知らずに追い詰めていくスタイル。
……総司令が無自覚タラシみたいですね?
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「――ッぅ、」
掴まれた腕がミシリと軋む。振り解こうにもその力は強く、競り負けるように引き寄せられていく。間合いが狭まればその分だけ機体の自由が利かなくなる。肉弾戦はもちろん、普段得物としている飛び道具など――ましてや相手が相手である――有効な手段とは言えなくなるだろう。
それだけではない。相手が有しているものに、機体が騒つくのだ。距離のある状態で相対してもそうだというのに距離を詰められては堪らない。
じりじりと機体同士が近付いていくことに焦れたのか、ぐい、と一気に引き寄せられる。
「くッ……これは、なんの真似、だ?」
機体がギリギリ触れ合わない距離で彼は相手を見上げて訊く。
「そんなに睨まないで欲しいのだが、」
「睨む? ふふ、見えていないものを適当に言うものじゃないな」
「わかるさ」
あくまで悠然と笑ってみせた機体に、その相手は誠実な声音でもって答えた。揺るぎなく言い切られ、真っ直ぐにオプティックを見つめられ、彼は排気を詰まらせる。
相対する機体のそんな様子を気に留めることなく、穏やかに相手を黙らせた機体は言葉を続ける。
「お前は何故あいつらと共にいる?何故あいつらに就く?」
少し離れた場所でそれぞれ戦っている機体たちがぼんやりと視界に入った。
「あいつらと行動を共にしたところで何も良いことなどない。破壊と破滅があるだけだ」
それなのに、とその機体は本当に解せないという様子で、今度は彼に訊く。
傾げられた首に、射貫くようなオプティックの光に、元から良くはなかった気分が更に落ち込んでいく。
「……、総司令官殿には、関係のないことじゃないか?」
機体が灼かれているような感覚を覚えながらも、悟られまいと調子を繕う。
「私が誰に就こうと私の自由ではないのか? その先に何があったとしても、選ぶのは私だろう?」
吐き捨てるように答え、彼は相手から距離を取ろうと再度機体を捩る。
けれど、そうして離れようとした機体を、空いていたもう片方の手で押さえつけて、逸らされた視線を合わせる。
「確かに自由だ。しかし私は奴らの破滅に巻き込まれるトランスフォーマーを見過ごすことはできない」
「――、」
「私たちと共に生きよう。これからでもいい、新しい道を歩いて行こう」
押さえつけられ、触れ合った胸部から侵食するような熱が伝わり、機体や回路を灼く。頭部もズキズキと痛み始め、冷却水がオプティックから溢れそうになる。視線を落とせば、見えずともその存在を嫌でも感じさせる――おそらく、伝わって来る熱の源。機体の奥に収められているその光は、彼の主が苦手とするものであり、だから彼にとっても毒であった。
「……君と、未来を生きたいんだ」
それなのに、二人称すら変えて、世界に愛されたものが光に背を向けたものへ、真摯に言うのだ。
相容れることなどない――あってはならない、のに。
逃げるように相手から顔を背けると、変わらず繰り広げられている戦闘の爆炎や黒煙が見えた。
「――ッ、――、ァ、」
溢れてきた冷却水で揺れる視界の中、その中に、ここにいるはずのない主の面影を見せる姿を捉えて、そして――暗転。