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【R18】これからの日々にも君の愛

Andante(歩くような速さで)
ジュンブラ(女装)初夜(※初夜ではない)ネタ。一個前の話(過ぎ去りし日々にも~)参照。女装・濁点喘ぎ有(※女装要素薄)。
英スラウォル(のつもり)。イチャイチャ甘々デレデレ。

エロを取るか雰囲気を取るか迷って迷走して結局雰囲気を取ったけどふいんきになったわね……


ジュンブラ(女装)初夜(※初夜ではない)ネタ。一個前の話(過ぎ去りし日々にも~)参照。

女装・濁点喘ぎがあります。でも女装要素薄いです。

英スラウォル(のつもり)。イチャイチャ甘々デレデレ。


ちまちま進めたせいかリリカルちっくになった気がするピエン

おやつとかおつまみとかくらいにはなってくれるとウレシイ…ウレシイ…


諸々気を付けてね


---


 翌日。

 そのままスッラの隠れ家に泊まったふたりは、同じベッドの上で目を覚ました。それぞれ上着を脱いだだけの格好。それでも疲労感も何もない朝は、昨夜ふたりが何もせず、ただ身を寄せあって眠りについたことを示している。珍しく――ほんとうに珍しく、ほとんど同時にまぶたを開けたふたりは、寝起きの顔を見合わせて、ふ、と小さく息を吐いた。

 どちらからともなく寝床を抜け出し、顔を洗って身だしなみを整える。パントリーはすっからかんで、棚の片隅に転がっていた乾パンとインスタントコーヒーを分けあって朝食にした。

 それから隠れ家を出て、街区へ赴いた。足は古びた四駆だった。打ち捨てられていたのを「使うこともあるだろうか」と直していたらしい。けれどいざ走らせてみると接触の悪さと獣の悲鳴のようなエンジン音に「新車を買うか」「新車を買え」とふたりの意見は一致した。

 街区に着くと、そこから大型複合商業施設へ向かった。家屋の並び始めた居住区から少し離れているのは万が一の時のためだろう。かつての賑やかな市場も小売店群も、ルビコンに戻るのはもう少しかかりそうだ。

 庶民よりも軍人向けの物品が多く見える商業施設は、やはりまだ「家族が休日に訪れる場所」ではないらしい。一般人よりも制服やパイロットスーツを着た人影の方がよくすれ違う。人数自体も疎らに見える店内を進み、ふたりは数日分の食料と日用品をカートへ放りんでいった。

 スッラは運の良い人間だ。ウォルターに予定を訊けば、ここ最近の不運が嘘のように「今日は夜まで予定がある。が、明日から明々後日までは休みだ」との返事が返ってきた。(そう答えたときのウォルターの表情や、仕草や、その愛らしさときたら!)

 だからスッラはそのままウォルターを「本部」まで送っていってやった。別れ際、頬に口付けて「終わったら連絡しろ」と告げる。ウォルターは少しの逡巡を見せた。けれど聡い少年は「付き合うとはそういうものなのだろう」と結論を出したのか、結局こくりと頷いた。手探りながらスッラに応えようとする健気な姿はやはり愛らしくて愛おしくて、スッラは、今度はくちびるに触れるだけのキスをした。そしてちょうどその時――ギャワンギャワンと犬たちの吠える声が聞こえたから、スッラとウォルターはそれぞれの仕事へ向かったのだ。

 隠れ家に買った荷物を置いてから今日の仕事場へ。目覚めから幸福にまみれている今日という日に、仕事をしくじるなんてこと、あり得るわけがない。

 仕事は恙無く終わった。そも、ウォルターから以外の仕事など総じて大したものではない。スッラは隠れ家に戻り、ウォルターからの連絡を待ちながら荷解きをする。仕事前に適当に置いて、そのままだったのだ。

 僅かな生鮮食品と、日持ちのする加工食品。生鮮食品は、今回使い切る分だけ――以前に、大きさや量に対して割高だったから「そこまで欲しいわけでは……」とふたりは購入を控えめにしたのだ。ルビコン内でも第一次産業が広まれば、もっと気軽に手が出せるようになるだろう。今はまだ、星外から輸入される小ぶりなものばかりが並んでいる。

 日用品も量は然程ない。

 結局、ここは数ある隠れ家のひとつに過ぎない。けれどもう「戻るだけ」の場所ではない。一人で夜を過ごすだけの場所ではないのだ!

 スッラは軽やかな足取りと手付きで二人分の荷物を片付けていった。


 そして――ようやくウォルターから連絡が来た。日付が変わることも予想していたスッラは想像よりもずっと早い終業の知らせにすっ飛んでいった。

 朝に別れた「本部」の前で、ウォルターは杖を持っていない方の手に旅行鞄を提げて立っていた。見るからに「お泊まり」をしに行く姿だ。

 「……準備をしていて、少し連絡が遅くなった」

 スッラの姿を見とめ、そしてその機嫌の良さそうな男が目の前に来ると、ウォルターは眼を逸らしてもごもごと呟いた。

 「気にするな。ちゃんと連絡できて偉いぞ」

 「子供扱いするな」

 ニコニコするスッラにウォルターはムッとする。

 それがまた可愛らしくて――どうしよう、ずっと可愛いと思っていたけれど、やっぱり可愛い。可愛さの底がない。もはや恐ろしいほどだ。可愛らしくて愛しくて、狂ってしまいそうだ!

 なんて混沌とした思考を表に出さないよう押し込めて、スッラは余裕綽々とした様子でウォルターから鞄を預かりエスコートする。その指先が綺麗に整えられていたことに、ウォルターは気付いただろうか。

 夕食はスッラの手製だった。ウォルターからの連絡を待つ間、時間があるのだからと仕込んでおいたのだ。その時のスッラの様子は、例えるならプレゼントを待つ子供のようなものが近かった。

 これもまた今朝方買った器に料理を盛り付けて、アルコールの栓も抜いてグラスに注いでしまう。「食えれば良い」と食事を簡単に済ませていたスッラと、「時間が惜しい」と食事を栄養ゼリーやサプリメントで済ませていたウォルターには豪勢と言える食事だ。あたたかな、満たされるような時間だった。

 そしてリビング――あのトルソーはどこかへ移されたらしく、見えなくなっていてウォルターはホッとした――のソファに座って、それぞれタブレットや端末を見ていた時、その瞬間は不意に訪れた。

 ふ、とどちらからともなく、相手の方を見た。そしたら、相手も自分の方を見ていた。それで何となく、ああ今なのだな、と思ったのだ。

 触れるだけの口付けを、くちびるに数度、角度を変えて。目蓋を閉じたのは、ウォルターだけだった。

 準備、の仕方は憶えていた。それでも何となく羞恥とか気恥ずかしさのようなものがあって、時間を使った自覚はある。

 良く言えば丁寧に「準備」をしたウォルターが浴室から出ると、脱衣所には件のドレスが置かれていた。

 置かれていたのがドレスだけならまだ良かった。「これしかないから」「不承不承仕方なく」と言い訳できた。それなのに脱衣所の棚にはウォルターの持参した着替えがそっくりそのまま残されていた。つまりウォルターは、このドレスを無視して普通の寝間着を着ることだってできるのだ。

 選ばされている、と思った。自分の意思で、何を手にするか、どうするか、選ばされている。

 だからウォルターは、ズルい、と思った。こう言うところがズルい。無理矢理“奪う”ことなんて造作もないはずだ。捩じ伏せ、従わせて、思い通りにできるはずだしその方が楽だし「傭兵」らしかろう。それなのに、どうしてこんなにもこちらを尊重するような――と思って、昨日のことを思い出した。

 そうだ。自分は、確かに選んだ。選んだのだ。こうなることを。

 ……一度くらいは、乗ってやっても良いだろう、と思っ――てしまった。だって、仕方ないではないか。あの男の真意を知って、執着を見せられて、覚悟をぶつけられて、愛を告げられて、それでどうして「伴侶」が僅かばかりでも報いてやろうと思わないことがあろう。

 見たところ、構造自体はシンプルであるらしい。ワンピースのようにすっぽりとかぶって、チャックを上げるだけ。レースや絹――に似た化学繊維かもしれない――を破かないように気を付けなければならないが。果たしてこれがウォルターを思っての手配なのかどうか判らないが、ウォルターでも着るに易い造りであるのは決心が揺らぐ時間を生まないことも含めてありがた?かった。

 ドレスと一緒に女性者のショーツやオーバーニー・ソックスやソックスガーターベルトが置かれているのを見つけた時は、さすがにウォルターの顔から表情が抜け落ちたけれど。

 ――サリ、と長い裾が床を撫でる。

 なるべく脱衣所の鏡を見ずに出てきた。もう自棄になって用意された「衣装」を着込んでやって廊下に出る。動きにくさと視界に入る純白に「何をしているのか」と理性が戻ってきて泣きたくなる。ぎゅっとドレスを握り込みながら唇を噛む。

 「似合っている」

 「!?」

 頓狂な声を上げて引っくり返らなかったのを褒めて欲しい、とウォルターは思った。

 声のした方――足元へ眼を遣ると、壁を背にして座り込んでいるスッラがいた。ウォルターを見上げて、柔らかく笑っていた。その顔が心底嬉しそうで、ウォルターは言いかけた諸々の文句をグッと握り潰してしまう。既に随分絆されている。

 その嬉しそうな顔のまま、くふくふ笑いながらスッラは立ち上がる。

 「待ち伏せとはな。今さら俺が逃げるとでも?」

 「いいや? なかなか出てこなかったから万が一と思ってな。まあ、動いている気配があったから大丈夫らしいことはすぐに分かったが……ついでだからな。待っていた」

 スッラの腕が肩と足に回り、両の足を掬い上げられる。正直なところ、この慣れない衣装で慣れない屋内の奥まった部屋まで歩いていく自信はなかったから、ウォルターは大人しく身を委ねた。……たぶん、これも「予定の内」なのだろう。


 ベッドは当然大きかった。単にウォルターが見慣れていないだけかもしれない。とかく、ベッドは二人で寝転んでも問題の無さそうな大きさだった。

 そんなベッドの上へ、スッラは丁寧にウォルターを下ろした。

 ゆっくりと横たえた身体を跨ぎ、正面から見下ろす。待ちわびた獲物をようやく手中に落とした捕食者の眼だ。見下ろされる「獲物」の喉が、コクリと鳴る。薄く色付いた肌は風呂上がりであるからか、あるいは「食われる」ことへの期待だった。

 指の背で目元を頬を撫でてやる。ふっとウォルターの身体が強張った。

 「……」

 初めてでもないのに初心な反応を見せるウォルターが愛らしい。以前は「さっさと済ませろ」みたいな、ドライな反応がほとんどだったのに。

 「ン……ふ、む、ぅ」

 目蓋を閉じているなら丁度いい、とスッラは引き結ばれたくちびるに自分のそれを重ねる。そうすれば、身体と共に強張っていたくちびるはふわりとほどけてスッラを受け入れた。それがなんだか、無性に胸を掻いた。

 口付けなんて何度もしてきた。奪うようなものも、触れ合うだけのものも。それなのに、いま重ねたものは、今までのどの口付けよりも身の内を満たした。

 ぴちゃ、くちゅ、と舌が触れ合う。スッラが動くだけではなく、ウォルターが自発的に動くのは、初めてのことに思われた。拙い動きで、スッラに応えようとしている。

 ああ――そうか。

 スッラは不意に気付いた。

 受け入れられて、許されているから、こんなにも気持ちいいのか。

 義務感とか諦念ではない「許し」は、これほど善いのか。

 喜びと愉しさと愛しさがあふれて止まらなくなる。

 けれど――。

 「ん……、ン、ふ……ッ!」

 唾液が溢れるのも構わず懸命に「奉仕」しようとするウォルターの姿は、少々必死になりすぎているように思える。

 「っぷあ……!」

 「ふは。ウォルタァ? 焦らなくていい」

 「ぁ……ぅ、も、問題、ない……。平気だ。できる……ちゃんと、できる。から」

 口付けをやめて微笑うスッラに、追い縋るようにウォルターが言う。まるで叱られるのを怖がる子供のようだ。

 だからスッラは、その髪を撫でて額にくちびるを落とした。

 「そうだな。だから安心しろ、これが最後ではない。機会はいくらでも用意してやる」

 目元、鼻の先にもキスをして、スッラは「な?」と小さく笑う。それでいくらか落ち着いたウォルターは少し拗ねたように「ん」と小さく頷いたのだった。「良い子だ」とくちびるが軽く重ねられる。

 しゅり、と薄いレースの上を指先がすべる。首筋を辿り鎖骨を辿り、胸元へ辿り着いて、そして脇腹を下っていったり戻ってきたり。触感とかたちを楽しむように、あるいは確かめるように、スッラの手はウォルターを辿った。

 そしてそれは愛撫でもあった。

 以前から同じことはされている。だが、それを当時の思考は仕事とか義務なんかに囚われていて――愛と付く行為にも関わらず、不要なものとして切り捨てていた。

 けれど今。身体の方は、スッラの「愛」撫をちゃんと覚えていた。

 「ンッ……、ふ、っ……、ん」

 優しげな触れ合いを思い出して、そこに思考が紐付いて、以前よりもささやかな刺激でウォルターは声をこぼしてしまう。――していることは同じはず、なのに、どうして。と、戸惑いが覗く。撫でられているだけなのに、声が漏れてしまう。撫でられた場所が、ちりちりと甘い熱を帯びる。

 こんなのは知らない。

 すがるようにスッラを見るも、その目は自分の指先、ひいてはウォルターの身体を見つめていて伏せがちになっていた。緩やかに弧を描く唇は、実に穏やかだ。そう。実に穏やかな微笑を、スッラは浮かべていた。

 そんなのは知らない!

 カッと頬が熱を帯びる。行為中に相手の顔を見るなんてあまりなかった。時々視界に入ってくるのは獣のような顔か、困ったように口端を上げている顔くらいだった。だったから、こんなに穏やかな表情で自分の身体に優しく触れる「傭兵」を見て、ウォルターは戸惑った。

 「は、ぁ……っ、ん……、」

 薄く柔らかな生地の下は素肌だ。むず痒いようなこそばゆいような、もどかしい刺激に呼吸がふるえる。決定打が、もらえない。

 スッラに、焦らしているつもりはなかった。ただ自分の用意したドレスを着たウォルターが綺麗で可愛くて、ドレス自体も滅多に触れない素材の手触りで楽しくて、ついつい白に包まれた身体を撫で回してしまっていた。もちろん、時折こぼれる声も善いし、もぞりと揺れる身体も善い。

 「ぅ……、ス、スッラ、もう……、っ?」

 恥じ入りつつ訊いてきた声に、反射的に顔を上げなかったことを褒めて欲しい。上げていたらおそらく「撫でて楽しんでいた」のがバレていただろう。

 スッラは真面目な顔を作ってウォルターを見た。真っ赤な顔が涙と汗に滲んでいて、とても可愛らしかった。

 「そうだな。だいぶ、お前の緊張も解れたようだしな」

 真面目な声音で言ってやって、スッラはたっぷりあるドレスの裾を捲り上げていく。光沢のある純白の中から、同じく純白に包まれたウォルターの足が現れる。

 更にスルスルとドレスを捲り上げると、オーバーニー・ソックスの終わりにソックスガーターベルトが姿を現す。そしてその上の暗がりに、緩やかなふくらみを見せる、やはり白い下着が顔を覗かせる。

 つまりウォルターは用意した衣装をきっちり着込んでくれたのだ。

 ちらりとウォルターを見る。眼は合わなかった。両腕で顔を隠されてしまっていたから。


 もったいないので「衣装」は脱がさない。

 スッラは薄手のソックスの上からウォルターの膝や内腿に口付けて腰を引き寄せた。枕を下に敷かれた腰は高くなっている。

 いつも履いているものより小ぶりだろう下着の上から熱を辿る。ウォルターは緩やかに兆していた。

 「かわいいなァ、お前は」

 「ひぃっ、ぅ、う……!」

 スッラが熱に布を滑らせる。ぬちゅ、と立った音はウォルターの「同意」に他ならない。元より滑りやすい生地は、濡れた興奮の手も借りてなめらかにウォルターの熱を育てていく。

 芯を持って起ち上がる熱は窮屈そうだ。

 可憐で小さな下着に押し込められるウォルターの半身という画は倒錯的で、頭がグラグラした。はみ出ようとしても飛び出そうとしても、許さずに押し戻す。その度に生地が擦れて、なのに解放されなくてウォルターは嫌々した。

 染みを浮かばせた下着の中はぐじゅぐじゅに濡れていた。クロッチの部分をズラして中の様子を見れば、ひくひくとスッラを待ちわびる秘部があった。


 ベッドサイドのテーブルに置いておいたローション――これも今朝方買ったものだ――を使って、ウォルターの身体を拓いていく。

 忙しく上下する腹が愛しい。押し殺そうとして失敗するばかりの呼吸が可愛らしい。汗と涙が滲んだ顔は赤く美しい。久しぶりだから、という以上に、捲り上げられたドレスの裾が壁となり、その向こうの動きが見えなくて過敏になっているのだろう。

 「はッ、はうッ……、ひ、ッン、ん……っ、スッラ……!」

 真っ赤な困り顔が、そうさせている張本人にすがる。

 その視線や声に気付かなかったという素振りでゆっくりと顔を上げるスッラは愉しそうだ――けれど、ウォルターはそれに気付かない。気付けない。

 「ああ悪い。お前に傷を付けるわけにいかないからな――久しぶりなようだし」

 「ぅ……!」

 スッラの言う通り、ウォルターの身体は閉じていた。準備で多少柔らかくなってはいるけれど、最後に身体を重ねてから、一度も身体を使っていないと考えても良さそうだった。それもあってスッラは丁寧にゆっくりと上機嫌にウォルターを解している。実際身体を使っておらず、身体を使わなければどうなるか知っているウォルターは、だから「そう」言われると強く出られない。

 真白く柔らかな壁の向こうから聞こえてくる湿った音がウォルターの想像力を掻き立てる。見たいわけではないけれど、見れないと頭が勝手に描いてしまう。

 ひく、と息を呑んだ身体に、スッラはくふくふと笑った。

 自分以外に身体を許していないことも、以前よりも随分感じているらしいことも、クゥクゥ子犬が甘えるような声をこぼすのも、何もかもが可愛らしい!

 三本目の指を挿し込んでからもしばらくスッラはウォルターの反応を楽しんでいた。……いやいや。これは必要な準備であるからして。

 わざと可愛がっていたのを知られないよう、スッラは遂にウォルターが口を開こうとしたときに「よし」と声を出した。抜け出ていく指の三本に、ウォルターは咄嗟に唇を噤んだ。

 そしてその後。少しの間。ドレープの向こう側にいるスッラの手が何をしているのか、ウォルターからは見えなかった。

 スッラが身を乗り出してウォルターを覗き込む。互いの姿が互いの瞳に覗けるくらいの距離だ。

 くちびる同士が優しく触れ合って、ウォルターは小さく首をかしげる。いれないのか? そんなことを言いたげな。その仕草はひどく幼く見えた。スッラは、今度はくちびるを軽く食んで「ふ、」と笑う。

 「なあウォルター。いま、私たちはセックスをしているな」

 「……そうだな……?」

 「性処理でもマスターベーションの延長でもなく、好きな相手とセックスをしている」

 「……」

 「初夜だ、ウォルター。私とお前の」

 「……!」

 ぶわりとウォルターの顔が茹だる。わなわなとくちびるがふるえて――。

 「私は嬉しい。私にお前がその身を委ねることも、許すことも、応えようとすることも、何もかも、愛しい。……感謝しよう、ウォルター。私の唯一」

 「ッぁ――、あ、ぁあああああ!」

 引き結ばれなかったそこから、艶やかな悲鳴があふれ出た。スッラの熱が、はらの中に滑り込んでいた。


 いつぶりかの熱に身体は歓喜した。跳ね回ってのたうって、それをベッドに押さえ付けられる。シーツを握り締めて引っ張ってしまい、あっという間に白波が荒れる。

 セックスなんて何度もしているはずなのに、挿入されただけでこんなになるのは初めてだった。自分を覗き込んでくる男の顔が、やけに格好良く見えるのも、初めてのことだった。そもそも、行為の最中にまじまじと顔を見ることも無かった気がする。

 ああきっと馬鹿になってしまったのだ。駄目になってしまった。身体も神経も感覚も。「俺」が壊れてしまった!

 なのに胸の内には温かいものが広がって頭がふわふわして、短く呼吸していたウォルターは悔しそうな唸り声を上げる。ぐず、と鳴った鼻に、目の前の顔がぱちくりと目を丸くした。

 「……? 痛かったか? だいぶ解れていたから大丈夫だと思ったが、やはりまだ……いや、ゆっくり挿入れた方が良かったか? 苦しいなら一度抜くが、大丈夫か? 呼吸はできるか?」

 そんなことを言いながら離れていこうとする身体にウォルターは手を伸ばした。震える指先に引き留められて、また瞬きがひとつこぼされる。

 「ぃ、いい……、ちがう、これは、っ、違う、から……、つ、続けろ、」

 「……大丈夫か?」

 「いい! へ、平気だ……大丈夫だ、から、……続けて、くれ、」

 腕だけではない。背を、腰を、白に包まれた脚が引き留める。

 ふ、とスッラは小さく息を吐く。引きかけていた身体を戻すと、ウォルターがまた子犬のような甘えた声をこぼした。

 「わかった」

 どうやら苦痛に顔を歪めているわけではないようなのでスッラは頷く。途端にホッとした様子を見せるのがまたいじらしかった。


 ゆるゆると腰を動かす度にゴムと粘膜の擦れ合う音がしてひぐひぐとウォルターの身体が跳ねる。それに加えてズラしたクロッチが幹を擦る。

 脱がせていないのが虐めているようだ。けれど当のウォルターは至極善さそうなのが腰を灼く。熱くて狭くて気持ち良くて、腰の辺りから溶けてくっついてしまいそうだと思った。

 「んぅッ……ぅー……、っひ……、ぅ、ぐ……!」

 声を押さえようとするのは無意識だろう。好きなだけ叫んで喘いで啼けば楽だろうに。まあ、その辺りは追々慣らしていけばいい。

 「んぐっ、ぅ……! っは、ァ……っ、ん゙……!」

 それにしてもガクガクと跳ねる身体は――ああ、下着のせいか。

 小さな下着に押し込められた半身の先が、ぬるぬるとすべらかな生地の中で滑っているのだ。首まで真っ赤にして、ウォルターは健気に堪えようとしている。

 我慢などしなくて良いのに、とスッラは、染みるばかりでなく縦横から蜜をあふれさせた下着へ手を伸ばす。

 にゅり、と芯を持った熱に、指がかけられる。

 案の定ウォルターの身体はぎくりと強張った。ふるふると首が横に振られて、ぱさぱさと髪が揺れた。両の手が、口許にいっていたのは、無意識の期待だったのだろう。

 「好きなだけイけ」

 死刑宣告と共に、スッラの手が動いた。

 「――ん、ぅ゙、ゔあ゙、ひ、ぃ゙ッ、ぁあぁぁ゙あ゙あ゙あ゙!゙!゙」

 ウォルターの両手はその役目を果たさなかった。呆気なく開かれた口から悲鳴が溢れ、もっととねだるように、あるいは逃げようとするように、身体が暴れる。

 不自由な脚が、その枷を忘れたようにシーツを掻く。スッラは構わず手を動かした。水気の増していく音に、ぴくぴくふるえる熱に、笑みが止まらなかった。

 「――……ぅ……ぁ……、」

 スッラが手を止めたときにはもうウォルターはくったりとシーツに沈み込んでいた。

 ぐちゃぐちゃになった――けれどどちらも白いから、パッと見ただけでは分かりにくい――ドレスを乗り越えて、スッラはウォルターのくちびるを食む。熱く湿った吐息が、口付けに応じようとして途切れる。ぼんやりと潤んだ目は文句を言うどころではないらしかった。

 「ぁ、っふ……、ん……、ん、ぁぅ、」

 「きもちいいな? ウォルター」

 「ん……、んぅ……ぅ゙ぅ゙……」

 口付けの合間、ようやく発せられた小さな唸り声はせめてもの抗議だった。

 一度熱を抜くと、すっかり柔らかくなった孔はひくんと名残惜しげな反応をした。ウォルターの眼が、何事かと不安そうに揺れる。

 その胸中を表すようにぴくりと動いた脚を撫でてやりながらスッラは下着に手を掛ける。脱がすつもりは無かったけれど――伸びてしまえばもう使えない、方がもったいないと今さら思ったのだ。

 片足だけ抜かせると、中心はとろりと糸を引いた。敏感になった粘膜が外気に触れて「ふあ、」とウォルターが身体をふるわせた。

 ふわふわつやつやのドレスをたくし上げて積み上げて、スッラはウォルターの頬を手で包む。目元を親指の腹で撫でれば、喘ぐようにくちびるが開閉して、それからするりと手のひらに甘えられた。むずがる子供のような姿だ。けれどその姿は夜にふさわしい色を帯びていた。

 「ウォルター」

 立てた膝の間から、とてもとても甘く掠れた声が呼ぶ。

 じんわり滲んだ視界を払おうと瞬きすれば、やっぱり整った顔が目の前にあって、困ったような楽しいような表情をしていた。

 「何かしてみたいことはあるか? これから行ってみたい場所や、見てみたい景色、食べてみたい物。何かあるか?」

 「……?」

 唐突な話題にウォルターはもう一度瞬きをした。

 そしてふわふわのとろとろに溶けたウォルターのかしこい頭は、素直に答えを弾き出す。

 「行ってみたい……のは、地球、の、ニホン……先生の、ルーツの場所、とか、前、お前が言っていた、星、とか、行って、見て、みたい」

 「ああ」

 「食べたい……、朝……お前、の、作った、朝食……?」

 「ああ」

 「で、でも、っ、俺、こんな……っ、そんな、資格なんて……、っ、だめだから……!」

 けれど――もう言ってしまったのだから遅かった。目の前の男の胸元が視界を埋める。額にくちびるの押し付けられる感覚。

 「ぜんぶするぞ。私とお前で。どこへでも行くし、何でもする。生きているのだから」


 それから何度ゴムを換えてドレスを汚したか憶えていない。

 ただひたすら気持ち良くて苦しくて温かかった。今までの――実のところスッラとしかしたことがないのだけれど――セックスで一番。たぶんベッドから出られない。強化手術を受けて身体年齢と実年齢が解離しているスッラはともかく自分はいい歳して何を、と消えたくなる。

 ウォルターが軋む身体に鞭打ってシーツに包まろうとしたちょうどその時、寝室の扉が開いた。テレビだかラジオだかの音と、朝食のいい匂いが入ってくる。

 「モーニン? 今日はここで食べるか?」

 「いい……動ける……食べに行く……」

 とは言いつつ、ウォルターはシーツをかぶって丸くなっていた。

 喉がジリジリと痛んで声が掠れる。気付けば寝間着に替えられていて、身体もさっぱりとしていた。相変わらず甲斐甲斐しい。

 「…………ドレス、」

 「ああ。さすがに市販の洗濯機では洗えなくてな。業者に出したが……ちゃんと返ってくるかは五分五分だろうな」

 治安が悪い。いや、返ってくる可能性があるだけマシなのだろうか。

 無事の帰還を願うべきか、永遠の別離を願うべきか、ウォルターは迷った。返ってきたところで出番は二度とないようにするつもりであるし。

 そんな葛藤を察したのか、ベッドの縁に腰かけたスッラはシーツ越しにウォルターを撫でながらくすくすと笑った。

 「気にするな。何なら次はちゃんと脱がせてやろう」

 「次などあって堪るか」

 「そうか? まあお前は衣食住をもっと楽しむべきだからな。今後は色々と着てもらうぞ」

 「酔狂な……」

 呆れたような呻き声に笑い声が返る。

 溜め息をひとつ吐いてウォルターはシーツから出る決心をする。料理が冷めてしまう。

 「今日は何をしたい?」

 スッラが訊く。腰の痛みと違和感に結局立ち上がれず、抱え上げられて移動するウォルターは廊下の壁をジィと見ていた。

 「……ここにいる。寝る」

 「積極的だな」

 「違う」

 ダイニングテーブルにはすでに朝食が配膳されていた。向かい合うかたちでそれぞれ席につく。

 ラジオのチャンネルを調整しながらスッラが笑う。星外の電波に混じって、星内外の無線や通信の音声が入ってきていた。

 「その……、ずっと休んでいなかったのだろう。だから、」

 隈が、と消えそうな声が聞こえて、逸らされた視線と色付いた耳が見えた。

 スッラはウォルターの言葉に一瞬目を丸くして、それから息を吐くように笑う。歩み寄ろうとしてくれているなあ、とか、そんなことが頭を過る。やはりこの少年はいつだって真面目で、他者を重んじようとする。

 常人が隈のできる程度の無理をしてもすぐには死なないように、強化人間も多少隈のできる無理をしても活動に支障はない。それはウォルターも知るところであろうけれど――ウォルターは強化人間も普通の人間と同等に扱おうとするから。

 「……そうだな。では、そうするか」

 スッラはゆっくりと頷いた。直後、ウォルターの空気がホッとしたものになるのが愛おしい。

 それに、ここにいる、と言うことは、ずっと傍にいると言うことだ。独占、束縛と言った趣味は無いつもりだけれど、いいな、と思った。

 「……スッラ、」

 思い出したように――否、何か決心したようにウォルターがもう一度口を開く。はて何だろう。やはりどこか行きたい場所が? 等と思いつつ、スッラは「うん?」と何でもない風に続きを促す。

 「ぁ……う……、そ、の……これから、よろしく、頼、む」

 フツツカモノですが。そんな枕詞が聞こえた気がした。

 つまり――スッラはウォルターの言葉の意味を正しく理解した。胸を掻くザワザワとしたものは、しかし不快ではなかった。

 「ああ。よろしく頼む」

 ウォルターは否定するだろうけれど、それは愛なのだろう。

 想う心を愛と呼ぶなら、スッラは間違いなくウォルターを愛している。

 それが今、スッラを想う言葉が、ウォルターの側から確かに返された。

 ああきっと、これからの日々には、今まで以上に愛の在ることだろう。


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