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えっちな場面はないけど流血・負傷・暴行描写がくっきりなのでご注意を_(:3」∠)_
モブに殴られるハンターさんとかモブにブチ切れるハンターさんとか見たかったSSS。短い。巻きで。

備考:ハンソドはデキてる

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ここまでのあらすじ:交易船に密航して現大陸からやって来たモブはハンターさんに個人的な恨みを持つひとたちだった。オフの日と言うこともあり居住エリアを軽装でほっつき歩いていたハンターさんを人気の無い場所にある倉庫へ連れ込んだモブたちは拘束したハンターさんに殴る蹴るの暴行を加えていた――!

 姿の見えないハンターを探していたソードマスターは、床に飛び散った赤と無造作に転がされた身体を前に、数秒言葉を失った。
「えー?そいつ誰? なぁ、優等生さんよォ、このひと誰?」
薄暗い倉庫の奥。木箱に腰を下ろしていた男が、見張り役が連れて来た狩人を薄ら笑いで迎える。ゴロリ、と足先で転がされたハンターの顔にはべったりと赤が流れていた。ヒュ、とか細い呼吸音が聞こえた。
「――なにを、」
「なにって、お礼参りってヤツだよ。だってコイツさぁ、俺たちが狙ってたモンスター先に狩っちまうしギルドからも良いお仕事たくさん回してもらってたしさぁ、すっげームカつくワケ。なのにいつの間にか新大陸に行ってんだもん、足取り掴むのに苦労したわー」
呆然としながら漠然と問うた狩人に男はケラケラと笑いながら答えた。その答えを聞いて、くだらない、と。狩人は心底下らないと思った。自分より優れた者が気に喰わないと、ただそれだけの理由で、海を渡ってまで追ってくるなど――呆れる。それでも狩りびとか、と言おうとして、男の足の動きに言葉を飲み込んだ。男は足元を見もせずに無防備なハンターの腹を踏みつけたのだ。ハンターが呻き声を上げ、腹を守ろうとからだを横に転がし丸めようとする。ハンターの動きに巻き込まれ、動かし辛くなった足に舌打ちをして、男はハンターの腹を押し潰してから足を退けた。
 ゴボゴボと酷い音をさせてハンターが咳き込む。その合間にビシャリと床の濡れる音が落ちていく。そこでようやくハンターを見下ろした男は、血混じりの胃液を吐き出し、口元と床を更に汚したハンターに、ニタリと笑った。
「何?吐いちゃったの? お仲間がいる前で? カッコ悪いなぁ、みっともないなぁ! 幻滅しちゃいますよねぇ?」
言うまでも無く狩人へ向けられた言葉に、ハンターは窺うように狩人へ眼を遣る。度重なる暴行に、半ば閉じかけた目が、捨てられることを恐れる幼げな色を帯びていた。
 ふ、と狩人は息を吐く。そうして、リーダー格だと思われる男を改めて見据え、口を開いた。
「そなたらの考えは分かった。しかしもう十分ではないか? これ以上不満があると言うなら、某が話を聞こう」
怒りからだろうか、震えが押し殺された狩人の言葉を聞いて、男はまた笑った。
「へえ? アンタが相手してくれんの? 何でもきいてくれるって?」
「……うむ」
「良かったね~庇ってくれる仲間がいて~。こっちでもチヤホヤされてんだ、お前。羨ましいよ~」
狩人が首を縦に振るのを見て、男はそちらへ歩み寄る。その際、浮かせた足をハンターの肩の上に勢いよく下ろしていく。ゴキリ、と嫌な音がして、ハンターの肩が歪なかたちになった。
「――ッ!!」
床に額を擦り付け、身体を丸めて震えるハンターの姿に、貴様、と狩人の口からこぼれかける。けれどそれがすべて吐かれる前に男は狩人の前に辿り着いた。自分よりも年上の狩人を下から覗き込むようにして見上げる。
「――あのさぁ、あっちより自分の心配したら? 俺たちの相手してくれンでしょ、アンタ」
「っ、……、某にできることならば、」
「そ。じゃあ、さっそく始めよっか。窮屈な船旅と嵩みまくった旅費で結構溜まってンだよね」
 そうして、狩人はハンターの目の前で防具を外されていく。胴、腰、脚、と装備が解かれていく。その途中、男たちが自分に何をさせようとしているのか、流石に気付いた狩人は身体を強張らせる。インナー越しに肌を撫でる男たちの指先に呼吸が震えた。自分の為に男たちの下種な欲望に晒される狩人の姿に、ハンターは唸り声をこぼしながら身を捩って抗議する。そして怪我を厭わず自身の身を案じるハンターに狩人は大丈夫だからと声をかける。そんな二人の様子を、ニヤニヤと眺めていた男たちの一人が、狩人のインナーへハンターから取り上げた剥ぎ取りナイフで切れ込みを入れて行く。
「へぇ?なに? アンタらそういう関係?」
「…………早く済ませ」
「ふーん、そう。まぁどうでもいいけど」
一人に背後から羽交い締められ、二人に片足を押さえられ、脚の間に陣取った男の指が後孔へ伸ばされている状態で、狩人の声は微かに震えていた。
 ハチミツに塗れた男の指が、ツプ、と狩人の身体へ埋められる。その時に零された狩人の小さな呻き声に、プツリとハンターの中で何かが切れた。
 身体に力を込める。ハンターは半端に転がされていた身体に勢いをつけて起き上がる。ズリ、と床に落ちた赤に若干足を滑らせながらも、自分の見張り役であろう近くに居た男を体当たりで壁の方へ突き飛ばす。ハンターの突然の反撃に驚きつつ、それでもなんとか壁際で踏ん張ろうとした男へ、そのままショルダータックルを見舞う。その勢いで外されていた肩がゴキリと戻る。男は上部に設けられていた棚に頭を打ってその場に崩れ落ちた。ガタンガタンと騒々しい音に、狩人を構っていた男たちが何事かと振り返った。そこには、倒れている仲間の一人と、ハンターが――猛然と自分たちに突っ込んでくるハンターの姿があった。
 まず一人、狩人の足を押さえていた男が防具ごと側頭部を蹴り飛ばされて昏倒する。ハンターが倒れた男の手の平をグリリと踏みつけていったのは気のせいではないだろう。次いで狩人を羽交い締めしていた男にも蹴りを見舞う。思わず狩人を放し仰け反った男に、躊躇なくハンターは足を振り下ろす。ミシリと鳴る防具。そしてハンターは流れるように男の頭部へ蹴りを入れた。どう、と音を立ててまた一人男が床に倒れる。そして狩人の、もう片方の脚を押さえていた男も、同じように側頭部を蹴り飛ばして昏倒させる。突然の嵐に呆然としていた顔が壁際へ吹っ飛んでいく。そんな風に次々と倒れて行く仲間たちの姿に、狩人の脚の間に居た男がハンターに向き直る。その手にはハンターの腰から奪った剥ぎ取りナイフがあった。本来ヒトに向けるべきものではないそれを、男はハンターへ向ける。けれど、向けられるナイフに怯むことなくーーむしろ更に怒りの色を濃くしたらしいハンターは、両腕を縛めていた縄を力任せに破り、男へ掴みかかった。
「――青き星!」
ぞぶ、とハンターの腹に鈍色が沈み込んでいく。赤い川が流れていく防具に思わず狩人がハンターを呼ぶ。しかしハンターはその声に応えることなく、自分を刺している男の首を掴んだ手に力をこめ続けていた。
「カ、ハッ――、ぐぅ、ぇ゛、け゛ぁ゛、」
ぎりぎりと絞められる首に男は口を魚のように開け閉めする。剥ぎ取りナイフを握った手はカタカタと震えている。見開かれた眼に浮かぶものは恐怖。目の前の、憤怒に駆られたハンターを、得体の知れないもののように見ていた。対するハンターはと言えば、最早哀れな獲物と化した男の息の根を容赦なく止めようとし続けている。
 ひゅ、かひゅう、と男の喉から妙な音が漏れる。恐怖に彷徨っていた双眸はぐるりと上を向きかけていた。そんな男の様子に、こちらもハンターの様子に怯んでしまっていた狩人が、手早く身支度を整えながら声を上げる。
「青き星よ!!」
もう十分だ、と、言おうとして、しかしそれは僅かに間に合わなかった。ハンターの手が背にある双剣の、片振りに伸びた。

 オトモや同期の推薦組がハンターやソードマスターの不在に気付き、現場に駆け付けた時にはすべて事が済んでいた。床に広がる赤い血だまりとそこに倒れ伏す五人の男。そのすぐ傍にはソードマスターをがっちりと抱きしめているハンターの姿。ソードマスターはハンターを抱きしめているように見えて、その腹を押さえているようだった。足元にはこれも血まみれの剥ぎ取りナイフと小振りな剣――双剣の一つ、だろうか――が落ちていた。
 「――つまり、密航者に私怨から暴行を加えられていた青い星を発見したところ、口封じとして襲われかけ、それに激昂した青い星が密航者たちを行動不能にした、と」
当事者である同期の狩人から事の顛末を聞いた総司令は簡潔にまとめた。本当はもう少し違う経緯があるのでは、と思ったが、同期が報告したことを敢えてそのまま受け入れた。普段から温厚、淡白とも言えるあのハンターが酷く暴れたのだ。触れてやるべきではないだろう。
「密航者たちは船長の交易船に乗せ、現大陸へ送り返す。それまでは空いている倉庫に捕えておくから、皆もそれを心に留めておいてくれ」
そんな風に拠点で起きた騒ぎを説明した総司令に調査員たちは了解の首肯を示す。一先ず事態を受け入れてくれた調査員たちに総司令も頷き、会議を解散させる。
 そうして居住区の隅にある、密航者たちの牢と定めた倉庫へ総司令は訪れていた。食事や手洗い、水浴びなどの時以外は縛られている密航者たちは――自分で蒔いた種とは言え――予想外の代償に消沈しているようだった。
 総司令の訪れに気付いた男の一人が、のろのろと顔を上げる。
「君たちは次の交易船で現大陸へ送り返す。密航と調査員を害した罪を、しっかり償うことだ」
げっそりとした顔で総司令の言葉を聞いていた男が、その顔を見上げながら譫言のように言葉を発した。
「あんな――あんな、おかしいだろ、なんであんな、こんなこと、できるんだよ、何が推薦組だよ……導きの青い星だよ、あんな――知らない、俺たちは知らない、あんな、手の付けられない、」
言っているうちにその時の恐怖を思い出したのだろう、ガチガチと男の歯が鳴り始める。ガタガタと身体も震えていた。
 男たちは皆一様に手の筋と足の腱を切られていた。喉を潰されかけていた男以外は命に別状が無かったとはいえ、狩人として生きて行くことはもう出来ないだろう。それは言わずもがな、ハンターがやったことだった。
 ハンターのそれが許されるかどうかは密航者と共に送るギルドへの報告書とそれを読むギルドに任せ、総司令は哀れな密航者たちに口を開く。
「我々は彼のことを、確かに”導きの青い星”と呼んでいる。五匹の竜の話になぞらえて。そして、君たちも知っているだろう。この物語の青い星は、一匹の竜が空に昇った姿だ、と。つまり君たちは――竜の逆鱗に触れてしまったんだよ」

 総司令が密航者とそんな話をしている頃、件のハンターは一等マイハウスで怪我の手当てを受けていた。総司令辺りが様子を見に来れば、しばらく大人しく療養しているようにと言われるのだろう。けれどその前に――。
「無茶はするなと普段散々某に言っているくせにそなたは……!」
「肉を切らせて骨を切る、なんて相変わらず旦那さんは突っ走り過ぎニャ。旦那さんの悪いところだニャ」
「ガーゼや包帯がズレてしまうので動かないでくださいニャ、旦那様」
「……!」
恋人や愛猫たちからの小言を、決して広くはないベッドの上をモゾモゾと転がり何とか避けようとハンターは足掻いていた。

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