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 その名を失った軍事後進国の、嘗て栄華を誇ったであろう、華美な装飾が未だ残っている中世風の豪奢な城に足を踏み入れた男はその薄暗さと静寂、ひやりとした空気に身体を小さく震わせ、それを誤魔化すようにひゅうと口笛を吹いた。崩れ落ちた壁から射し込む陽の光は閑散と荒れ果てた城内を局所的に照らしている。その光の柱の中に踊る細かな塵がキラキラと光る。その風景は、城であるはずなのに、此処が教会か聖堂といった神聖な場所ではないのかと思わせた。

 城内を片付けて来いと、つまり、城に何か役立つものが有るか見て来い、と上から命を下されたから男はこの城に来たのだ。それ以外の何物でもない。廃墟マニアでもなしに、こんな場所――亡国の王族の城なんぞに足を運ぶなど有り得ない。なんでこんな雑用みたいな仕事を自分がしなければならないのかと、男は城内を散策しながら顔を顰める。覗き、侵入し、物色していく部屋の多くには、高価な調度品はあれど上の望むような機密書類だとか国宝の類はまったく見当たらない。降り積もり、物を動かすたびに舞い上がる埃に咽ながら男はそれでも丁寧にひとつひとつ部屋を見回っていく。そうして辿り着いた、おそらく最後の部屋。城の最奥に、隠されるようにして在ったその部屋の扉はこじんまりとしていて注意していなければ見落としてしまうところだった。ここには何かが有りそうだと、男は舌で乾いてしまっていた唇をなぞる。扉についている鍵なんぞは持っていないし、持っていたところで錆びついているらしいこの鍵穴が役目を果たしてくれるかどうか怪しいと、男は扉に手を伸ばした。ダメ元でそのドアノブを回すと、予想とは違いその扉はいとも簡単に開く。予想外のことに目を丸くした男は、嬉しい誤算に口元を歪めて部屋に入る。

 その部屋は物置、というか調度品を置いておく倉庫のようらしく、部屋の左右には様々な国の色々な調度品がズラズラと並べられていた。その量に感嘆しつつ男は部屋の奥へと足を進めていく。どうやらここにも何もないようだと、落胆のようなものをしながら。そして辿り着いた部屋の最奥。そこに見えたものに、男は目を奪われる。豪奢な椅子。そこに腰かける人影。床に足を付けていない所を見ると、少年か少女、なのだろう。

「誰、だ…?」

王家の者だろうかと、有り得ることのない、あるはずの無いことを、しかし思いながら男は椅子に近付く。薄暗い部屋の中、近付くにつれて見えてくるのはぼんやりと白い人型。薄く埃を被った白金。滑らかそうな白い肌。上等な布で作られているであろう豪奢な軍服。椅子の前に辿り着いた男はごくりと喉を鳴らした。膝をついて、その麗しいものと目線を合わせる。目蓋を閉じている。眠っているのだろうかと、見詰めて、男は漸く目の前のものが呼吸をしていないことに気付く。よく出来た人形だったのだ。呆けたように人形を見つめていたのだと、男は己の他に誰もいないにも関わらず、何やら独り言ちながら人形に手を伸ばした。とりあえず頭部やら肩、腕などに積もってしまっている埃を軽く払い落す。軽く指を通した白金の髪は、人のそれと大差ない感触。する、と撫ぜる頬の滑らかさと柔らかさも人のそれと同じ。着ているものの感触も、男がよく目にし、男自身もよく身に纏うそれとよく似ている。まるで人そのものだと、男は感嘆した。そして男の視界にチラと山吹色の何かが映る。椅子のすぐ横に置かれた、サイドテーブル。その上に、手のひらに収まるくらいの大きさのゼンマイが置かれていた。

 興味からか、好奇心からか。男はそのゼンマイに手を伸ばし、今まで触れど動かすことは無かった人形を抱き上げて、そのゼンマイが嵌る穴を探し始める。ごそごそと人形の身体を弄り服を捲ること数分。ようやく人形の腰のあたりにそれらしき穴を男は見つける。かちりと音がしてゼンマイが綺麗にはまる。きりきりきり、とも、かちかちかち、とも言えない音がしてゼンマイが回っていく。それと同時に不自然に動き始める人形。え、と男が声を漏らす。ぎぎぎ、と関節の軋む音。男の腕から離れて人形は再び椅子に腰を下ろす。目蓋は閉じられたまま。動く気配もない。何だったのか、と男は人形を覗き込む。

「え、と、あの…、もしもーし?」

ぺしぺしと人形の白い頬を叩いきながら呼びかけていた男の視界が突然ぶれる。閑散とした部屋に響く小気味の良い音。じわりと広がる熱。じんじんとする頬に、誰かに頬を張られたのだと男は気付く。そして、この部屋でそんなことができるのは。否、しかし。

「おい貴様」

声が、と思った、その直後。もう一度響く小気味の良い音。広がる熱。痛み。今度こそ堪らずに床に崩れ落ち男は呻いた。

「ッ、ちょ、なんで……っ!」

男の声に答えるのは凛とした声。

「は、え?え?」

「聞いているのか」

熱を持つ頬を押さえたまま声のした方に顔を向けると、そこにはやはり先程の人形が、足を組んで肘掛に肘をつき、頬杖をついて男を見下ろしていた。紫水晶と翠玉がかち合う。

「え…お前、誰、だ…?」

目を丸くするばかりの男に、人形はかたちの良い眉を顰める。

「それはこちらのセリフだ。お前は誰だ。というか、他人様の城に不法侵入して他人様の身体を弄り回して何をしているのだ。まったく…軍事先進国の軍人とやらは思った以上にデリカシーがないらしいな。そもそもなぜ起こした。どうして、俺を起こした」

「人形、なのか…人形……いや、いやいやいや。えー…でもなァ、」

「……」

「すげぇ…」

膝をつく姿勢に、身体を戻しても驚嘆してばかりいて、まったく話を聞いていないような男に人形はもう一度平手を仕掛ける。

「ッ!」

本日三度目の平手を何とか避けた男は今度こそ立ち上がって人形を見下ろす。硝子玉のような。否、実際に硝子玉や鉱石で出来ているのだろう双眸が男を真っ直ぐに見上げていた。瞬きの度に震える睫毛などは、人間のそれと同じに見える。言葉を紡ぎ出す唇は薄く色付きやけに艶めかしい。ひとつひとつの仕草も、人形とは思えないほど自然で滑らかだ。それも指の先まで洗練された無駄の無い。品のある、というのはこのようなことを言うのだろうと男は内心思う。

「ほぅ。避けたか」

にやりと口角を上げる、その可愛らしいこと。腕が伸びていたのは、ごく自然な成り行きと言えよう。椅子の上からひょいと持ち上げると、突然のことに人形はぽかんと目を丸くしてから、更に眉を顰める。

「何をする」

「あ、いや、胴体とか四肢もちゃんと柔らかいんだなぁ、と」

平手ではなく拳が飛んできたことも、ごく自然な成り行きと言えよう。男の頬を殴り飛ばして椅子の上に降り立った人形は男が触れていた場所を手で掃いながら再度問い掛ける。

「…お前、何者だ。見たところあの軍事先進国の軍人のようだが」

「あ、あぁ。その通りだ。この城には機密書類やら何やらが残ってないか調べに来た」

「ふん。雑用か」

生意気にも鼻を鳴らす。人形に、今度は男が訊く。

「で、お前?貴方?は、何なんだ?」

「見た通りの人形だ」

「こんなに自然に喋って動く人形なんて見たこと無いんですが」

「今見ているだろう」

堂々巡りを始める問答にどちらともなく唸り声をあげる。

「えー、と、じゃあ、誰に作られたんだ? 人形なら製作者がいる、よな…?」

「さぁ。この人型を創った者の名は知らない。この国の誰かではあると思うがな。そいつに作るように言ったのは兄上だ。そして俺という存在を作ったのも兄上だ」

「兄上…?」

「お前たちが滅ぼしたこの国の王だ。名前くらいは知っているだろう?」

「知って、る…知っているが、」

「もちろん兄上は正真正銘の人間。ただ、兄上が俺を弟として扱ったからそれに応えたまでだ」

ヒトが愛でた人型の、ツクリモノが意思を持ち感情を持ち生命を持つなど、そんなことが有り得るのかと、男は人形の話を聞いて耳を疑わずにはいられなかった。生まれずに死んだ弟の代わりにと作らせた人形を常日頃、心から愛でていたら、ある日その人形が自由に動き喋るようになり、兄と国の終わりと同時に眠りについた、等という、古い童話のような話。そんな話を、クソ真面目に、しかも当の人形にされてしまえば信じ無いわけにもいかない。纏う衣服の袖から垣間見える手首には、確かに人間には有り得ない球体関節のようなものが見える。実際にゼンマイを巻くまでピクリともしなかったのだし、この話はどうやら残念なことに本当にあったことらしい。しかもさらに残念なことに人形はゼンマイを巻いた人間の命と人形の巻かれたゼンマイが動く時間が同じなのだと言う。つまり男が死ぬまでこの人形は動き続けるというわけで。

「マジ、かよ…」

はぁあ、と一通り語り終えた人形が溜め息を吐く。目を丸くしっぱなしの男に人形は冷たい視線を送る。

「わかったらさっさと帰れ。ここには何も無いからな。気も済んだだろう?」

しっしっと手を振る人形の手を、何を思ったのか男はしっかりと握った。男の突然の行動に人形は言葉を失いただ茫然としている。

「わかった。わかったから、一緒に来ないか?」

「は、」

「いえ、第二王子。私と一緒に来ていただけませんか?」

「お前は、何を…!」

「此処にひとりでいるよりは良いでしょう?」

語尾を上げて疑問形にしてはいるが、その表情、眼差し、手を握る力の強さは拒否を許さないもので。男の勢いに思わず人形は首を縦に振ってしまった。

以下、大体の流れ

(というかネタメモ)

軍事後進国滅ぶ(というか併合されて国としての体が無くなる)→城の片づけ行って来いと言われて城に赴く少佐殿→うわ埃とかスゲェヤバイ→最奥あたりの部屋で豪奢な椅子に腰かけた誰かを発見→誰? 誰じゃない。なんか人形だわコレ→うわ作りスゲェヤベェ→とりあえずジュン君みたいな動き(ペチペチしてみたり撫でててみたり)→ゼンマイ?ハヶ━m9( ゚д゚)っ━ン!!→ま、まぁちょっとくらいなら…→巻いてみた→う、動いたァアアァァァァアア?!しゃ、喋ったァアアァァアアアァァアァァア?!→うるさい黙れてかお前誰だよ(ほっぺたバチーン)→痛ぇ。てかなんだこの人形まじヤベェな→答えろよ→自己紹介→よっしゃ決めたお前連れて帰る!→意味わかんない何言ってんのってちょ、おま、あqwせdfrtgyふじこlp;:「→共同生活始まるよ!

的な。

お人形さんの大きさは腰ぐらい。年の離れた弟ですって言っても通りそう(かなりのゴリ押し)

作られた経緯は今は亡き(統治者としての地位が)兄様が生まれてくる前に死んだ弟を思って寂しくないようにと職人につくらせた。らしい。動くようになったのは兄様の想いが強かった結果とかそんなん。

あのまま朽ちていくつもりだったのにひょんなことでゼンマイ巻かれて目覚めさせられたのでお人形様おこ。

少佐殿は面白半分で巻いて起こしちゃった後ろめたさのような何かとひとりぼっちは寂しいもんなみたいな気持ちでお人形さんをお持ち帰りなさったらしい。そしてDANDANココロ惹かれてく。と良いな。だってファンタジィ。

でも折角だからってことで共同生活するけどコレがなかなか楽しくて困った。べっ、別に楽しいとか思ってないんだからな!

でもどうせ残されるんだよな…とかも思っちゃってお人形様沈殿丸。ゼンマイ切れたって残るから。

さいごらへんとかは少佐殿が戦争で大怪我して、でもはやく帰りてーよチクショー唾つけときゃ治るよこんなもんとか言って病院行かずに勝手に帰って来ちゃってお前何してんの馬鹿じゃないのって言われて俺の魂を生贄にカムバックヒア!とか蘇生術使っちゃう。なんだかとってもファンタジィ!

そして動かなくなるお人形と少佐。朝になって再び目を開けるのは少佐殿だけ。二度とお人形は目覚めませんでしたとさ。みたいな。

実は死んでもいい、あわよくばお人形も一緒に朽ちてくんねーかなとか思ってた突然の病み少佐殿とこいつ救って動かなくなるならそれでもいいやって思ってたお人形様。悪くない日常だったとかボソッとデレてたら美味しい。個人的に。みたいなとんでも話。てかお前ら誰だYO

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