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イヴェソドにならなかったイヴェ(→)ソドにラヴィーナさんが想いを馳せる話。
表記するとしたらハンソド(←)イヴェ的な何か? 相変わらず防具≠ハンター思考。


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 「お疲れ様です、先生」
 そう、不意に声をかけられ顔を上げると、ジョッキを二つ手にしたハンターが立っていた。
 「相席、良いですか? これはお近付きに」
 自分が座っているテーブルの、空いている席を指されたので頷くと、そのハンターはやはり手にしていたジョッキの一つを差し出してきた。
 透き通ったジョッキの中身は、クリスタルハイボールのようだった。

 「……して、某に何用か」
 奢りの礼を述べて、ソードマスターは話しかけて来たハンターに尋ねる。
 「ずっと貴方と話がしてみたかったんです。4期団の先輩や5期団はもちろん、青い星から1期団の先生はすごいのだと言う話をよく聞かされるので」
 返って来た言葉に羞恥したのだろうか、1期団の老狩人が被っている頭部防具の羽飾りが小さく揺れた。
 それを知ってか知らずか、相席したハンターは更に言葉を続けた。
 「前の防衛戦でもイヴェルカーナを牽制して時間を稼ぎ、指南役を守ったのだとか」
 興味深そうにハンターが言う。先達を覗き込むような動きに、そのハンターが纏う防具――冰龍の素材から作られた防具が、チリリと鳴る。
 「若きを守らずして、何が先達か。某は、当然のことをしたまで……むしろ、如何なる理由であれ不覚をとり、前線から離れた面目無さよ」
 当時は調査拠点に居たのだろうか、あの防衛戦のことを聞いて来る後輩に、先達は思わずジョッキを覗き込む。
 先達が俯いたことで、冰龍防具のハンターには、その頭部の羽飾りがシュンと萎れたように見えた。

 ちびちびとハイボールを舐める先達にフフと小さな笑声をこぼして、冰龍防具のハンターは再度口を開く。
 「ときに先生。先生は、モンスターや古龍にも感情や知性があると思いますか?」
 「? それは……あるのではないか? モンスターとて殴られたり縄張りを侵されれば怒る。古龍も罠を見抜くと聞く。生態が異なり、言葉や意思は通じずとも、あれらも我らも皆等しき存在であると、某は思うが」
 こてりと小首を傾げながら言葉を紡ぐ先達に、防具から覗く目が細められる。
 「では、古龍が他のモンスターや、それこそヒトに興味を持つこともおかしくはないですかね?」
 「ヒトにも食うことが好きな者、身体を動かすことが好きな者、色々な者が居る。古龍にも多様な趣味嗜好があっても何らおかしくはあるまい?」
 「なるほど……では、あの時、あの防衛戦で先生と対峙したイヴェルカーナが、先生に興味を持ったとしてもおかしくはないと言うことですね」
 「…………? 何故そのような話になる」
 「いえ、ですから、あの時イヴェルカーナは先生を認識……見ていたんじゃないかなって。多くの調査員がいる中で、唯一自分の前に立つ人間。一撃を浴びせ、防御させた人間。そしてそんな人間が身を挺して他者――イヴェルカーナにとっては有象無象の一人である指南役を庇ったと言う行動」
 そこで、冰龍防具のハンターはソードマスターを真っ直ぐに見た。
 「あのイヴェルカーナは、先生に興味を持ったんじゃないかって」

 「今日はありがとうございました。お話しできてとても嬉しかったです」
 ジョッキが軽くなって来た頃、冰龍防具のハンターが立ち上がる。その声は嬉しげで、しかしどこか寂しげにも聞こえた。
 「これは今宵の思い出に……まあ、すぐに枯れ解けてしまうと思いますが」
 そして彼は席を立ちながら、渡りの凍て地で摘まれる氷の花をテーブルに置いていく。
 雪原に輝き、月の光をも透かす花が、温かみのあるテーブルの上に残される。
 その花とテーブルから遠ざかっていく青銀の背中を、心地良い眠気に覆われつつある目でソードマスターは見ていた。





「先生にお酒を勧めたんですかニャ?」
「え? あ、はい。そういうものだと思って……何かマズかったですか?」
「明日、先生が一日お休みすることになったらラヴィーナさんの所為と言うことになりますニャ」
「えっ? アレ?そういえば青い星はどこに……」
「あちらのテーブル、既にうつらうつらとしている先生のところでございますニャ。先生はお酒に弱いんですニャ」
「早ッ!? いやそうじゃなくて待って青い星早まらないで!事故なんです!知らなかったの!! うわー!すみません先生―ッ!!」

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