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【R18】火血刀メラキ

火血刀:火に焼かれ、血にまみれ、刀で切り刻まれる仏教の地獄。
メラキ(μεράκι):料理など、なにかに自分の魂と愛情を、めいっぱい注いでいる。希語。
甘々スラウォルのつもり。新米時代的な。諸々捏造。拗れたり拗らせたりする前と言うことでひとつ。モブウォルと流血描写が少しあります。

甘々スラウォル。のつもり。

世話役(猟犬)スッラ×新米ウォルターの過去捏造。

まだ拗れる(拗らせる)前の話と言うことでひとつ……。

モブウォル描写?と流血描写が少し。

擬音少なめでも色気ある文を書けるようになりたいので練習も兼ねてます。

旧世代型は世代を遡る程に体内・体液中のコーラル濃度が高く、只人に対しては特に代用効果を期待することができる。的なHC。

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 音もなく帰還した“ハンドラー”にスッラは顔を上げた。眺めていたカタログページを閉じ、タブレットを机の上に放り投げて椅子から立ち上がる。ただでさえ音の立たないセンサードアを忍ばせた足音で通り抜けどこへ行くのかと。

 裏社会の人間と言えど、まだまだ駆け出しと言える者の気配を辿るなどスッラには造作もないことだ。洗面所の鏡の前で俯いているハンドラーの背後を取る。

 微かに血と精のにおいがした。

 「なるほど喰われたか」

 両手で腹を抱え込みながら引き寄せ耳元で問えば、引きつった悲鳴が聞こえた。

 「スッラ、」

 下腹部を撫でようとした手を相手の手が止める。カタカタとふるえていた。

 「スッラ、おれは……、」

 止めるどころか縋るように握られた手。二言紡げば確信を得られる怯えの声。

 20を越えた頃から一人で取引や交渉に行かせていたが、ここに来て手荒なもてなしを受けることになるとは。そう言ったものと、関り合いにならないようなやり方を教えていたのが仇となったらしい。そして、今までそれが自分と同じように上手くいっていたことも。

 眼下で小さくふるえる色素の薄い髪と項を眺めながらスッラは内心舌打ちをする。シャツの襟から、鬱血痕が覗いている。

 「……だい、だいじょうぶだ、つぎは、うまくやるから、」

 真に言いたい言葉を飲み込んで立ち上がろうとする青年の背はあまりに小さい。だがそれでも言葉通り「次」があれば「上手くやる」のだろうことは、今まで見てきた姿から想像に易い。その度に、こうして洗面所へ来るのだろうけれど。

 それがスッラは気に入らない。

 そもそも腕の中の青年がハンドラーをしているのも気に入らないのだ。

 とうとう盛大な溜め息が出た。ビクリと目の前の肩が跳ねて、慌てた声が耳に飛び込んでくる。

 「も、もうこんな醜態は晒さない。だからまだ、もう少しだけ、力を貸してくれスッ――!?」

 振り向こうとして捩られた身体をそのまま放し、横を向いたタイミングで両足を掬い上げて横抱きに抱き上げる。目を白黒させる“飼い主”を抱えてスッラは洗面所を出ていく。向かう先は寝室だった。

 「良い子で待っていろ、ウォルター」

 自分のために買ったベッドの上に青年――ウォルターを置いて、スッラは洗面所へひとり戻る。 用意したのはどこにでもある器とどこにでもあるナイフ。洗面台の中に器を置き、その上に腕を出す。

 詮無きことを、しようとしている――。

 その自覚はあった。

 だがそれ以上に、スッラはウォルターが哀れだった。その生き方も考え方も。もちろん、それを本人に言えば反発されるだろうことは目に見えている。だから直接言うことはない。

 畢竟、自分もウォルターに協力している以上、ウォルターを縛るしがらみのひとつに過ぎない。

 だからこれはエゴだ。

 あるいは、独占欲だ。

 ナイフを手首に押し当てる。ブツリ、と皮と肉の切れる音。傷痕だらけの腕から赤い液体が溢れ出す。それは、人の血にしては明るく煌めいている。ポタポタと器に溜まっていくそれは、やはり人の血とは異なる芳香を漂わせた。

 己から流れ出す、人の証明によく似た赤を、スッラは表情の無い顔で見つめていた。

 ウォルターは柔らかい寝台の上で丸くなっていた。腹を庇うように、赤子のように丸まっている。眠ってしまおうにも胸の辺りでぐるぐると不快感が回り続けて煩わしい。吐き気にも似ているが、胃の中のものはここに帰り着くまでにすべて出してきてしまった。道中でペットボトル2本分の水で口と食道と胃を洗った。スッラは良い子で待っていろと言ったけれど、果たして彼は戻ってくるのだろうか。自分は彼に教わった通りに、できなかった。

 思考に影がかかる。悪い傾向だ。こんなところで立ち止まるわけには行かないのに。もしもスッラが戻ってこなければ、次の傭兵を雇わなければならない。死に場所を探しているような傭兵はいるだろうか。できれば旧世代型の強化人間が良い。世代更新の度に不良在庫扱いとなる彼らに、せめて死に場所を与えてやるくらいはできるだろう。

 ぐい、と目元を拭って起き上がると、ウォルターはベッドから降りようとした。

 丁度その時だ。

 寝室の扉が開き、スッラが器を片手に戻ってきたのは。

 「良い子で待っていろ、と言ったはずだが?」

 スッラはウォルターが何をしようとしていたのか分かっているらしい。ベッドから降りようとしていたウォルターの足を跨ぎ、不安そうに揺れる双眸を見下ろす。

 「……ウォルター、授業の時間だ」

 鼻先の触れ合う距離。囁かれた声は掠れていた。くちびるに薄く、柔い感触が触れて、反射的に目蓋が閉じる。

 ウォルターの鼻を掠めたのは、余所行きでない、スッラ自身のにおいだった。

 重ねた唇をズラし、やんわりと食む。舌先で歯列を辿れば、おずおずと侵入が許された。察しが良いのか出先でそうするように教えられたのか、今となっては分からない。

 「ンッ……ふ、ッ……、ァ……」

 水音の合間に聞こえる微かな声は、呼吸に不自由なようだった。自分から動く気配の無いウォルターの舌に、大方何もかも一方的にされていたのだろうとスッラは予想する。そうでもなければ、帰投後の反応がカマトトにも程があるものになる。

 「……鼻で呼吸しろ。動きは私に合わせれば良い」

 一度口付けを止めて言う。薄く開かれたウォルターの目蓋の奥に、水底の月を見る。そのすぐ側の、赤く色付いた目元に目眩がした。

 視界の端にサイドテーブルを確認して、片手にあった器を置く。

 そうして自由になった両手でウォルターの頬を包み、それから両耳を塞ぎ、再び口付ける。

 「――!!」

 頭の中で反響する水音にウォルターがスッラの手を離させようとする。しかし強化人間である傭兵とただの人間である雇用主の力の差など歴然としたものだ。スッラの手はびくともせず、ウォルターの手は縋るだけのかたちになる。

 そこでウォルターの手が、スッラの手首に巻かれた包帯に触れた。

 己の手に触れる指先が止まり、そして何か躊躇うような動きになるのと、擦り合わせていた舌が小さく跳ねるのはほとんど同時だった。

 気付いたか、とスッラは目を細める。となれば、ウォルターの目蓋が薄らとも開く前により深く口付ける。上を向かせた口内に唾液を注ぎ込み、飲ませようとする。何か言いたげにカリカリと包帯を掻いていた指先は、やがて大人しくなった。

 こくりこくりと上下する喉の音に耳を澄ましてから、ようやく唇を離す。はふ、と口端から銀糸を垂らす顔は上気してぼんやりとしている。目覚めるように開いた目蓋の下の瞳はぼんやりと天井を映す。とろりと蕩けかけたその視線は、何も酸欠だけが理由ではないだろう。

 スッラがウォルターの上から退く。後ろ髪を引くようにスッラの手に触れていたウォルターの手は、けれど途中でぱたりと落ちた。

 「スッラ?」

 追い縋るようなことはしない。そのくせ、名を呼ぶ質の悪さ。赤く色付いた唇から目を逸らしながら、スッラはベッドから逃げ出そうとしていたウォルターの足から靴を脱がせてベッド上に戻し、その身体自体を中央へ運んだ。

 茫と見上げてくるウォルターの纏う服へ、スッラは手をかける。仕事用に仕立てた三つ揃えだ。羽織った上着は既にシーツの上に広がり、ウォルターの身体の下敷きになっている。

 ジャケットの前を寛げ、ベストの前を開き、シャツのボタンをひとつずつ外していく。タイは無い。無くて良いと言ったのは、他ならぬ自分だった。

 シャツをはだけると、その下には幾つもの鬱血痕が浮かんでいた。

 「……みるな、」

 自分を見下ろすスッラの目に何が写っているのか、理解したらしいウォルターが身を捩って逃げようとする。だが腹の辺りに陣取られた身体では、上半身を僅かに捻るのが精々だった。

 「随分と、気に入られたようだな」

 指で痕を辿りながらスッラが言う。悲しさか悔しさか分からない表情にウォルターが顔を歪めた。

 スッラの手はそのまま身体を下り、ズボンのベルトを外しにかかる。カチャカチャと音を鳴らせば、ウォルターは両腕で目元を覆ってしまった。

 ベルトを外して、次はズボンのホックを外す。ファスナーを下ろして、そしてそのまま下着ごと脱がせる。何も言わずとも、察して腰を上げる辺り、やはりウォルターは“良い子”だと言える。

 下半身――内腿を含めた脚や、腰の辺りにも鬱血痕が散っているのを、もはや何の感慨もなくスッラは見下ろした。縮こまろうとする脚の、膝を捕まえて立たせ、開かせる。

 両足の間に身体を入れ、両腕で顔を覆ったウォルターを見遣る。

 それからスッラはサイドテーブルの器へ手を伸ばす。ひたりと、指を2本、中の液体に浸した。

 赤く染まった指をウォルターの口許へ持っていく。とんとん、と薄いくちびるを促せば、控えめながら口が開かれる。

 できた隙間に指を挿し込んで、柔い舌を捕らえる。舐めろ、と言外に指を押し付ければ、温かな粘膜が肌を這い始めた。空いている方の手で顔を隠す腕を退ければ、存外素直に指を舐めしゃぶる顔が晒された。ウォルターの腕に触れたスッラの手はそのまま引き留められる。

 皮膚がふやけてきた頃、スッラは指をウォルターの口内から引き抜く。

 「ぁ……」

 名残惜しげに指を見送るウォルターの声と目と、つぅと引いた銀糸に小さく笑みがこぼれる。

 「私の指はそんなに美味かったか?」

 「ん……ぁ、あまい、な、」

 「そうか」

 幼い声で「甘い」と言うウォルターの纏う空気こそ甘くなっている。つい数分前まで抱えていた悲愴がどこかへ追いやられている。

 手遊びのようにウォルターの手をほどいた片手も使い、スッラはウォルターの腰の下へ枕を入れる。腰を浮かされた体勢になっても、ウォルターはふわふわとした顔で疑問符を浮かべるばかりだった。

 再度器に指を浸したスッラは、今度はその指をウォルターの後孔へ伸ばす。

 ひたりと縁に人差し指を添えてみれば、そこは柔らかな感触でスッラの指を飲み込もうとした。試しにつぷりと指先を挿れてみれば、そこは難なく侵入者を受け入れる。

 悲鳴とも吐息ともつかない音を口からこぼしたウォルターは、目蓋を閉じて首を反らしていた。 孔は柔かった。スッラがほぐす必要もなく指の2本を呑んで、3本目を挿れるにも易いだろうと思わせる程に。

 一応、確かめるように孔の中で指を動かす。孔を拡げるように、孔の内側へ指に纏わせた赤を塗り付けるように、スッラは指を動かした。スッラの指の動きに、ウォルターの腰や足が小さく跳ねる。あう、と漏れる声は幼く、しかし指を食い締める尻はいやらしい。

 こんなものかと具合を見たスッラは孔から指を抜き、器を手に取った。まだ残っている中身を、片手で拡げたウォルターの後孔へ注いでいく。

 「っ!? ぁ……? ぅ、な、なに……? スッ、ァ、なん……、ふ、ぁ……? っ!」

 背や腰が跳ねる。多少、こぼれた分がウォルターの睾丸から半身を伝い、先走りと混じって垂れた。浅く波打つ腹が汚れる。

 戸惑うウォルターの脚を撫でながら、スッラは服を脱いでいく。ウォルターの服を脱がせたときと比べて、その動きは随分と雑だ。シャツをベッドの下へ放りズボンを寛げた。緩く兆していた半身に触れて起たせると、赤い涎にはくはくと喘いでいるウォルターの後孔へ擦り付ける。

 「あ、あ……、あ、」

 カタカタとふるえ始めるウォルターの姿は酔いから覚めかけているように見えた。早急だったかと思いながら、スッラはウォルターを覗き込む。

 「……ウォルター。私を見ろ。……分かるか? 今お前の前に居るのは誰だ?」

 ウォルターの呼吸が浅く短くなる前に頬へ手を添え呼びかける。

 「ウォルター。私だけを見ていろ」

 徐々にウォルターのふるえが引いていき、呼吸も落ち着いていく。焦点を失いかけていた目も、目の前のスッラをしっかりと写した。

 「すっら」

 ふにゃりとウォルターの目が細められる。声も平生の硬さを失い、甘ったれたそれだ。

 だがそれで良い。

 目を細めて子犬のように手に擦り寄せられる頬をそのまま撫でてやって、スッラは中断していた挿入を再開する。

 「あッ――は、ァ……、」

 ゆっくりと、慎ましく粘ついた音を立てながらスッラの半身がウォルターの胎へ沈んでいく。ほぐれているとは言え、初心者には変わらない隘路を拡げられるのは苦痛を伴うもののはずだが、当のウォルターに苦悶の表情は見られない。

 第一世代型強化人間は、コーラルによる強化人間手術の黎明期そのものだ。故に手術の際に用いられるコーラルの量も多く、また術後しばらくの期間も保険として機能や安定性維持のために定期的定量のコーラル摂取が推奨されていた。つまり、体内や体液中のコーラル濃度が、至極高いのだ。

 スッラはそれを利用した。

 身も蓋もない言い方をしてしまえば、コーラルを用いた一方的な薬物セックスだ。自分に効果は無いが、相手には効く。それで相手の、ウォルターの記憶を、ある程度消し飛ばしてしまおう、と。 憐憫。あるいは慈悲。はたまたそれは独占欲の顕れだったのかもしれない。

 「ァ――、は、ぅ……ッ、」

 ずぶずぶと押し込まれた熱を恍惚とした吐息で受け入れるウォルターに一先ず安堵を覚える。だが同時に、微かに残っていた精のにおい、その大元に触れなかった。ここへ戻るまでに、どこかで掻き出してきたのだろう。ウォルターがどんな顔をして安宿にフラフラと立ち寄り、どんな思いで浴室に籠ったのかと思うと堪らなくなって、スッラは夢見心地にはふはふと呼吸しているくちびるに噛み付いた。

 「んぅ、んッ……、ふァ……、は、」

 三度目ともなれば、ウォルターも応えようと自発的に動いてくれた。拙いながらもスッラの動きを追う様は健気だ。

 擦れてぽったりと赤く腫れたくちびるを食んで顔を離せば、ぽんやりとした目がスッラを見上げる。熱を咥え込む後孔も、もう慣れた頃だろう。

 「……動くぞ」

 「……? ん、」

 ウォルターがその意味を解するかも分からないのに、スッラは律動の始めを伝えた。処女にだってなかなか聞かせない声音と緊張で。

 案の定ウォルターはスッラの言葉の意味をよく解していない様子で、無邪気に首を縦に振った。表情も、笑顔とまではいかないが平生より数段柔らかい。なにもかも、普段からはかけ離れた姿だ。

 小さく息をひとつ吐いて、スッラはウォルターの指先を自分のそれと絡める。腕を掴んだ方が楽なのだろうが、万が一、滑り落とすのが厭だった。綺麗に整えられたかたちの良い爪も、そうしておけと自分が教えたものだった。

 「ひ――、あ゛ッ……!?」

 ずりゅ、と相手を気遣ってきた熱が動き始める。はじめはゆっくりと、そして次第に速さを増していく。ぐちゅぐちゅと、泥濘を掻き回す音が忙しくなる。

 「あ゛、は、ッ……、あ゛ッ、う゛ッ、あ゛、ぁあ゛あ゛ッ゛!゛」

 律動に合わせてウォルターの口から声がこぼれ落ちていく。首が反り、薄い皮膚に覆われた喉が無防備に晒されている。

 揺さぶられる身体の中心。ウォルターの熱は、コーラルの影響だろうか、芯を持って起ち上がり、とろとろと涎を垂らしていた。

 「っ、ウォルター、痛みは無いか」

 絡めた指先に力を込めながらスッラは訊く。返事は期待していなかった。ただ、何かしら反応があれば良い、とその程度だった。

 「ふあ、ァッ、ん、ンッ! な、い……、」

 けれど予想に反して返事は返ってきた。キュ、と返される指先の力に、顔を覆って天を仰ぎたくなった。

 代わりに顔を伏せ、脚に残されていた鬱血痕へ吸い付く。皮膚の柔いところへの刺激に驚いたように、ぴくんとウォルターの脚が跳ねた。

 スッラは身を乗り出す。繋いでいた手を、背中に回させる。より折り畳まれ、押し潰される身体に、ウォルターが啼いた。

 「ひゅッ――、かはッ、ア゛、んんぅ゛……!」

 ごりゅ、と角度を変え抉られる胎が、それでも凶熱を抱き締める。

 「……っ、は、ぁ……!」

 心地好い締め付けに思わず息が漏れる。蠢く内壁がひどく熱い。背中に縋る手は未だ爪を立てていなかった。

 腰を浮かせる。ずるる、と内壁を擦りながら楔が孔から出ていく。

 そこでふとスッラは思い立ってウォルターを見た。閉じることを忘れたくちびるの間に、やわくふやけた舌が収まっている。惹かれるようにそれを食み、スッラは囁く。

 「背に爪を立てろ、ウォルター」

 「ふ、ァ……、ゃ……、す、ら、きず……、」

 「構わん。私に縋れ、ウォルター」

 ウォルターの目元を軽く吸い、スッラは綺麗に笑った。

 ギシギシと寝台が軋む。粘膜が掻き回される粘ついた音。掠れ、濁った嬌声。荒い息遣い。加えて、汗と精と、仄かに甘いにおいが部屋を満たす。

 「あ゛、あ゛――、ひ、ん゛ッ゛……、う゛ぅ゛ぅ゛!゛ んアッ、ァ、ア゛ァ゛ッ゛!゛」

 ガクンとウォルターの身体が跳ねて沈んだ。ぽたぽたと勢いなく垂れる白濁は腹を汚す。溜まっていた分が腹から流れ落ちて広げられたシャツに染みを作った。

 「――ッ、ぅ……!」

 少し遅れてスッラが身体を強張らせる。少し身動ぐだけで、結合部から水音が立った。

 背がぴりぴりと熱を帯びている。それに気付いたスッラはウォルターを抱え込む。ぐぷっと何かを押し開ける音がして、ウォルターが悲鳴を上げながらスッラの背を掻き抱いた。

 ぽろぽろとウォルターのこめかみを流れ落ちていく涙がスッラの首元を濡らす。耳元で喘ぐ呼吸や声に、腰が疼く。目の前に来た首筋に歯を立てれば、その刺激に胎が縮こまった。

 「――ら、ぁ、くひっ、ヒッ、ぎっ……、ぃ、す、ら……、すッラぁ、」

 背中の、爪を立てていた手が面になる。ぬるついた感触に、随分立派な爪痕が残されたと知る。喜悦を隠さぬまま「なんだ」とスッラは訊いてやる。

 「お゛あ゛……、ぅ゛、あ゛ッ゛、ぉれ゛、おれ゛ッ゛、ずっと、ぉ゛ッ゛、きもちぃ、い゛ッ……、あ゛、ア゛ァ゛ァ゛……!゛」

 好いなら良い。ずっとふるえている胎も、色の薄い液体をこぼすだけの半身も、ろくに回らぬ舌も頭も、そのまま溺れていてしまえ。

 そう思いながら口を開こうとした、その時。

 「……は、ァ゛、……スッラ、は……? ちゃんと、ッ、きもち、イ゛ッ゛――、」

 熱とも悦ともまた違う何か――それは理性によく似ていた――を纏った声がスッラに訊いた。

 はたとスッラの動きが停まる。

 まさか、純粋なものでないとは言え、あの量のコーラルを摂取してこの短時間で覚めるなどあるだろうか。

 耐性があるならば、あるいは――?

 ウォルターの父親は、その周辺は、コーラルの研究に狂った人間ばかりだった。

 最悪の可能性が、ないとは、言い切れない。 おそろしい考えが頭を過った。

 不安げにこちらを見つめる目と視線がぶつかる。健気に返事を待つ姿は待てを言われた犬のようだ。だがそこに、スッラは確かに理性を嗅ぎとってしまった。

 「……好いぞ、ウォルター。お前の胎(はら)は、至極好い」

 「ん、」

 安堵したように目蓋を閉じて身体の力を抜く青年に、やはりスッラは思うのだ。

 お前は危うい。この世界で生きるに向いていない。だからこそ、何もかも捨てて、過去とは関係のないところで生きていけ。等と。

 意識を飛ばしたウォルターを浴室へ運び、一緒にシャワーを浴びる。散々吐き出した欲を掻き出す途中、なにが授業の時間だ、と頭の隅で冷静な自分が呆れていた。もたれ掛からせる身体は見てくれよりも軽く細い。

 湯を張った湯船に、ウォルターを抱えながら腰を下ろす。常人ならば重労働になるのだろうが、こう言うときに強化人間は便利だと思う。

 ウォルターの鼻や口が湯に浸からないよう気を配りながらスッラはひとつ息を吐く。背中や腕の傷に湯が沁みた。

 とりあえず、ウォルターが着ていた服は捨ててしまおう。衣服など消耗品だ。新しいものを仕立てればいい。ついでにシーツも捨てるか。コーラルの染みが洗濯で落ちるかどうか分からないし、他に移るなり下水に影響を及ぼすなりしたら面倒だ。

 次に今回の取引相手の確認だ。礼はしておかねばなるまい。

 ついでに、しばらくはまた同行なり観察なりしてやった方が良いだろう。

 一番の問題は――ウォルターがどこからどこまでを憶えているか、だ。上手いこと記憶が飛んでいるなら護身術を教え、記憶が飛んでいないなら身体の使い方を教えることになる。まあ、察しの良いウォルターのことだ。仮に記憶が飛んでいたとしても、身体に残る鬱血痕で思い出してしまうかもしれない。そう考えると我ながら衝動的な賭けをしたものだ。らしくない。

 ――等とそこまで考えて、スッラは盛大に溜め息を吐いた。


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