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さり気なく声をかければ、相手はいつも通り礼儀正しく返事を返してくれる。

さり気なく隣に並んで歩き始めれば、品の良い相手の香水が鼻をくすぐる。

さり気なく視線を上げて相手の顔を見れば、やはりこちらを見てはいない。

「……何か」

しかし視線には気付いているようで、声をかけられた。

「え。ううん。なんでもない」

「そうですか」

彼は僕を見ることはない。その瞳に映っているのは、同じく黒を纏った片割れか、己の片割れだ。

あぁ。なんて空しいのだろう。僕はこんなにも想っているのに、僕だけが眼中にないとは。

けれども僕はそれを表には出さずに口角を上げたまま彼の隣を歩く。

しばらく歩くと前方に白と黒。それぞれの片割れだ。そういえば今日は新区間の開通式だったっけか。向こうはこちらに気付いたらしく手を振っている。白い方は、それこそ腕が千切れんばかりに。

彼が溜め息を吐く。しかし、ちらりと顔を見ると目が少し細められていて、心なしか嬉しそうに見えた。

僕は何だかそれが気に障って彼の腰に手を回す。細い腰を摩るとひくりと身体が跳ねた。頭上から突き刺さる視線が痛い。しかし気にせず撫でまわしていると微かに悩ましい吐息が零れ落ちてくる。声、もっと聞きたいなぁ、と思い僕は彼の腰に手を回したまま横道に入る。前方の二人が気にして来なければいいなぁ、などと考えていると手を咎めるように掴まれた。こちらを睨む瞳は僅かに潤み、頬は薄く朱に染まっている。

「――ッ、いきなり何をするのですか、」

「何って、ちょっと腰撫で回したくなって」

テキトウな理由を言ってみると彼はあっさりと信じてくれて慌てて横道から出て行こうとする。

「ねぇ、ずっと気になってたんだけどさ、腰細すぎない? ちゃんと食べてる?」

今度は僕が彼の腕を掴む。そのままこちらに引き寄せると薄い碧眼と視線がかち合う。壁側に追い詰めて右足を彼の両脚の間に滑り込ませる。そこでコートの襟を掴まれるけど僕は構わず彼の首筋に顔を埋め、白い肌にやんわりと歯を立てる、と同時に腰から背中を指先で撫で上げた。

襟を掴む力が弱くなる。彼は腰が砕けたらしく、ズルズルと僕の右足にへたり込んできた。

「あは。腰砕けちゃった?」

じゃあこのままシてみようよ、と耳元で囁くと彼は俯いたまま震える声で言った。

「――はッ、私は、貴方のお兄様では、在りません……!」

「うん。知ってる。わかってる」

それで彼は黙り込んでしまったから僕は顔を上げさせてキスをした。

 

初めての開通式

(おや、お二人とも今までどちらに?)(もうすぐ車両が来るよ!)

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