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生存if英スラウォルでニキがウォルを甘やかすだけ。甘。
スラウォル(特にニキ)に夢見過ぎてる気がするけどままええか……(ええか?)

ヒント:日付(2024/08/02)

何もかも捏造と妄想。殴り書き。
気を付けてネ

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 その日、スッラの機嫌はすこぶる良かった。数十日ぶりにベッドの上で目覚めたウォルターが、きれいな仰向けの体勢で目覚めたまま背後に宇宙を背負う程度には上機嫌だった。
 昨夜から今朝までの間に、ウォルターの身に何があったかを振り返る。
 ルビコンの復興に関わる組織は言うまでもなく毎日が多忙だ。今ウォルターが身を置いている組織はその最たるものだった。そして月の変わり目で、いつにも増して多忙となっていた。
 決算、精算、承認、調整。組織内外のスタッフや他組織も含めて、すり合わせの量は膨大だ。それらを、ウォルターは通常の業務と平行しながら片付けていた。
 ウォルターがその仕事に一区切りをつけたのは、日付が変わってから四時間ほど経ってからであった。
 仕事の区切りがつけられたことを認識したウォルターは、デスクの上に広がるエナジードリンクや栄養バーの残骸たちを退かす気力すらなく、その骸の山へ倒れ込んだ。
 もう随分ベッドで寝ていない気はしていたけれど、動けなんかしなかった。ベッドでなくとも、ある程度眠れるなら、もうこのままでいい。起きたら身体が痛むかも知れない。その時考えよう。端末のアラームを解除していない。鳴ったら停めればいい。そんな風に意識が遠退いていった。
 そして目覚めたら「これ」だ。
 肌触りのいいシーツ。柔軟剤の優しいにおいは見知らぬ寝間着から。天井は白い。たぶん壁も同じだ。差し込む明かりは窓からの陽の光がカーテンのレースを透かしたものだろう。ゆらゆらと揺れる影が、窓は開けられていて風のあることを知らせる。
 極め付きは枕元や身体の横に並べられているぬいぐるみの数々だ。ウサギやクマやアザラシや、ステゴサウルスまで、色々な生き物を模したものが置かれている。
 なんだこれは……とウォルターは宇宙を背負いながら天井を見つめる。なにこれ……どうして……。どうしてこうなった。ついでに随分部屋が明るい。今は何時なのだろう。知りたくない。あのままデスクの上で目覚めて仕事の続きを消化していくつもりだったのに。
 ウォルターはまぶたを閉じる。現実逃避だ。意識と身体が沈んでいく――。
 「お目覚めか? ハニー?」
 ――まあ、こんなことをするのは他にいないだろうとは思っていた。ベッドに運ぶ、くらいならしてくれそうな顔が思い浮かぶには思い浮かぶが、着替えさせるのはともかく、ぬいぐるみを添えたりなんてするのはこの男くらいのものだろう。
 「……何をしている」
 隠しもしない笑顔とご機嫌な声で部屋に入ってきたのは、やはりスッラだった。ウォルターはまぶたを持ち上げながら呻くように言った。
 「タルトを焼いていた」
 勝手に焼けば良いだろう。聞きたいのはそう言うことではない。だが、分かっててやっているのだろう。
 何も見なかった聞かなかったことにして、ウォルターは再びまぶたを閉じた。ぎしりとマットレスが沈んで人の気配が近付く。さら、と指の背が額を撫ぜていった。
 「疲れたときには甘いものと言うだろう?」
 「睡眠……」
 「ちなみに今は……ああ、おやつの時間にちょうどいい時間だな」
 サイドテーブルに時計が置かれていたらしい。小さめのそれを――わざとらしく――持ち上げて時刻を仄めかす。
 「なっ……!?」
 昼を過ぎたくらいだろうか、と思っていたウォルターは思わず跳ね起きた。
 モーニン? と、改めてスッラが笑った。
 それからはもうなし崩し的にベッドを出た。身体を起こしてしまえば、それまで意識の外だった空腹や喉の乾きが主張を始める。そこにふわりと漂ってくる甘く香ばしい匂いは、言うまでもなく甘美なものだった。
 そうしてスッラに手を引かれてダイニングへ案内されたウォルターは、甘い匂いを漂わせるタルトが鎮座しているのを見る。実物を見れば、早く寄越せと腹も喉もクゥクゥと催促の声を上げた。スッラが「ふふ」と穏やかに微笑ったことも、ウォルターが「ム……」と顔をしかめて見せた理由だ。
 馬鹿にするでもなく嘲笑うでもなく、ただ穏やかな笑みを浮かべてスッラはタルトへ包丁を入れる。サクリ、サクッ、とタルト生地の切られる音。
 艶やかなタルトの一切れが皿に乗せられて差し出される。フォークは既に用意されていた。
 それからスッラは、冷蔵庫からマグをふたつ取り出してきた。ひとつをウォルターの向かい側に置いて、もうひとつをウォルター前に。中身はカフェオレのようだ。
 けれどスッラはまだ座らない。またキッチンの方へ行ったかと思うと、何か黄金色の液体が入った瓶を持ってきて、ようやく席に着いた。
 フフフ、ともったいぶって笑いながらスッラはかぽんっと瓶の蓋を開ける。こくりと息を呑むウォルターの前にスプーンを出し、そして瓶の中の液体を掬った。
 つやつやとろとろのそれは、ああ、どこから手に入れたのか――ハチミツだ。
 甘くて綺麗な黄金色を、スッラはウォルターに切り分けたタルトへたっぷりと注ぐ。
 贅沢と言わざるを得ないその所業と光景に、ウォルターから「ふあ……ぁぁ……」と声がこぼれる。
 「さあどうぞ?」
 クツクツ喉を鳴らしながらスッラが「ヨシ」を出す。少年が、かつてのように食事の際に作り手の「どうぞ」を待つままで良かった。あるいは、何か予感めいたものがあったのだろう。
 「い、いいのか……?」
 「いいとも」
 「ぅ……ぁ……、ぃ、いただき、ます」
 フォークを握り締めたウォルターは、普段の厳めしさはどこへやら、子供のようなキラキラした表情を浮かべていた。
 ぱくり、と一口。
 もぐ……と口許が動くのとほとんど同時にウォルターの顔がふにゃりととろける。
 「ぅまい……」
 呟くような、それこそ溶けるような声だった。
 タルトそのものにもハチミツが使われているらしい。ハチミツのやさしい甘さが波のように舌を頭を包む。酷使されていた身体に、甘味はよく染みる。
 「ぅま……」
 カフェオレは甘さ控えめでタルトと合わせてもクドさがない。
 取り繕うこともなく、夢中と言うに相応しく、ウォルターはフォークを動かし続けた。
 ふもふもとまろい顔でタルトを食べる姿は見ていて気分がいい。テーブルに肘をついて、スッラはそれを穏やかに見守る。タルトが小さくなれば新しい一切れを皿に乗せハチミツをかける。いっぱい食べろ。そんなことを言いたげだ。
 だが――まだだ。
 スッラの計画はまだある。これで終わりではない。
 ウォルターに「幸せそう」な顔をさせた男は穏やかな顔の裏でこの後の計画をシミュレートする。
 ウォルターを甘やかして、甘やかして、甘やかすのだ! 仕事など一欠片もさせるものか。また無理をしていたのを知っているのだぞ。
 本当はもっと早くにウォルターを回収できたら良かったのだが、半端なところで仕事を中断させればいよいよ仕事場のセキュリティが第2助手の手に委ねられかねない。だからここまで待ったのだ!
 「焦らなくていい。ゆっくり食べろ」
 「んむ……」
 スッラの甘ったるい声に、ウォルターはたぶん無意識に返事をした。だからそれが掠れているのも聞いてはいなかっただろう。
 それを知った上でスッラはにこにことしている。理想はウォルターが「仕事に戻りたくない」と言うまでとろかすことだ。期限は今日と明日。時間としては短いが、だからこそ焦らずいくべきだ。
 スッラは己の手が作り出した、他では見られないウォルターの姿を眺めながら楽しそうに愛おしそうに「フフフ」と笑うのだった。

 そしてスッラの計画が概ね上手くいった後――ベッドに置かれたぬいぐるみたちは、一体を除いて孤児院や医療機関に寄付されることになった。
 ウォルターの手元に残った一体は、ヘビのぬいぐるみだ。曰く「ぬいぐるみと言えど爬虫類が苦手な者はそれなりにいるだろうから」とか何とか。もちろんウォルターは真面目に言っている。
 けれど、やっぱりウォルターのことだから、自分のために用意されたぬいぐるみをすべて手放すと言うのが心苦しくもあったのだろう。
 そしてデフォルメされた丸っこい「ヘビ」のぬいぐるみを大切そうに携える姿は、エンブレムにヘビを用いているスッラにはこの上なく可愛らしく愛おしいものに映るのだった。
 

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