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新米時代もしくは生存和解if モブが少し

「ルーチェ(Luce:光)」でも良い気がしてきた。

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 男は焦っていた。
 予想外。まったくの予定外。イレギュラーな事態に陥っていたからだ。
 男の計画は完璧なはずだった。
 標的を襲い、拐い、そのものやその周囲を好きに動かす。そのために多大な金と時間と労力を割いてきた――はずなのに。
 「――クソォッ!」
 どうしてこんなにも早く隠れ家がバレ、どうしてこんなにもあっさりと乗り込まれているのか!
 弾を撃ち尽くした銃を放り捨てて、隠れ家にひとり乗り込んできた独立傭兵に殴りかかる。そう易々と獲物を取られて堪るか、と男は思った。
 振りかぶった拳は独立傭兵を捉えられない。ヒョイヒョイと避けられていく。まったくノールックで避けているわけではないことが、せめてもの救い――わずかな勝機だろうか。独立傭兵の目は拳を追っている。両腕を、ポケットに突っ込んでいるわけでもない。
 男は膠着状態に微かな希望を見た。
 当の独立傭兵が発している問いなど、男には聞こえていなかった。
 ――ヒュ、と鋭い音が空を切った。銀閃。独立傭兵の髪が、はらりと数本落ちていく。
 「……」
 男の持ち出した凶器とはナイフだった。ありふれた、しかしこの宇宙世紀以前から人と争いと共にある、信頼と実績の武器。独立傭兵は目を細めた。
 男がもっと冷静だったなら、その表情が呆れからくるものだろうと言うことを察せられただろう。
 「しッ――死ねぇッ!」
 男はがむしゃらにナイフを振るった。ヒュンヒュンと刃先が虚空を何度も掻く。
 独立傭兵が溜め息を吐いたのと、男がナイフを突き出したのは同時だった。ナイフが深々と独立傭兵の腕に突き刺さる。
 男の顔に歪な笑みが浮かぶ。
 だが、それも一瞬。
 バキンッと音がして、男の笑顔はすぐに強張った。
 「どうした? 義手が外れるのを見るのは初めてか?」
 独立傭兵が薄ら笑う。
 ナイフの刺さった腕――義手が重力に従い落ちていく。
 信じられない。義手の外れる音からして、切断は性急で無理矢理だったはずだ。反動が、小さいわけがない。常人ならば仰け反り蹲るとか、顔を歪めるくらいはするはずだ。それなのに。この独立傭兵は――。
 ギュッと拳の握られる音に、男は気付かなかった。義手を追っていた目を独立傭兵へ戻したときには、既に固い拳が目前に迫っていた。
 暗転。

 「――まったく手のかかる飼い主様だな。何度目だ?」
 隠れ家の奥、薄暗く埃っぽい小部屋に転がされたウォルターを見下ろしてスッラは笑った。散々抵抗したのか、服も顔もボロボロだ。この様子では服の下にも痣やらができていることだろう。
 「セキュリティの機能が落ちている箇所があった。内部に協力者がいた可能性が高い。……見抜けなかった、俺の落ち度だ」
 何度目、と揶揄されるほど頻繁に拐われているわけでもない――云十年ぶり三度目程度だ――のだが、ウォルターは律儀に目を伏せる。
 「すまない」
 拘束を解いてやるとウォルターは擦過傷に赤くなった指先で、肘から先を失ったスッラの腕に触れた。いつも手指を覆っている黒のグローブは床の片隅に放り棄てられていた。
 残った腕でスッラはウォルターの腕を引っ張り立ち上がらせる。よろめいた身体を身体で支えてやって、顔を上げさせる。
 「……ウォルター。私のパエゼ・ナティーオ。私はお前が生きてさえいれば良い。謝らなくて良い。全てお前のために私がしたことだ。お前の責任ではない」
 顔を汚す塵を払い、滲んだ血を拭ってやる。真正面から覗き込んだ瞳の奥に、ちかりと光が瞬いた気がした。
 「帰るぞ。他の奴らがうるさくてかなわん」
 「……ああ」
 目元にひとつ口付けを落として、スッラはウォルターを支えて歩き始める。ウォルターは足を引きずっていた。
 世話のかかる、と思うと同時に、やはり自分が見ていてやらねば、と仄暗い愉しさを覚える。落としたままだった義手を拾おうとするウォルターに小さく文句を言いながらスッラはその身体を支えてやる。
 随分機嫌の良さそうな様子で、スッラは詰まらない男の隠れ家を後にする。

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