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 「ハンター、少しその、探索に付き合ってくれないか」

クエストから帰還し、出迎えてくれたプーギーを撫で回していたハンターに調査班リーダーが声をかける。片すべき任務や依頼を抱えていなかったハンターは、その誘いにこくりと頷き了承を示した。

 そうして若者二人――とハンターのオトモ一匹――はもう何度も足を運んだ古代樹の森へ来ているのだ。南西に位置する初期ベースキャンプから出てすぐにハンターは得物である弓に矢を番えアプトノスを狙う。そういえば武器と山猫亭に寄っていなかったなとハンターの意図を汲んだ調査班リーダーは、自分の得物である大剣へ手を伸ばした。

 ベースキャンプにほど近い水場にいたアプトノスの群れを一掃し、肉を剥ぎ取っていく。一頭倒してまた一頭、とアプトノスへ次々矢を放つハンターの生肉事情を察しつつ、調査班リーダーは自分の獲物を処理する。そしてやはり徐に肉焼きセットを設置し始めたハンターに倣い、二人は並んで肉を焼く。

 調査班リーダーは二つほど肉を焼いて立ち上がった。こんがりと焼けた肉を食べ、傍に咲いている回復ツユクサを何やら見分していた。

「回復ツユクサ……蜜が溜まってる時の方が花っぽいし、溢したくないな……でもそうなると持ち運ぶのが大変……」

回復ツユクサを突いたり、ぐるっと周りを歩いて見回してみたりをする調査班リーダーを余所に、ハンターは5つ目の肉を焼きにかかっていた。

 じっくりと悩んだ調査班リーダーがようやく、意を決したように、回復ツユクサの茎をそっと掴み、ナイフを当てようとする。その時、それまで調査班リーダーの行動を眺めているだけだったハンターが、ちょいちょいとその肩を叩いた。何だろう、と疑問符を浮かべつつ調査班リーダーは振り返る。回復ツユクサの茎にはナイフの刃の痕が薄らと残った。

「? どうかしたのか? ……あ、そうか。回復ツユクサが減るのは狩りの時に困るってことだな! ごめんな、つい……」

ナイフを仕舞い、バツが悪そうに頭を掻いた調査班リーダーに、ハンターはふるふると首を横に振った。そして森の地図を取り出し、現在地から海に面した南東のエリアを通り、東部の森林地帯へ指を動かす。そこをトントンと示してから、またそこから元来た道を少し戻るルートで森の中部にあたるエリアへと続く道を辿り――けれど奥まで行くことはなく、途中で引き返し、よくジャグラスたちが屯しているエリアの脇を通って現在地まで戻って来た。地図上で森を辿り終えたハンターが調査班リーダーへ顔を向ける。先程の独り言から、調査班リーダーが花の類を探していることを察したらしい。

「え……、あ、なるほど。森で解毒草を採って、こっちの道で流水草を採ってから、戻って来て回復ツユクサを持ち帰るってことだな。なるほど、ありがとう。じゃあ、その道で行こう」

調査班リーダーの言葉にハンターはこくこくと首を縦に振った。

 主に地面に残ったモンスターの痕跡や薬草なんかの植物、鉱脈を掘りながら移動する道中、不意に調査班リーダーが口を開いた。

「な、なあ、お前、先生のこと、どう思う?」

特産キノコの群生地を漁っていたハンターの動きが一瞬止まり、しかしすぐにキノコを漁る作業に戻る。無口な主人に代わり、答えたのはオトモだった。

「旦那さんは先生のこと、まあ普通に好きな方だって言ってたニャ」

「すっ……!?」

「武器の扱いや立ち回りはもちろん、40年以上現役でハンター業してるって言うのと、導蟲もスリンガーも使わないで新大陸でやって来れてるのがスゴイ、興味深いって言ってたニャ」

「あ、ああ、そういう……。そうだよな。先生、すごいもんな」

「それで、特に、そういう現大陸からの狩猟スタイルなところとか、マイハウスでの寝方見てると、現大陸にいる弟を思い出して懐かしいらしいニャ」

「そうなのか……」

不意に垣間見えたハンターの家族のことに、まだまだ知らないことがあるな、と調査班リーダーはオトモからハンターの方へ視線を移す。すると群生するキノコを漁り終えたハンターがしゃがんだまま調査班リーダーの方を見上げていて、ジッと見られているとは思っていなかった調査班リーダーは思わずビクリと肩を跳ねさせた。

 

 そんなこんなで雑談をしつつ植物を摘んでいくと、元の南西のエリアへ戻って来る頃には太陽が沈み始めていた。

「今日は探索に付き合ってくれてありがとな」

慎重に回復ツユクサを切り取った調査班リーダーが、やはり慎重に回復ツユクサを抱えながら言った。傍でアイテムをゴリゴリ調合していたハンターが手を止め、調査班リーダーの顔を見る。そのまま顎に手を遣り、少し何かを考えるような素振り。そしてそんなハンターの反応にコテリと首を傾げていた調査班リーダーへ、ハンターはいつの間に採取していたのだろう、ネムリ草とマヒダケを差し出した。ズイ、と突き出された二つに、え、と困惑する調査班リーダーを余所にハンターは調査班リーダーのポーチへそれを捻じ込む。

「いやいやいや。えっ?なに? 何なんだ?」

「いざとなったらネムリ草を使うか、麻酔玉を作って頑張るニャ。リーダーならできるニャ」

「しないしできないよ!?」

「ホラ、旦那さんもリーダーと先生がウマく行くこと応援してるニャ」

「俺とせんせっ……!? い、いや、俺は別にそんな、先生と何かあるとかそんなこと……!」

狼狽する調査班リーダーの肩をポンとハンターが叩いた。そしてしっかりと親指を立てて見せた。調査班リーダーが耳まで赤くしてその場に座り込む。

 はじめは単なる贈り物に植物を見繕っているのだろうと思っていた。けれどその途中で振られる話の大半が、拠点で調査班リーダーがよく懐いている人物に関するものであれば、それとなくこの探索の目的は見えてくる。本人は隠していたつもりらしいが、折々や今の反応でとても分かりやすい。事実振られた話はほとんどが惚気と言えるものであった。まあ、敢えて指摘するようなことでも無し、とハンターは黙々と自身の分のアイテム採取に勤しんでいたわけであるが――どうにもプラトニックなにおいのする調査班リーダーに親切心もとい悪戯心が湧いたのだ。これで何か進展があれば面白いのでは、と思ったのである。

 斯くして植物を拠点に持ち帰った調査班リーダーはハンターのマイハウスで新大陸の花束を拵え――ハンターから景気づけにと霜ふり草も突っ込まれた――、先生ことソードマスターへ持って行く。好きな人には花束を贈るものだと現大陸からの調査団員から聞いた故の行動らしいが、協力したハンターは知らぬ事情である。調査班リーダーが現大陸の習慣に挑んでいる頃、ハンターはマイハウスでオトモを構い倒していたのだった。

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