「どうした? 何かマズいことでも?」
決して短くはない時間、動きを停めていた相棒に彼は気遣わしげに声をかけた。ポンと手を乗せた肩が跳ねて、それから首が回され、素直に驚いているらしい視線が向けられる。
「あー……いや、なんでも。少し考え事をしていただけだ」
「あんま根詰めすぎるなよ? ちょっと向こうで一息つこうぜ」
相手が何と答えるか、予想は出来ていたらしい。もう少し、と音を出力しようとした音声回路から、微かなノイズが漏れた。その時点で腕は掴まれ、腕の持ち主はそのまま曳かれて席を立つ。直後は少なからず驚いた様子だったが、すぐに力を抜いて身を委ねた。腕を掴んでいた手は下へ降りて相手の手を掴んでいる。拒まれなかった誘いに、その喜びを、相手の指先を握る手に力を込めることでそっと表した。
息抜きに出た外界には青い空が広がっていた。風も吹いている。伸びをすれば機体のあちこちから乾いた音がした。
ふと隣を見遣れば、連れ出した相棒は欄干に腰掛けて何処か遠いところに意識を飛ばしているようだった。時々、気付けば、この相棒は物思いに耽っているよな、と思う。ともすれば、そのまま何かに引っ張られて何処かへ行ってしまいそうな気すらさせる。少しでも此処――自分の傍に引き留めようと手を伸ばす。
「……お前が今何考えてるのか、俺にはわからんけど、大丈夫だ」
「いや――いや、だい、じょうぶ、なんでも、ない、ぞ」
「俺が、ずっとお前の傍に居るからな」
両手で高い位置にある頬を包み、表情の窺えない顔を真正面から見詰める。
「ずっと、傍に……?」
小さく繰り返された言葉は小さな揺らぎを伴っていた。オプティックがあれば、切なげに細められでもしていたのだろうか。そっと引き寄せても抵抗は無く、寧ろ――やや躊躇いがちにだが――すり寄ってくる機体を迎える。あぁ愛しい。純粋にそう思った。そして、その感情のまま、彼は額を相手の額にコツンと合わせて、そのまま無い口で相手のマスクにキスをした。