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のどかな午後の広場に、朗らかなメロディが流れる。
老いも若きも紳士も淑女も、皆一様にその音に聴き入っている。
秋の日射しに照らされて、風に乗って、その音は遠く遠く、街に響き渡ってゆく。
「ね、みんな、歌ってよ!」
無邪気に、白い彼が聴衆に笑いかける。
「それは、いいですね。皆様、どうぞ、お歌い下さいませ」
穏やかに、黒い彼が聴衆に語りかける。
「では、いいですか?」
「うん。準備オッケー」
そして、二人はその地域に伝わる民謡を爪弾き始める。
誰もが親しみと懐かしさを感じるその音を。
聴衆は、歌い始めた。
各々、様々なおもいを込めて、高らかに。
「――――、と、そろそろ時間ですかね」
「あ、ほんとだ。じゃあ、今日はこの辺でお開きだね」
腰かけていたベンチから立って、それぞれ愛器をケースにしまう。
「またねー」
「ありがとうございました」
拍手と笑顔で見送ってくれるひとびとの方を何度も振り返って、白い彼は手を振り、黒い彼は頭を下げる。
音楽とは、不思議なもので、ひとのこころに直接的な影響を与えるといっても過言ではない、と彼らは思う。
それゆえ、彼らは音楽を愛する。
そして、その愛を、ひとつの幸福を世界に僅かでも届けたいと思って、彼らはこうして、時折広場に来て奏でていくのだ。
実際、彼らの音を楽しみにしているひともいる。
さて。彼らが次に現れるのは何時なのか。
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