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支部に右先生の供給があって嬉しかったので僅かな時間を見つけてSSS
\ぼくもネルソド書きたいー!ヾ(X3ノシヾ)ノシ/って動機で書きました。リハビリとか兼ねてる。あと細けぇこたぁry

璃本のネルソドで「あの子が自分を大事にしない分、僕がいっぱい甘やかすんだよ」とかどうでしょう。(https://shindanmaker.com/531520

みたいなこころもちを_(:3」∠)_

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 その場にはまだ火の粉が舞っていた。チリ、チリリ、とちいさな金属のかたまりが擦れ合うような音が、ほのかに漂っていた。周囲には、鋭い爪痕や逞しい足跡。砕けて剥がれ落ちた鱗や殻も、あちらこちらに落ちている。きっと激しい戦いだったのだろう。そうに違いない、と地面にぽたぽたと続く血痕を認めて、ソードマスターは確信した。
 燃え尽きたのか、いつのまにかチリチリという火の粉の音が聞こえなくなっていた。熱に赤みを帯びてゆらゆらと揺れていた視界も、陽の傾きに従って暗んで来ている。それでも星や月や溶岩の光を、周りの結晶が反射して場が闇に包まれることはない。縦横に突き立った棘に足をとられないよう、静まり返った道を狩人は往く。さくり、とも、かちゃり、ともつかない音が足元で鳴った。
 黒ずんだ血痕を辿って狩人は結晶が覆う道を歩く。この場所――龍結晶の地は、いのちの成れの果てが姿をあらわす場所。永くを生きたいのちがうつくしく眠る場所。はたして人間の命が、彼らと同じようにここに辿り着くのかはわからないけれど――少なくともこの龍結晶の地という場所は、訪れる人間を歓迎することも拒むこともしていないことを、狩人は実感していた。岩陰から、物陰から視線を感じていた。それは強大な龍たちの現れと戦いから身を隠したものたちのものだった。彼らは窺っている。龍たちの姿は見えなくなったけれど、まだ息を潜めて、龍たちの痕跡を辿っている人間の行く先を窺っている。その微かな騒めきを背に聞きながら、狩人はいよいよ龍結晶の地の最奥――滅尽龍の塒へ足を運ぶ。
 道中には血痕と足跡と、何かを引き摺ったような跡があった。だから、まあ、そこに何がいるのか、あるのか、狩人は予想できていたのだ。
 拓けた場の、中央に、倒れ込むようにして眠っている――小さく身体が上下に動いているから――滅尽龍と、その近くには乱雑に投げ出されたような、炎王龍の――こちらはピクリとも動かないし、その気配もないから――死体。
 そんな光景を目にした狩人は、足音と呼吸と気配を殺して龍に近付く。死してなお気高さを失わない炎王を一瞥し、まだ生きている滅尽龍の顔の方へ回る。双方の龍の身体からは、当然出血しているけれど、やはりまだ生きている分、滅尽龍の方はまだだくだくと血が流れ続けていた。動かされない身体の下に、血だまりができていた。生きるための狩りで死にかけるなど本末転倒ではないか――。なんて、親しい呆れのようなものを感じた狩人は、思わず傷ついた龍に手を伸ばした。すると、さすがに龍は目蓋を開いて、命知らずにも自分へ手を伸ばしてきた人間に唸り声をあげた。
「、……、」
滅尽の龍に威嚇され、狩人は身を強張らせる。けれど龍にそれ以上する力が無いらしいと気付くと、引きかけた手をそのまま龍へ伸ばし、触れた。ぐるる、となおも威嚇する龍を宥めるように、狩人は龍の頬の辺りをゆるゆると撫でる。その動きに、狩人の気配に、自身を害する気が無いと知った龍は、やがて威嚇することをやめた。
 人間に撫でられるままになっていた龍の呼吸は穏やかなものになっていた。ヒュウヒュウと忙しなかった呼吸音が、ゆったりとしたものになっていた。頬を撫でられて心地よさそうだと思わせるほど、表情も穏やかなものになっている。
 人間の方はと言えば、落ち着いてきた龍の様子に、知らず張っていた緊張の糸を緩めていた。いくら危険度の高い滅尽の古龍と言えど、自身のための狩りで自身の命を落としかけている相手を前に、捨て置くことはできなかった。けれど人間の回復薬など使っていいものかと、せめて寄り添ってみたが、落ち着いて来たようで良かった。否、人など居なくとも古龍の生命力で危機は脱せたかもしれないが。探索、偵察だけのつもりが、首を突っ込み過ぎているような気がする。そんなことを思いつつ、ふと視線を動かすと、だらりと投げ出されている滅尽龍の前脚が目に入った。存外やわらかそうなその手の平に、思わず手が伸びてしまう。傷を避けて、ふみ、と滅尽龍の手の平に人間の小さな手が乗せられる。不意に訪れたその感覚に、龍は何事かと閉じていた目蓋を再び開く。するとそこには自分の前脚に前脚を重ねる人間の姿。何をしているのかと人間を注視すると、人間はその小さな手でふみふみと自分の手の平を触っているだけだった。
「そなた、てのひらは存外やわらかいのだな」
龍の意識に気付いているのかいないのか、人間は龍の手の平を触りながら小さく笑う。ふ、と穏やかな笑い声。その音が、響きが、自身という存在からは程遠いものだと龍は本能で理解する。あぁけれど、その程遠いものが今は手の届く場所――手の内にすらある。それが心地いい、と思った。自分には似合わない、相応しくない感情だとは思ったけれど――けれど、手放してしまうのが惜しくて、龍は人間に頭部を擦り寄せた。負傷を理由にして、親龍に甘える子龍のように、龍は人間に甘えを見せた。自分の在り方を、誰かにそれで良いのだと認められて嬉しかったのかもしれない。人間の方は、龍のそんな反応に驚きを見せつつ、それでも龍の好きなようにさせた。
 そして龍は眠りに就く。人間を抱え込んで、傷を癒す。人間が人間の塒に帰る頃には七つ以上の月と太陽を見ていた。それに加えて、ようやく帰って来た狩人に滅尽龍が大人しく寄り添っていたものだから――狩人の仲間たちは大いに混乱したのだった。

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