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【R18】翼織る掌に寄す愛縁の

ニキの背中とウォルの手、みたいな話が書きたかった話。ふわっとした感じ。wp勝利√スラウォル。

ニキの背中とウォルの手、みたいな話が書きたかった話。

例のごとく捏造と妄想盛り盛り。特に強化手術周り。

ふわーっとした感じで読んでいただければ……。

年齢指定は添えるだけです……。濁点喘ぎ有り。

wp勝利√。非合意注意。


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 ウォルターが目を覚ましたのは、見知らぬ部屋だった。どこからか、ザァザァとシャワーと思しき水音が聞こえてくる。

 身体を起こす。衣類は全て取り去られていた。思わずシーツを手繰る。空調が効いているのか、寒いとは思わなかったけれど、外気に晒された素肌が心許なかった。

 ――そうだ。自分は。

 シーツを握り締めながら、気を失う前のことを思い出す。ウォルターは、ウォッチポイント・デルタを621(猟犬)と共に襲撃して、そして。

 「気が付いたようだな、ハンドラー・ウォルター」

 そして、そうだ。この男と“再会してしまった”のだ。

 声がした。

 水音はいつの間にか消えていた。

 ウォルターの喉がひゅ、と引きつった。聞き覚えのあるその声は、紛れもない、数刻前に通信越しに聞いていたものと、同じ声だ。

 「スッラ、」

 ウォルターは男の名前を呼んだ。声が、少し掠れて揺れた。

 男――スッラは嬉しそうに笑った。

 ぎし、と態とらしくベッドを軋ませて、スッラがシーツの上に乗り上げる。端を押さえられたシーツを早々に手放して、ウォルターの身体は逃げを打つ。

 「やんちゃが過ぎたな、ハンドラー・ウォルター。だが、もう終わりだ」

 「だ、まれ……!」

 「猟犬を失い拠点を失い、今自分が何処にいるかすら分からないお前に、何かできることがあるとでも?」

 拠点を失い。

 スッラの言葉に嫌な記憶が蘇る。赤い記憶だ。

 モニターに映るLOADER 4の残骸と赫炎、黒煙。途切れる映像と信号。不明なアクセス。音、信号、電波――あらゆる足跡を消し、身を潜めるために降り立った瓦礫の影。暫時の静寂。予定の組み直し。思案。猟犬(621)への悔恨。そして――ガレージ部分の扉を、殴り付けるような音。

 思考に気を取られ、反応が遅れた。モニターに映るガレージ内。そこに我が物顔で停まる、LOADER 4ではない、二脚のAC機体。コアパーツから降り立ったそのパイロットは、迷うことなく監視カメラを見上げて、確かに笑った。

 それからは数十分程度のことだったように思う。

 やはり勝手知ったる様子でヘリ内を進み、呆気なく最後の砦となっていた扉を開く。大した消耗の見られないスッラの姿に、ウォルターは小さく呼吸を引きつらせた。それでも、懐から銃を抜いた。護身用として持っていたものだ。

 威嚇や牽制はなかった。そんなことをすれば勝機が無くなると分かっていたからだ。ウォルターは引き金を引いた。銃声。ふっと目の前の身体が傾ぐ。だが当たったわけではないと、微かにも姿を見せない赤に歯噛みする。狙いを、再び定めようとする。が、蛇の蛇行するように、するすると低い位置を奔る身体は端すら留まる刻が無い。愉しげな蛇の目が、ウォルターを見上げていた。

 暗転。

 「……お、れを、どう、する、つもりだ」

 距離を詰めてくるスッラから離れようとしつつ、ウォルターは訊いた。声がふるえたのは、たぶん、恐怖によってだった。

 「言ったはずだが。お前には消えてもらう、と」

 言葉と共に伸ばされた手が首元に触れて、ウォルターは身を竦める。殺される、と思った。

 けれど予想に反して、その手は頸部を締め上げるなんてことはしなかった。

 するりと下顎の線を辿り、頬に触れる。目元をなぞる親指の動きもゆっくりとしたもので、眼窩に突き入ってくるような気配も無い。随分と、生ぬるい触れ方だ。

 スッラの意図がわからなくて、ウォルターは戸惑うことしかできない。

 ――否、待て。こうして油断させて、少しでも隙を見せたところに刃を刺し込むのかも知れない。相手は“殺し”のプロだ。

 逃げ道が無くなる。

 背中にヘッドボードが当たった。脚を跨がれ、いよいよ自由が失われる。そして、頬に触れる手が増えた。すくわれて、上を向かされる。見上げた先には、機嫌の良さそうな顔があった。

 「私に、お前を、ハンドラー・ウォルターを殺すチャンスがどれだけあったと思う?」

 くすくす、とスッラが笑った。子供に勉強を教えるような声音だ。ウォルターは微かに目を丸くした。

 確かに、そうだ。この男には、自分を殺すチャンスがあった。それなのに自分はまだ生きている。

 にわかに信じられなくて、ウォルターは眉をひそめて見せる。

 「……貴様のことだ、最期の言葉なり悲鳴なりを聞こうとでも思ったのではないか?」

 「ならばわざわざ場所を変えたりはしないな。どこで聞こうが同じだからな、そう言うモノは」

 「……後処理の、しやすいように、」

 「処理か。AC用の武装で吹き飛ばせば骨片ひとつ残らんだろうよ」

 見解を悉く退けられてウォルターの眼が泳ぐ。これではまるで、スッラが自分をわざわざ生かした――生かしているようではないか。

 「認めろ、ハンドラー・ウォルター。私はお前を“生かしている”」

 「何故っ……!」

 薄ら笑いながら言ったスッラに、ウォルターは叫びかけた。

 何故。何故自分(ウォルター)“は”生かした。猟犬たちは悉く殺したくせに、何故そのハンドラーは生かす。何故だ。

 “どこまでも”ひとり遺される悔恨と寂寥に、怒りの混じった眼がスッラを睨む。

 それを受け止めて、スッラは吐息だけで笑った。

 「何故? 異なことを言う。生かしたいから生かす。それだけの話だろう」

 「――そんな、嘘を吐くな。そんなはず、ないだろう。貴様が、俺を生かす理由など無い。俺は、貴様にそんなことをされる覚えは無い」

 「そうかも知れんな。人の記憶など往々にして都合の良いように書き換えられているものだ」

 薄れて消えていくことも、また然り。

 だが身体の各機能を引き上げられた強化人間は、その記憶野もまた強化され、デバイスが情報を保存と記録するように、過去の出来事をその頭部に鮮明に子細に記憶していた。

 スッラは過去と現在を見ながら目を細める。ウォルターはずっと変わっていない。良くも、悪くも。

 顔を寄せた。くちびるが重なる。

 「――!」

 ウォルターが目を見開く。両腕が、スッラの身体を押し退けようとした。

 だがびくともしない。その間にもくちびるは食まれ、歯列は割り開かれ、口付けは深くなっていく。拳を作って振りかぶっても呆気なく受け止められてしまった。

 「っ……!」

 ならばとウォルターは挿し込まれた舌に歯を立てた。じわりと鉄さび――ではなく、甘味が舌に乗る。

 思考が一瞬止まった。

 その隙に、甘味のある唾液が注がれて、反射的に飲み下してしまう。直後、ふわふわと意識が覚束なくなる感覚に襲われる。ふわ、ふわ、と、何だか、気分が良くなる。のを、辛うじて理性を繋ぎ止めてかたちを保とうとする。

 顎に腕に身体に、力など入るわけがなかった。

 「ん、ぅ……、ふ、ッ!」

 コーラル技術を用いられている旧世代型強化人間は、体液中のコーラル濃度が高い。失念していた――わけではないが、結果は同じだ。スッラ(第一世代)の血液と唾液を摂取して、ウォルターは“酔った”。

 「っぐ、ぅ……、ク、ソ……、」

 「お前はいつも自分で自分の首を絞めているな」

 覇気の無い表情で吐かれた悪態は、鼻で笑われた。

 スッラは弛緩したウォルターの身体をベッドに横たえる。ウォルターの「逃げ」が、全て無に帰した瞬間だった。

 腰の下に枕を入れられ、秘部が晒される。まさか、やめろ、と上擦った声がスッラを止めようとする。それで目の前の男を止められるとは、ウォルター自身、微塵も思っていなかったけれど。

 どろどろと垂らされるローションの冷たさにウォルターの肌は粟立った。息を呑む。スッラの指がローションに塗れた肌の上で遊び、くちゅくちゅと音を立てる。

 そして――ちゅぷ、と指先が隘路に潜り込む音がした。

 「ッぅ……!」

 元来“排泄”器官である場所に“挿入”され、ウォルターの顔が痛みと違和感に歪む。頬の赤みは羞恥と怒りだろうか。

 くち、にゅぷ、と指の一本が出し入れされる。孔を解して、縁を柔く拡げるような動きだ。

 「ふ、ッ、ぅ……、ぅぅ……!」

 指が出ていく度、排泄感にも似た感覚がジワジワと腹の内を轢く。指が押し入る度、「出す」はずの場所に何かが入ってくる違和感が腹を擽る。

 だが何よりも、意志に反して割かしすんなりとスッラの指を受け入れた自身の身体に、ウォルターは困惑していた。

 「何故自分の身体がこうもすんなりと私の指を咥え込むのか、不思議か?」

 ウォルターの困惑を見透かすように、小さな笑い声が落ちてきた。

 「簡単な話だ。“お前はよく寝ていた”。……これだけ言えば、頭の良いお前には十分だろう?」

 「……! 貴様ッ! 下衆が……!」

 「はは! 何を恥ずかしがる。大して腹に物を入れていなかったくせに。……あまり暴れるな。中が傷付くだろう」

 せめてもの抵抗にとバタついた脚を容易く押さえ込んで、スッラは子供を窘めるように言う。今度こそ、ウォルターの顔が羞恥と怒りに歪んだ。

 抵抗は許されなかった。純然たる力の差や、身体能力の差があった。腕と脚、それぞれのひとつが作り物であったとして、それはアドバンテージにはならない。外せばより抵抗を減らせるだろうに、四肢を取り上げぬそのまま平然と優位を保ち続けるスッラの姿は、ウォルターの意識を確実に蝕んだ。

 「う、うぅ……ッ、ひ、ァ、ぐぅッ……!」

 その間にもウォルターの腹の中をいじくる指は増やされた。二本目が挿れられ、腹の内側をあちらこちらとまさぐった。三本目の挿入った時には、既に触れれば反応する箇所を憶えられていて、そこをよくよくなぶられた。その度にウォルターは咽びながらその感覚を厭がった。白濁が、不本意に数度吐き出されていた。

 そうして、今。

 すっかり柔く解された孔から指が抜かれ、ウォルターの声と姿に起ち上がった熱が、孔の縁に乗せられていた。

 ずり、と擦り付けられるスッラの熱に、ウォルターの喉がヒュウと鳴る。いくら指が三本挿れられたとは言え、太さも熱さも違うこんなものが、挿入るわけがない。ほとんど無意識に、首が横に振れていた。

 見下ろす目に怯えの色が見えてスッラは笑った。子供――否、処女のようで可愛らしい。ウォルターが実際“初めて”なのかどうか知らないけれど、おそらく他の人間が同じことをしても、これほど愛らしくは見えないだろう。

 スッラは欲望の切っ先を孔に食ませる。くぷ、と空気の潰れる音がした。

 「ヒュッ――、か、はッ、ァ……!」

 ウォルターの目が見開かれる。体重がかけられ、熱を沈められる。ずぶずぶと腹が拓かれて、侵される。のし掛かってくる身体を、少しでも押し返そうと伸ばした両腕はかたかたとふるえていた。

 「ぁ゙う、ァ、ぐ、ァ――……ッ!」

 「は――、」

 結局、伸ばした両腕は何の役にも立たなかった。押し返そうとしたスッラの身体は、ウォルターの身体に覆い被さって影を落としている。胸の上に置くだけとなった手のひらに、とくとくと相手のいのちが聞こえてくる。

 触れ合う肌が温かくて、拡げられた孔が苦しくて、挿し入れられた欲が熱くて、ウォルターは天井を仰いで必死に呼吸を整えようとする。は、は、と開いたくちびるから、舌先がこぼれていた。

 ぎしりとベッドが軋む。スッラが身を乗り出した。

 「ん、ァ――、ぁ、ふ……んむ、ゃ、ン、ぁ、ぇぅ、」

 くちびるが重ねられ、舌を食まれる。粘膜同士が触れ合って、擦れ合って、児戯のような攻防を少し。呆気なくスッラの舌に捕まったウォルターの舌は、甘噛みされたり吸われたりしてぴりぴりした快感を脳髄に走らせた。

 それでもウォルターの指先が、手を添えるだけだった胸元に、爪を立てた。口付けに、閉じられていた目蓋が薄く開かれて、潤んだ瞳が気丈にスッラを睨む。かち合った視線と細やかな抵抗が愛らしくて、スッラはウォルターの舌をキツく吸い上げた。いやらしい水音が響いた。直後、あふれる唾液を、ぴくぴく跳ねる舌の収まったウォルターの口内へ注ぎ、嚥下させる。せっかく開いた目蓋はもう閉じられていて、目尻から涙がひとしずく、こぼれ落ちていた。

 ちゅ、と音だけはかわいらしくリップ音を立てて、スッラは口付けをやめる。くちびると、顔を離すと同時に、ウォルターが目蓋を開く。

 「ぅ……、ッ……! 辱しめ、に、しては、手間、が……、かかっているな……っ、」

 「辱しめではないから手間をかけているんだ」

 スッラが小さく腰を揺らす。くぷ、くち、と胎が鳴った。ウォルターは小さく悲鳴を上げる。先程よりも、胎が熱に慣れてしまっていることを、認めたくはなかった。

 「ただ|マウント行為《辱しめ》がしたいなら、柔く解す必要も挿れてから慣らす必要も、ましてや生かしておく必要も無い。そうだろう?」

 「ッあ! ぁア、ぅ……、ぐぅッ……!」

 だからこれは、体温を分け合う行為なのだ。言外にスッラは言う。ウォルターからすれば、目が覚めてから今まで、理解のできない言動に晒されてばかりで、内心困惑し続けるしかない。いっそ「目障りだ」とでも言って殺された方が納得できる。商売敵、である以前に、スッラはウォルターを恨んで憎んでも良いはずなのだから。

 「ハンドラー・ウォルター。否。“ウォルター”。受け入れろ、“お前の”人生を」

 それなのに、スッラはウォルターを呼ぶ。傭兵の数多犇めく裏社会で、おそらくスッラ以外は誰も知らない「ウォルター」を呼ぶ。呆れたような、けれど穏やかな声で、呼ぶのだ。

 「ひあ゙ッ゙――!」

 微かな郷愁に、身体が警戒を解いた、その刹那。じゅ――と胎の中の熱が動き出した。

 「あ゙、ぐ……っ、ぐぅ、ぅ゙、あ゙、あ゙あ゙……ッ!」

 じゅぷ、ごじゅ、じゅぼ、と熱を持った楔が腹の内側を擦る。指の時にも触れられ、堪らない快感で髄を鞭打ったしこりが轢き潰される。スッラが腰を動かす度、ウォルターの口から堪えようとして叶わなかった嬌声(ひめい)が漏れる。

 「ぅぐ、っ゙、ィ゙、ア゙ッ゙、も、ゃ、やめ、ぉ゙、」

 ぼろぼろと涙があふれる。生理的なものだ。揺さぶられて儘ならない呼吸と滲んで沈む視界に意識が溺れそうになる。それに気付いたのか、目の前の男は目元にくちびるを寄せて涙を吸い、それから喘ぐくちびるにくちびるを重ねて呼吸を合わせた。

 「ぁ――ぷ、っぁ、ふ、っ、んむ……!」

 何もかもが甘くて優しい。体温も、触れ方も、何もかもだ。

 「もうやめろ? まだ始まったばかりだろう」

 「ふぁ、ぁ、ぅ、ゃ゙――!」

 口付けをほどいた、極近い距離でスッラが笑う。それもまた甘い声と表情で、ウォルターの身体は持ち主の意思を無視してきゅうきゅうと悦んでしまう。我が物顔で胎を侵している熱も――ふわふわと酔っているから、そう感じてしまうのだろうけれど――ウォルターを悦ばせる動きを主としている気がした。

 とちゅ、ぢゅぷ、とスッラの熱の切っ先が内壁を小突く。それが苦しくて気持ち良くて、ウォルターはぎゅうと目蓋を閉じてかぶりを振る。とうの昔に重力に負けていたウォルターの両腕はシーツの上、指先を白く染めてくしゃりと深い白波を作っていた。

 「ああ゙ぅ゙!゙ ぐッ……!」

 しこりを轢き潰され肉の壁をつつかれ、強張る身体の先、爪先が丸まって指先が白む。

 その手を、スッラはゆるりと取って、自分の背中に触れさせた。

 「好きなだけ縋れ。楽にしろ」

 「ひ、ぅ……っ、ゃ、ぁッ……、な、ぜ……!」

 耳元を熱い吐息がくすぐって、鼓膜を甘い声が揺らして、ウォルターは腰の奥がぞくぞくとしたのを感じた。見た目よりもしっかりと厚みのある背中に置かれた手は、その温かさ故だろうか、どうにも離れ難かった。それでも爪だけは立てずに、ウォルターは理性を握りしめる。

 「お前を抱いているのが私だからだ」

 「っは、あ゙、あ゙ぁ゙ッ!」

 ずちゅん、と熱が突き入れられ、ウォルターの喉が反って顎先が天井を仰ぐ。

 「お前だけだ、ウォルター。私が、この身に傷を“許す”のは」

 スッラが楽しそうに言う。ウォルターの指に触れる肌には目立たない凹凸やケロイドが点在していた。ふと泳いだ視線の先、自分に覆い被さる身体の腹側にも、いくつか古傷のあるのが見えた。歳と、活動期間にしてはかなり少ない方だろう。パッと見ただけでも、致命傷になりうる部位には痕が無い。

 ――強い、のだ。この男は。それほどまでに。

 天性のセンスとか、そういうものだ。実力や運や、全てをひっくるめた、「生きる」と言う天賦の才。

 改めて「誰」が自分を組敷いているのか認識したウォルターは、何故だか無性に泣きたくなった。

 そして、不意に指先が人の肌ではない質感に触れて、呼吸を引きつらせた。

 「……ッ!」

 硬く、ほのかに冷たいそれが何なのか、ウォルターは知っていた。

 たしかめるように、ふるえる指先がそれを辿る。頸の後ろから肩甲骨の少し下辺りまでを、背骨を覆うように伸びた武骨な無機物。周囲の肌は、少しだけひきつれている。

 旧い、強化手術の痕だ。

 スッラの背の上で、ウォルターの手が停まる。

 ばちゅん、と肉同士のぶつかり合う音がしたのは、直後だった。

 突然奥まで――今まですべて収まっていたわけではなかったのか!?――楔が打ち込まれて、かは、と肺から空気が押し出される。両の目が見開かれて、薄くなった目尻から、熱い雫がこぼれていく。

 「か、は、ァッ――、こひゅッ、っ、ひ、ぉ゙――!?」

 「“それ”は傷には入らん。私に自傷の趣味は無いのでな」

 「あ゙ゔッ゙、ぁ゙、がッ――、ぅ゙あ゙、ァあ゙!゙ ア゙、ア゙ア゙ッ゙!゙」

 ばぢゅ! ごちゅ! じゅぶ!

 はらの奥を、熱く重たい剛直で殴り付けられて、閉じることを忘れた口から突き出た舌の根が乾いていく。目も、乾いて、熱くなっていく。きっと、だらしのない、みっともない顔をしている。

 「ふア゙! ン゙、ぉ゙ッ――、ひギ、ィ゙、ッァ゙、ア゙ア゙!゙ ん、ぅ゙、っ゙あ゙あ゙あ゙!゙!゙」

 こらえ、ようとして、も、抉じ開けられる。

 背中を反るのが、きっと良くないのだ。

 「はう、ぅ゙……、ふ、ゔぅ゙……っ、ぁ゙、ひぐっ、ぐッ……、あ゙、ぁ゙ン゙ッ゙!゙ あ゙、あ゙ッー!」

 ならばと背中を丸めても、大して違いは無い。

 むしろ相手の肌や呼吸や匂いが近くなって、余計にからだの奥の疼くような。

 「っは……、好さそうで何よりだ、ウォルター」

 「ぁ゙え゙、ぇ゙、ァ゙、……ッひ、ゃ゙、っ、す、スッラ、ぁ゙、も、もぅ……! なん゙ぇ゙ッ、こン゙ッ゙……! かはッ、ぁ゙、や゙ぇ゙ぇ゙……!」

 「何故? 知らないのか? ウォルター。セックスとは愛するもの同士が行うことだ」

 「あ゙、い゙――ッ゙!゙?゙」

 今度こそスッラは直接口にした。

 「ハンドラー・ウォルター。否。ウォルター。愛している。お前がお前の人生を棄てながら生きても、“あの頃”から、私はお前をあいしている」

 ひゅ、とウォルターの喉が鳴る。

 耳から胎から、熱を帯びた蛇の毒が流し込まれる。

 だから、身体が言うことを利かなくなったのは、毒に冒されたからに違いなかった。

 「――~~~~~ッ!!」

 カツ、と指先に手術痕が触れて、ウォルターは咄嗟に両手をシーツに叩き付けた。触れたところのシーツを必死に握り締めて、横殴りに吹き荒ぶ快楽に耐えようとする。

 ああ嘘だ、こんな。また、陰茎に触れられてもいないのに。こんなに好いわけが――ある、としたら、コーラルのせい、だろうか。そう、であって、欲しい。

 「……」

 自分、ではなく、シーツにすがってガクガクと身体をふるわせる姿に、スッラは不満げに目を細める。「あいしている」の言葉で達したのは至極可愛らしいけれど、すがってくれないのは、少し、いただけない。

 「ひあァッ! っな、ぁ゙!゙ ゃ゙ッ゙!゙ まっ、いま、まあ゙、あ゙ッ゙~~~!」

 シーツを握り締める手に手を重ね、押さえ付けながら腰を動かす。ああ、はらが締まって、心地好い。

 「っふ、」

 「っぁ、ん! ふぁ、ん、む……、ぷぁ、っん、ぅぅ……!」

 くちびるを重ねる。

 逃げる気力も無い舌を捕まえて好きに味わう。とろとろ流し込む唾液を、溺れないよう喉を鳴らして飲み下す様は雛鳥のようで健気で愛らしい。

 胎を擦られ突かれる、だけでなく、舌をなぶられるのも、ウォルターの身体は悦んでいた。

 「んぅ゙!゙ ん゙ん゙!゙ ン゙!゙ ん゙ーッ゙!゙!゙」

 「――、は、」

 再びウォルターの身体が強張る。胎が縮こまって、熱を扱き上げて、雄を悦ばせる。

 ぐじゅん! と腰を打ち付けて、スッラはウォルターの中に欲望を吐き出した。もう少し、慣らしてやれば最奥を貫いてやれるだろうか。

 ひくひくふるえる胎の中、きゅうきゅう締め付けられるのが気持ち良くて、愛らしい。より奥へ、より多く、自分を抱いた雄の跡を飲み干そうとするような動きに応えるように、執着を胎の底へ擦り付け塗り込もうとする。

 ――ああ。実に、生物(いのち)らしい。

 うっそりとスッラは目を細めた。

 「は、はひゅッ――、ひ、ぐ……ッ、はふ、ァ……、っ!」

 ウォルターが肩で息をする。その最中、真っ赤に染まった顔がくしゃりと歪んだ。こちらもまた赤く濡れた唇が、しゃくり上げる。

 「あいッ……、あい、など……ッ、こんな、……っ、ちがう……!」

 どちらかと言えば、自分に言い聞かせているように思えた。

 スッラはククと喉で笑って、触れるだけの口付けをする。それから頬に口付けて、耳元へくちびるを寄せながら頬と頬を擦り合わせる。

 「愛でないのならば何なんだ? お前を大切にしたいと思う私の思考と行動は」

 相手を大切に思う。故に危険から遠ざけようとするし、危険を排除しようとする。セックスも身体の負担の少ないようにする。睦言を囁く。傷付けることを許す。確かに愛なのだろう。けれどあまりに暴力的だ。

 自分以外のすべてが蔑ろにされるスッラの「愛」を、ウォルターは受け入れがたかった。

 「ちがう……こんな、ちがう、おれ、は、」

 せめて意思だけは捕まるまいとするも、頭はふわふわと酔いの気配を色濃くする。ぼんやりと、珊瑚色の霧がかかる。

 シーツにすがっていた指がほどかれる。代わりに、男の武骨な長い指が絡みつく。ウォルターの視線が指を辿り腕を上る。そこには傷とはまた趣の異なる痕があった。等間隔、等倍、ともすれば褪せた刺青にも見えるそれは――それも、“手術”の痕だ。ウォルターの唇が、はく、と湿った息を吐いた。

 スッラはウォルターをいとしげに見下ろす。手術痕を自分の罪のように悼むウォルターが愚かで愛らしい。少なくとも自分は「これ」を厭ってなどいないのに! きっとこの少年は知らないのだろう。第一世代の強化手術が行われていた当時、第一世代強化人間はある種のステータスであったことを。独立傭兵と言うのは、少年が思うよりもだいぶ“享楽的”な生き物だ。

 「すっら、っ、……スッラ、もう、……、なぜ、ど、して……、どう、すれば、きさま、は、まんぞく、する、」

 濡れた、迷子のような目がスッラを見上げる。未だにスッラが自分を手放す可能性があると思っているらしい。頭は良いのにあたまのわるい少年に、くふくふと笑みがこぼれてしまう。

 「さて。どうすれば良いのだろうな。ひとまずお前を満たすことから試してみるか」

 尽きぬ我が愛を受けるがいい。

 スッラの言葉に、一瞬ウォルターの目に怯えの色がはしった。けれどすぐに小さく顎を引く。言外の声が聞こえていないのだ。いつまで保つことやら。

 「“ハンドラー・ウォルターは私が殺す”。だから、“ウォルター”。“ハンドラー・ウォルター”の時間はもう終わりだ」

 「――ッ! ざれごとを……!」

 相互理解。歩み寄り。ふたりに無いものは、またそれも「愛」と呼ばれるものだった。愛するが故に愛の足りぬ者と、愛を知る故に愛と理解できぬ者。どちらも歪で不器用で、傷付け合うもやむ無しのふたりだった。

 「っア゙――!」

 誰も知らない世界の片隅で、再び愛の育まれる音がし始める。愛と呼ぶには随分と熱量に差があるけれど、溺れるまでの話だろう。堕ちればきっと、もっと溶けて混じりあえる。

 そうすればすぐに世界から離れられる。ひとりふたり、役者が世界と言う舞台から消えようと、変わらず幕は上がるものなのだから。

 舞台を降りたその後は、ふたりでずっとそのまま。


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