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技研時代 捏造ルビコンⅢ脱出

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 人。人。人。
 人でごった返す屋内を傭兵は大股で往く。片手に旅行鞄ひとつを持ち、片手に少年を抱いて。
 人を避け、人を押し退け、船の乗り場へ。怒声も喚声も全てを置き去りにしていく。
 あと少しで辿り着く。そんな時だった。
 見覚えのある顔が、目の前に立ち塞がった。
 あの研究所(ラボ)で見た顔だ。直接話したことはない。
 草臥れた白衣を纏うそいつの顔はやつれていて、血色も良くない。けれど目だけが爛々と輝いていて、その口元は歪な弧を描いていた。
 「ぼ、坊っちゃんを、渡してくだ、もらおう。坊っちゃんは、我々が、安全な場所へ運ぶ」
 嘘だ。
 傭兵は研究所の所長直々に少年を預けられていた。少年を星外――木星へ脱出させると言う依頼を、受けていた。依頼の変更や破棄があるなら、連絡があるはずだ。否。仮令あったとして、しかし連絡が無ければ、傭兵は「受けた依頼を」遂行するだけだ。
 それに、この土壇場でこんな状態の人間にそんなことを言われて、信じられるだろうか。
 傭兵は当然拒否を告げる。
 だがそいつ――そいつらはなおも食い下がった。我々が安全な場所へ。研究所の職員だけが知るシェルターが。どうせ間に合わない。少年も我々といた方が安心できるだろう。そんなことを言っていた。
 時間の無駄だった。傭兵は片眉を上げる。少年が大人しく眠ってくれているうちに「外」に出てしまいたい。
 だと言うのに、こいつらは。
 「――お、お前より、教授より、我々の方が、その子を上手く扱える(・・・・・・)」
 その、言い方は。声音は。
 ひとの子供に対するそれでは無かった。
 視線だってそうだ。
 意識の外にやっていたから、気付くのが遅れてしまった。
 その眼は、声は、言い方は――実験観察対象(モルモット)に対するそれではないか。
 傭兵はくちびるを歪めた。
 そして、短く息を吐いてそいつらを睥睨した。
 古い時代、栄光を掴んだ者と同じ名を持つ傭兵は高らかに言い放つ。それは矜持であり自信であり、傭兵をその名と共に好いてくれた少年への――それは確かに――愛情だった。お前に幸あれとただひとり想ってくれた少年への。
 「道を開けろ、三下共。私を誰だと思っている。幸運の名を持ち、第一世代型強化手術を生き延びた、第一世代型強化人間だぞ」

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