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【R18】淫雨凌ぐ花陰にて

日英音声スラウォル与太。英日ウォルウォルと各スラウォル。あんまりえっちじゃない気がする……。ごめんねぇ。難産でした。

日英音声与太。

それぞれ印象違うのがいけないと思います(責任転嫁)

いわゆる「出られない部屋」ネタ。

英日ウォルウォル、英スラウォル、日スラウォル。

英スッラ→日スッラよりも見てくれが若い(歳は同じ)。

英ウォルター→日ウォルターよりは鍛えてる。

みたいなイメージで。イメージでどうかひとつ……。

正直誤差の範囲になってしまってる気がしますが許し亭許して……。

スパンキング、首締め、潮吹き等の要素があります。

何もかもファンタジーだからね、気にしないでね。

あんまりえっちにならなかったよ。ごめんね。

途中から迷走のあまりキャラエミュすら怪しくなってました。

諸々お気を付けください。

難産でした。

---

 気付けば大きなベッドの上にいた。そして目の前には、自分と同じ顔と格好をした男がいた。

 見知らぬ部屋である。自室で作業をしていて、仮眠を取ろうと机に突っ伏したことまでは覚えている。その後夢現に何かを見たり聞いたり感じたりした記憶はない。ならばこれは、夢だろうか。それにしては、随分と現実味を感じられるが。

 「……」

 周囲の状況の確認を――と現実逃避のために逸らした眼を戻す。そこにはやはり、自分によく似た男がいる。

 どちらともなく溜め息を吐いた。

 「……とりあえず、名前を聞いても、いいか。俺はウォルターと言う」

 「……そちらと同じだ。俺の名もウォルター。ちなみにハンドラーをしている」

 「……同じだ」

 「……同じか」

 そこまで話して、双方が再び溜め息を吐いた。

 同じ顔。同じ格好。同じ名前と、同じ職業。ついでにこの部屋に来る直前の状況も概ね同じ。古い同郷なら気付くだろうルビコン訛りすら同じであれば、もはや疑いようはない。

 だが少なからずの差違もあった。不幸中の幸いだろうか。

 声の高さ。体格。言い回し。僅かな違いが、ふたりには確かにあった。

 「室内を探すか……何か、脱出の手がかりを見つけなければ」

 「そうだな……」

 パラレルワールド。平行世界。まさか実在していたとは。否。完全に信じたわけではないけれど。けれど、そうでも思わなければやっていられないと思った。

 「……これを。どこまで信じて良いか分からないが」

 「……「パラレルワールドの自分とセックスをすれば部屋から出られる」? 一字一句間違っていると思いたい文面だな」

 思いたかった。残念ながら現実らしい。

 更に追い討ちをかける非現実的な文言に泣きたくなった。性行為と部屋の解錠にどんな連動システムがあるのか。まさか誰かがモニターしていて、室内の人間が「解錠に相応しい」行動をしたら解錠の操作をするのか。悪趣味が過ぎる。

 「だめだ。傷ひとつ付かん」

 扉と思しき壁を杖で叩いていたウォルターが絶望的な声で言った。カーラに言って、こう言う非常事態に陥った時のために、義手に銃撃機能でも仕込んでもらおうと思った。

 「……端末は持っているか? 俺の方は使えそうにないが、あるいは……」

 「……圏外だな。ついでに予備はシャットダウンして動かなくなっている」

 窓も見当たらない。袋小路。逃げ場なし。ついでに時計も見当たらない。

 三度、どちらともなく大きな溜め息を吐く。

 どうやら腹を括るしかないらしい。

 「……シャワーを借りて良いか」

 「好きなだけ使ってくれ」

 双方、疲れた様子でそれぞれベッドとシャワールームへ向かった。

 両名がシャワー――下準備――を終え、ベッドの上で向かい合う。

 不思議な感覚だった。鏡写しとはまた違う、もうひとりの自分が目の前にいる。

 「……触れても?」

 「ああ」

 ウォルターが相手に手を伸ばす。

 けれどその手はどこに触れようか一瞬迷い――頬を選んだ。片手でそっと頬を撫で、親指で目元をなぞる。目が、細められた。

 次いで、相手の方から手が伸ばされる。

 相手はウォルターの手に触れた。ベッドの上に放り出されていた手を探り当て、手の甲を指先で辿る。そうして、ベッドと手の隙間に指を挿し入れて、ウォルターの手を掬い上げる。そのままくるりと手を返せば、指が甘く絡まった。

 ぱちりと、眼と眼が合った。

 どちらからともなく、引き合うように近付いて、額を合わせる。頬から退いた手は相手の脇の下をくぐり、背中に回っていた。

 こつりと額が触れ合う。互いに目蓋は閉じていたけれど、肌のごく近いところでふるえる睫毛は空気を小さく揺らしている。

 ふたりは顔の角度を変えていく。幼い子供がそうするように鼻先を擦り合わせて、それから頬をすり寄せる。まるでキスをしているようなシルエットだった。けれど当人たちは、あまりにいたいけな様子で、互いの温度と柔らかさに浸っていた。

 義手と生身で指を絡めて、背を抱き合って、まるで双子のようだ。

 「……あたたかい」

 ぽつりと漏れた声には、安堵のような色が混ざっていた。

 「……そうだな。誰かとハグなど、しばらくしていなかった」

 「したがる相手も、する相手もいないからな」

 「違いない」

 呟いた声よりも、少しだけ低い声が答えて、それからふたりは声だけで笑った。

 探せば近くにだっているだろうし、言えば快く応じてくれる者もいる。しかしふたりは、そのことにまだ気付いていない――自信がないようだった。あるいは、双方の言葉が足りていない。

 とくとくと脈打つ心臓にいのちを感じながら、ふたりは体温を分け合う。

 そして、とうとう口を開いたのは、少し声の低いウォルターだった。

 「……お前が、望むなら、俺は抱かれる側で良いが」

 下(ボトム)の方が負担が大きい。どうやら自分よりも線の細いらしい相手を気遣った言葉だった。

 ギュ、と相手の腕に力が籠り、そして抜けていく。同時に身体が離れていった。ゆるく開いたバスローブの前から空気が入り、少しふるえた。

 「俺に考えがある。……挿入せずに済むなら、互いのためにもそれが良いだろう」

 どことなくあどけなさを感じさせる声のウォルターが大真面目に言う。尤もだ。

 「……。……指示書?には「挿入しろ」「本番必須」とは書かれていない。つまり、オーラル“セックス”でも、良いはずだ」

 「なるほど。試してみる価値はある」

 ウォルターはこくりと頷いた。

 合意したが早いか、ウォルターは相手の頬に自分の頬を寄せてからベッドの縁へ行く。ベッドの傍に置かれたチェストに用があった。目当てのものがあるかは分からなかったが、確認する価値はあると思ったのだ。チェストの引き出しを開け、中をごそごそと探る。

 ……あった。

 引き出しの中から潤滑剤のボトルを引っ張り出して、相手の元へ戻る。一応、ボトルの裏面に眼を落とすと、フレーバーと「飲用可」の文字があった。退っ引きならなくなった状況では非常食にもなってくれるだろう。

 「使うのか」

 潤滑剤のボトルを見たウォルターが何の気なしに言った。少しだけ、罰の悪そうな表情が返ってくる。

 「その、上手くできるか自信が、」

 「……俺が先にやるか?」

 とは言え、やはり自信は無いのだが――目の前の子犬のような姿を見れば、そんなことを言わずにいられなかった。

 「……いや、言い出したのは俺だ。俺が先にやる」

 ボトルを握り締めた手がカタリとふるえたのを見なかったことにして、ウォルターは「そうか」とだけ言った。

 緊張から強張りの見える表情のまま、ウォルターがバスローブに手をかける。するすると帯をほどき、前を開き、そしてボトルの中身を自分の手のひらに垂らす。視線は合わない。俯いた顔は、目の前の身体も見られずにベッドの皺を見ているようだった。

 「ふッ……!」

 ぬちゅ、と潤滑剤に塗れた手が陰茎に触れる。小さく声が漏れた。

 「痛みを感じたりしたら、言ってくれ。中断する」

 「んっ……」

 視界の端に、こくんと首が縦に振れるのが見えた。

 双方がシックスナインを挙げなかったのは、足への負担を考えたためだった。最中に崩れ落ちるなどしたら大変だ。

 ぬちゅ、ぬりゅ、と熱を育てていく。どちらも、どちらの顔も手元も見られない。耳も首も赤くなっていた。

 けれど、やるべきことはやらねばならない。

 「……っ、」

 ウォルターは、起たせた陰茎を手のひらで確かめ、そして目でも確かめた。小さく息を呑む。

 さり、と衣擦れの音。

 片方が膝を立て、左右に広げる。もう片方は、その脚の間に入り股座に頭を寄せる。

 あぷ、と陰茎が咥えられた。

 自分と同じ顔が自分の陰茎を咥えている。倒錯的な光景だ。

 「んぅ……、んッ、ふっ、ぅ……」

 辿々しく、けれど必死に陰茎を舐めしゃぶる様は犬のようだ。自分も、後にこうなる。少し先の、自分の姿。いやらしい。はしたない。人には、見せられない姿。

 亀頭を啄み、カリをつつき、竿を食んで玉を揉む。

 特別な動きは何もない。同性だから感じる場所に触れられると言った様子の、拙い技。きっと自分も同じようなことしかできないだろう。

 けれど、きっとそれでも、自分と同じように、高められる。

 「く、ぁッ――、んッ……、出る……!」

 「……ん、」

 相手の頭を鷲掴みそうになって、慌ててシーツを掴む。喉を突いてしまわないように腰を押さえようとするも、押さえきれずにカクカクと小さく揺れてしまう。罪悪感。

 出る、とこぼした声にチラリとこちらを見上げ、了解の意思を表した目は潤んでいた。視線が一瞬交わった。そして、ぢゅ、と陰茎を吸われた。

 「ぅ゙、んンッ……!」

 カクンと腰が最後に振れる。指先のみならず、爪先もシーツに皺を作っていた。

 「ん……」

 最後に亀頭を軽く吸ってから、相手はちゅぽりと陰茎を口から出した。潤滑剤と唾液で、てらてらと濡れていた。

 「吐き出せ」

 ウォルターは急いでティッシュを箱ごと引き寄せ、数枚引き抜いて差し出した。緩慢に頷いて、相手はそれを受け取った。

 ティッシュに吐き出された精液は、潤滑剤と混ざってとろりとしていた。そのせいか「出した」と思った量よりも多く感じられて、顔に熱が集まる。

 「……よかったか?」

 相手に訊かれて居たたまれなくなる。

 「……ああ」

 軽く丸められたティッシュを取り上げて、そそくさとベッドの下に置かれている屑籠へ投げ込む。そうして、いそいそと相手の前に戻ってきて、自分がされたようにバスローブをはだけさせる。

 「ぅわ――、ァ……!」

 性急な展開に、相手はバランスを崩して後ろへ倒れ込んだ。ぼすんと柔らかい音がする。

 あ、と思ったが、同時に「都合が良い」と思った。

 倒れ込む際に浮き上がった足を取り、膝を立てさせる。眼前に晒された陰茎は、緩やかに首をもたげていた。

 「舐めただけで起ったのか」

 「言うな……!」

 ひとのことは言えない。けれど、つい、口に出してしまった。相手が「自分」であるせいか、気が緩んでいる気がする。

 すまない、と一言謝って、ウォルターは早々に陰茎を咥え込む。さっさと終わらせた方が良いと思ったからだ。

 「ん、む……、」

 「……っ!」

 先程されたことを真似る。正しく鏡写しだ。だが、他にやり方を知らないと言うのもあった。自分が先に咥えたとして、相手と同じやり方になっただろう。そしてそれを相手がなぞる。

 ちゅぷちゅぷと音を立て陰茎を育てていく。は、は、と追い詰められていく相手の呼吸に手応えを感じた。

 「ぁ、ァ――、んっ、出る、は、離せ……!」

 「ん、」

 熱に浮わついた声に単音で返事をして、相手も同じことをしていたのを思い出す。ああ、同じだ――。ぢゅ、と口内の亀頭を吸えば、ひぃ、と短い悲鳴が聞こえた。

 ずるりと萎えた陰茎を吐き出すと、シーツの上をティッシュの箱が滑ってきた。出させた精液をティッシュに吐きながら様子を窺えば、片腕で顔を隠しながら肩で呼吸をしているのが見えた。線が細いな、と言う印象は間違っていなかったらしい。

 ともかく。

 これでこの奇っ怪な部屋から出られる――はずだ。

 よたよたと再度シャワーを浴びて身支度を整え、ふたりは扉へと向かう。

 「……まあ、なんだ。無理はするな。俺が言えたことではないが」

 扉の前でふとウォルターが口を開いた。短い間で、ふざけた邂逅だったが、少なくとも赤の他人よりは情が湧いた。気を許せた。その、延長だ。

 「……そうだな。倒れては本末転倒だ。……言っても無駄だろうが」

 互いに相手をよく分かっている。向けた言葉が本心であることも、気遣いが無駄になる――してしまう――だろうことも。

 「行く先に火(ひかり)あれ。あるいは、我らに相応しい罰を」

 「ひかりあれ。罪深きを罰したまえ」

 ふたりは抱擁を交わす。離れてしまえば二度と戻らない安息だ。

 だが、行かなければならない。離れ難きを離れようと、ふたりが少しだけ身体を離した、そのとき。

 ガチャリと、扉が開いた。

 「――ほう? なかなかどうして面白い」

 ひとりでに開いた扉の音へ、ウォルターの眼が釣られる。そこには、開いた扉の向こうには、ウォルターの中であまり顔を会わせたくない括りに入る者がいた。

 「……スッラ、なぜ、」

 それも同じ顔がふたつ並んでいる。どこかごく身近なところで見たことのある現象だ。否。幻覚であってくれ。

 ふと我に返ったウォルターが扉を閉めようとした。嫌な予感がしたからだ。

 だが、遅かった。

 ガンッと壁と扉の間に爪先が差し込まれる。扉に手がかけられて、グググと隙間を広げられる。強化人間と非強化人間の、歴然とした力の差だった。

 「ご挨拶だな、ウォルター。悪い子だ」

 扉の抉じ開けたスッラがわらう。青年のような声とかんばせに、その姿を初めて見るウォルターが目を丸くした。

 「クソッ……!」

 苛立ちと悔しさを隠さない悪態が吐かれた。扉を諦めて踵を返す。スッラが笑みを深め――ようとして、入れ替わるように突き出された杖の石突きに、微かに驚きの表情を浮かべた。

 腹を貫く気概で繰り出された突きは繰り手の意志のようだ。幾度手足を潰そうと、這ってでも進み続けようとする、おぞましいまでの固い意志。鉄と言うには、あまりにも生々しい。だが執念と呼ぶにはあまりに純粋で、それがスッラは忌々しい。有り体に言えば刷り込みだ。親とその周りに刷り込まれた使命、悲願。だのにこの子供はいつまで経ってもそれを認めようとしない。

 ――いかんな。すぐに思考が逸れる。

 さすがに予想外の攻撃だったが、所詮は“アマチュア”だ。スッラは軽く身を引いて避け、扉にかけていた手を下ろして突き出された腕を胴と腕で挟んで押さえる。

 「ウォルター!」

 「っ、離せ……!」

 「“お前の”ウォルターはなかなか可愛らしいな。ハイスクールの女の子かと思った」

 背後へ飛ばす声は気安い。

 言いながら、拘束から逃れようと藻掻いていたウォルターをパッと離して、その背中をトンと押す。つんのめったウォルターを事も無げに“受け取った”腕に、容易く引き渡された当人の表情は青ざめる。

 「“そちら”は多少なりとも自衛の意識があるらしい。喜ばしいことだな」

 クツクツと笑いながら答えた声もまた気安かった。

 どろりと意識を塗り潰すような声音に、立ち竦んだウォルターは蛇の牙と毒を見る。

 逃げ場はない。隔てる壁も失った。

 するりと入り込む蛇に。悠々と踏み込んでくる蛇に――絶望を感じた。

 片や放り投げられ、片やジリジリと追い詰められて、ウォルターはふたりともベッドの上に逆戻りしていた。大の大人4人が乗り上げても余裕のあるベッドは、まるでこうなることを見越して用意されたようで、少し気味が悪い。

 「ウォルター、潔く諦めろ。大人しくしていればすぐ終わる」

 「嘘を吐くな、すぐに終わらせる気など無いくせに……!」

 「ハ、ハハ、そうかも知れんな。少なくとも、今その気が無くなったことは確かだ」

 ベッドに膝裏を折られ、座り込んだウォルターの肩を押しながらスッラは笑う。強化人間の膂力に非強化人間が耐えられるわけもなく、ウォルターは背中からベッドへ沈む。覗き込んでくる顔は実に愉しそうで腹が立つ。

 スッラの指の背が、ウォルターの頬を辿り首筋を辿る。するすると肌の上をすべり、そしてシャツのボタンに触れた。

 「やめろ……っ」

 当然のようにボタンを外そうとする腕を掴んで止めようとする。けれど、ウォルターの抵抗をまったく意に介さず、スッラの手はひとつひとつシャツのボタンを外していってしまう。

 「しなければどうせ出られん。……お前から誘ってくるのを待つのも一興か?」

 そんなことを言いながら、スッラは既にシャツの前を開ききっていた。開け広げられ晒されるウォルターの胸や腹に、ひたりと手が当てられる。

 「んっ……!」

 胸の飾りを掠め、ツツツと腹部へ下っていく手にウォルターの声が跳ねた。腹の柔らかなところがぴくんと波打つ。

 “後ろ”の下準備をしていたのは、万が一のためだ。

 万が一、オーラルセックスでは部屋から出られなかった場合。万が一、自分が抱かれる側になった場合。二度手間にならないように準備していただけだ。

 「準備が良いな、ウォルター。まさかアレに抱いてもらうつもりだったか?」

 「あ゙――ッ! ひ、ぐうぅ゙ッ……、そんな、わけ、っない゙、だろう……ッ!」

 ぐちゅぐちゅと胎を掻き回されながらウォルターは肩越しにスッラを睨んだ。スッラの眼はもうひとりのウォルターを見ていて、それからこちらを向いて細まった。嫌な笑みだ。

 うつ伏せにひっくり返され下履きを取り払われ、挿入されるまではあっという間だった。

 膝を立たせ、己の手で顕にした尻たぶを割り開いて指を1本孔へ挿し込む。そしてそこが既にある程度柔くなっていると知ると、気休め程度に慣らして指を3本収められるようにした。

 それからは、言うまでもない。

 スッラはウォルターに挿入してその身体を揺さぶっている。じゅぷ、ぐゅぷ、と潤滑剤の仕込まれた胎が鳴く。両腕を背中で括ったおかげで、抵抗の手段はウォルターから失われていた。

 「ぅ゙あ゙、あ゙!゙ ひッ――、ゃ゙、め……ぇ゙ッ゙!゙」

 「まだ言うか。ウォルター、聞き分けの無い子だ。いい加減受け入れろ。これは必要なセックスだろう?」

 「だま、れ゙……! きさまらが、ァッ、じゃま゙っ゙、しなければッ、ア゙、ぉれたちッ、出られた、のに゙ッ゙」

 「人聞きの悪い。お前たちが“出ていかなかった”、の間違いだぞ」

 「は――、ァ゙、ア゙ア゙ッ゙、~゙~゙~゙!゙!゙」

 ごりゅ、と胎の奥を抉られたウォルターがシーツに額を擦り付ける。ガクガクふるえる腰の上で、まとめられた手が固く握りしめられていた。

 それを見下ろしてスッラは隠しもせずに笑う。

 「無様だな、ウォルター。犬よりも酷い格好だ。少しはヒトらしくしたらどうだ? ハンドラーだろう?」

 言いながら、グイと腕を引いてウォルターの上体を起こさせる。達して萎れた陰茎から、とろとろと半透明の熱が垂れていた。

 「かはっ、ァ、ひッ」

 するするとウォルターの身体を辿ったスッラの手が、その首にかけられる。とくとく逸る血潮を感じさせるそこを軽く絞めれば、ウォルターがちいさな恐怖に喘いだ。

 顎を掴んで首を回させる。開かれたくちびるに、スッラは自分のそれを重ねた。ぽろぽろとウォルターの瞳から涙がこぼれおちていく。

 スッラはチラリともう一組の方へ視線を遣る。

 当然と言うべきか、蛇の方と眼が合った。自分のウォルターを見下ろして緩やかな弧を描いていた双眸は、こちらを捉えて分かりやすく細められた。

 「ぶぅ゙ッ゙――!」

 じゅ、とウォルターの舌を強く吸って口を離す。ぁえ、と痺れた舌をいやらしく覗かせる口の端を啄んで、耳を食む。

 それと同時に、もにゅもにゅと尻を揉んでいた手を離して――もちろん加減はしつつ――揉みしだいていた臀部を打った。スパァン、と小気味の良い音が聞こえた。

 「んぎっ!? ヒッ――!? ィ゙ッ゙……!!」

 ウォルターがスッラの手から逃げるように腰を反らす。スッラは片手を首元へ遣ったまま、もう片方の手は痛みに跳ねる身体をあやすように、今さっき自分が打った尻を揉んでいた。

 「す……、す、ら゙、きさま゙ァ゙……ッ!」

 当然、いきなり尻を叩かれたウォルターはスッラに抗議する。どろどろに溶けた顔で、それでも横目にスッラを睨み付ける。

 「ウォルター。お前もハンドラーなら分かるだろう? 悪い子には躾が必要だ」

 嫌な笑みを浮かべてスッラはてきとうなことを言う。ゆったりと振り上げられる手はいっそ優雅だ。ウォルターの喉が引きつった。

 ――パァン!

 「ひア゙ァ゙ッ゙!゙ ふッ、ア゙、はひ、ィ゙ッ゙」

 その後も数度叩かれて、その度に乾いた破裂音がした。ウォルターの臀部は赤く色付いている。

 「ゃ゙っ゙……、も、やめろ、やぇ゙、」

 「打たれる度に締め付けておいてよく言うな? 止めても良いのか?」

 赤くなった尻を揉んでいた手が今度はさわさわとそこを撫でる。ひくひくとわななく後孔から、くぷ、と小さな音が立つ。それを、スッラは実に愉しそうに論った。

 ぐちゅ、ぐちゅ、とスッラの熱がウォルターの胎の中を拡げるように動く。相手を労るような動きは、むしろその身体を苛んだ。ぐぅ、と食い縛った歯の隙間から呻き声が落ちていく。それをやはりスッラは鼻で笑って、今度は下腹部へ手を回した。臍を掠めた指先に、薄く腹筋の割れた腹が波打つ。

 「しっかり起たせておいて「やめろ」とは……いけない子になってしまったな、ウォルター……私はかなしいぞ」

 首筋を吸いながら、口端を上げたそのまま囁く。ゆるやかに兆しているウォルターの熱を指先で辿って、気まぐれに弄る。耳元で子犬のような泣き声が聞こえた。

 そうして、ウォルターの熱から溢れた半透明な液に汚れた手で、スッラはその下腹部を、ぐ、と押した。

 「――~~~~~!!!」

 ウォルターの身体が跳ねる。手のひらには、その胎に収まる自分の熱が確かに触れていた。ごりゅ、ぐりゅ、と肉壁に擦れている。反らされ晒された喉仏に指先を立てながら肩に歯を立てれば、いっそう肉筒は縮こまった。

 その、締め付けの強さに、スッラは実に愉しそうにウォルターを見る。肩から離した牙に、ツゥと銀糸がひく。

 「ハ、ハ――、ウォルター、お前はほんとうにかわいいな。そら、そのだらしない顔を見せてやれ」

 ぱたりと涎がシーツに落ちていく。

 スッラの声と、眼下から絶え絶えに聞こえてくる声に釣られてウォルターの眼が恐る恐るベッドの上へ向いた。

 しとどに濡れた自分の下半身。触れ方はいやに優しいスッラの手。そしてその下――自分を見上げる、熱に溶けてなおこちらを気遣う、同じ色の、蕩けた目。それを見るいとおしげな蛇の目は、一瞬だけこちらを見た。

 「ぅ――、ゃ、ぃや、だ、やめ、」

 居たたまれなくなったウォルターが目蓋を閉じる。首を振って、スッラの手から逃れようとした。細やかな抵抗。

 「悪い子だ」

 ふっとスッラが身体を引く。ふたりの間に冷たい空気が流れ込む。刹那、ウォルターは自由を幻視した。だがそれは、すぐに伸びてきた無慈悲な手に握り潰された。

 首元にあったスッラの手が、ウォルターの項を鷲掴んでシーツへその顔を押し付けた。

 ぐちゃりとぬかるんだシーツが鳴る。すぐ横に、ウォルターと同じ色をした目があった。自身の醜態を間近に晒された、と自覚が強まり顔に熱が集まる。きゅ、と熱に縋る孔を笑うスッラの吐息なんて聞こえなかった。

 「ぅ゙、ぅ゙……!」

 怒りと悔しさと羞恥と――もうどんな感情なのか定かでない嗚咽が、とうとうウォルターから漏れる。自分の吐き出した白濁や体液に汚れる惨めさ。

 ぽろぽろと涙をこぼすウォルターの頬に、するりと誰かの指先が触れた。ふるえる指先が、不器用に涙を拭う。それから、やさしい手のひらが頬を包んだ。

 「……っ、うぉる、」

 掠れた声はよく似ていた。どちらからともなく寄せられた額が合わせられる。伝わる体温に安寧を覚える。

 くつくつ、と喉を鳴らす蛇2匹のことなど、意識の外に追いやっていた。

 聞き慣れない声のスッラがもうひとりのウォルターをベッドへジリジリ追い込んでいる間に、もうひとりのスッラはウォルターを抱え上げて手早くベッド上へ運び終えていた。

 寝かせた身体の上へ乗り上げて、服を寛げていく。その手を何とか止めようとするウォルターの手を片手間にあやして、するするとボタンを外す。相変わらず細く頼りない身体だ、と目の前に晒された身体に対して思った。ある程度鍛えていそうな「ウォルター」を見てしまったからかもしれない。

 「――さて、ハンドラー・ウォルター。この部屋から出るために協力してもらおう」

 「自分から部屋に入ってきておいて何を……!」

 「まあ部屋から出ても出なくても変わらんか。……今さらどこで私に抱かれるかなど重要なことか?」

 スッラの言葉に、サァ、とウォルターの頬に赤みが差す。それをスッラは笑顔で見下ろしていた。

 「何度私に抱かれるのかも、もはや気にするようなことではあるまい?」

 わなわなと震えるウォルターのくちびるは、しかし何も言葉を紡げなかった。

 その薄いくちびるに、ごく自然な動きでスッラは口付ける。思い出したように抵抗し始める手を頭の横のシーツに縫い止め、くちびるを食む。やめろ、と言おうとした歯列の隙間に舌を捩じ込んで、音を立てて舌と舌を擦り合わせる。くちゅ、ぐちゅ、と鳴る水音から逃げるように、ウォルターは目蓋を閉じた。

 「抱かれたかったのだろう? 良かったな、私たちが現れて」

 既に綻んでいた後孔を、それでも指の3本がしっかりと咥え込めるようになるまで解してスッラは自身の熱を埋めた。

 胸から腹へ。腹から腰へ。手を滑らせれば、それだけでびくびくと跳ねる身体は埋められた熱を食い締めて、その感覚にまた跳ねる。薄い腹が忙しく動くのが、愉快だと思った。

 腰を揺する度にぐちゅ、ぐぷゅ、と心地良い音が鳴る。熱く締め付ける肉の壁は、羞恥の表れだろう。

 「ちがゔ、おれ、たちは、ァ゙――、そんな゙ッ゙、ひッ、ィ゙ア゙ア゙ッ゙!゙」

 現に今も、否定の言葉をなんとか捻り出しながらスッラの熱を美味そうに締め付けている。

 まあ、ウォルターの性格上、素直に認めることができないのは分かっている。あるいは、たとえ本心から“そう”思っていても、身体の方は“そう”ではなかったり。

 難儀なのだ。ウォルターと言うやつは。

 「楽しめば良い。受け入れろ。誰もお前を責めはしない」

 ひたりとスッラの手がウォルターの腰で留まる。すり、と撫でられる感覚は状況に反して穏やかだった。

 けれど。

 「ひっ、ア゙――、ぅ゙、ぶッ゙……、ぅ゙ん゙ん゙ん゙ッ゙!゙!゙」

 ずちゅぐちゅぐぷゅ、と胎を踏み荒らす熱は暴力的だった。

 ウォルターの腰が反り返る。爪先がシーツを乱して、両手は声を抑えようと口許へ遣られた。喉元も弧を描いている。“善い”ことが目に見えて分かる反応だ。クツクツ喉が鳴る。

 スッラは軽く身を乗り出した。ごりゅ、と抉られる胎に、ウォルターの目からぽろぽろ涙が溢れていった。

 くぐもった悲鳴を聞きながら、その喉元へ顔を寄せる。べろりと薄い皮膚を舌が撫でた。いちど、にど。肌に浮き出る凹凸を、あるいはその味を確かめるように舐る。それから、スッラはおもむろにウォルターの喉元に噛み付いた。

 ぎり、と無防備な喉に牙が食い込む。

 「かはっ――、ァ、ぅ゙え゙、ひッ……、が、ァ゙、」

 口許を覆っていた手が離れる。痛みか息苦しさか、ウォルターの喉がふるえて苦しげな声が口からこぼれていく。自由になった手はスッラの肩にかけられていた。押し返そうとしているのだろう。カリカリと指先が肌を掻いている。

 きゅ、と孔が締まる。

 「ひゅっ、あ゙……、っア゙、ォ゙ごッ、」

 ウォルターの爪先がシーツを蹴り、スッラから逃げようとする。

 このまま獲物の喉笛を食い千切ることもできた。スッラにはそれができる力があった。

 けれどべつに、スッラの目的はウォルターを殺すことではない。

 はひゅ、はひゅ、と妙な音を聞かせ始めたウォルターの喉を放す。離れる直前、噛んでいた場所を舐めれば薄く鉄さびの味がした。上下に動く喉が面白い。

 「――ヒュッ! かはッ、ェ゙、げほっ、かひゅっ」

 必死に空気を取り込もうとする身体がガクガク跳ねる。上体が捩られて、スッラから逃げようとしていた。

 下肢の方は、スッラに縋っているというのに。

 「ふっ、はは……、いけない子になってしまうなぁ、ハンドラー・ウォルター。ただのセックスで満足できなくなってしまったら――責任を取ってやらねばな」

 庇うように喉元を覆っていたウォルターの手を退けて、今度は手で喉元を押さえつける。押し潰されるような感覚に、ぐぅ、とウォルターが鳴いた。

 スッラを見上げる双眸は濡れている。悔しさや怒りよりも、困惑の色が強く見えた。

 それを見て、また腰が灼けた。

 他のセックスで満足できなくなるのはこちらではないのか――なんて頭の片隅で冷静な自分が嗤った気がした。獣のようなセックスだ。モルモット(被検体)には相応しい、野蛮な交わり。自分がそれを求めるのは、きっとこの哀れな男にだけだろう。そして、この哀れな男はそれをきっと許すのだ。

 はくはく酸素を求めて喘ぐ口内から、蕩けた舌がだらしなく覗いていた。

 「――ァ゙、」

 自分の腕に立てられる爪など気にも留めず、スッラはウォルターの口を自分の口で塞ぐ。

 下肢と口内の双方から淫猥な水音が立つ。霞んでいく意識の中で「溺れる」とウォルターは思った。

 「――~~~ッッッ!!!」

 「ぐっ……、ぅ、ッは……!」

 ぎゅううう、と、おそらくその日いちばん、ウォルターの胎がスッラの熱を締め付けた。

 「――……が、ァ゙ッ゙!゙ ゲホッ! ゴホッ! ア゙……、は、ァ゙……!」

 真っ赤な顔でウォルターが咳き込む。肩も腹も大きく上下して、足りなくなった酸素を取り込もうと懸命に呼吸する。口端から唾液があふれていた。

 ウォルターの身体を辿っていたスッラの眼が下腹部を写した時だった。

 薄い腹。この、中に。自分の欲が埋められているのだな――と、ふと思った。

 ゆるゆると熱を胎奥に擦り付けながら、スッラはウォルターの下腹部へ手を乗せる。ぬちゃりと手のひらが濡れたけれど、不快だとは思わなかった。

 疑問符と共に、その意図に気付けぬ目がスッラを捉えた。にこりと笑みを返す。

 「はひっ――ッ!?」

 ぐ、と下腹部が押さえられ、ウォルターが悲鳴を上げた。内と外、両方から熱が焼く。

 「あれでしっかり達しているとはな。さすがだハンドラー・ウォルター」

 「あぅ、ぁ、……な、ッ、きさま、スッラ……!」

 下腹部に広がった白濁をくちゅくちゅいじりながらスッラは笑う。喘ぎ喘ぎウォルターが吐く言葉など、小鳥の囀りにしか聞こえない。

 「好き者め」

 「きさまがっ、ァアッ!!」

 ウォルターが詰まらないことを言う前に、愛らしく萎れている半身に触れてやる。

 当人が吐き出した白濁を絡めて、音を立てながら育てていく。

 「ゃめ゙、や、やだ……、なにを……、ゃ、すら、……ヒッ、も、でない゙、れ゙にゃい゙か、ア゙ア゙ア゙!゙」

 愚図り始める声を無視して、やさしく丁寧に撫でてなぞって弄くってやる。

 ぬちぬち、ぐちゅぐちゅ。粘ついた水音に引きつる呼吸音が混じる。

 「ぁぎッ、ひいっ、ひっ、ぉ゙――、ッ! や゙、でぅ、ア゙、なん、くひっ、ひいぃッ――!!」

 ウォルターの両腕はスッラを止めることを諦めて、現実逃避することを選んだようだった。両腕が、赤く染まった顔を覆っている。

 意地の悪い指先が、小さな孔に爪を立てた。

 ガクン、ガクン、とショートした機械の最期のようにウォルターの身体が跳ねる。無理に愛された半身から、勢いよく透明な液体が噴き出した。ぱしゃぱしゃと溢れてそれはふたりの身体を濡らした。

 最後の一滴まで搾るようにウォルターの熱をなぶり続けて、再びそれがくたりと芯を失うのをスッラは見届ける。

 「随分善がって汚してくれたな。いけない子だ」

 「ん゙ぅ゙……、ぶぅ゙っ゙、ひぐ、ぅ゙ぅ゙……!」

 「責めてはいない。誰もお前を責めてはいないだろう?」

 両腕を退けて、蕩けた舌を食みながらスッラはあやすように言う。視線を上げればもう一組の自分たち。実に愉しそうだ。一瞬、泣き出してしまいそうな“ウォルターと同じ色の目”と、眼があった。

 スッラの視線に釣られてか、ウォルターもそちらを見上げていた。

 ぐちゃり、と快楽の余韻に茫洋とするウォルターの目の前に、同じ顔が落ちてくる。くびのあたりを、押さえつけられているのだ。シーツがぐちゃりと鳴ったのは、いろいろな液体で濡れているかららしかった。気付かなかった。

 赤みを帯びて潤んだ瞳に、自分が写っている。

 「ぅ゙、ぅ゙……!」

 ぽろり。ぽろぽろ。涙がこぼれおちていく。ウォルターはほとんど無意識に手を伸ばした。姿勢や向きのおかげで思うように手を動かせない。それでも相手の涙を拭って、頬を撫でることは、なんとかできた。

 「……っ、うぉる、」

 掠れた声はよく似ていた。どちらからともなく寄せられた額が合わせられる。伝わる体温に安寧を覚える。

 くつくつ、と喉を鳴らす蛇2匹のことなど、意識の外に追いやっていた。

 ――結局、“これ”が何の因果によるものなのか、分かることはないだろう。

 まったく不本意だが、そんな確信がスッラにはあった。

 技研の遺構にしては設備や品々が新しい。オールマインドの検証にしては、計画とやらに関係が無さすぎる。ベイラム、アーキバス、解放戦線、その他の独立傭兵。どの勢力にしても動機や利点が無さすぎる。

 そうなるともう、思考を投げる他なくなる。何かしらの思惑に踊らされるなど御免だが、現状活動に悪影響が出る仕掛け等は見られない。

 ただ、ウォルターとセックスをしているだけ。平行存在とやらが何故かいるが、まあ障害ではないのでいい。

 スッラは目の前の“3人”を眺めながらそんなことを考えていた。ちょっとした休息だ。

 「ぁう、ぅ゙……、ふ、ァ、んン……」

 「ハ、っ゙、……んッ、はふ、ン゙、ンッ!」

 そうでもしないと、思考も身体も、灼け落ちてしまいそうだった。

 スッラはそれぞれのウォルターを膝立ちにさせて後ろから攻めている。だがその距離が、常ならば叶わない――他の誰かとならばしようとは思わないものだった。

 ウォルター同士が向かい合って、吐息の触れる距離。抱き合っていると言っても良かった。けれど腕は使えない。スッラに掴まれているからだ。抱擁するように回させた手を、向かいのスッラが掴んでいる。

 いつもより少しだけ太い腕と指。いつもより少しだけ細い腕と指。色もかたちも同じなのに、自分の知らないウォルターの腕をスッラは握っていた。

 「アッ! ン――ッ! ふ、ぅ゙ゔ……ッ゙!゙」

 義手ではない方の手のひらを指先でくすぐられて、ウォルターが身体を強張らせた。きゅん、と胎が締まる。ハハ、と蛇の笑い声。

 ウォルターが恥じ入るように相手の首筋に顔を埋めた。埋められた方は哀れな同胞を慰めるように頭を擦り寄せる。かわいらしい光景だ。

 しかしこの愛らしいいきものが「愛らしい」だけでないことを、スッラはよく知っている。

 ばちゅばちゅと腰を打ち付けられる身体の前側、腹の間に挟まれた互いの熱を、それをもって慰め合っていることに気付いている。押し付けられ、触れ合い擦れ合う胸の飾りに熱い吐息を漏らしていることを知っている。

 全部ぜんぶ、ウォルターの愉しんでいるのをスッラは知っている。

 「ウォルター。いやらしい、悪い子。お前はいつの間にオトナになってしまっていた? 私はお前を大切にしていたのに」

 「ハンドラー・ウォルター。悪い遊びに耽って、いけない子だ。まるで一人遊びだな。お前を抱いているのは私だと言うのに」

 くすくす。くすくす。蛇が笑う。

 抱いているのと違う身体の手を掴んでいると言うのに、不思議と動きに不自由は無かった。ぐちゅぐちゅ、ずちゅずちゅ。ちゃんとウォルターの胎をかき混ぜられる。そう言えば、強化人間はこう言うときに体力が続くのが便利で良い。他人事のようにそんなことを思った。

 背後からそっと、かたちの良い耳を食んでやる。赤く熟れて、熱っぽい。

 「仕方ない。口付けでもしてやれば良い。一人ではできないことだからな」

 「キスのひとつでもしてやればどうだ? お前は甘いものが好きだろう?」

 蕩けたあたまに甘美なことば。声音はかすれて、とけたコーラル。

 引き合うように、ウォルターがくちびるを寄せ合った。

 食んで、舐めて、噛んで、吸って。夢中になって相手を貪るウォルターの姿にスッラは目を細める。ちゅむちゅむ愛らしい音が、ぐぷぐぷ厭らしい音の隙間に落ちていく。

 スッラの手が、ウォルターの手を握り直し、腰の位置を調整した。

 何か不穏な――ウォルターには不穏に思えた――空気に、ウォルターはくちづけを止める。ぷぁ、と細い銀糸が赤いくちびるをつないだ。互いの目に、“相手のスッラ”の笑うのが写った。

 ぐ――ぷんっ。

 「――、――~~~~~ッッッ!!!」

 身体の奥で、してはいけない音がして、蛇に腕を引かれた相手の声なき嬌声(こえ)が、耳元で聞こえた。

 「ウォルター。憐れで可愛い私の獲物」

 やんわり引かれた熱のカーテンの向こうから、くすくすくす、と蛇の笑う声が聞こえてきて、それから。



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