投地/torch
ル解生存ifスラウォルで1111遅刻の品。年齢指定は添えるだけ。少し濁点喘ぎ。ぼくだけたのしい。
ル解生存ifスラウォル
ル解生存if
なのでウォルがほやほやぽんやりしてる。
合意の上だし乗り気だけどぽやってるし全義肢。
手足ぜんぶの義肢並べて置いたら1111じゃん! って思った
どうしてそういうことばっか考えるの?(しかも遅刻してるし……)
みたいな感じ。わたしだけたのしいヾ(:3ノシヾ)ノシ
年齢指定は添える(ふんいき)だけ。少し濁点喘ぎ。
気を付けてね
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「すっら、せっくすする?」
穏やかな昼下がり、日だまりの中から投げかけられた言葉に、スッラは盛大に噎せた。その結果、飲んでいた水が、多少、こぼれた。
ごほごほ咳き込むスッラを、そうした張本人であるウォルターは「しかたないなー」なんて言いながらぐいと伸ばした服の袖で拭う。
被害が広がらないよう、口をつけていたペットボトルに蓋をして机に置いたスッラは「それで?」とウォルターに訊く。甲斐甲斐しく押し付けられる手を退けて、握り込んでやった。
ウォルターは握られた手に頬を寄せて嬉しそうに笑う。
「それで、いきなりどうした?」
「えー?」
くふくふ笑いながらウォルターは首をかしげる。どうして訊かれているのか、ほんとうに分からないようだ。にぎにぎすりすりと好きに触れられていた手を動かして、スッラはウォルターの頬を撫でる。
「何故セックスするかと訊いたんだ? したくなったのか?」
生き物の三大欲求すら正常に機能していないらしい今のウォルターが「したがる」とは考えにくかった。
「ちがう。すっら。そろそろしたほうがいいとおもって」
だから、こういう答えは予想できていたものでもある。
実際に出されると、やはり頭の片隅が痛む気がするが。……痛みが想定より強いのは名前まで呼ばれたからだろう。
今回は素直に言ってくれただけいい。ウォルターは「したいふり」をして「させる」こともある。まさかそんなことを企てているとは気付かずに行為に及んでしまったことが数度ある。初めて仕向けられた時など「回復の兆しか?」等と色々な歓喜が込み上げてしまった分、事の真相に気付いた時はそれなりに堪えたものだ。
献身的な自己犠牲は相変わらずなのだ。度が過ぎるほどの世話焼きは、しかしウォルターらしくもある。
「お前の手を借りるまでもない」
スッラははっきりと言う。前回致してからの経過日数なんかで提案してきたのだろう。溜まりすぎはよくないから出しては? と。機械的ですらある。
「えんりょ、しなくていいのに。おれ、やじゃない」
けれど三大欲求が正常に機能していない、のにそんなことを言うのは。
「やじゃない……。すっらと、せっくすするの」
多少なりともひとらしさが戻ってきているからだと思いたくなるではないか。
◈
ウォルターの三大欲求が壊れているとして、生命活動に支障が出ていないのかと言えば、出ていないと言える。
睡眠は、自発的に取ることはないけれど、疲労やストレスが溜まれば身体が勝手に意識を手放すし、そもそも未だ多くの時間でコーラルによる酩酊や意識混濁の微睡みが見られる。電子機器のスリープや強制シャットダウンが認識として近いだろうか。
食欲については、体内のコーラルが意識や認識を奪っている状態に近い。身体に馴染んでしまったコーラルが宿主に栄養を与え、またそれで良いのだと思わせている。結果として乾きを覚えることはあれど空腹を気にかけることがない。当人が食べようとすることは当然として、いつからか、周りも無理にでも食べさせようとすることもなくなっていた。
さてそして性欲であるが――前提としてウォルターの身体は成人済みのそれであることに変わりはない。だから本人にその意思がなくても反応したり機能したりはするのだ。そしてウォルターはそれらの身体反応を、知識として知っている。故に、それこそウォルターは周期的に「処理」をしていた。
ではなぜスッラの「処理」も気にかけるのかと言えば、世話をしてもらっているから、と言う答えが最も正解に近いだろう。自分にできる、自分がいれば都合の良い「世話」を考えたときに、これだと思ったようだった。
スッラ以外にもしているのかと訊けば、ウォルターは「していない」と答えた。異性であるカーラにそういうことを訊くのは良くない、ミシガンは来てくれる日や間隔がまちまちで処理が必要かどうか分からない、621は――エアとする方が良いだろうから。云々。実にウォルターらしい気遣いだった。
スッラは「そうか」とウォルターの考えを肯定して、ならば「処理」をするのは自分だけでいい、と言った。ウォルターは「わかった」と頷いた。そんな経緯を経て、スッラとウォルターは身体を重ねるようになったのだ。
◈
スッラはウォルターの手を引いて寝室の扉を開けた。ウォルターを、抱えて移動しても良かったけれど自力で動くことも大切なことだ。
きれいに整えられたベッドにウォルターは腰を下ろし、そのままぽすりと倒れ込む。んふふ、とシーツにうっとりと頬擦りしている。
外側のドアノブに「取り込み中」の札をかけて鍵を閉め、換気のために窓を開けて、スッラはベッドを振り返る。ウォルターがベッドの上に身体を投げ出していた。服の裾や袖から覗く、最近購入した医療用の義肢は、パッと見本物と見紛うほどだ。
この関係が始まった時から、スッラはウォルターを「処理」のために抱いたことはなかった。
だってそうだろう。半世紀以上も気にかけてきた相手を、相手が良いと言っているからとオナホールにできるわけがない。できる程度の感情だったらわざわざ猟犬狩りなんて回りくどいことはしない。足取りが掴め次第直接殴り込んで頬のひとつやふたつ張りに行く。
つまりスッラはウォルターが大切なのだ。
そんな考えが、言動に滲み出ていたのか、あるいはスッラの態度にウォルターも思うところがあったのか、どこか空虚だった「処理」がいつからか「セックス」になっていった。
やることは変わらない。変わっていないけれど、そこには温度が灯っていた。
ベッドに腰かけたスッラはするりとウォルターの線を指先で辿る。子供にするような戯れだ。ウォルターは肩を震わせて「くすぐったい」と笑った。そしてスッラの手を捕まえて、くいと引っ張った。スッラはウォルターの望むまま、ウォルターに覆い被さるようにしてベッドに肘をついた。
深く鮮やかなコーラル色と、少し淡く茫洋としたコーラル色の瞳が、ごく近い距離で見つめ合う。
「くふふ」
くすぐったそうにウォルターが笑う。にらめっこのできない幼子の笑い声。
薄く開かれたくちびるに、スッラはかぷりと噛みついた。
「んふ……、む、ぅ……、んにゅ、」
くちゅ、ちゅむ、ちゅる。粘膜の触れ合う音が、まだ明るい寝室に響く。とろりととろけたウォルターの淡い双眸は、いつの間にかまぶたに隠されていた。
ちゅくちゅくとスッラに舌を啄まれ、また必死に応えようとするウォルターのシャツの中へ、男の武骨な手が差し入れられる。
「っふ、」
ぴくりとウォルターの身体が跳ねる。そのタイミングで、スッラはウォルターのくちびるを放した。赤く色付いたくちびるからツ、と細い銀糸が伸びる。はふはふ酸素を取り入れようとするくちびるをぺろりと舐め、身体を起こそうとしたスッラの首に――ウォルターは腕を回した。
行くな離れるなと言わんばかりに引き寄せられて、スッラはウォルターの首元に顔を埋める。セックスと言うよりじゃれあいのような行動に、低く笑い声がこぼれた。
「どこにも行かない。安心しろ」
「ぅー……」
疑うような唸り声に、目の前に差し出された首筋を吸ってやる。じゅっと灯した熱を塗り広げるように舌を這わせ、甘く噛む。……ウォルターが気にしていない「首輪」を気にしないようにするのは、もう慣れてきてしまっていた。
同時に服の中へ入れた手で、ちいさな胸の飾りに触れてやる。指先で周りのやわいところをくるりと撫でて、きゅむりと摘まむ。そうすれば、疑念の声は「あっ」と跳ねて消えてしまう。抱え込まれた首に頬が擦り寄せられて、耳元を熱く湿った吐息が撫でた。
胸、腹、脇腹。身体の各所を丁寧に辿られたウォルターは肌を上気させて、身体の内側に籠った熱を逃がそうと浅い呼吸を繰り返すようになっていた。時々細くスッラを呼ぶ声は、とろとろにとけている。
くたりと力の抜けた身体はスッラの自由を許した。愉しそうに首元や肩の辺りに痕を残していた頭が顔を覗き込んで来ても、ウォルターの腕はシャツに縋るくらいしかしなくなっている。感じ入っているのと同時に、懸念も散らされてのことだろう。
「ウォルター、腕を」
「……いい」
「いいのか?」
「ん」
「わかった」
服を脱がせようとして断られたスッラは、シャツをたくしあげることにする。
脱ぎ着のしやすいよう、またウォルターにストレスを感じさせないようにゆったりと余裕のあるサイズの衣服は、同じような理由で、屋内では基本的に上しか着ていない。見知らぬ来客はなく、また湿温度を管理されているこの「家」で、ウォルターがそれに疑問を持ったり不便に思ったりすることはなかった。むしろ以前にも増して衣服に対する頓着が無くなっているらしく、おそらく言ったり着せたりしなければ全裸で過ごすことさえ想像に難くない。
布地に隠れていた部分が白日に晒される。見えずとも辿られまさぐられていた肌は薄く汗ばんで呼吸と共にゆっくり上下していた。
スッラは目を細める。ツゥ、と指を滑らせた鼠径部がひくりと揺れて、ウォルターの口から「はぅ、」とふるえる声がこぼれてシーツの水面に跳ねた。
皮の薄い鼠径部は熱く、身体の中を巡る赤に触れているような気すらさせる。けれど少し触れる場所をズラせば、そこにあるのはやわらかな有機物ではなくて硬い無機物だ。
人間の、胴と足を隔てるように嵌められた輪っかは傷口を覆い、侵して、そこを手足を嵌め込むための場所にした。そしてそれは今のウォルターが手足を持つために大切な場所だった。
スッラの指がくるりと踊る。接続器を過ぎてなめらかな義足を奔ると、ウォルターはひくりと足を竦めた。さすが医療用と言ったところか。売りの神経接続精度は確かに良いらしい。
「ぅ、ぅぅ……すっら、すっら……!」
足を、腹を、くちびるや指であやしていたスッラは視線を上げる。その先には目にいっぱいの熱を溜めたウォルター、が。
「ぃい、っ、おれはっ、いい、っから……!」
おずおずと両足を開いて、スッラを呼ぶ。自分ばかり気持ち良くなっているのが嫌なのだと、スッラには分かる。
スッラを好くするのはウォルターの仕事で、そもそもウォルターが言い出したのだから、ちゃんと仕事をしなければ! ――なんて、ああ、やはりウォルターは変わらない。変わっていない。
「フフ。拗ねるな。わざとではない」
「し、して。おれ、できる……、ちゃんとできる、から……!」
「ああ。わかっている。わかっているとも」
服を脱ぎ捨てて身体を起こして、スッラはウォルターの腰を引き寄せる。ゆるやかに上向く半身を気にすることなく、ウォルターは不器用に腰を揺らした。
用意していたローションの蓋を開けたスッラは粘液をまとわせた指をウォルターの後孔へ向ける。にゅぷり、と音が立った。
「ん、う……、っ、うぅっ」
「……ゆっくり呼吸しろ。焦るな。大丈夫だ」
つぷつぷと指の先から慣らしてやりながらスッラはウォルターに声をかける。する前に風呂で慣らすとか準備するとかの提案は、ウォルターの「待たせたくない」との意向で却下されていた。
当然、スッラとしては、するなら準備させたいのだが――持ち前の頑固さで押し切られている。
「……」
「ん、ん……、」
触れ合う時間が長くなるのが良いのだろうな、と思うところは何となくある。触れ合いを気に入られているのは、悪い気はしない。
しかしスッラからすれば、据え膳そのものに「待て」をされていて、更にその据え膳を自分の手で食べ頃に熟れさせているようなものだ。自然、目も据わってくる。ちなみにウォルターに任せようものなら義肢でぞんざいに慣らして終わる。相変わらず自分の扱いが雑だった。
「は、ぁ、ぁぅ、ぁ、んぅ……、」
いつの間にかスッラはウォルターを抱き起こして胡座の上に乗せていた。ついでにウォルターのシャツは脱がされて、ぽいとそこらへ放られている。当人は、はじめ渋った割にもう気にしていないようだった。
後孔を慣らす指は3本に増えていた。ウォルターの自重も手伝って、長く角張った指が胎の中に潜り込んでいる。前立腺をいじめるでもなく、ただ拡げるという目的のためだけに動かされる指。それでもウォルターの身体は快を拾ってふるえた。
「も、もぅ……、い、へーき、」
スッラの首元にすがりつきながらウォルターが喘ぐ。だいじょうぶ、はやく、と囁きながら腰を押し付けられて、その体温と柔らかさにスッラのソレは完全に起ち上がった。
自身の半身に触れたソレに気付き、またその状態を理解したウォルターは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「すっら、いいこ」
「一丁前に何を言っている」
「あうっ」
よしよしと頭を撫でられたので額を小突いてやった。大して痛みは無いだろうに、ウォルターはぴぃぴぃ文句を囀ずる。それをハイハイと聞き流しながら、スッラは手早くスキンを着けた。
ゆるりと髪を手櫛で解いて、ウォルターの意識の手綱を取る。
「乗るか?」
「ぁ、ぇ、えと、すっらの、やりやすいので、いい」
「わかった」
「ん。……ん、む、」
ちゅむ、と口付けをひとつして、スッラはウォルターの身体を持ち上げようと手に力を入れた。
ウォルターはその意図を正しく汲んだ。
もぞりとシーツが鳴って、スッラの身体を支えにウォルターが腰を浮かす。そうして、スッラの半身の切っ先とウォルターの後孔は影を重ねた。
「――ぅ、ッあ、ぁ……!」
くぷぷ、と音を立てながらスッラの熱を呑み込んでいく。半身を揉む肉は確かにウォルターの身体で、半身を包む熱は確かにウォルターの体温だ。
快楽だけではない、いのちの証明に触れて、スッラは眉間に皺を寄せながら目蓋を閉じた。
そんな、時に。
「……」
いとし子が機嫌を傾けた気配がした。
「すっら……」
じとぉ、とした声が耳朶を打つ。似たような、じっとりとした視線も向けられている。
理由は分かっている。だからスッラは焦りも慌てもしない。
「すっら、ごむいらない。そのまましていいって、おれなんどもいった!」
「これは嗜みだ、ウォルター」
「いらない! おれがいらないっていってる! すっらはそのまま、おれをつかえばいい!」
びえっ! とでも泣き出しそうな顔をするウォルターは、スキンを付けられるのを厭った。どうやら「自分はどう頑張っても女性や道具ほど悦楽は提供してやれないから、少しでも好くなって欲しい」と言う、低い自己認識から来ているらしい。
「お、おれたべてないから、だいじょうぶ……、だし、ちゃんと、いちおう、あらったから、」
「洗浄はしていたのか。偉いぞ」
「ん。ん……。だから、あの、なにも、つけないほうが、きもちいい、はずだし、おれ、すっらがきもちくないと、おれ、いみ、ないから、……、つかって、そのまま……、おれ、つかって、」
落ち着けた腰を浮かせて結合を解こうとするウォルターの身体を、大きな手が引き留める。図らずも、小さいながら注挿が起きて、ウォルターは「ひんっ」と胎をふるわせた。
「ウォルター。これはセックスだろう? ならば相手のためにスキンを付けるのは当然だ。お前が大切だから付けるんだ。わかるだろう? お前だから付けるんだ。そもそも、つまり私は、私のしたいようにしている。これはその一環だ。それを、お前は否定するのか?」
ウォルターは誰が相手でも相手を否定することを良しとしない。だから、こういう言い回しはウォルターに有効だった。
「ぁ……ち、ちが……! ぅ、うぅ……、……す、っら、が……、いい、なら……」
「良い子だ」
「ん……」
そうして、たちゅたちゅと上下する水音が寝室にこぼれ始める。
「あっあっあ、っ、う、ぅ……、っあ、」
ウォルターは軽かった。
感覚としての話だ。
最新の精密機器である義肢は、それなりの重さがあるけれど、それらはシーツを掻いたりスッラにすがったりして重さが拡散している。だからスッラの両手に掴まれて、容易く腕の動きに従う身体は、軽いとしか言えなかった。
指先に“硬い背骨”や”冷たい腰骨”が触れるのを感じながら、スッラはウォルターを揺らす。くちゅ、ぱちゅ、と弾ける音ばかりが普通のセックスだった。
「んあ、あッ、ふ……ッ、はぅ、ッぅ、ぁ、あ……!」
とろけた声がウォルターの口からこぼれおちていく。スッラはウォルターもまた好くなっていることを把握して口角を上げる。
「あっ、ぁー……っ! うあっ、んッ、ぅ、ぅうう……!」
ひんひん啼くウォルターが目の前の身体にすがる。触れ合った身体の間に挟まれた半身が温かく弾力のある筋肉に擦れて、ウォルターの腰がかくんと揺れる。そうして、そのまますりゅすりゅと半身を腹筋に擦り続けた。
ぬちゅ、ぷちゅ、と言う水音がふたつの身体の間からしているのか、それとも自分の後ろ側からしているのか、どこがきもちいいのかも含めてウォルターは定かでなくなっていた。
ただあたたかくてきもちよくて、そればかりが内側を埋める。くすくす、と耳元をくすぐる笑い声も、そのひとつだった。
「んぅ! ひ、ぁ、っ! ふっあぁっ!」
ひくんとウォルターの身体が強張った。頭の中や腰の内側が弾けて砕けたような感覚がして、それがどこかへ溶け出ていく気がして、ウォルターはぴくぴく腰を跳ねさせながら呼吸を整えようとする。
のに、スッラはそれを許さなかった。
熱い息をひとつ吐いて、くつくつ喉を鳴らして、ウォルターを揺すっている手に力を込める。ぐちゅぐちゅ音のする感覚が短くなって、ウォルターは悲鳴を上げた。
「すっら! ひっ、ひぐっ! ぅあっ、あ、ああっ! あ、あッ……! すっ、ッ、ま、っぇうっ、ま、ぁ、あ、あ……っ!」
中を、突かれて轢かれて拓かれ続ける胎がきゅうきゅう言うことを聞かない。おかげで収められたスッラのかたちや熱さがありありと感じられて、ウォルターは頭も胎もいっぱいいっぱいになる。
あふれだす。何かがあふれてしまいそうだと思った。
スッラとのセックスはいつもそうだ。頭や胸や胎が何かでいっぱいに満たされて、それがあふれそうになる。“それ”が何なのか、分からないからウォルターはいつも、少し、こわいのだ。
「っ、もう少し。……ふふ、私の腹を使ったな? ウォルター。悪い子だ。人の腹筋でするマスターベーションは気持ち良かったか?」
「ひっ、ひぅっ、ごぇ……、ごえ、らしゃ、ごめんなしゃ、ぁっあ……!」
「ふっ、くふ、ふはっ、……気持ち良かったか?」
「きもひっ、きもち、かった、れす……! ぅひっ! ひっぐ! ぅあっ! あっ、あぅぅッ」
胎の中のスッラが熱く脈打つ。耳朶から脳を焼く吐息と声に酔う。
感度の上がった身体を抉る欲望は、明らかに負荷限界だ。
スッラの方も、視覚的にも感覚的にも至極へ至ろうとしている。じり、とウォルターの腰に手指が食い込んで痕をつけていた。
スッラの背にも、義肢が熱を灯している。爪でも骨でもない、純粋な人工物が、スッラの血肉を圧す。こちらにも内出血の痕が付くことだろう。ウォルターの爪はもう伸びない。だから、スッラの背中に引っ掻き傷ができることは、もう無いのだ。
「はッ――!」
「んぐッ、ゔぁ、かはっ……!」
ぱちゅん! とウォルターの尻肉が波打った。呼吸が止まって身体が強張る。目蓋を閉じたスッラとは対照的に、ウォルターは目を見開いていた。
スッラの熱がぐりぐりと奥に押し付けられる。薄いゴムの先に溜まった熱は、それでも熱い。ウォルターはより奥を許そうとして、重たくなった身体を叱咤する。
腰を浮かせて、スキンを替えやすくする。スッラに支えられながらも胎に収まっていたモノを外に出せば、その感覚とぽっかりと空いた空虚の冷たさに声がこぼれた。
しかしこれもこの刹那だけ、とスキンを外すスッラの動向をウォルターは見守る。自分はまだ大丈夫だから。もっと奥まで拓いて良いから。と、胸元に頭を預けてふわふわしていた。
ら、あろうことかスッラはふたつ目の袋には手を伸ばさずに、ウォルターの肩へ手を伸ばしてきた。
「ぅわ、ゎ、え、え……?」
ふわりと慣れた様子でスッラの腕はウォルターを抱え込み、そのまま横たえた。当然のように隣へ寝転がってくる男の姿に、ウォルターは「もうおしまい」なのだと気付く。
寂寥の見える目を見て、スッラが笑った。
「まだしたかったか?」
いけない子だな? なんて言う声は少しザラつきながらもまだまだしっかりとしていて、余力は十分であることを隠すことなく語る。むぅ、とウォルターは唸った。
「おれ、もっとできる。はげしくして、へーき。てあし、はずしても、いいし」
ウォルターは、胎の中で硬さを保っていた熱へ視線をやる。するとソレはまだ、やはりかたちを保っていた。世話しようと伸ばした手は、するりと絡め取られてしまう。ちゅ、と落とされる口付けに、ごまかされてなんてやらないぞとウォルターは唇を尖らせた。
「フフ。外して良いのか?」
「すっらなら、いいっていってる」
「それは光栄」
「ぅー…………せっくす、やだった……?」
「そんなわけはない。だがお前、明日は客が来るのだろう?」
「……! そうだった! あした、みしがんくるって、いってた!」
身体に散る赤は、行為の時間と比例して増えていく。しばらく来客の予定がない時はともかく、威嚇や牽制で済む数に押さえておかねば、と言うのはスッラなりの良識とか自制心だった。スッラは彼なりにウォルターの大切――もちろん「使命」やら「猟犬」やら、ウォルターの命を脅かしていたり脅かすものは論外だが――を尊重しているのだ。
コーラルが動力である、と言っても過言ではない今のウォルターは、回復能力も高くなっている。だが負担がまったくないわけではないし、何より体力を勝負するスッラもまた強化人間で、更には現役の傭兵だ。ウォルターとて抱き潰されれば翌日まともに機能できるか分からない――いやきっと微睡むばかりになるだろう。前例はある。
「そっか、あした、みしがんくるんだったか。わるいな、すっら……」
「気にするな」
「……で、でも、その……、もし、たりないなって、なったら、ねてても、おれ、つかっていいから、な? ほら、はずしておくから、」
期待と申し訳なさを一緒に見せながら、ウォルターはシーツの上でもぞもぞ身動ぐ。ぐりぐり押し付けられる頭は丸くてふわふわで、小さないのちと相違ない。
いつになっても可愛らしい少年を眺めていると、義肢のデバイスランプが消えて、ずしりと重みが増した。なんとなく、部屋の温度が少し下がって、静かになった気もする。ウォルターが、義肢の接続を切ったのだ。
それは特別なことだった。
義肢の接続を切るということは無防備になるも同義だ。特にウォルターのように四肢のすべてが義肢である者ならなおさら。そこに加えて、スッラは取り外しの許可も与えられている。義肢を外してしまえば、接続を回復して逃げることもできない。移動、抵抗と言った行動の手段を手放すのは命を握られるに等しい。
以前のウォルターなら、天地が引っくり返ったとて、誰にも許さなかっただろう。
それを、今は。
「脚もいいのか?」
「あしのこしたら、そっちつかうだろ」
「煽るな」
「んふふ。つかっていいからな」
そんなことをしなくても、セックスなんて無くても、スッラはウォルターから離れたりしないのに。
「すっらは、けんぜんなせいじんだんせいだからな。えんりょするな」
妖艶と言うには邪気の無さすぎる顔でウォルターは笑う。
「ハイハイそうだな」と適当に相槌を打ちながら、義肢のすべてを取り外したスッラは、ベッドサイドのチェストの上に、4つすべて丁寧に並べて置いた。脚部は膝から下を投げ出すような、天板に腰かけるようなかたちになっているが仕方ない。義肢置き用のクッションを導入しても良いかもしれない。
そうして、ウォルターにかけておいたシーツを捲って潜り込む。器用に身体を使ってにじり寄ってきたウォルターを抱え込むと、満足そうな吐息が小さく聞こえた。
ああ、あたたかい。
温かくて、柔らかいな、と思いながらスッラはウォルターを抱き締める。抱き返してくる腕も足もなかったけれど、身体すべてを使って擦り寄られれば、それで十分だった。