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誰おま増々。すごく……和気藹々です……。

GF中心に(気付いたら)なってた……( ˘ω˘ )

カセッツとゲーム勢(WfCとか)は欠席。普通にご飯食べたりとか。

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 その機体が起動したのは、いつもよりも遅い時間だった。

 意識がフッと浮かび上がって、ここ最近の中ではだいぶスッキリとした目覚めを迎える。時計を確認すれば九時を過ぎていた。ゆっくりし過ぎたか、と思い――いや今日の仕事は午後からだった、と思い出す。そうして、のっそりとした動作で起き上がると、寝起きの空腹を刺激する、ほのかな香ばしさを感じた。階下のキッチンで誰かが何か料理を作っているらしい。

 誰が始めたのか分からないが、同じ名前の――或いは同一存在とされる――機体は一つ屋根の下で生活している。生まれた場所や時代もバラバラな複数機が共同生活など大丈夫なのか、と思われるだろうが案外うまくいっているのが現状だった。中には週に何度かイザコザとして住まいが半壊するようなところもあるが――それは少数派である。また、それぞれが完全に独立しているというわけでもなく、見慣れた機体ではないではないけれど聞き慣れた名前を持つ機体とお茶を楽しむなど、交流を持っているものたちも多い。そして、同じ名前の機体が共同生活をするにあたって、呼び分けがどうなっているのかと言えば、ほとんどの場合はその出身で呼ばれている。初代、SG(シャッタードグラス)、HM(ヘッドマスターズ)、BW(ビーストウォーズ)、マイ伝、SL(スーパーリンク)、GF(ギャラクシーフォース)、実写、AT(アニメイテッド)、Q、プライム――等とそれぞれ呼び分けられていて、大きな支障は出ていないようである。

 サウンドウェーブは、個としては違えど結局同じ機体なのだから、と住まいの内ではマスクを外している。もちろんそれを知っているサウンドウェーブ以外の機体は、おそらくいない。知らせる必要も無いだろう。これは完全にプライベートなことであるし――何より、食事で物を口にする時にマスクをいちいち外すのは至極面倒である、という理由が大きい。

 寝起きのオプティックを擦りながら階段を下りてリビングに続くドアを開ける。

「起きたか、初代」

ふわ、と広がるバターの匂いと一緒にキッチンから声がかけられた。利用者は実写だったようだ。

「あぁ……何を作っているんだ?」

「たまごやき、とか言う玉子料理だ。GFが久しぶりに食いたいと」

そうか、と頷く初代が覗いたフライパンの上にはスクランブルエッグが乗っていた。

「ついでだ。食べるだろう?朝食」

ワザとかどうか知らないが――平然とスクランブルエッグを作る実写に訊かれ、初代はまぁ自分に関わりがあることではないし、と考えて、食べると頷いたのだった。

 ぼーっといまいち靄のかかったような思考回路を覚ます目的も兼ねて顔を洗ってリビングに戻って来ると、椅子の一つにはQがちょこんと座っていた。両手でリンゴを持って小動物よろしく、しゃくしゃく齧っている。

「あ、おはようございます」

「あ……あぁ、おはよう」

テーブルの上には味噌汁と白米が用意されていた。椀が置かれている席に初代は座る。スクランブルエッグはまだ出来ていないらしい。というか、ここにスクランブルエッグが並ぶのか、と初代は思った。和食なのか洋食なのか判りかねる。味噌汁、白米、スクランブルエッグという並びにGFはどんな反応をするのだろうか――否、案外シレっと食べ始めるのだろう。

「そういえば、」

初代が姿の見えないGFのことを考えているとQがリンゴを頬張りながら訊ねてきた。

「サウンドブラスターとかSGの姿が見えないんですが、知りませんか?」

そういえば見ていない。気配も無いな、と思った。

「言われてみれば、そうだな。何か用があるのか?」

キッチンから実写が出てきたらしい。後ろから声がして、振り返って見ればやはり実写がいた。片手にサラダとスクランブルエッグの盛られた皿を、片手に湯気の立つマグカップを持ってテーブルへ歩いてきていた。コツ、と味噌汁の椀と白米の椀の側にサラダとスクランブルエッグの皿が置かれる。作り手が持たれているイメージに寄らず美味しそうである。

 リビングのテーブルには、もぎゅ、と朝食を食べ始めた初代とリンゴを頬張っているQ、マグカップを傾けている実写がいる。

 Qの視線を受けて初代が味噌汁の椀から口を離す。

「……俺は知らんぞ」

「そうですか……いや、用があるとかじゃないんですけど、見てないなって思いまして」

プライムは自室にいるらしい。ATは、テレビが点いていながら音がしないことから、イヤホンでもしてソファに座っているのだろう。今リビングのBGMは古めかしいレコードが担っている。ジジ、とノイズの混じる懐かしい旋律。

「見てないと言えばGFはどうしたんだ」

味は玉子焼きに近いスクランブルエッグを食べながら初代が零す。それに答えたのは、やはりと言うべきか実写だった。

「散歩だろ。一時間ほど前にフラッと出て行った」

「飯のリクエストしておいてか」

「まー、リクエストって言うより、お腹空いたなー食べたいなーって呟いてただけですけどねー……ぁ痛っ!」

「うるさい、だまれ、こっちを見るな」

ふにゃり、なんて効果音が飛びそうなやわっこい笑みを浮かべて言ったQの顔が途端にくしゃりと歪んだ。実写が自分の方を見ている初代から眼を逸らす。テーブルの下ではQの足をピシリと弾いたケーブルがスルスルと機体に戻っていっていた。

 玄関のドアが開く音がしたのは、そんな風に三機がテーブルを囲んでいる時だった。

 情報参謀謹製のセキュリティシステムが沈黙しているあたり、他機でないことは明らかである。つまりここの住人の誰かがドアを開けたということで──帰って来たな、と三機は思った。そして半ばクセのように廊下を歩いてくるだろう機体の駆動音に聴覚器を澄ます。けれど廊下を進む音は聞こえずに、聴覚器に届いたのはガシャーンと言う騒がしい音だった。

 三機の中ですぐに行動できる状態にあった実写が何事かと席を立って廊下に出る。初代とQは食事をしていて咄嗟に席を離れられないし――離れなくていい。ものをこぼされたりなんかしたら、仕事が増えるだけである。玄関に向かう途中、階段のところでこちらも派手な音に気付いたらしいプライムと鉢合わせた。

「『誰か』『お客さん』『?』」

「さぁ――誰かを招く予定など聞いていないが」

互いに首を傾げて玄関に行くと、そこにはやはりGFがいた。けれどGF一機だけではなかった。

「ああー…………おや、ふたりとも。ただいま」

少しだけ困ったような声音で帰宅を告げたGFは若草色の鉢巻きが揺れる白い機体を抱えていた。そしてその足元には、よく見慣れた、けれど黒い色の直方体が転がっていた。

 自室にいたはずのプライムがリビングに飛び込んできて、残っていた機体はオプティックを丸くした。テレビに集中していたATも、聞こえてきた騒音に何事かとテレビを消してソファから様子を窺っていたのである。

 そんな状況下でもしっかりリンゴを食べ終えていたQが、わぁ、と気の抜ける声を上げる。玄関を気にしつつも遅めの朝食を摂っていた初代は、あろうことか自分の側で立ち止まったプライムに疑問符ひとつを浮かべた。

「……なんだ?」

チラチラと玄関の方を見遣っていたプライムは音声を紡ぎ出す。

「『弟、帰ってきました』『たぶん大丈夫』『でも』『部屋、』『さすがに』『入りにくいかな』『って』」

「……」

弟。便宜的に言えば、確かにそうなるだろう。つまりHMことサウンドブラスターがGFと一緒に帰ってきたということなのだろうが――たぶん大丈夫、というのはどういうことだろう。部屋については、確かに近しい分、セキュリティのクセも似通っていて他のサウンドウェーブよりもスムーズに解くことが出来る。滅多にそんなことはしないが。

「酔っている、のか?」

「『近い』『と思う』……『自分は何とも』『言えませんなぁ!』」

とうとう細い指が急かすようにカツカツと装甲を叩き始めたので初代は仕方なしに席を立つ。まだ戻ってこない実写とGFがいるだろう玄関に足を向ける。その際、自分たちよりも大きな機体をジッと見ていた二機――QとATに視線を向ける。

「お前たちは、ここで待機していろ」

「はぁい。僕たち他より小さいですからね。待ってます」

「了解。ボク待ってる」

二つの返事を聞いて初代はプライムと共にリビングを出て行った。

 曰く、散歩をしていたら見つけたのだとか。またあの青い通信員と殴り合って、帰宅途中で気力が切れて倒れたのだろう。コップ一杯分ほどのエネルギーを分けてやって、なんとかトランスフォームしてもらったのだという。

 散歩を続けていたら、偶然鉢合わせたのだとか。また余所へ遊びに行って、そのままスリープに入ってしまったらしい。見慣れた、けれど色も性格も違う機体に抱えられていたのを、そのまま引き取ってきたのだという。

 にゃむにゃむと幸せそうな白い機体もといSGを抱え直そうとして、肩に乗せていたHMを落としてしまったというところだろう。GFの話を聞きながら、HMを拾い上げた実写はそう思った。実際そのようだった。想像通り過ぎて面白味など皆無だと思った。単機で処理せず誰か呼べば良かったものを、とも思わないでもないが、後の祭りなので仕方がない。呆れや苛立ちにごく近いものを帯びた排気をひとつ吐く。それに対してGFが珍しく肩を小さく揺らした。

「いや、その、すまん?」

「なぜ謝る」

「心配をかけたようで――……あぁ、初代。すまない。サウンドブラスターを落としてしまった」

廊下を少し進んだところで前方から小走りでやって来た初代とプライムにGFが言う。

「落とし……?は?」

「すぐにエネルギー補給した方が良いそうだ」

要領を得ない声を漏らす初代に、その理由はかくかくしかじかと実写が伝えながらトランスフォームしているHMを手渡す。経緯を聞いた初代は何をしているんだ、と手中の黒を見下ろす。けれどもし自分があの赤いサウンドシステムに出くわしたら、と考えて――やめた。さすがにここまでの深追いはしないだろう。そのはずである。あぁでも。手中の黒を注視しながら、むぐぐ、とオプティックを細める初代を実写が面白そうに見ていた。

「『そちらさん』『は』『どうしますぅ?』」

その横ではプライムがSGを覗き込んでGFに訊いている。カクンと首が傾げられている。

「少し寝かせてやれば、じき目覚めるだろう。部屋に運ぶから手伝ってくれないか?」

GFの出した答えと、要請された協力に、傾げられていた首が今度はコクンと縦に揺れた。ちなみに、うわぁぁぁ恥ずかしいとこ見せちゃったよぉぉ、とSGがマスクとバイザーに覆われた顔を更に両手で覆うのは遠くない未来の話である。

 そうして、初代がHMを、GFとプライムがSGを、それぞれその自室に運び込んだ。

 初代がHMの処置を済ませる際、少々手荒になっていたことは誰も知らない。誰だって自分にごく近しいものの不格好な姿は見せたくないものであるし、近しいものが不格好を晒したとなれば、少なからずイラッとするだろう。

 三機がリビングに戻ると、テーブルには食べかけの食事と新しく用意された食事が置かれていた。ほかほか湯気が立っている。Qはソファに移動したらしく、ATと並んでテレビを見ている。レコードから針を上げたのは、変わらずテーブルでマグカップを傾けている実写か、ひとりがけのソファに腰を下ろしている黒いGFの機体だろう。いつの間に。しかしいつも突然現れ突然消えるので、今さら特に突っ込みを入れたりはしないのである。

「あ、帰って来たんですか。さっきの音なんだったんです?」

不意にATと一緒に振り返ったQが三機の誰にともなく訊く。答えたのは初代で、GFが手を滑らせた、と簡潔に言った。そして足早にテーブルへ戻り、中断していた食事を再開する。

「そうですかー……詳しいことは後で聞かせてもらっても?」

「ああ」

たぶん相手をするのはGFになるだろうが、と初代は思った。共同生活をしているとは言え、さすがに全機すべての予定を把握しているわけではない。それは他も同じだろう。なんて考えつつ、温くなった味噌汁に口を付けて、湯気の出ている椀をチラと見た。

 そして、とりあえず自分も、とテーブルの席に座ろうとしたGFがその上に置かれた皿や椀に気付く。

「おや。田舎のホテルで見るような献立の、時間的にそう呼んで良いのか怪しいが、おそらく朝食が用意されている?」

「文句があるなら食わなくていい」

実は起床してから軽い食事しか摂っていなかったGFが感心したように、しかし、それはどうなんだ、と聞いた者が思うような言葉を発した。実写が食い気味に反応したのは仕方のないことである。けれどたぶん、本人に悪気は無い。

「実写が用意したのか」

「気紛れでな。お前に用意したとは言っていない」

「……味噌汁と白米、今朝私が食べたいと呟いていた玉子焼きに近いスクランブルエッグが並んでいるのは、偶然ということか?」

「……『たまごやき、とか言う玉子料理だ。GFが久しぶりに食いたいと』」

「――初代ッ!」

テーブルの下で初代が再生ボタンを押したらしい。再生された少し前に自分が発した――発してしまった――言葉に実写が声を荒らげる。しかも音声には声だけでなく、玉子を焼く音までしっかり録音されている。寝起きだったくせになんで録音なんてしているんだ。さすが初代。いや、そうじゃない。感心している場合ではない。

「『oh!』『やっぱり』『実は』『偉い子』『良い子チャン』『なのね』」

「だまれプライム、叩き割るぞ」

わざとらしく片手を口元――にあたる部分――に持っていき音声を再生させたプライムを実写は睨む。睨まれたプライムはもう片方の手も上げて、軽く交差させた両手で口元を覆って見せた。そんなプライムの額の辺りを、実写のケーブルがカッと小突いた。ザザッとプライムのバイザーに浮かんでいる線がブレる。しかし双方席を立とうとしないあたり、じゃれあいの範囲から出ていないようである。

「フフ。ありがとう、実写」

バイザーの線が><という表示を描き始めたプライムと実写のやりとりを眺めていたGFが微笑をこぼした。いつの間にか席に就いていて、いただきます、とまず味噌汁の椀に口を付けている。そして、おいしい、とまた笑った声が聞こえた。その声を拾った実写はフンと排気して、展開していたケーブルを収納する。料理を口にしたものの反応に一応満足したらしい。

 食器の片付けは、食器を使った初代とGFがした。

 時計が十一時の辺りを示す頃、HMとSG以外の機体はリビングに集まっていた。その日の予定確認である。

「俺は午後から仕事だ。支度が出来次第、家を出る。帰りは――そうだな、どこかの馬鹿が大人しくしていれば、日付が変わる前には帰れるだろう」

「私は一日フリーだ。何か要るものや足りないものがあるなら調達しておくが」

「なら僕は新しく出たお菓子!あれ食べたいです! 夕方からちょっと顔出すくらいの予定なんですけど、たぶん帰りにお店寄る気力とか無いと思うんで、買ってきてくれると嬉しいです!」

「『俺は午後から仕事』『同じ』『帰りは』『たぶん』『日付が変わる』『欲しいものは』『明日』『起きて』『食べる朝食』」

「俺は深夜に出るからな……帰りは明日の夕方頃を予定している。欲しいものは明日の夕飯だ」

「……お前たち私の話聞いていたか?」

明らかに家事――食事の支度――を押し付けようとしている周囲にGFの口角がヒクリと引き攣った。いや、情報参謀という多忙な役職柄、仕方がないといえば仕方がないし、出来るものがすることが当然であるのだが――実写が地味に味にうるさいのである。長期にわたる人間との交流の賜物だろうか。他はそんなに頓着していないというか、他機が用意したものにはあまり注文を付けないのだが。

「ボクの予定何も無し。入り用の物、用意手伝える」

「AT……お前は本当に仲間思いの良い子だな……!」

何の打算もなく手伝いを申し出たATをヒシッと抱きしめたGFだった。

 それから支度を整えた初代が家を出て、その十数分後にプライムが家を出た。無理はするなと送り出したものの、無理をする姿が容易に想像できてGFは溜め息を吐く。繊細な機体なのだから、もう少し大切に扱って欲しいとGFは思っている。

「……お前たちは今のうちに少しでも機体を休めておいた方がいいんじゃないか?」

リビングで音楽と音響機器について語り合っていたQと実写に訊く。まだ時間があるとは言え、これから仕事が控えている二機である。

「…………少し寝る」

少しの間を置いて立ち上がったのは実写だった。Qの方は名残惜し気な表情を微かに浮かべた。けれど弁えはしていて、おやすみなさい、と朗らかに実写の背を見送ったのだった。

「Qは休まなくていいのか?」

「僕は大丈夫ですよ。昨日が丸っと一日休みでしたから」

「でも半日部屋に籠ってお仕事してた。ボク知ってる」

ソファに並んで腰かけているQとGFの、後者の膝の上に乗っているATが言う。ほう、と苦笑交じりに零された声。

「え、あ、でも仕事って言ってもそんな大したものじゃないですし!ええ、全然!全然大したものじゃなかったですから! そ、それよりさっき言ってた話!GFが帰って来た時の、音のこと!詳しく聞かせてくださいよ!」

あわあわと手を振りながらQが話をねだる。ここで自室に戻って休むという選択をすれば、見に行くことの出来なかった玄関での話を聞きそびれてしまうと思ったようだった。初代たちが席を外している今、確かに話をできるのはGFしかいない。何より当事機である。けれどそのGFはQの機体を案じて休んで欲しいようであった。

 んー、と短く何かを考えて、それからGFがQに答えた。

「わかった。それではQの部屋へ行って話そう」

「え、僕の部屋に?なんでです?」

「人間で言うところの、絵本の読み聞かせ?のようなものだ」

「それ聞いてる方が途中で寝落ちちゃうヤツじゃないですかー!」

やだぁーと頬を膨らませるQである。

「ボクもお話聞きたい」

「じゃあ一緒にQの部屋に行こうな」

Qを軽々と抱え上げていたGFは両腕を広げるATもひょいと片手で持ち上げ、その肩に乗せた。機体の大きさの違いにQは大人しくしているほかなかった。

 部屋の前で下ろされる頃には観念していて、自分からドアのロックを外した。それから休眠用のベッドに着くまで抱えられて運ばれたQは、まるで子供扱いをされているようだと思った。けれど実際GFよりは年下であるし、機体の大きさ的に見てもそのオプティックには庇護対象として映るのだろう。

 しっかり休眠用ベッドに押し込まれたQはベッドの縁に腰を下ろしたGFを見上げる。ATを肩から降ろしてやっていたGFは下からの視線に首を傾げた。

「どうかしたか?」

「……寝落ち……」

バイザーを外されて不満気な色を灯すオプティックが露わになる。

「大丈夫。録音しておこう。お前が起きたら、いつでも聞くことが出来るように」

「静かにしてた方がいい?」

「そうだな。あぁ、テープは必要なくなったら破棄してくれて構わないからな」

横に座ったATを撫でてGFはカセットウォークマンとカセットテープを用意する。どこからいつの間に、とQがオプティックを丸くするも、GFは静かに微笑する声をこぼすだけだった。ATが珍しそうにカセット機器を眺めていた。

 久しぶりにも思えるカセットテープのセットを終えて、ベッド脇のテーブルに置く。これで録音ボタンを押せばすぐに録音が始まる状態である。

「さて、それでは始めよう」

コホンとひとつ咳払いをして、GFは語り始める。

 ベッドサイドストーリーはさして時間を取らずに終わりを迎えた。けれど聞き手が意識を手放してしまうには十分な時間であったようだった。穏やかな声音の波に揺られてQは眠りに落ちていた。もちろんそれに気付かないGFではない。窺うように見上げてきたATに人差し指を立てて、静かに、のジェスチャーをして最後まで今朝の出来事をテープに吹き込む。

 カチリとボタンを押す音がして録音が止まる。カセットテープとカセットウォークマンをベッド脇のテーブルの上に置いて、GFとATは立ち上がった。規則的な寝息を立てているQの身辺を軽く整えて、二機は静かに部屋を出る。

 廊下に出ると二機は顔を見合わせた。歩きながらこれからの予定を確認するのである。

「さて。それでは、親愛なる同名機たちのリクエストを消化していくか?」

「親愛なる同名機たちからの、リクエスト消化、手伝う」

表情の変化はあまり多くないが、素直に吐露される心情は好ましい。GFはATの協力に礼を述べる。

「私が考えるに、まずはQからのリクエストを消化して、その流れで食料を調達、炊事に備えておく、というのが良いと思うのだが――音響工作員殿の意見を伺っても?」

「異議、無し。献立は既に決定済み?」

「朝食は和食を出してやろうと思っている。明日の夕食が未定だな……食べたいもの、あるか?」

実写はメニューの指定まではしなかった。ならば他機の食べたいものを明日の夕食として出しても文句は言われまい。そもそも今日明日と食事当番をぶつけられたのだ、それくらい許されるべきである。GFがひとりでうんうん頷いているとATが食べたいものを挙げてくれた。即決する。即決して、二機は出掛ける準備を始める。

 そうして、家には、奇しくも白と黒の機体――ただし活動状態でない――が残されるのだった。

 仲良く買い物に出かけていたGFとATは帰って来て、目を覚まして水分を摂りにリビングへ降りて来ていたSGと顔を合わせる。そして、帰ってきた記憶が無いんだけど、と頬を掻くSGに帰宅の経緯を話すのである。

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