top of page

回収したいネタが複数あると何とか一つにまとめれないかなって横着しちゃった結果です。

不安定星とかふたなり先生とか特殊要素込みこみに注意。
R18だけど別にえっちじゃないというか添えるだけと言うか。

全体的に散らかりまくってる。散文気味。

---

 ソードマスター。あるいは、一期団の先生。そんな風に呼ばれる老狩人にはある秘密があった。
 そしてその秘密を知る者は、おそらく彼の所属期団である一期団の中にもいないだろう。知る機会も、知られる機会も、知らせる機会も、無かったのだから。
 けれど、同期ですら知らないだろう彼の秘密を知る者が、最も若い期団である五期団に、居た。
 青白い月が浮かぶ、晴れた夜。居住区の一室で、一組の番が仲良く睦み合っていた。
 いま先生がどんな顔してるか、当ててみましょうか。
 眼下からの声に、老狩人の身体がふるえる。胎を埋める若い番の熱をキュウと締め付けた、その熱さからだった。
 「そうですねぇ……。真っ赤な顔して、目を潤ませて、開きっぱなしの口から舌を突き出して涎を垂らした、そんな人には見せられないようなだらしない顔、してるんじゃないですか?」
 フルフェイスの頭部装備で良かったですねぇ、とクスクス笑う声は掠れている。
 ああ、番と言えど孫ほども年の離れた後輩に――と、老狩人は羞恥と背徳に背筋が痺れるような感覚を覚えた。じわりと秘所が潤み、許しを乞うようにキュンキュンと硬い熱に媚び縋る。そんな老狩人の身体の反応に、その番はまたクスクスと笑い声をこぼした。

 秘所――秘所である。
 一期団の老狩人はその防具が語るようにれっきとした男である。しかし彼の身体には、いわゆる女性器が備わっていた。とはいえ、それがまったく完全な生殖器官であるかと言えば、否なので、彼を両性具有者と言えるのかどうかは怪しい。
 その不可思議な部位は、つまり女性器の成り損ないらしかった。遠い昔、老狩人がソレに気付いた際、ギルドに相談し、医学分野に精通する竜人族の学者に確認と検分をしてもらったところ「膣部は形成されているが子宮以降が形成されないまま成長と変化が止んでいる」とのことだった。多少の痛みを伴った検査の結果、つまり子宮になるはずだった部位は子宮になりきらず、子宮口と未開通の軟産道を作ったところで落ち着いてしまったらしいのである。おそらく卵管等も無く――仮に在ったとしても――生殖機能は無い、とのことだった。
 そんな部位があるにも関わらず、当人は「まあ、身体に害が無ければ気にすることも」と誰に何を言うでもなく、男として狩人業をこなして来た。当然、色事など自分が関わることもないだろう、と。
 それが覆されたのが、新大陸に渡って四十年が過ぎた頃の話だった。
 何の因果か期待の追い風である五期団、その中でも目覚ましい活躍を見せる調査員に好かれ――あれよあれよという間に身体を重ねるまでになっていたのである。「こんなことまで?」と老狩人が訊けば「番になったのなら当然でしょう」と若い狩人は答えた。その時の、あまりに平然とした様子の若い狩人に、老狩人が密かに面食らっていたことは言うまでもない。

 「せんせい、ほら、うごいてください」
 自分に跨る年上の狩人に、若い狩人は優しげに囁く。
 自分に跨らせた年上の狩人の腰を掴んで、ゆるやかに揺する。
 「ゃッ、ぁ、だめ、もぅ、だめ……、だ、っ、」
 結合部から、くちくち、とも、にちゅにちゅ、ともつかない水音がする。
 肌に感じる程、蕩けた空気を漂わせている老狩人が、更にそれを濃く滲ませる。
 へにゃりと、レイアヘルムの羽飾りが後ろに倒れた。
 「なら、とんとんしてあげましょうか。ね、先生。とんとん、好きでしょう?」
 若い狩人が上体を起こし、老狩人の首筋に摺り寄る。
 ほんとうは自分の上で、起ち上がり涎を垂らす肉棒をそのままに、いやらしく腰を振って欲しかったけれど。
 お疲れならば、仕方がない。自分が好くしてあげましょう。と。
 若い狩人は、丁寧な手付きで動きで己の番を寝台の上に組み敷く。眼下の喉から零れ落ちた、引き攣った呼吸を、聞かなかったふりをして。
 「と、それ、や――いや、だめ、だめだ、あれは、だめ、」
 たのむ、やめて、と濡れた声が乞う。
 「いっぱい気持ちよくなっていいですよ、せんせい」
 それを、甘ったるい声が噛み砕いた。

 元来女性でしか味わえない快楽を与えられ、終いには意識を飛ばしていた老狩人は目を覚ます。
 もう何度も重ねた逢瀬で、その多くで快楽の拾い方を仕込まれた身体は、もはや身体の持ち主よりもその番の方が性質をよく把握しているだろう。それまでそれとなく避けて来た閨を、初めて退けられなかった時、観念して身体のことを明かせば、さすがに狼狽えた姿を見せた若い番は――しかし老狩人から離れることも、その身体のことを誰かに話すこともなく、見事に色を知る身体に仕上げて見せた。当然後孔も暴かれ、快楽を教え込まれている身体は、きっといつかこの若い獣に骨の髄まで食い尽くされてしまうだろう。
 そんなことを考えながら、老狩人は軋む身体から眼を逸らして起き上がる。
 においの残滓も残さない、丁寧な事後処理。また一人でやらせてしまった、と不甲斐なさを感じる。けれど以前、それについて謝りを入れたところ「好きでやっているのだから謝らないで欲しい」「どうしてもと言うなら、ありがとうと言われた方が嬉しい」と言われたので、なるべく礼を言うようにしていた。
 今回も、丁寧な作業への礼を言おうと思い、老狩人は寝台の縁に腰掛ける番の、隣へずりずりと移動した。
 「先生」
 けれど先に口を開いたのは、若い狩人の方だった。
 青白い月を見上げた姿勢のまま、ぽろりと言葉をこぼした。
 「先生、俺は。俺は、怖い。ときどき、このまま先生を食い殺してしまおう、なんてことを考えるんです。先生の喉元に歯を立てて、先生の温かい血を浴びて、先生の肉を食べられたら、きっと――……、なんてことを」
 自分が獣になってしまいそうで怖いのだと若い狩人は言った。
 「狩りをしている時も、調査というより殴り合いを楽しんでいる気がするんです。相手を負かすことに歓びを見出している自分を、否定できない。調査の名のもとに、ひたすらモンスターを狩って、狩って、狩って、俺は、」
 きっといつか、モンスターを狩ることに、理由を求めなくなる。と。
 若い狩人は俯いて、太腿の上で組んでいた自身の指を見下ろした。
 十本の指がキュッと強張って、狩人の両手は祈りのかたちを組む。
 「……、おれは、怖い。夜が明けることが怖い。夜が明ければ星は光を失くす。姿を失くす。先生、俺は、光ある世界で、どこに居れば良いですか」
 「――……我らの青き星よ」
 それまでずっと聞き役に徹していた老狩人が、おもむろに口を開く。
 同時に、そこで若い狩人は気付いてしまう。この老狩人は自分を、老狩人自身のために「青い星」とは呼ばないのだと。
 「しかし、そなたは狩りびとだ。導きの青き星である前に、そなたは狩りびとであろう?」
 次いで発せられた言葉に、若い狩人はまた気付いてしまう。この老狩人は、自分をひとりの狩人として認識してくれているのだと。
 「狩りびとよ、そなたは怖れを知っている。畏れるべきを知っている。ならばそなたは、確かに狩りびとよ」
 すばらしき狩りびとだ、と優しい老狩人の声がひび割れたこころに染み入っていく。
 そして、一度潤んだこころは、水を得たこころは、瞬く間に溢れ、溺れる。
 「せんせい、おれは、」
 ぼたぼたと若い狩人の両手に雨が降り始める。丸まった背中は、迷子の子供のようだった。
 「――すまぬ。すまぬ、狩りびとよ……某は、そなたを救う術を持たぬ。そなたの怖れを狩ってやることも出来ぬ。ただ隣に居ることしか出来ぬ。すまぬ、狩りびとよ……しかし、もしも某に出来ることがあるならば、教えてくれ」
 武骨な手が、不慣れに丸まった背中を撫でさする。
 「ああ、あぁ、せんせい。でしたらどうか、そのままで。そのままで居てください。他の誰もが変わってしまっても先生、貴方だけはどうか、変わらないそのままで、傍に居てください」
 くしゃくしゃになった声が、拙く願いを紡ぐ。
 ぼろぼろと涙をこぼす若い狩人の目は、月光と水底に蕩けかけているようにも見えた。理性と本能と、ある種の感情が綯い交ぜになった、危うさを覗かせていた。そんな番の目を、老狩人は正面から見詰め返す。
 「うむ。そうしよう。そなたの傍に居よう。某はそなたの傍に居る。ならば狩りびとよ、何処へ行ってもきっと某の傍へ帰ってくると、約束してくれ」
 ここ最近、若い狩人から感じた焦燥や不安の気配は、きっとこのためだったのだろう。確かにここのところ若い狩人の狩りのペースは異常と言うか、何かに憑かれているだったけれど。
 「そなたが帰ってこられなくなったら、そなたの元に某が赴こう」
 たまには休暇を貰おうか。胸元に顔を埋めて本格的に咽び始めた狩人をあやしながら老狩人はそんなことを考える。もちろん、今だって休暇は相応に貰っているだろう。けれど、この狩人と自分の休暇が被ることは多くない。半日から、長くても二日程度だ。だから今度は七日ほど共に過ごせる時間を貰おう。そしてこの若い狩人に付き合おう。たまには、そんな贅沢も許されるはずだ。
 いつの間にか落ち着いたらしい腕中の身体から感じる幼げな体温に、老狩人は普くものに熱を与える太陽を思い出していた。
 

bottom of page