍みたいな赤色だろ?」
ポイ、と麻袋――のような袋――から取り出した赤い石を、彼は好敵手に抛る。
抛られた石を両手で受け止めて、彼の好敵手は僅かに肩を落として見せた。
「そなた……またか。何故、このような」
「なにゆえ、って……」
彼は好敵手に、外から帰ってきて顔を合わせる度にこのような、贈り物のようなことをしていた。
ある時は花。ある時は羽。ある時は、今回のような石。どれも、普段調査員たちが歩いている場所では見かけない物品ばかりを持ち帰り抛って渡していた。
そのことを、好敵手から今こうして訊かれて彼は初めて自覚したようだった。
きょとんとした目が、見慣れた旧式のレイア装備を眺める。
「なんで……お前が喜ぶと思ったから?」
「何故疑問形なのだ……」
「うん?んー? まあ、なんでだって良いだろ。純粋な好意ってヤツだ。オレからの好意」
「解せぬ」
小首を傾げた彼を好敵手はその付き合いの長さ故の遠慮無い一言でバサリと切った。
けれど当人は特に気にした様子も無く、呵々と好敵手の言葉を笑い飛ばす。
「世の中、解せることの方が少ないってな!ハッハッハ!」
気兼ねない遣り取りはもちろん、なんだかんだと自身の土産を受け取っている好敵手にご満悦らしいのである。