top of page

【R18】量子と感情の縺れについて

ご都合生存ifでスッラ×子供化ウォルターのスラウォル。R18は添えるだけ。全体的にユルい。

ご都合生存ifでスッラ×子供化(身体のみ)ウォルターのスラウォル。R18は添えるだけ。全体的にユルい。捏造とか妄想とか練習とか。

お題は「エナメル」様から。ありがとうございます。

生存if時空。全体的にユルい。R18は最後だけだし添えるだけ。そのうちリベンジしたい。

キャラビジュはスッラ→画稿(5)の長髪さん、ウォルター→遺稿の少年を想定して書いています。

捏造と妄想ばかりだ……。気を付けてね。

---

いつまでも泣けばいいし、傷つけばいい

 色々あって観測者とルビコニアンが和解し、未だにちょっかいを出してくる企業たちをしばき回しつつコーラルとの共存を模索している最中のルビコンⅢである。

 “人類とコーラルが共存の道を模索し始めた”ルビコンⅢにスッラが留まる必要は無いが、コーラルを利用して一攫千金、だとか、“あいつ”がまた余計なことをしていないか、だとかの理由をつけてスッラは時々顔を見せていた。

 今回もそんな折だった。

 今回も今回で地表の人間たちには目もくれず、地下深くに埋もれた技研都市を目指す。もはや慣れた道だ。

 未だに大部分がアイビスの火に焼かれた当時のそのままになっている都市の建造物群。その中のひとつに目的地があった。

 周囲の建物と比べて整備のされた建物。すぐ傍には、技研都市の風景には溶け込まない“ガレージ”が設けられている。そこに2機のACを見て、スッラはその時の在宅人数をおおよそ把握する。

 そしてやはり勝手知ったる様で自分の駆ってきたACをガレージの空いているハンガーへ置き外へ出る。いつ訪れても明るい場所だ。夜はあるのだろうか。そんなことを、ふと思った。

 訪問したところで素直に通されるとは思っていないし、その試しがない。ので、スッラは瓦礫や罅に足をかけ、窓から目当ての住処へ侵入す(はい)るようにしている。

 するすると安全な足場を選び建物の外側を登っていく。そうして、窓ガラス越しに馴染みのある室内に辿り着く。

 警戒心がないのか、ACやMT相手には無駄だと思っているのか、窓には鍵がかかっていなかった。“運命から逃れた”とは言え、そこまで軽い命とは言い難いだろうに――自身への頓着の無さにスッラは呆れのようなものを感じる。

 カラリと窓を開け、室内へ滑り込む。こちらに背を向けた椅子が小さく動き、その前に置かれた机の上には立ったペンが見え隠れする。今日は事務仕事に精を出しているらしい。

 「今回は――どう犬を殺すつもりだ? そろそろ新しいのが欲しくなる頃だろう?」

 コツコツと足音を立てながらスッラは椅子へ近付く。分かっていた。もはや“この男”が自分の猟犬をおいそれと死地へ放つことはないと。だが、今までにして来たことが、容易に風化すると思うなかれ、とスッラは古傷を乾かさないのだ。

 「独立傭兵スッラ。ならば俺の猟犬たちの代わりに行ってくれるか? 金は出す。独立傭兵とは――そう言うものだろう?」

 返ってくる言葉は、大多数の他者へ放たれるものと違って棘の数が多い。それはスッラの特権と言える。

 だがそんなことよりも。

 スッラの顔から笑みが消える。

 いま、聞こえた声、は。

 くるりと椅子が回る。背凭れに隠され、後ろからでは視認できなかった、ここの主の姿が現れる。それは見覚えのあるものだ。遥か昔、まだこの都市が焼ける前。多くの科学者や技術者の中に、時折混じっていた低い背。

 過去にも現在にも変わらない、目の奥に光を垣間見せる男。その、幼い姿。

 「……ほう?」

 眼下の存在を認めたスッラは、自身の口端が引き攣ったのを感じた。

 「――つまり、コーラルの研究中に爆発に巻き込まれた、と? 心当たりはそれしかないのか? 本当に?」

 「ないと言っている」

 来訪に当たって椅子など用意されないスッラは執務机をその代わりに選んだ。机上に広げられた書類に構うことなく、その上に腰を下ろす。少年――ウォルターが実に嫌そうな顔をしたので、良いことをしたと思った。

 「俺やカーラだって初めて見る現象……反応?だ。ナガイ教授の研究記録にも同一もしくは類似の報告はない」

 「さぞ見物だっただろうな……お前が爆発に巻き込まれた時は」

 コーラルについて、1から調査し直してみよう、と言うのが発端だったように思う。

 バスキュラープラントの近くにできていたコーラル溜まりをサンプルとして、ウォルター、カーラ、エア、チャティの四人で調査をしていたのだ。濃度は平均値程度。周囲に刺激を与えるような爆発物の類いもなかった。だが事故は起きた。何が起きたのか、未だに把握できていない。

 赤白い閃光を最後に見たウォルターが次に目を覚ましたのは二日後のことだった。見知らぬ天井は、技研都市の元医療施設だった。

 意識を取り戻したウォルターはまずカーラとエアはチャティに庇われ事なきを得たとカーラ自身から聞かされた。義体が中破したチャティも“療養中”だそうだ。そして困惑と共に自身の状態を指摘され、また意識を失いかけた。当然だろう。

 幸い他に異常は見られなかったため帰宅したが、その後の予定は大幅に狂ってしまった。各地への視察や訪問、惑星内外の者との会談や交渉。赴くにはあまりに不便な姿。それらの予定を、調整したり肩代わりしてくれたのはやはりカーラだった。

 斯くしてウォルターは文字の読み書きができればこなせる事務仕事を中心に片付けているという現状であった。

 外部には漏らすべきでないトップシークレットだったと言うのに、スッラに見つかってしまったのは痛い誤算だ。現に今も楽しそうに喉奥でウォルターを笑っている。

 「ただでさえ無力な男が更に力を無くすとは……存外底とは無いものなのだな」

 笑うだけでなく、無遠慮に頭を触っている。まったく子供に対するそれだ。

 以前からこちらを子供のように扱う節のある男だったが――ウォルターはじっとりとスッラを睨め付ける。

 「……! フッ、く、ハハハ!」

 拗ねた子供のような顔をするウォルターに、スッラは今度こそ噴き出した。それと同時に頭を鷲掴まれたウォルターが「おい」と不機嫌に抗議する。

 「フッ、フフッ、はっ、あまり笑わせるなハンドラー・ウォルター」

 勝手に笑っているのはそっちだろう、とウォルターは自身の頭は掴むスッラの手を退かそうと試み始める。

 だがその大きな手は、結局自発的にウォルターから離れていった。

 「それで、そんな成りになってもやることが大人の手伝いとはな……まったく健気なことだ……」 「なっ、」

 「お前、やりたいことなんかはないのか?」

 ぐしゃりとウォルターの髪を乱してからスッラの手は離れていく。そうして、スッラは身体の前で腕を組んでウォルターに訊いたのだ。

 スッラからの予想外の言葉に、ウォルターは面喰らう。

 「やりたいこと……?」

 やりたいこと。ルビコンⅢの復興。戦火の後始末の算段。企業と地域の折衝役。子飼いの猟犬たちの今後の人生のサポート。否、これらは自分が“すべきこと”だ。自分に責任があり、自分は大人であるから、その責任を負う必要がある。

 では、自分がやりたいこととは?

 黙ってしまったウォルターを前に、スッラはまたわらう。

 「ふん。今も昔も、可愛げのない子供だ」

 それが「ウォルター」と言う人間なのだろうけれど――スッラには関係のないことだ。

 「出掛けるぞ。お前の犬たちに、着いて来ないよう指示を出せ」

 机から下り、入ってきた窓へ向かう。ウォルターが、困惑したような呆れたような顔をしていた。

 「何を言っているんだ……誰がそんな要求を呑むと」

 「せっかく署名をしたようだが、この書類は――燃やしてしまっても良かったか?」

 「!? なっ……、あっ!? スッラ貴様いつの間に……!」

 ひらひらと机の上から拝借した書類を振って見せれば、ウォルターはスッラと机の上を交互に見て悲鳴を上げた。

 適当に抜き取ったものだがこれは――封鎖機構との交渉に関したものらしい。相手方の署名も既に入っている。失いたくはないものだろうな、とスッラは自身の幸運に感謝した。現に背後から「クソ……!」とウォルターの悔しげな悪態が聞こえる。

 「ガレージで待っているぞ、ハンドラー・ウォルター」

 書類を畳み、懐に仕舞い込みながらスッラは窓枠へ手を掛ける。

 窓枠を乗り越える直前。チラリと振り返った室内に見えたのは、ぽこぽこと頬を赤くしてスッラに対して怒っているウォルター少年の姿だった。

+++

吐き気がするほど幸福な

 スッラはエンタングルのコアパーツにウォルターを入れ、技研都市を駆けていた。

 ウォルターの突然の外出を訝しんだ猟犬たちがガレージまで来て多少揉めたが、結果としてウォルターを連れ出せたのだから良しとしよう。

 619にスリーパー・ホールドを許してしまったが、こちらはクレイドルを見舞ってやったので良い。619とじゃれている間に、エンタングルの脚部に620が付けた傷の修理費は奴らのハンドラーであるウォルターに請求する。

 618と621の不在は幸いだった。特に618は以前ハンドラー・ウォルターへの見せしめとして殺そうとしたからか、こちらの影を視認しただけで首を取りに来ようとする。恨むならハンドラー・ウォルターを恨むべきだろうに。

 「はぁ……」

 首や肩を小さく回し、音をポキポキ鳴らしながらスッラが溜め息を吐く。何故ハンドラー・ウォルターの猟犬たちはハンドラー・ウォルターにあんなにも懐くのか。

 「……痛むのか」

 スッラの溜め息を聞いて、ウォルターが訊いた。

 ガレージでの小競り合いを止めなかったのはお前だろう――と言いかけたスッラは、しかしウォルターの目が自身と機体を繋ぐケーブルの類いを見ていることに気付く。

 「ああ、痛むな。肌が強張り肉が引き攣り骨が軋む。眠れぬ夜もあるぞ? ハンドラー・ウォルター」

 「――っ、」

 ウォルターが息を呑む。前に顔を合わせたときよりも分かりやすく表情が変わるのは、やはり身体が幼くなっているせいか。

 「だが、どうしようもあるまい。だからこそ、私は「狩り」をするわけだが」

 「再手術を……受ければ良いだろう」

 「第1世代から第10世代への更新手術か。素晴らしい提案だな、ハンドラー・ウォルター。それで、その成功率はいかほどなんだ? 成功したとして、技研の、私たち(第1世代)への所業が無くなるのか?」

 第1世代強化人間は、言うなれば試作品だ。技術として確率されはしたが、その安定性と安全性の向上のために被術者ごとに大なり小なり“差異のある”手術内容を施されている。簡単に言えば、人体実験だ。

 黙り込んでしまったウォルターは、その小さな拳を握り締めていることだろう。見ずとも分かる。これはそういう男だ。そんなウォルターを、スッラは鼻で笑った。

 それからふたりの間に会話はなかった。スッラはその沈黙をどう思うこともなかったが、ウォルターは機内の隅で蹲ってしまった。視界に入った膝小僧とつむじを、やはりスッラはわらった。

 「着いたぞ」

 重たい音を立て、存外緩やかにエンタングルが停止する。機体との接続を丁寧に切りながらスッラはウォルターへ声をかけた。モゾリと小さな荷物が身動いで、濡れた瞳が覗いた。ごそごそ衣擦れの音がしたと思えば、のっそりとウォルターが立ち上がる。

 「――ぅわ、」

 シャットダウンした機内は薄暗かったが、スッラは慣れた風にウォルターを小脇に抱え、コアパーツの扉を開ける。

 ザア、と風が吹いた。

 目の前に、緑に呑まれかけた廃墟が現れる。

 それらがアイビスの火以前の建物であることは分かる。だが、それらを覆う緑は――植物は、見たことがない。ウォルターが住処としている地区やバスキュラープラント周辺の地区でも、これほど豊かな緑は見られない。どころか雑草の一株すら見つかっていない。火によって死滅したのだろうとウォルターもカーラも考えていた。

 エンタングルを伝って地上に下りると、靴底に草が潰れてザクリと音がした。久しく――否、ルビコンⅢでは、初めて触れる感覚。

 小脇に抱えていたウォルターを下ろしてやると、懐から折り畳み式の杖を取り出していた。

 「要るのか、それは」

 短く折り畳まれているそれを、勢いよく振って伸ばす。カシャン、といかにも携帯用と言う軽い音がした。

 「身体が幼(ちいさ)くなっただけだからな。失われた身体機能までは戻っていない」

 つまり若返ったのは見てくれだけらしい。そう言えばウォルターの右の袖は空のままだった。

 「なるほど……右腕はどうした。売りにでも出したか?」

 「……いつ戻るか分からないから、用意していないだけだ」

 「そして文字通り犬を手足のごとく使っているわけだ。さすがだな、ハンドラー・ウォルター。犬を使わせたらお前が一番だろうよ」

 「……スッラ、」

 「精々甘やかさんことだ。手を噛まれてからでは遅いからな」

 「あいつらは、もう使役されるだけの獣ではない。歴とした人間だ。……貴様に、どうこう言われる筋合いは、無いはずだが?」

 それはどちらかと言えば古馴染に対する親切心の発露であったけれど、ウォルターには伝わらなかったらしい。それほど猟犬たちを信頼しているのか、とスッラは苦笑する。自身の日頃の行いに対する反応であるとかは、加味されなかった。

 ウォルターからすれば不可解な外出だったが、スッラは怪訝そうなウォルターに構うことなく散策を始める。サクサクと丈の短い草を踏む音が廃墟に落ちる。

 一方のウォルターも、スッラと言う同行人の思考を理解できないながらもその背を追って歩き始める。隣人はともかく、場所に対する興味と関心は十分過ぎるほどふくらんでいた。これら植物の生育と成長は、やはりコーラルの影響があるのだろうか。等と。

 そして、道の両側に店舗が並ぶそこへ踏み行って数歩。ウォルターは失くしたと思っていた過去に色が戻ってくるのを感じた。

 この店で本を買った。あの店では筆記具を買った。そこの店では服を買った。かつて確かに手の中にあった“普通の”暮らし。

 店内まで茂る草木は人工物にも根を張り、あるいは突き崩して己が領分としている。もはやここに人の居場所などないのだと言わんばかりの風景。

 そしてウォルターの足と目は、ある店舗の前で止まる。

 蔦の這う看板はひび割れていていつ崩れ落ちてもおかしくない様相。食器や瓦礫が散乱した薄暗い店内。

 その窓際のカウンター席のひとつで、ウォルターは昔、食事を摂ったことがある。

 「ああ――懐かしいな」

 「……覚えているのか」

 「覚えているとも」

 コーラル研究で忙しい両親を気遣い、外で時間を潰すことが増えていた頃のこと。

 ウォルターは半日の学校を終え、帰宅する途中に、昼食をこの店で摂ることにしたのだ。その時に声をかけてきたのがスッラだった。

 “被験者”として雇われたスッラは己の番が回ってくるのを待つ間、ルビコンⅢ周辺に滞在していた。施術の説明や予定の調整で技研のラボへ赴くことも、少なくはなかった。自分とは住む世界の違う人間たちの巣。その中で、まだ周囲に染まりきらない雛鳥を見つけたのだ。年相応の背丈。年不相応の眼差し。少年の纏う光と危うさに、気紛れと興味からスッラは近付いた。それが始まりだったのかもしれない。

 傭兵と少年と言う組み合わせは些か周囲の目を引いていたように思う。けれど当のふたりは周囲の目をたいして気にするような性格ではなかった。

 「あの頃は髪が短かったように記憶しているが……今は伸ばしているんだな」

 あの時座った席の前に立ったウォルターが言う。今や座席はボロボロに崩れて、脚だけを残していた。

 「ああ……そうだな。お前のための願掛けのようなものだ」

 傭兵にはジンクスを大切にしたり験を担ごうとする者が多い。この男もそうなのか、と言う僅かな驚きと、予想外の「自分のため」と言う語にウォルターは顔をしかめた。どうせロクな意味ではないのだろう。

 「だが、もうその必要も無いだろう……お前を殺す必要がなくなったからな。そのうち切る」

 雑に団子状に括った髪の先を指先で遊ばせながらスッラは言った。

 「人間もコーラルも平和ボケしてAIは杜撰な計画に自壊した。採算の取れない殺しをするより、殺さぬ程度にいたぶり続ける方が手間も金もかからなくて良い。……傭兵にも休息は必要だ。そうだろう? ハンドラー・ウォルター」

 ウォルターからすれば決して喜ばしくはない台詞を吐くスッラは穏やかな顔をしている。おそらく本心から言っているのだろう。ウォルターには理解できない言動だが。

 「……あいつらに手出しするな」

 威嚇するように口を開いたウォルターを、やはりスッラは喉奥で笑う。

 「それはお前のせいだろう、ハンドラー・ウォルター。お前に手を出そうとすれば猟犬たちが出てくるのだから、不可抗力だ」

+++

銀貨に満たないわたしについて


 「――それで、結局貴様の目的は何だ、スッラ」

 「まだ分からないか? 私は親交を深めたいだけだ、旧友」

 件の店の裏にあった元ホテルの一室にふたりは転がり込んでいた。ウォルターについては、正確には運び込まれたと言う方が適切だが。

 壁や天井が崩れ、外からの光が射し込む室内はどこか現実味が無い。動物――主に人間がいないせいか、放置された年数にしては埃も少なく見える。

 薄らと砂塵の被ったスリープ台に腰かけたスッラの、膝の上に乗せられたウォルターは訊く。訊かれたスッラは微笑と共に答えた。

 器用に片手で衣服のボタンを外されていく状況に、片手での抵抗など無いに等しい。杖は前の店を出る際、抱え上げられたときに回収されてしまった。今はスリープ台横の簡易チェストに立て掛けられている。

 「待――、待て、スッラ……! 何を、」

 「何時ぶりだ? ハンドラー・ウォルター。身体の使い方は慣れたか?」

 違ってくれと言うウォルターの願いをあっさりと蹴り飛ばしたスッラは、ついでにウォルターにとってあまり良くない思い出も掘り起こした。

 それは何時だったか――観測者としての活動を本格的に行うようになってからのことだったと思う。

 久しぶりに再会した時にはもうスッラは「狩り」を請け負うようになっていて、今と近しい言動となっていた。手術前にはまだ感じられた「親愛」だとか「友愛」と言った類いの人間的温かみが、鳴りを潜めていた。

 そして、古い知り合いの変わりように戸惑うウォルターを、スッラは暴いたのだ。

 「――! 黙れ……! クソ……、ペドフィリアとはな……っ」

 「ペドフィリア? 身体が縮んだだけだと言ったのはお前だろう? 人を小児性愛者にするのはいただけないな、ハンドラー・ウォルター」

 シャツを開け、インナーをたくしあげて、スッラは少年の柔らかな腹部をなぞる。ヒクン、と白い肌が波打った。

 「……お前は確かにあの頃五体満足だった。右腕もあったし、杖など要らなかった。なるほど確かに、変わったのは見た目だけだ」

 「ひっ、あっ……!」

 「ただの子供が、これほど熟れて淫靡な身体を持つこともないだろうしな」

 左腕を捕らえて背に回し、反らさせた胸をじゅるりと吸う。チリリと胸元に下がる護符代わりの首飾りは、ウォルターが住処を出る際に猟犬から渡されたもの(GPS)だったが――薄暗い室内で見るそれはどこか頼りなげだった。

 「んっ、ァッ、……ふ、ぅ……! スッラ……!」

 吸って、舐めて、噛んで、また舐って。ウォルターの胸や腹に、赤い痕が咲いていく。ピンと起ち上がった乳首を歯や爪で苛めてやれば、悲鳴の中に隠しきれない悦楽が混じる。

 「それなりに使ったのだろう? 触れれば分かる。お前は正直だからな。……まさかとは思うが、懐柔するために犬ども相手にも股を開いたか?」

 「貴さま゛っ゛――!?」

 ひゅ、とウォルターの喉が鳴った。スッラが、喉に噛み付いていた。

 細い首にギチリと牙が食い込む。強化人間の身体能力はウォルターも当然知るところである。やろうと思えば、食い千切ることなど造作もない。

 ギリギリと噛み締められる気道に喉が開こうとする。かひゅ、と浅い呼吸が漏れた。酸素を求めて上下するウォルターの喉を、スッラはべろりと舌で撫ぜる。

 「――ヒュッ、げほっ、ごほっ、」

 それは数秒のことながら、ウォルターを咳き込ませるには十分な出来事だった。

 解放されたウォルターは前屈みに咳き込み呼吸を整えようとする。口端から、唾液が垂れていた。

 ゼェハァと肩で息をし、自分の胸に頭を預けてくるウォルターをスッラは見下ろす。スーツのポケットから、小さなボトルを取り出した。カラカラと踊る小さな錠剤をひとつ。

 「っ……、ふぁ? ぇ、ん、むっ……! ゃ、ァ、」

 俯いていたウォルターの顎を掴み、その口に噛み付いた。

 ぐちゅ、と舌を絡め、擦り合わせる。錠剤の溶け出す仄かな苦味が広がった。口内への刺激と、錠剤の苦味で水音が増す。ぴちゃ、くちゅ、と舌が溺れ出す頃、スッラはウォルターの顔を上に向かせた。こくりと赤い歯形の残る喉が上下した。

 くったりとウォルターが頬をスッラの胸に預ける。押さえていた左腕を放しても、だらりと身体の横に落ちて終わる。

 スッラはウォルターの下履きの中へ手を入れる。ちいさくすべらかな臀部。その間にある秘所へ、無遠慮に指を捩じ込んだ。突然異物に侵入されたそこは、当然拒むようにスッラの指を締め付けた。

 「あ!? ぐ、ぅ……ッ! やめ、っ、なにを……!」

 ぐちぐちと孔を拡げようとするスッラの腕に、ウォルターが腕を添える。止めさせようとしているらしい。

 「はっ、ァ、ふぁ……、ひっ、ィッ、あ、う、ぅ、」

 「柔いな。感度も良い。薬は要らなかったかもしれんな」

 「あッ、あ゛ぁ゛あ゛ッ゛!゛」

 薬、とその単語をスッラが音にした後から、強張りの解けきらなかった胎が本格的に気を許しはじめる。あっさりと二本目の指が押し込まれた穴は、指が動く度にじゅぷじゅぷ音を立てた。ちくりと腕に刺激を感じたスッラが眼を遣ると、自身の左腕にウォルターが小さな爪を立てていた。

 三本目の指が入ることを確認し、一度孔内で指を開き、その拓き具合を確認したスッラはウォルターの胎から指を引き抜いた。細く薄くなった腰が、ひくひく跳ねていた。ろくに自制のできていない腰を浮かせ、膝立ちにさせて、ずるりとズボンを引き下ろす。

 パスー、と空気の抜ける音をさせ、スッラがパイロットスーツを開ける。旧い型のそれは、他のパイロットたちが用いているものよりも武骨で重そうに見える。

 器用に下肢の前部を寛げたスッラは取り出した熱を濡れた左手で数度扱いた。

 そうして、硬く起ち上がった熱を、両手で掴んで引き寄せたまろい尻の間にひたりと宛がう。

 「ひっ――、は、ッ……、ゃ、やだ、いやだ、スッラ、やめろ、」

 熱に触れ、ひくりと期待にふるえる孔とは正反対の言葉をウォルターは吐く。そのどちらもが本心なのだろう。

 だがそれを、慮ってやる義理は、スッラには無い。

 「ん。煽りも上手くなっているな。悪くないぞ、ハンドラー・ウォルター」

 「ちが、待て……、待ってく、ぇ、ア、ァ、」

 ずぷ、と切っ先が埋まる。

 「うあ……、あ゛、やめ、ぇ゛、カハッ……、ひっ、スッラ、ぁ……!」

 苦しげに細められたウォルターの目からポロリと透明な雫が落ちる。酸素を取り込もうと喘ぐ口の中にはてらてらと唾液に塗れた舌が覗く。

 赤く色付いたくちびるに自分のそれを重ねてから、極近い場所でにこりとスッラは笑った。

 「そら、挿入るぞ」

 「――~゛~゛~゛っ゛!゛!゛♡゛」

 ゆっくりと、ずぷずぷ胎に潜っていた熱が、スッラの言葉と共に一気に押し入った。ゴリゴリと内壁を轢かれ腰を叩き付けられた衝撃に、ウォルターの身体がガクガク跳ねる。それを押さえ付けて、スッラはうっそりと息を吐いた。耳元をくすぐった吐息に、またウォルターがふるえる。

 「……はっ、挿れられて、出したのか。だらしないな、ハンドラー・ウォルター」

 「っぁ……、う、うぅ……」

 「悪い子だな、ハンドラー・ウォルター。これ以上汚さないでくれよ」

 「!? やっ――、な、ひぁ、さわ、っあ゛ぁ゛!゛」

 挿入され、とろとろと白濁をこぼす小さな熱を指先で辿ったスッラは、しゅるりと髪を束ねていたゴムを解く。そして、それを使ってウォルターの半身の根本を絞めてしまった。

 戒めを外そうとウォルターが手を伸ばす。スッラは緩慢な動きのそれを捕まえて、腹へと遣った。

 「分かるか? ここまで私が入っている。お前の、中に」

 「……っ!♡」

 すり、と重ねられた手が動いて、自分の腹を擦ってしまう。そこに、硬く、熱い熱杭が、あった。

 まざまざと突き付けられる現実に、恥知らずにもウォルターの胎がスッラの熱に縋る。

 「ふっ。嬉しそうにしゃぶるな? 淫乱」

 それをわらい、スッラは言いながらグリグリとウォルターの腰を掴んで動かし始める。

 「かはっ……、ぁ゛、ひ゛♡ す、ら、ぁ……、も、やめ……!♡」

 「この辺りか……? ん……、ああ、やはりな。身体がちいさくなっている分、すぐに届く」

 「あ゛――、…………お゛っ゛♡゛ あ゛、は゛っ゛、あ゛あ゛あ゛あ゛お゛ォ゛ッ゛ッ゛ッ゛♡゛♡゛」

 ぐぶッ――、と。

 灼熱が、腹を貫いた。

 ウォルターの背が反り返り、いくつもの歯形や鬱血痕の浮かぶ腹がスッラの前に晒される。

 そこに。その薄い腹に。

 スッラの熱が浮き上がっている。

 「あ゛……、あ゛あ゛、ひゅっ……、う゛、あ゛……、す……ら、ァ、スッラ、ぁ……ッ♡」

 後ろに倒れ込まないよう、背を支えるスッラの名をウォルターは呼んだ。譫言だろう、と思った。

 思いつつ、面白そうだったので、応えてみた。

 「どうした? ハンドラー・ウォルター」

 ぶるぶるふるえる左腕が自分の意思でふくらんだ腹を撫でた――ように見えた。その後、するりとスッラの手の下から逃れ、髪の下ろされたスッラの頭を抱え込んだ。

 「ぅ゛……、すっら、きさま……、すきものめ、」

 それは熱と薬に浮かされた譫言に違いなかった。けれどその声に。薄く口角を上げ、どろりと熱に熔けた眼で吐かれただろう、その掠れた囁きに。

 ただ睦言を吐かれるよりもずっと大きな衝撃を受けた。

 ふは、と笑い声が喉からあふれる。

 やはり随分と己の使い方が上手くなったじゃあないか、ハンドラー・ウォルター。

 返事を返す代わりに、スッラはウォルターの耳に噛み付いた。

 ドロリ、と太ももに白濁の伝う感覚がしてウォルターは身体をふるわせた。傍で身支度を整えていたスッラが笑う。その手にはふたりの身体を簡単に拭い、湿気ったタオルがあった。

 「クソ、よくも中に、」

 「掻き出すのか? 中に寄越せとねだったのはお前だろう?」

 「薬を盛っておいてよくも……!」

 「薬は薬でもアレはただの栄養剤だ。ふっ……クククッ……なかなか面白い反応だったぞ、ハンドラー・ウォルター……」

 「!? なっ――、な……ッ、そん……、……!!」

 はくはくと口を開閉させるウォルターの頬は赤く染まっている。醜態以外の何物でもないだろう。当然の反応だ。目の前でウォルターに含ませたものと同じ錠剤をポリポリ食べて見せれば、声にならない悲鳴を上げて両手で顔を覆い項垂れてしまった。

 「掃除は帰ってからにしろ。もう帰った方が良いだろう?」

 ぐいと少年の発育途上の身体を引き寄せてスッラは言う。

 「“これ”は次に会うときに返してくれれば良い。失くすなよ」

 「うあ゛っ゛……!」

 スーツのポケットから取り出した何かをぐちゅりとウォルターの孔へ押し込み、スッラは手早くウォルターの衣服を直してしまう。半身の戒めも、そのままだった。

 ゴリゴリと腹に居座る硬く重たい何かに、ウォルターの目が不安げに揺れた。

 「なに……何を挿れた……!?」

 「エンタングルの予備パーツだ」

 「!?」

 「だから、失くすなよ」

 多方面からの衝撃に言葉を失うウォルターをスッラは笑う。

 「ハンドラー・ウォルター。私たちには、“もはや”大層な役割はない。それを忘れるな」

 何の気遣いか気紛れか、フライトジャケットをウォルターに羽織らせたスッラはひょいとその身体を抱き上げながら立ち上がる。携帯用の杖もしっかりと回収して、部屋ひいては建物を出ていく。 虫の鳴き声も、鳥の囀りも無い緑の中に、ひと一人分の足音が軌跡を描く。さらさらと流れるスッラの髪に木漏れ日が透けていて、綺麗だとウォルターはぼんやり思った。

 しばらくして、主人(スッラ)の帰りを待っていたエンタングルが見えてくる。



bottom of page