ウォルに着けて欲しい。
ルビコン脱出時に傭兵が少年を保護()したifの新米時代スラウォル。甘。モブウォル未遂、モブ死有り。年齢指定パートも死んでる。
if新米時代スラウォル
ルビコン脱出時に傭兵が少年を保護()したif
スッラのパートナーしてるウォルター。
イチャイチャらぶらぶ♡してるし感覚と言うか倫理道徳観がちょっとズレてる(個人的傭兵種族への偏見による)。
スッラの真似して一人称に「私」を使ったりしてる、スッラに懐いてるウォルター。笑顔もできるしハニトラもできる。
モブウォル未遂やモブお姉さんに揉みくちゃにされたりするウォルター。
年齢指定パートはふいんきだし力尽きてる。ほんとに力尽きてる。
モブが死ぬ。モブの扱いが雑。
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独立傭兵スッラには専属のハンドラーがいる。
いつからか、スッラの仕事に関する手配や交渉は、本人ではなくひとりの青年が請け負うようになっていた。
その変化に気付く人間は多くなかった。
しかし時が経てば経つほど「青年」のことは知られるようになっていった。
無理もない。当然と言えば当然のことだと言えた。青年は戦場でのオペレートも担っていたからだ。
明らかにオペレータのいる挙動。不測の事態にも柔軟なフォローを見せる電子戦。各所に残される補給の後。
いかに「スッラ」が歴戦の傭兵と言えど「単身」では不可能な立ち回りは、協力者あるいはパートナーの存在を確定的にした。
だが――独立傭兵にパートナーができたとて、騒ぎになるようなことはない。よくあることだからだ。
ただ、厄介な傭兵が更に厄介になったな、と。その程度だった。
事実スッラの仕事ぶりは、同業者からすれば厄介この上ないものとなった。ハンドラーの腕は確かで、そして成長も芳しいらしく、仕事を重ねる度に彼らの連携と精度は向上していった。
件のハンドラーの姿を見た者は未だいない。
交渉も連絡も、他の傭兵たちに漏れずすべて通信で済ませる上、画面に現れるのはアイコンのみ。機器経由のハッキングも厚い壁に阻まれ徒労に終わる。
隠されれば暴きたくなるのはヒトの性。見えぬものを見たがるのも、ヒトの性。
しかしハンドラー側が、もったいぶってそうしているわけではないことは、声までは隠していないことから明らかだった。
顔が割れれば危険が増す。単に、その懸念に対するもののようだった。
戦場に顔を出す傭兵と違い、ハンドラーやオペレータと言った後方の人員は、名前と比べて顔を知られていない物が多い。
故に、その「顔」にはそれなりの額がかけられている。
薄暗いホテルの一室。
光量の抑えられた照明に照らされる青年は密やかな微笑を浮かべていた。
薄い唇が弧を描いているのが、随分蠱惑的に見える。細められた瞳のせいだろうか。翳ってなお光を失わない双眸のうつくしさに喉が鳴る。数刻前、確かに食事をしたと言うのに。
「さあ、話をしないか? 貴殿にとっても悪い話ではないはずだ」
まだ柔らかな声がさえずる。慣れた風に見えて、その端が、少し掠れたのは、緊張から――だとしたら、とんだ魔性だ。
「はじめに互いの要求を確認しておこう。食い違いがあっては、特に報酬の支払いで面倒が起きる」
仕事の話をする、はず、だと言うのに青年はベッドへ腰を下ろす。
脚をまたぎ、乗り上げて、ベッドを軋ませても青年は動じなかった。むしろ伸ばされた手を取り、恭しく甲へ口付ける。くす、と手の甲をくすぐる吐息が「先達には敬意を払うものだろう?」と上目遣いをする。
まだ瑞々しさの残る顔立ちと状況と相俟って、腰にじわりと熱が這うのを感じた。
――仕事の話は後だ。
緩く握られた手に力を込める。
10本の指が交差する。きれいに張られていたシーツに皺ができる。見下ろされてなお青年は微笑を浮かべていた。
誘われるように顔を近づける。
と、柔らかく温かい何かが唇の間に滑り込んでくる。青年の、もう片方の手だ。
眉間に皺が寄る。自覚あるそれを、目の前の瞳が映さないはずがない。
目の前の微笑が、微苦笑に変わる。
「それは、ダメだ」
ここまで来て止めるとは。あるいは、これも駆け引きなのだろうか。
だから、駆け引きとして訊いた。
その間、青年は身体の線を辿る手を咎めなかった。
だから、駆け引きなのだろう。
哀れにも、そう思ってしまった。
「――ッ!?」
目が見開かれる。
呼吸が浅くなる。
見る間に褪せていく肌の上には、脂汗が滲む。
がくがく震え始めた身体を退かして、ベッドの上に転がして、見下ろす側になった青年は、人差し指をくちびるに当てた。
「きっと“パパ”が許してくれない」
そうして、くすくす、と小さく肩を揺らした。
その、翳ったうつくしくあいらしい顔を見ながら――ごぼ、ごぼごぼ、と嫌な音を聞く。
口、の中、喉が、腹が、目の奥が、頭が、熱い。痛い。ぐるぐると、熱されたヘドロがかき混ぜられているような。
吐き出そうにも、腹の上に陣取られていて、身体にちからが入らなくて、必死に、かろうじて、口の端からあふれる熱いものを逃がして、にがして、どうして。
どうしてこんなことに。
しごとのはなしを、あの独立傭兵の、ハンドラーの情報を、つかんだから、協力、してほしいと、あのようへいと、そのはんどらーを、ころす、ころせるから、と、さそう、さそわれ、て、さそわれた、から、だから、ここ、ここに、きて、それで、ど、して、こんな、しぬ、なんで、くるし、しぬ、しぬ、し――……。
相手を「ここ」まで青年が誘い込めたのは、それなりの情報を披露したからだ。独自に入手したと言う、独立傭兵スッラの次の仕事やそのハンドラーの所在、動き。それらは確かに「正確な」情報だった。
だが青年が何故それを入手し得たのか、もっと注意を払うべきだった。
これまで多くの人間たちが探ってきて、それでもロクなものを掴めなかった情報。それを何故このまだ若い青年が得ていたのか。得られたのか。
――ガチャリ。扉の開く音。
コツリコツリと近付いてくる足音に、青年はふっと肩の力を抜いた。
「隠れて何をしているかと思えば……」
くつくつ低く笑う声は耳に心地好い。「仕事」が上手くいったことも、青年が嬉しそうに目を細める一端だ。
ゆるりと首を傾ける。
視線の先には、そこには、独立傭兵スッラがいた。
「ウォルター? 報告」
スッラの声に青年――ウォルターが向き直る。
あっさりと「標的」から眼を離して、ベッドから降りて、スッラの前に立つ。
「ひとり。たまにはお前の役に立たないと」
「現場でパイロット諸共始末すれば良かっただろうに」
「そのパイロットがもういないからな」
「先に片付けたのか」
「腕を上げただろう?」
頬を撫でる手にまぶたを閉じるウォルターはくふくふ笑う。サプライズに成功した子供のようだ。
スッラの知らぬ間にスッラの邪魔になる者を“片付ける”。自身の技量を確かめるためにも、今回ウォルターはひとりで動いていた。
最後の最後でバレてしまったが――多少、褒めてはもらえるだろうとウォルターは考えていた。スッラはウォルターにやさしいから。
「……」
けれど何故だろう。スッラはウォルターの手を愛しげに頬へ当てて目を細めていた。
ウォルターはきょとりとする。
その様子に、スッラは終にまぶたを閉じて溜め息を吐いた。
「まったく……それはお前の仕事ではないと言うのに……必要以上に手を汚すな」
「汚れていないぞ」
ほら、と両手のひらをスッラに差し出すウォルターは大真面目な顔をしている。
呆気なく離れていった温もりに、微かに眉をひそめたスッラはウォルターをベッドに座らせた。
そしてシーツの上に転がったままだった、ウォルターの成果を片手間に床へ投げ捨てて、吐息を重ね、じゃれあいながらシーツの上に瑞々しい肢体を横たえる。
湿った吐息で小さく喘ぐウォルターを見下ろして、もう一度呼吸を奪う。
赤く色付いたくちびるが、てらりと幽かな光を照り返した。
先程とは違い、口端を下げた切なげな表情が翳る。瞳に灯る光は濡れていた。
「触れられたか?」
スッラが耳元で問う。そのまま首筋へ降りる唇に、鼻先に、吐息に、ウォルターは「は、」とふるえる息を吐いた。
するすると、長い指と大きな手が線を辿る。
床に転がったそれにされた時とは違い、熱を灯す温もりに、ウォルターはただでさえ不格好になった呼吸を更に上擦らせた。
薄い背中が、少し反った。
「なにも……何も、ない……。だい、じょうぶ、だ、」
かたりと微かにふるえた身体は嘘を吐かない。
そしてスッラはそれを見逃すような男ではなかった。
「……その手はもうお前に触れない。その眼はもうお前を見ない。忘れてしまえ」
「スッラ、ぁ、」
くちびるが重なった。
ちむ、ちゅるり、ちゅぷ、と幼い水音が立つ。
児戯のような舌の触れ合い。しかしウォルターはまぶたを閉じて夢中になった。すがるように、スッラの服に指先を引っかける。
「っぁ……」
舌をほどけば名残惜しそうな声がこぼれた。
スッラはくちびるの端、頬を辿って目元へ口付けを落としていく。ほろほろとあふれる雫は、綺麗で塩辛かった。
「大丈夫。大丈夫だ」
ウォルターに覆い被さり、背中に片腕を滑り込ませて抱擁し、もう片方の手で頭を撫でる。こめかみ同士を擦り合わせて、耳元に寄せた口で何度も口付けと「大丈夫」を繰り返す。
そうしてようやく、ウォルターの気はゆるむのだ。
「ぁ、ぁ……、ぅぅ……、っ、ぉれ、おれっ……!」
「怖かったな。よく頑張った」
「ぁ、あいつ、っ、ゎ、わたし、スッラだけ、なのにっ、あ、あって、すぐ、だったのにっ、」
「けだものだったな。死んで当然だ」
「なっ、なんにも、されてない、っから、ほんと、だから、っ、スッラ、すっら……!」
幼く辿々しい言葉。
裏社会の人間と言えど、成人していると言えど、剥き出しの欲に曝される恐怖はあるだろう。
無理もないことだ。
ウォルターは成人したばかりで、最近ようやく「仕事」に慣れてきた「新米」なのだから。
それなのにスッラの役に立ちたい、足を引っ張りたくないと言う一心でこんな無茶をするとは――「いとしい」とはこういうことかとスッラはひとり頷く。
くちびるが弧を描いた。
濡れたまぶたに口付ければ、ぎこちなく口角が上げられる。
綺麗とは言い難く、艶やかでもないそれは、スッラだけに許されたものだ。
仕事用ではない、裏社会ではすぐに付け入られるだろう、不器用でおさない笑顔。
ウォルターの、素の顔。
「分かっている。分かっているとも、ウォルター」
会ったばかりの頃は微かにも笑わなかった少年が、今は自分に弱さも柔さもすべてさらけ出す優越感と愛おしさ。
スッラはそれを隠すことなく表情に乗せて、ウォルターに囁いた。
「塗り潰してやろうか」
こつりと額同士が触れ合う。
極近いところで、ぬれた視線が絡み合う。
「……ん、」
小さくウォルターが頷く。
まぶたが閉じて、それから、して、と音もなく答えたくちびるに、スッラは噛み付いた。
大人と呼ばれる年齢になって、しかしウォルターは大人と言うには無垢過ぎた。生活環境が、世間一般とは違い過ぎたからだ。
普通と言うには物騒だったけれど、実力社会で実力者に庇護されていた少年は、色恋や性愛など知らぬまま育つこととなった。庇護者たる傭兵もまた生理現象を生理現象として教え、処理して、それだけだった。愛だの恋だの、傭兵もまた身に覚えのないことだった。
ある日スッラは夜の街へ繰り出していた。着いていくと言ったから、成人したばかりのウォルターもいた。
扉を潜ったのは、華やかな女性たちが迎える店だった。
スッラはこの手の店を情報収集の場として利用していた。もちろん、女たちもそれを知っていた。
キャアキャアと愛想を振り撒きながら絡み付いてくる指に腕に汗を飛ばしたのは、ウォルターだけだった。
一歩前を歩いていたスッラの上着の端を掴み、声を上擦らせて名前を呼ぶ。そして「どうした」と足を止めたスッラに、すすす、と身体を寄せた。
その様に「キャア!」と黄色い悲鳴を上げたのは、言うまでもなく周囲の女たちだった。
それから散々かわいいかわいいと揉みくちゃにされたウォルターはようやく店を訪れた目的を知ったのだ。
「それにしたって可愛らしい坊やだこと。スッラもスミに置けないわね」
「ねえ坊や、傭兵業が嫌になったらいらっしゃいな。養ってあげるわ」
店の奥、豪奢な部屋の大きなベッドの上で美しい女たちに囲まれてウォルターは眼を泳がせる。猫足のソファにいる女もチラチラとウォルターの方を見てはクスクス笑みを浮かべている。
こう言った店ではあまり見かけない種類の客だから、皆構いたいのだ。
ソファで女の「話」を聞くスッラは、その様子を――意外なことに――面白くなさそうに見ていた。
女たちは機微と呼ばれるものに詳しく、敏感だった。
例え当人に自覚が無くとも、その感情や根本を嗅ぎ取るのだ。
「あら――アナタにもそういう欲があったのね」
スッラの隣にいた女が言った。
チラリと向けられた視線をクスクス往なして赤く熟れた唇をふわりと開く。
「だってアナタ、仕事の話以外はしないじゃない? まあ、ご馳走はしてくれるけど、それ以上はないし? 一応お客様とご飯食べるのも仕事の内ではあるし、お金を払ってくれるならワタシたちは何も言うことはないけれど」
そんなことを、夜の人間とは思えないきらきらした眼でいたずらっぽく言うものだから、スッラは二度ほど目を瞬かせた。
直後「キャア!」と黄色い歓声がまたベッドの方から聞こえた。
「すっ、スッラ!」
悲鳴のようなウォルターの声に、キャアキャアカワイイと高い声が追い縋る。
ベッドの上には両側から女たちに抱き締められて、腕やら頭やらにやわらかな身体を押し付けられている哀れな青年の姿があった。
完全に遊ばれ――……可愛がられている。
スッラは溜め息を吐いてウォルターを呼んだ。
隣にいる女が、女たちに目配せしたこともあり、ウォルターはようやく人肌の檻から抜け出す。
気を利かせた女のひとりが空けたスペースに、そうとは気付かずウォルターは滑り込む。子供が人見知りするように、あるいは子犬が外界を警戒するように、スッラにぴとりと身を寄せる。
スッラもスッラで片腕ながらウォルターをしっかり抱き寄せ、ついてきた女たちを威嚇している。
女たちはその様子に「あらあらまあまあ」とニコニコする。
「大事なのねぇ」
「大事にされてるのねぇ」
「どこまでしたのかしら?」
「何もしていないのかしら」
「だとしたら何時か誰かにさらわれちゃうわ」
「そうね、こんなに可愛らしいんだもの、きっとさらわれちゃうわ」
「何ならわたしがさらっちゃおうかしら。どう? 坊や。わたしのところに来ればふかふかのベッドで三食昼寝付き仕事無し、毎日いい気持ちにさせてあげるわよ?」
「良いわねぇ。私もさらってくれないかしら」
「やぁよ。貴女は自分でできるでしょ」
冗談と本気が7対3ほどでキャッキャウフフと飛び交う。
渦中のウォルターは「えっと」「いや別に」「ちょっと待って」なんて視線と声が右往左往している。普段ではちょっと、否、間違いなく見られない姿だ。
しかしその時のスッラは、それを愛でる余裕を持ち合わせていなかった。
「こいつを何処へも遣るものか。私のパートナーだぞ」
なんて言い放ったのだ。
そしてそれは女たちの思惑通りでもあった。
斯くして互いへの執着やら信頼やらを晒してしまったはたりは、あれやこれやと言う間に“親密なスキンシップ”のやり方を、プロから懇切丁寧に教えられたのだった。
それぞれマニュアルやら道具一式まで持たされたふたりは、それから、言うまでもない。
一般人とはズレた感覚を持つ傭兵の男と、そんな男への献身を厭わない青年。自覚の無かった相思相愛は、そうして発覚したと言ってもいい。
「ん……、ぅ、ふッ、」
熱に潤んだ瞳が天井を写す。
はふ、とこぼれた吐息は首筋を辿るくちびるにふるりとふるえた。
汗をにじませる身体は上気して各所が赤く色付いている。
くぷ、と身動いだ水音に、嫌々するようにウォルターはまぶたを閉じた。
首筋から鎖骨を通り、胸元、その飾りをチゥと吸ったくちびるは肌に触れたまま弧を描く。ふふ、と笑った吐息を、のろのろ伸ばされた手が咎めた。
「も、へぃき……だから、」
頬に添えられた手が、ぎこちなく輪郭を辿る。
「す、スッラが、足りないなら……、つづけても、だ、だいじょうぶ、だが、」
雨粒に夜景を閉じ込めたような目が、スッラを写していた。
体力や熱がひとよりも高いことは知っている。そういう身体になったのだから。
故にその相手をすることの負荷が大きいことも理解している。
その上でウォルターは。
「……ああ。もうスキンが無いな」
ベッドの上に放られていた箱を覗いてスッラは言った。
ウォルターはそれを何とも言えない表情で聞いて――不意の動きに愛らしい悲鳴を上げた。
「チェスト……にも無いか。さすがにこの程度のホテルに期待してはいかんな」
「ひあッ、ひっ――ぅあ、ぁ、スッラ……!」
繋がったままゴソゴソとベッドの上や周りを探るスッラにウォルターは抗議する。敏感になった内側を、いつもとは違う動きで擦られてビクビクと身体が跳ねた。
「いッ、いい、いいっから……! 無くて、そのままでっ、いい……!」
ぐずぐず上擦った声にスッラは笑みを深める。
結局、ふたりともまだ若いのだ。
それからまた数刻経って、スッラが満足する頃には、ウォルターはベッドの上で意識失っていた。
うつ伏せで、必然的に晒された背中には赤い歯形や鬱血痕が星図のように広がっている。それはきっと腹側も同じだ。
閉じられたまぶたのふちも赤く、幾筋かの涙痕はまだ乾いていなかった。
果実めいた身体を揺すっていたスッラは、さいごに身体をぶるりとふるわせて息を吐いた。言葉を失ってなお雄弁な肢体がいとおしい。
ずるりと、ようやく落ち着きを取り戻した半身を引き抜いて、鞘を請け負っていた場所から自身の欲のこぼれる様を見る。
まあ合意の上だしな。
浮かぶのは充足感と征服感、満たされた独占欲だ。きっとウォルターも嫌がりはしない。
しかしこうなると片付けが要ることは、件のマニュアルから学習済みだ。もちろん、ウォルターを抱くために覚えた。
さっさと済ませてしまおうとスッラはウォルターを抱えてベッドから降りる。
脱力した身体はやわらかくて温かくて、そして相応の重さがあった。すべてが愛しいものである。
ちゃぷちゃぷと湯の中で揺蕩う最中にウォルターは意識を取り戻した。
バスタオルにくるまりながらスッラに「満足できたか」と問い、肯定されると嬉しそうにはにかんだ。
それから別々にホテルを出たのは、一応、程度でしかない。
支払いはまだ部屋に転がっている男の端末でしたし、財布から抜いた現金をテーブルに置いておいた。こんな場所に建つホテルだ。このくらい、よくあることだろう。
ホテルから少し離れた路地で合流したふたりは、今度こそ揃って帰路に着く。
スッラの顔を見た途端、ふにゃりと身体を傾けたウォルターは、腰やら脚やらを庇いながら気丈に歩いていた。それを受け止めたときの歓びと、傍についていてやれなかった口惜しさは、未だ慣れそうにない。
「だからな、しばらくは静かになると思うんだ」
拠点へ向かうヘリの中でウォルターが事も無げに言う。
「“私”を探れば死ぬ。パイロットだろうとオペレータだろうと、関係なく。……もう少し牽制した方がいいか?」
そこに躊躇いが混ざり込んだのはウォルターの性質だ。
本質がとてもやさしいこの青年は、どちらかと言えばこの世界に向いていない。
しかし、だからこそこの世界で稀有な人材足り得るのが世の理不尽を垣間見る。
「そう急ぐこともあるまい。反応を見ながらだな」
行き先や進路を設定し終えたスッラは操縦席から離れてウォルターを振り返る。
機材に肘をついてスッラを見ていたウォルターの手元にはマグカップがふたつあった。そのうちのひとつが、スッラに手渡される。
「わかった」
「する時は一声かけろ」
「……わかった」
クク、と喉を鳴らしてマグを傾ける。何の変哲もないインスタントだが、悪くない。
「ところで、収穫は。まさか金だけではあるまい」
スッラこそウォルターに目敏くあるよう言った張本人だ。
金以外にも回収したのだろう? と愉しげに訊いてくる眼に、ウォルターは「ふふん」と得意気な表情を浮かべた。
「あいつらのライセンス。まだ失効していないから、使える」
「あいつら? パイロットのものだけではないのか」
「ふふ。オペレータの方が企業IDを持っていた」
「ほう――それはそれは」
「ガレージにもアクセスできたから後で見に行こう。所持パーツのリストはこれだ。企業IDで見れるページはこれで……」
たぷたぷ端末を操作して画面を色々見せてくるウォルターは饒舌だ。
しかしいつもより近く感じる距離は無意識だろうか。
何にせよ、スッラはウォルターが堪らなく愛おしかった。
懐かれること、慕われること、好かれること。きっとウォルター“だから”心地良いのだ。
ウォルターには自由に生きて欲しいと思っている。だから、そのためにスッラは自由に生きるのだ。スッラが自由であればウォルターにもそれを分けてやれる。
「要らないパーツは売り払って、新しく機体を買おう。最新式一式は無理だろうが、予備にしたり、ひとを増やしたときに使うのも良いな」
「私だけでは不満か?」
「そんなことはない。選択肢の話だ」
肩を寄せあいクスクス笑う。
重ねられた機材だか物資だかの段に腰かけて、スッラは膝の上にウォルターを引き寄せる。乗り上げた身体は軽かった。
暗い空の端は白んでいた。地平線を照らす光に、一機のヘリが溶けていく。
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