ル解生存介護if(四肢欠損ウォルター有)。スラウォルとエンハルとカーラ姉貴。
ル解生存介護if。四肢欠損ウォルター有り。
スラウォルとエンハルにカーラ姉貴を添えて。
エンタングルくんとHALちゃんはAIとかシステム的な何かの設定。
HALウォルは意識リンクされてて意識の清濁が互いに(もといウォルターのものがHALに)反映される感じ。
捏造と妄想しかない。
気を付けてね。
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通信が入る。発信者を確認して、エンタングルはそれを保留ボックスへ放り込んだ。
すると数秒後にまた通信が入った。発信者を確認する。先程と同じ。保留ボックスへ放り込む。
すると今度は立て続けに2件の通信が入ってくる。発信者は、言うまでもない。エンタングルはやはりそれらを保留ボックスへ振り分けようとして――適当なデータでサイズを無駄に大きくしたデータを投げ返してやった。
沈黙。
「?」
一瞬開いて閉じた通信にパイロットが小さく反応する。これは後で説明が要るな、と思いながら、エンタングルは目の前のことに集中する。
今更自分(補助AI)のフォローなど要らないだろうが――否、これは自分のためだ。自分が役割を全うするための。いくらパイロットが歴戦の強化人間であろうと、もとい、そうであるからこそ、万が一など起こすわけにはいかない。乗機の矜持でもあった。
《……》
何も言わぬままエンタングルはパイロットに任務遂行を促す。目標の殲滅は、8割方が済んでいた。
焦土と化した施設の片隅にエンタングルは停まっていた。崩れた天井から差し込む光がうつくしい。散乱した瓦礫や血肉も風景の一部だ。
エンタングルはパイロット――スッラが通信ログを確認しているのを、黙して見守っていた。
受信が4件。内3件は未開封のまま保留ボックス内。最後の1件は、返信がされている。だが回線が開かれた時間はコンマ以下。相手の話を聞かずに何かしらのデータを送ったと言うことだ。そして送ったデータとは――送信ボックスに残っていた。映像データ。最高画質で撮った長時間露光映像のサイズを引き延ばし、補正と調整をかけた嫌がらせに近い高負荷データ。いつの間に撮っていたんだこんなもの。あるいはインターネットからの拾い物か?
「……お前は、つまり私情ではなく仕事を優先した、と言いたいのか?」
数光年ぶりにスッラがエンタングルに声をかける。否。実際数光年とかそこまでは経っていないはずだ。言葉を交わすのは、確かに久しぶりではあるが。
《……緊急性のあるものではないだろう。そうであれば無理にでも抉じ開けて繋げたはずだ。それに、お前に宛てたものか俺に宛てたものか、定かでない》
「緊急性は無い、か。確かにそうらしいな。内容も……どちらとも取れる」
繋げ、とスッラが不遜に言う。エンタングルは何も言わず、保留ボックスの一番上に乗せていた通信を開いた。
ややあって、見る度に焦がれる逆三角のエンブレム――ではなく、因縁とも言える白地に赤文字の綴られたエンブレムが画面に現れる。ザザ、と短くノイズが走る。
《ぅ……うぅ……、えんたんぐる……、ひどい、いきなりあんな、おおきいのをつっこんでくるなんて……》
通信相手――HAL826の、開口一番のあんまりな文句に「は!」とスッラが笑った。ザリ、と走ったノイズはエンタングルの唸りに他ならない。
《……。暇潰しに付き合って欲しいだけなら他を当たれ。俺たちには仕事がある。……お前も、それは分かっているだろう?》
最後の音声が和らいだものになったのは、エンタングルのHALに対する「思うところ」だろう。学習と経験を積んだAIは、結局「個」もしくはそれと似たものを発現させてしまう。それが良いのか悪いのか、大昔には大きな争いになったと言う。だが結局人と機械は上手いこと共存を続けている。現在のところは。
《えんたんぐる、いつもしごと。にーよんきゅーは、うぉるたーによくあいにくるのに。はるは、うぉるたーのこと、にーよんきゅーにつたえるしかないのに。えんたんぐる、はるのはなし、きいてくれない》
「……」
ぽつぽつと話すHALの言葉を、どちらも黙って聞いていた。それは単にHALの幼い話し方を理解しようとする以上に、その時の状態がHALとほぼリンクしているHALのパイロット――ウォルターの様子を窺うためでもあった。
スッラが意識をHALに向けている。エンタングルだって分かっていた。HALはつまり、ウォルターのことで聞いて欲しいことがあるのだ。
ジリ、と回路が熱を帯びる。通信を、後回しにしたことが、少しだけ後ろめたくなった。
《……落ち着いて話せ。俺に、何の話を聞かせたいんだ?》
《あのね、えんたんぐる。うぉるたーがね、にーよんきゅーにあいたいって》
スッラは既に発進準備を済ませていた。
《だからね、えんたんぐる。まってるね》
エンタングルも、HALの言葉が終わらないうちにパイロットの指示(そうさ)に従っていた。
轟とブースタが炎を上げる。アサルトブーストで人体に負荷がかかる。ACに慣れ親しんだ独立傭兵には些細なことだった。
半ば第2の家と化しているウォルターの住処――621が死に物狂いでウォルターをザイレム上にて確保した後、ウォルターとエアと共に暮らすために建てた家である――へ向かうと、家の側にはAC・フルコースが停まっていた。ガレージの方には、HAL826だけが停まっている。
スッラはコアの中で端末を取り出し、見るのも久しぶりに思えるアプリを起動する。ACに搭載されたAIを、端末上でも呼び出すために使われるアプリだった。更新と同期を終えてから、スッラはエンタングルを降りる。
息をするように家のオートロックをハッキングで突破して――前回とものが変わっていた――屋内へ入る。穏やかな日の当たるリビングには、やはりシンダー・カーラとウォルターがいた。
「どうしてあんたがいるんだい」
スッラを見て、カーラが分かりやすく眉をひそめた。“昔から”、ふたりは反りの合わない節があった。
「ウォルターに呼ばれたからだが?」
不敵な笑みでもってスッラは答える。当然、カーラは「はぁ?」と訝しげな反応をした。
スッラはカーラを鼻で笑い、持っていた端末を渡す。画面には、AC内でのやり取りも表示されていた。
「……HAL826か。あんたは相変わらず慕われてるようだね、エンタングル」
《……あいつが、アイビスシリーズ以外の、他の機体を知らないだけだろう》
「ははは! パイロットと違って謙虚だねえ! 面白いから半世紀前にあんたがうちのガレージでこっそり録ったプロトタイプのHALの写真は不問にしといてやろうかね」
《な、何のことだ》
「音声データも目を瞑っておいてやろう」
《どこまで知っている……!?》
《……えんたんぐる?》
カーラの技術力にエンタングルが――仮にもAIなのだが――おののき始めた頃、あどけないメッセージが画面に映った。
《えんたんぐる、きてくれたんだね》
《……来いと言ったのはお前だろう》
《にーよんきゅーは、うぉるたーにあってくれた?》
《あいつが、あの少年に会わないわけがないだろう》
エンタングルの言葉に、HALからサリサリと軽いノイズが走る。人で言うところの、くすくす笑った音らしい。
ACたちのやり取りを見守るカーラの傍らで、スッラはウォルターを抱え上げていた。それをチラと横目で見るだけのカーラは、何だかんだスッラのウォルターに対する感情を認めていた。
ウォルターは今日も今日とて四肢が無い。アーキバスに取り付けられた義肢装着用ソケットには、接続部が傷まないように蓋をされている。ちいさな身体を包む布地がズレ落ちないよう気を遣いながら、スッラはウォルターを膝の上に載せる。腰を下ろしたソファは、ごく一般的に流通している“普通の”商品だ。
呼び出しておきながら眠りこけるとは、なんて軽口も出はしない。腕の中にウォルターがいる、それだけで良いし、AC経由とは言え「会いたい」と言われた事実で満たされる。色の抜けた髪は、昔と変わらずやわらかだ。
スッラが穏やかな時間に身を任せていると、腕の中の身体が身動ぐ気配がした。
ふるりと薄い目蓋が振れて、珊瑚色の瞳が現れる。それはぼんやりとスッラを写し、ふにゃりと和らいだ。目元や頬に口付けを落とすと、むずがるように笑って擦り寄ってきた。愛らしいいきものだ。
ゆるんだ口許が、くふくふと無邪気に笑う。どうした? とスッラはウォルターに訊いてやる。
「どうした? 良いことでもあったか?」
「ん。いいこと」
すりすり胸元に押し付けられる頭がいとしくてかなしい。「少年」が、終ぞ見せなかった「子供らしい」姿を、今になって見られるとは。
「すっらがきてくれた」
かつて少年(ウォルター)が飲み込んだ言葉を聞けるとは。
――因果なものだ。
感傷も感情も圧し殺して、スッラは「ああ」と穏やかに答える。
「来るとも。お前が望むなら」
だから呼べ、何時でも何度でも。
スッラはウォルターに囁く。聞いているかはもちろん、一拍の後にも憶えているかすら定かでない耳に。
スッラの言葉に、ウォルターはやはりふわふわとした声で「ん」と答えた。目蓋がゆっくりと閉じていく。
後には穏やかな呼吸だけ。
「……眠ったみたいだね」
様子を見守っていたカーラがぽつりと呟く。それ以上は何も言わなかった。
端末の方も、いつの間にか沈黙していた。HALがスリープに入って、やり取りが止まったらしい。
「……ビジターの仕事は数日かかるらしくてね。作業自体はここで出来るとは言え、私にも仕事がある。ウォルターを見ててくれる奴がいると助かるんだが」
「……ふん。随分侮られたものだな。私が暇をしているとでも?」
「無理にとは言わないさ」
しかし、言いながらスッラはソファの上に置かれていた端末を片手で引き寄せる。指先が、時々固い音をさせて液晶を滑っていく。
「だが――独立傭兵の良いところは、予定の組みやすさだな」
カーラが端末を覗くと、そこには「受諾キャンセル」の文字が連なっていた。確かにこの傭兵は今も腕利きらしい。
《……ガレージを借りたい。空いているのだから良いだろう》
「好きにしな。ビジターに蹴飛ばされても私は知らないがね」
静かな昼下がり、穏やかなリビングには、やわらかな日の光が射していた。