ダズンローズデー英スラウォル。甘。生存ifです。当日突貫。
ドキュメントの文字カウントは1200字なのでエイヤと投げました。
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誰がどこから仕入れて広めているのかは分からないけれど、遥か遠く懐かしい地球の文化やイベントは、このルビコンⅢでも知られていた。
そしてどうやら今日も“そういう日”であるらしい。
ずいと目の前に差し出された小さなバスケットを、ウォルターは反射的に受け取ってしまった。
中身は赤い花……ではなく、赤く塗られた紙幣と、紙幣と同じ色のリングケースだ。
「趣味の悪い花束だ……」
思わずそうこぼせば、バスケットを差し出した男は至極面白そうに笑い声をあげた。
「今日は花を贈る日だろう? しかし手に入らなくてな。それで我慢してくれ」
今のルビコンⅢで生花を手に入れることは至難の技だ。星内は荒廃し、星外との交流も復旧できていない。
造花であれば、なんとか入手できないこともないだろうが、男――スッラはそれを良しとしなかったようだ。
「折ったのか。お前が」
ウォルターがバスケットから「花」をひとつつまみ上げてまじまじと眺める。バラに似ている。
ひとつひとつ、花弁の大きさや幅が違っている。一番多く皺の残っているものは、一番最初に折ったものだろう。
独立傭兵と折り紙。なかなか想像のつかない組み合わせだ。
「ああ。調べてな。なかなか手遊びに良い」
「この色はどうしたんだ。絵の具や染料なんて無いだろう、まだ」
「機体用のものだ」
それを聞いて合点がいった。なるほど確かに――レッドやマゼンタではない、バーガンディの色合いはスッラの乗機(エンタングル)のそれだ。見覚えのあるはずだと思った。
つまり、素材はともかく、これもまた立派な「こころのこもった」花束だと言うことだ。
悪趣味だ、と表した自分の声が頭の後ろに響いて、ウォルターは視線を斜め下へ落とした。
対して、スッラは「他に質問は?」なんて朗らかに言っている。間違いなく、ウォルターの気にしていることを何も気にしていない。
ウォルターはバスケットを突き返した。リングケースに触れれば取り返しのつかなくなることくらい、分かっていた。
しかしスッラが“この程度”で退かないことも、また分かっていたことだ。
突き返されたバスケットに、スッラは笑みを浮かべた。
穏やかなそれは、今のウォルターには空恐ろしいものに見えた。
「……そしてこれはな、メンテナンスで交換したエンタングルのパーツだ」
言いながら、スッラはリングケースを開いて見せる。
中には、指環と言うには些か武骨なリングが収まっていた。
「私の帰る場所(ホーム)になってくれ、ウォルター」
「……家、なら、適当に、買えばいい」
「はは。それこそ、住居(ハウス)はお前と決めなくてはな」
ウォルターは「ダメだ」と言うが「嫌だ」とは言わない。それが何よりの答えだ。
だからスッラは、その葛藤も頑固さも全部引っくるめて「大丈夫だ」と言うのだ。
「ウォルター、愛している」
バスケットが宙を舞った。