ジジッと、何かが焦げるような音がする。
「……大丈夫、ですか?」
首筋にプラグの刺さった彼に訊く。
すると彼は相変わらず目を閉じたまま静かに答えてくれた。
「…ええ、大丈夫です。問題ありません」
しかし僅かに。
僅かに、その瞳を覆うゴーグルから薄い煙が出ているのを、彼は見逃さなかった。
「何が大丈夫ですか。アナタは、」
「おや──これは、いえ、しかし、」
「しかしもかかしも御座いません。休憩をとっていただきます」
半ば強制的にゴーグルの接続を切り、外す。
これがショートを起こすくらいだ。
とてつもない量の情報が流れ込んだはず。
それに気付かなかった自分が恥ずかしい。
しかし。そんな膨大な、難解な情報量を平らげてなお、無表情を保つ彼に更に興味が湧いた。
数本のプラグに繋がれたまま自分を待つ彼に近づいてみる。
開かれる、目蓋。瞳には自分が映っている。
「……どうか、致しましたか。貴方の設定した休憩時間の終了まであと三分はありますが」
「いや、なんでもありませんよ。すいません、お邪魔しましたね」
凛、と静かに深く響く彼の声に意識を引き戻される。
吐息の、届く距離。
そんな距離で彼を見つめても、なんら機械らしい点は見当たらない。
人間と、どこも変わらないのだ。
「…あの、」
気付くと彼の頬を触っていた。
ふにふにとした柔らかく心地よい感触。
首筋に顔を埋めると、ふわりと良い香りが鼻をくすぐる。
プラグを繋げられるような首筋が。
イタズラ半分にちろりと舌で舐めてみる。
さすがに甘くは無いが、頭上から甘い吐息が微かに落ちてきた。
ちらりと彼の顔を見れば、くすぐったいのか恥ずかしいのか、耳まで赤くして、いつもは光を映さないその瞳を潤ましていた。
「──ふふ、どうか、しましたか?」
「…っ、ふ、ぁい、いえ、何も、」
煽られる、加虐心。
はめていた手袋を外し、彼の頬を再度堪能する。
「ゃ、あの、あうぅ、ひゃめっ、」
どうやら直接触れられるのは慣れていないらしい。
みるみるうちに赤くなった瞳に涙が溜まっていく。
その扇情的なこと!
普段の彼からは想像できない姿に手を止めることは出来ない。
「急遽、予定変更です──この後は精密検査を、行いましょう」