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眼鏡先輩と先生へのお題は

"虫籠に閉じ込めた夢"

"悲劇の中の幸福"

"盗んだ言葉を飲み干して"

です

#恋をしている3題

https://shindanmaker.com/698543

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 研究班リーダーは、誰かに呼ばれる声で目を覚ました。否、正確には、意識を取り戻した。

 「……失礼!忙しさのあまり目を開けたまま眠ってしまっていたようです!」

 バウンティの報告、あるいは依頼されていた物品を納品しに来たハンターだろう、と研究班リーダーは反射的に、それらに関する書類を手にする。

 けれど、今は研究班リーダーひとりが取り仕切るアステラの調査資源管理所の前に立っていたのは、一期団の先生ことソードマスターだった。

 「おや。一期団の先生でしたか。珍しいですね。何か御用ですか?」

 施設にあまり顔を見せることのない、珍しい訪問者に研究班リーダーは少なからずの驚きを表す。表しつつも、平時他の調査員と接する時と同じように、朗らかに対応する研究班リーダーに、ソードマスターは小さく身体を揺らした。

 「研究班長……、大事無いか?」

 「え? あ……ハハ、大丈夫ですよ!けして楽ではありませんけどね!」

 どうやら心配されているらしい。なんだか萎れて見えるレイアヘルムの羽飾りを気にしないようにして、研究班リーダーは大丈夫だと笑って見せる。本当に限界が来たら、その時までにはちゃんと居住区へ退くつもりだ。でも、まだ大丈夫だ。だから、大丈夫だと笑うのだ。

 「そうか……」

 「ええ。ご心配、ありがとうございます。ところで、何か御用がありましたか?」

 「いや……うむ。また後ほど来ても良いか?」

 「? 構いませんよ?」

 いまいち納得していない様子であったけれど、ソードマスターはとてとてと調査資源管理所から離れていく。目の前を通り過ぎていくその姿をよくよく見れば、何やら書類を手にしている。調査資源管理所の後ろにある階段を上っていく先は――生態研究所か。総司令にお遣いでも頼まれたのだろう。

 ややあって背後からポツポツと話し声が聞こえてくる。副所長と、ソードマスターの会話である。内容は、まあ、業務連絡だろう。ふたりがモンスターについて語り合う場面があったら、それはそれで興味深いけれど。

 そして、背後の階段を下りてくる音がして、とてとてと目の前をソードマスターが小走りに走っていく。ふわふわと跳ねるヘルムの羽飾りに幼さを見ながら、研究班リーダーは小さな欠伸をひとつこぼした。

 

 「……研究班長よ」

 「……ハッ! 失礼!夜風の心地良さに舟を漕いでしまいました!」

 研究班リーダーは誰かに呼ばれる声で目を覚ました。既視感である。

 「……」

 「……大丈夫。大丈夫ですよ。これでも学者を生業とする身、自分の限界くらい見極められます」

 気遣わしげ、あるいは、疑わしげな眼を向けてくる――防具越しだけれど――ソードマスターに、研究班リーダーは微笑む。

 「さて。それでは、狩人先生のご用件をお聞きしましょうか」

 そのまま、話題を変えようと、帳簿を開いてソードマスターに用向きを尋ねた。

 否、尋ねようとした。

 「ならぬぞ、研究班長よ」

 「ええ?」

 「今しがた、総司令からそなたに休憩を与えるように、との任務を託されてきた」

 「えええ?」

 「故に某はこれよりそなたを居住区へと護衛し、また流通エリアへ帰還し次第調査資源管理所にてそなたの留守を預かる」

 「そんな……」

 大真面目に「任務」の話をするソードマスターから差し出された書類に目を落とすと、それは紛れもない、総司令からの「依頼」書だった。

 おそらく――間違いなく、総司令にこの依頼を出させたのはソードマスターだろう。通常のクエストと同じ手順を踏んで自分を休ませようとするとは。真面目と言うか、どこまでも狩人と言うか。思わず笑みが零れてしまう。

 けれど、その気持ちは嬉しいけれど、自分がここを離れるわけにはいかないのだ、と研究班リーダーは気を引き締めようとする。

 「ありがとうございます。後輩のハンターたちのみならず、学者である僕のことも気遣っていただいて。しかし、僕がここを離れるわけには……」

 「大丈夫ですよ。研究班リーダーが休んでいる間は、私たちが先生と調査資源管理所を守りますから」

 研究班リーダーほど上手くはできないでしょうけど、と苦笑しながらひょこりとソードマスターの後ろから顔を覗かせたのは、最近よく司令エリアにいるところを見る、優しげな四期団だった。

 「他の同期にも手伝いを頼んでいますから、一晩くらいなら何とかしてみせます」

 「幸いにも、以前物資班長から資源管理のいろはを言って聴かされたという四期団は少なくない」

 それに、とソードマスターは斜め後ろを振り返る。

 「物資班長の右腕である此処の物資補給係も手隙の際は様子を見に来てくれると言ってくれた」

 釣られてソードマスターの視線を追うと、物資補給所の、積み上げられた物資が目に入った。そして、その山の上からこちらに向かって軽く手を挙げてくれている物資補給係の姿も。

 どうやら外堀は完璧に埋められているらしい。

 しかしギルドへの報告――否、報告の船を出すのはまだ数日先だ。総司令もきっと、その猶予を踏まえてソードマスターに「依頼」を出したのだろう。

 研究班リーダーは、ふは、と気の抜けた笑い声を上げた。

 「ハハハ! 分かりました。ここまでされては敵いませんね!」

 「うむ」

 「それでは僕は、皆さんのご好意に甘えて、ゆっくりと休むとしましょう」

 「うむ」

 「では、マイハウスまで護衛をお願いします」

 「確かに、承った!」

 三度目の返事はもちろん、二度目の相槌も、心なしか嬉しげに弾んで聞こえた。

 

 優しげな四期団に見送られ、研究班リーダーとソードマスターは居住エリアの、研究班リーダーのマイハウスへ向かう。

 居住区を歩く珍しい組み合わせに、道中のマイハウスから外を窺う眼が幾つかあったけれど、それでも静かで穏やかな夜だった。

 「……ありがとうございます。あぁ、久しぶりの我が家、というヤツでしょうか」

 やがてあるマイハウスの前で研究班リーダーが立ち止まり、懐かしそうに目を細めた。

 「……最後に寝台で眠ったのは、何時か訊いても良いだろうか」

 久しぶりの我が家――マイハウスへ入り、ぐるりと室内を見回す研究班リーダーにソードマスターが訊く。

 「うーん……最近ほんとうに忙しかったですから……よく覚えてないですね……」

 それなりに留守にされていながらも、すぐに使える状態で保たれているのは言わずもがなルームサービスのおかげである。今はたまたま居ないようだが――顔を合わせたら礼を言わなければ、と研究班リーダーは寝台に腰を下ろしながら内心で思った。

 「……今宵はゆっくりと休むのだ。そなたは、調査団に欠かせぬ、大切な仲間なのだから」

 つまり自愛せよ、とのことである。

 ひとのことを言えないだろうに――研究班リーダーは僅かに目を丸くして、それから困ったように笑った。

 「ええ、そうですね。ですが、貴方も身体には気を付けてください」

 多くのハンターが前線拠点セリエナでの調査を主とするようになってから、ソードマスターが仮眠をとる頻度が、目に見えて下がっていることに、研究班リーダーは気付いていた。

 それを指摘してやれば、狩人は、狩人の頭部装備の羽飾りがユラリと揺れた。

 「う、む……しかし、後続たちも頼れるほどに成長している故、某などより彼らに任務は託されるようになろう……某よりも、彼らにこそ十分な休息が、」

 夜のマイハウスで月明りの下、嬉しいような寂しいような、そんな感情を吐露する姿は、どこか迷子のようにも見えた。

 「ハッハッハ!大丈夫ですよ! 貴方は皆の、特にハンターたちの「先生」なんですから!」

 たとえ任務が回されなくなっても狩りには誘われるだろう。引退する時になれば泣いて惜しまれるだろう。事実、「俺たちのせいで先生が引退するかもしれない、先生が引退するくらいならハンターを辞めたい」などと深刻な顔をして言ってきたハンターもいた。

 この狩人は、狩人自身が思っているよりもずっと調査団に必要な人材なのだ。

 研究班リーダーは、昔々幼い頃、夜が怖いと泣いた妹をあやした時のように、やわらかく、やさしい顔をする。

 「大丈夫ですよ」

 「……すまぬ。そなたを休ませるどころか、気を遣わせてしまった」

 「フフ。構いません」

 「……明日は、目が覚めて支度が出来次第仕事に戻って欲しいと総司令が言っていた」

 「つまり、気の済むまで寝ろ、と言うことですね。ありがたい」

 「うむ…………では、某はこれにて」

 「ええ。ありがとうございます」

 最後の方は、赤く色付く顔が見えるような俯き加減だったけれど――しっかりと研究班リーダーに伝えることは伝えて、ソードマスターはマイハウスを出て行った。

 照明代わりになっている導蟲が、虫かごの中でふわふわと舞っている。

 呼吸するように、緩やかに明滅する淡い光が、月明りとはまた違うやさしさで室内を照らす。

 きっと優しい夢が見られるだろう。

 そんなことを思いながら、研究班リーダーは久しぶりに寝台の上で目蓋を閉じた。

​+++

 カボチャ料理が並んでいる。

 どこを見てもカボチャ、カボチャ、カボチャ。カボチャの料理が所狭しと並べられている。

 料理だけではない。見下ろせば、いつの間にか拠点の至る所にカボチャの装飾が見られる。足元にカボチャ。目の高さにカボチャ。頭の上にカボチャ。小さなものから大きなものまで、多くのカボチャが拠点を占拠していた。

 一体拠点のどこにこれだけのカボチャがあったのだろう。

 極め付きは、目の前をごく自然に通り過ぎていくハンターがごく自然に被っている、猫の頭に整形されたカボチャ。もちろん、その足元を歩いているオトモアイルーも猫の頭のカボチャを被っている。

 「今年も、豊穣を祝い、感謝するために宴を開くのだ、と」

 集会所の受付嬢たちが張り切っているらしい、と声がして、食事場で呆然としていた研究班リーダーは我に返った。

 声のした方――斜め後ろには、大きなカボチャを抱えたソードマスターが立っていた。

 「……カボチャ、かぶっていないんですね」

 「うむ」

 思わず妙なことを訊いてしまってから、しかし返って来た声に研究班リーダーは、被ること自体は拒否しないのか、なんて思ってしまった。被るとなったら、やはりこの防具――レイアヘルム――の上に被るのだろうか。

 「では、そのカボチャはなんですか? おや。刳り貫かれて……何か入っていますね」

 ソードマスターが持っているカボチャを覗き込んだ研究班リーダーは、そこに秘薬やアステラジャーキー、漢方薬と言ったアイテムが入っているのを見た。

 「……何故か、皆が入れてゆくのだ」

 抱えているカボチャを覗き込んで、何とも言えない表情を浮かべる研究班リーダーに、ソードマスターがやや困ったように言う。カボチャを持たされ、アイテムを投げ込まれてそこそこは経っていそうだが、戸惑いの浮かぶ声音からして、後輩たちに流されるままになっているのだろう。

 「夕刻に差し掛かる頃であったか……久方ぶりに流通エリアに降りて来たイベント案内嬢より唐突にこのカボチャを渡され……そのまま定位置にて待機していると、通りすがった調査員たちがこのように……」

 「ははあ」

 概ね予想通りであった。

 「それは皆さん、先生へ日頃の感謝を表しているんですよ!」

 そんな風に、食事場に入るリフトと階段の中間辺りで立ち話をしていた二人に、元気な声が飛んできた。

 人懐こそうで、朗らかな声の主は、やはり食いしん坊三代目こと、5期団推薦組の編纂者であった。

 編纂者は大きなカボチャのパイが乗った盆を抱えながら、集会所の受付嬢と共に集会所から降りて来たところのようだった。

 「皆さん、したくてしているはずですから、どうぞそのまま受け取って下さい」

 研究班リーダーに、こちらは盆に積む程乗せていたジョッキの一つを渡しながら、集会嬢が微笑む。

 「う、うむ……?」

 「ところで宴を開くのなら花火も打ち上げるんでしょう? 僕は準備をしてきた方が……」

 「ふふ。まだ今夜は――前夜祭のようなものなので、花火はまだ打ち上げないんです」

 またその時によろしくお願いします、と集会嬢に言われ、研究班リーダーは踏み出しかけていた足を戻す。よくよく見れば、食事場のテーブルには、2期団の親方から拠点の工房を任された若頭や武具屋の姿もあるではないか。

 「最近、研究班長はお忙しそうなので仕事を増やさないように、との配慮だそうです。さすが、酒場の受付を担当する同期は気配りができますね!」

 誇らしげに言って、ふにゃりと破顔する編纂者に、集会嬢は仄かに頬を染めてありがとうとはにかんだ。

 そして、話題を逸らすように、研究班リーダーとソードマスターに提案するのだ。

 「そうだ、お二人とも、カボチャのパイはいかがです? 野外での料理もお手の物なこちらの同期が、腕によりをかけて作ったんですよ」

 「はい! 集会所の皆さんや、勝気で素敵な同期と一緒に作りました!」

 「大部分はこちらの同期が作りました!」

 なんて、微笑ましいやり取りをする後輩たちに、二人も思わず笑みを零す。

 「フフ。でしたら一切れいただきましょうか」

 「うむ。某も一切れいただこう」

 「あぁ、では僕がお皿を持ちましょう。それと飲み物をもう一つ……そうですね……ホットワインの類はありますか?」

 「む。某も適当な酒で構わぬが、」

 「……ああ、ありがとうございます。良い色のワインですね」

 「研究班長……」

 結局、周囲が四名の微笑ましさに口元を緩めていたことは、当人たちだけが気付かなかった。

 

 適当に、空いていた席に腰を下ろしてみると――集会嬢は前夜祭のようなものだと言っていたが――調査員たちは既に宴を楽しんでいるかのような賑わいだった。この騒ぎであれば、集会所のみならず、拠点のあちらこちらがカボチャに塗れていることにも納得である。

 ちなみに集会嬢と編纂者は持っていた盆を大きなテーブルに乗せると、集会所へ続く階段を上がっていった。おそらく、まだこれからも料理や飲み物が運ばれて来るのだろう。

 「賑やかですね……セリエナに行っているハンターたちも、この前夜祭の話を聞いて戻ってきているのでしょうか」

 「おそらく……む。美味い」

 研究班リーダーが周囲をぐるりと見回す。その横でカボチャのパイをつつくソードマスターは――偶々目撃した兄貴肌の5期団曰く、レイアヘルムの羽飾りが、とても上機嫌に揺れていたとか。

 「どれ……ふむ。おお、美味しいですね。偶にはこういうのも……そういえば妹は、甘いものはどうでしたっけ……研究基地へ納品依頼……さすがに却下されますかね」

 「研究班長よ、他にも何か頼むか? それともパイのおかわりでも取って――」

 祭りや宴とは縁遠そうな研究基地へ、研究班リーダーが思いを馳せ始めたところで、ソードマスターが声をかける。

 けれど、その声を遮るように、食事場の一角から大きな歓声が上がった。

 「うおおおおお!17杯目だ!いけるぞ青い星!」

 「俺の!俺たちの無念を!雪辱を!果たしてくれ!!」

 「いや傾けた時点でほとんど零れてるだろ。こりゃノーカン!ノーカン!!星の負け!!」

 「前は何杯だっけ?15杯? へー、じゃあ記録更新してるんだ~」

 「っていうか竜人のハンターさんは19杯だろ? やっぱ竜人族に酒で勝てるわけないんだって……」

 「うわ、お酒臭い。二人とも……いえ、その辺の取り巻き皆さん近寄らないでください」

 どうやら青い星――と呼ばれる5期団のハンター――と竜人族のハンターが飲み比べをしているらしい。

 ハンターたちの集う、酒場らしい喧騒。

 「狩りびとらしい、良い騒ぎよ」

 人が集まっている、飲み比べ会場の方を見遣り、ソードマスターが楽しそうに呟く。その姿に研究班リーダーは、やはりこの人もハンターなのだと改めて思う。

 「あー……そうですね。えぇと、すみません、では、何か適当に料理を……いえ、一緒に行きましょう。僕も何があるか見てみたいです」

 気付けば飲み比べ会場へ身体が傾きかけているソードマスターを引き留めて、研究班リーダーも席を立つ。

 そして多くの料理――主にカボチャ料理――が並べられた大テーブルに向かい、じっくりと料理を吟味し、適当に皿に盛って席へ戻る。その、途中だった。一際大きな歓声が、件の人だかりから聞こえてきた。

 眼を遣ると、いつもと変わらない顔で、竜人族のハンターが調査員の一人に片手の拳を頭上に持ち上げられていた。どうやら勝敗が決したらしい。

 つまり、何故か――本当に、何故か、人混みを掻き分け、こちらへ向かってふらふらと歩いて来る人影は、飲み比べに今回も敗れたらしい、青い星ということになる。

 研究班リーダーは千鳥足のハンターを見て、嫌な予感がした。

 「青き星……?」

 何故か自分たちに近付いて来る後輩に、ソードマスターも首を傾げる。

 「あ、あぶな――」

 そこで、蹴躓き、ぐらりと前のめりに倒れた青い星に、研究班リーダーが声を上げた。

 しかし声を上げたところで何がどうなるわけでもなく――青い星はそのまま目の前のソードマスターにぶつかった。

 そして、青い星を受け止めようとしたソードマスターの足元には、古代樹のものと思われる落ち葉が――。

 驚きと焦りが入り混じった、相棒、という叫び声が聞こえ、チラと視界に見えた編纂者の姿に、研究班リーダーは、あぁパートナーの元へ行こうとしていたのか、なんて呑気に思ってしまった。

 ふっと二人の姿が視界から消える。次いで、バキバキバキ、ザザザ、と古代樹の枝葉が折れ散る音。なんだい、何事だい、と小さく聞こえてきたのは植生研究所の所長の声だろう。最後の方はザバーンという水音に掻き消されていたが。

 

 司令エリアでは総司令の前で青い星が正座をしている。

 一夜を明かすまでもなく、騒音に植生研究所を見に来た総司令にそのまま連れて行かれたのである。

 高所から落ち、水をかぶったことでさすがに酔いが醒めたのか、青い星は背中を丸めている。

 一部始終を目撃してしまった編纂者と共に研究班リーダーも流通エリアへと降りていく。飲み比べの時にはあれほどやんややんやと騒いでいた調査員たちが、やや遠巻きに様子を窺う姿は幼げにも思えてしまう。基本的に、ハンターとは純粋な者が多いらしい。

 「総司令、これは不幸な事故なのだ。青き星も悪気があったわけではない。あまり責めないでやってくれぬか……植生研究所の所長には某からも謝罪し、某にできることはすべて行う故」

 さて。そうして司令エリアの手前まで来てみれば、後輩に助け船を出すソードマスターの声が聞こえた。

 「……まあ、植生研究所についてはあちらの若所長と話合って決めれば良いだろう……が、君は同期の防具に何をしているんだ。どうして炎王龍チケットを捻じ込んでいるんだ。反省しているのか? なに?炎王龍だから喜んでくれるはず?感謝の気持ち?」

 今度は総司令の大きな溜め息が聞こえた。

 ハラハラとした面持ちで成り行きを見守っている編纂者にこのやり取りはどう聞こえているのだろう。

 まあ、とかく――少なくとも、調査団の要と言えるハンターたちに何事も無かったのは、喜ぶべきことか。

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