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【R18】愛しき手中のロート・ユヴェル

悪魔×ドラゴンな英スラウォル。ファンタジーパラレル。スリット姦・男ふたなり?・擬似出産・角や翼等の軽度の異形化・異物?挿入・淫語・軽度の崔淫暗示・濁点喘ぎ等。の割にあんまりえっちくなってない。
何やかんや甘々でイチャイチャ。

角のある話

悪魔×ドラゴンな英スラウォル。ファンタジーパラレル。

イメージは欧州の某島国とかその辺。一昔前くらい。


スリット姦・男ふたなり?・擬似出産・角や翼等の軽度の異形化・異物?挿入・淫語・軽度の崔淫暗示・濁点喘ぎ等の要素があります。

ふたりの倫理観や感覚が人間とズレてたりさらっとセンパイッヌたちが死んでたりする。

その他悪魔やドラゴンに関する設定や解釈が好き放題。


スッラがウォルターをかわいいかわいい言ってる。

何やかんや甘々。イチャイチャ。

上記要素の割にあんまりえっちくならなかった。ごめんね。

アハトはドイツ語で8の意味。acht。ドイツ語かっこいい。


諸々気を付けてね。


---


 とある街の一等地。その中でも特に大きなバロック風の屋敷は、とある資産家の男が丸ごと買い上げて己がねぐらとしていた。

 男の名はウォルターと言った。

 詳しい素性は誰も知らない。名前すら「ウォルター」としか知らない。それがファミリーネームなのかファーストネームなのか、はたまた本名なのかも知らない。気付けば街にいて、屋敷を買っていて、そこに住んでいた。役人なのか銀行員なのか、貿易で一儲けしているのか、誰も分からなくて人々はウォルターの話題になる度に想像を囁き合った。けれど結局真実は今になるまで明らかになっていない。

 ただ分かっているのは、ウォルターは金持ちであることと、金持ちであるからだろう、屋敷には人の出入りがそれなりにあると言うことくらいだ。

 だから、霧雨に濡れた夜、街頭に照らされた人影が件の屋敷にふらりと入り込んでいったのも、きっとべつにおかしなことではないのだ。


 「断る。帰れ。諦めろ」

 オレンジ色の灯りが穏やかに室内を照らしている。そんな中、ウォルターはベッドに押し倒されながら眉間に皺を寄せていた。

 「あまりつれないことを言ってくれるな、ウォルター。伴侶だろう?」

 それに、私が帰る場所は今やお前の傍だ。

 答えたのは、青年とも言うべき若さの男だった。

 男の名はスッラと言った。

 スッラはウォルターを押し倒して、その不満げな顔を見下ろして苦笑する。枕の側に縫い留めた両腕に抵抗が無いのも、面倒だと言うウォルターの意思をありありと伝えていた。

 「使い魔が欲しいなら一人で作れ。俺を使う必要は無いだろう」

 スッラが今宵ウォルターの元を訪れたのは、その言葉の通り、使い魔を作るためでもあった。

 スッラは人間ではない。悪魔と呼ばれる存在だ。人間を唆し、謀り、堕落させる恐るべき超常の存在。それがスッラだった。

 「使う等と言うな。別に使い魔を作るだけが目的じゃあない。一番の目的はいつだってお前だ、ウォルター」

 スッラの指先がウォルターの頬や首筋を辿る。それに誘われるように、ウォルターの耳が尖り、肌に鱗が薄く現れて消える。

 一方のウォルターもまた人間ではなかった。ウォルターの正体はドラゴンと呼ばれる上位存在だった。財の守り人。厄災。悪しきもの。御伽噺に謳われる存在は、確かにそこにいたのである。

 さて。ここでスッラとウォルターの関係を少し整理しておこう。

 スッラは悪魔であり、ウォルターはドラゴン。どちらもあらゆる意味で人の力の及ばない上位存在だ。

 だが上位存在の中にも強弱や序列と言うものがある。天にまします我らが父たる神は万物を創りたもうたが、天使と悪魔はその最古たるもので、人間含めたその他諸々などの順番は誤差だ。つまりそういうことである。悪魔はドラゴンよりも強い。

 しかしスッラとウォルターは伴侶と言う関係を結んでいた。普通、悪魔は伴侶を作らないし、作ったとしても同種である悪魔か同等の存在たる天使を選ぶ。それなのにスッラと言う悪魔はウォルターと言うドラゴンを、眷属や下僕ではなく伴侶とした。これには話せば多少長くなる理由や縁がある。

 そんなこんなで紆余曲折あってくっついた二人は、他の上位存在や動植物たちの例に漏れず、繁栄目覚ましい人間たちの無自覚な侵略行為に元の住処を追われ、数世紀前から人間の街を転々としながら生きてきた。

 特にウォルターが財の守り人と呼ばれる存在だけあって、人間が価値を見出だす宝石と言う物の出所には困らなかった。当然だ。出所はウォルター自身なのだから。

 元々住処としていた山には、もちろんそう言った洞窟や鉱脈もあった。けれどウォルターの爪や角や鱗や甲殻もまた人間には「宝石」に見えるらしい。剥がれ落ちたり抜け落ちたりしたそれらを売って生活していた。

 人間らしい「金」の稼ぎ方は、スッラの方がよく知っていた。けれど人間のルールに触れかねないそのやり方を、ウォルターはあまり好まなかった。

 斯くしてふたつの上位存在は人間社会に紛れていた。

 「何ならお前の使い魔も呼び戻してやろう。先日地獄へ行ったあの犬は……何と言ったか」

 「貴様ッ!」

 スッラもウォルターも使い魔を持っていた。元来ドラゴンは使い魔を持たない種族だが、悪魔を伴侶とするウォルターはそれを持っている。とは言え、悪魔が自身の魔力を元に創り出すそれともまた異なるのだが。

 「アハトは貴様がっ……!」

 ウォルターの使い魔は5匹いて、それらは正確には使い魔ではない。ウォルターが幼い頃に狩人や教会から匿って、それ以来ウォルターに付き従っている「だけ」の魔犬たちだ。悪魔や悪魔の使い魔たちと違い、実体があり「生きている」存在だ。

 そのうちの1匹が、少し前にスッラの前で死んだ。

 スッラが狩りをしていた場所の近くにいて、スッラを滅するために駆けつけた教会の人間たちの流れ弾――スッラが自身から軌道を逸らしたものだ――にやられたのだ。

 素材も重要ではあるが、結局生きているのだから当たり所が悪ければ魔犬だって人の作った銃弾で命を落とす。

 スッラがアハトを見たのは、アハトが心臓を撃ち抜かれて「ギャン!」と鳴き声を上げて事切れた時だった。

 実体が無く、殺されてもとりあえず地獄へ還るだけの悪魔には、死と言う事象の重大さがいまいち理解できなかった。死んだなら、地獄(向こう)で休んで、戻ってこればいい。その程度だ。肉体が無くとも魂があるならそれでいいではないか、と。

 だからスッラがアハトの死体を何食わぬ顔で持ち帰りウォルターの前に置いた時、ウォルターは烈火の如く怒ったのだ。それが1世紀程前のこと。

 ようやっと心の整理がついてきたと言うのに、悲しい記憶を掘り起こされてウォルターの顔が歪む。この数十年の間にも魔犬たちは1匹、また1匹と数を減らして、今や最後の1匹になってしまっていると言うのに!

 唇を噛むウォルターの顔に影がかかる。

 「なあウォルター。私はお前との使い魔がいい。私だけの使い魔では駄目だ」

 ツ、とスッラの指先が、ウォルターの下腹部を一撫でする。ひっ、と短い悲鳴が、ウォルターからこぼれた。

 悪魔の使い魔は、言ってしまえば形を持った魔力だ。編み上げ切り離し自律させた己の末端。それが悪魔の使い魔である。だから悪魔の能力を多少引き継いでいて行使できるが――裏を返せばそれだけだ。

 けれどここに伴侶である他者の魔力や存在を混ぜ込むと、その能力や精度は縦横に拡張される。より強く便利な使い魔が生まれるのだ。

 何より、両者の性質や特徴を受け継ぐと言うのが良い。

 スッラは特にそこを気に入っていた。だから己の使い魔を3匹とも喪った後、こうしてウォルターに「悪魔として」夜の誘いをかけているのだ。

 そして伴侶と言えどドラゴンは悪魔に支配される位置にいる生き物だ。

 縦に割れた瞳孔が瞬きする。スッラの虹彩が、灰色から赤色へと変わった。クヮン、と金属の器を揺らすような音が、ウォルターの頭の中で響いた。

 「ぐぅ……ッ、ぅ、うぅっ……!」

 悔しげな唸り声と、潤んだ目がスッラを睨む。ベッドの上で「主人」たる存在の、困ったような微笑を前にしてなおその誘いを拒むなんて、ウォルターにはできなかった。




 上等なマットレスは柔らかく、二人分の身体を難なく受け止める。キシキシとスプリングの笑う声を聞きながら、スッラは口付けをしたままウォルターのシャツの中へ手を差し入れる。くちゅり、ちゅぷ、と水音の絡み合う影で、サリサリと衣擦れの音。

 ひやりとした肌は滑らかだ。スッラの指先に、強張れど肌を粟立たせない身体は、やはりウォルターが人ではないことを示している。

 変温動物に似た低めの体温を楽しむスッラは、手のひらにとくりとくりと脈打つ生命を感じて手を止めた。

 鼓動。悪魔である自分は、真には持たぬもの。また竜のそれは魔術師や教会が特に欲しがるもの。――奪われぬように、しなければ、と思った。このドラゴンは、生命は、スッラのものなのだから。

 「んぅっ……!?」

 知らず、心臓の上に爪を立てると、ウォルターが小さく肩を跳ねさせた。驚かせてしまったらしい。

 けれど、スッラに多少の痛みを「気持ちいいこと」だと教え込まれている身体は、すぐにそれを行為の一部だと受け入れた。スッラも、それを訂正してやることはなかった。

 薄く筋肉の乗った胸をたどり、そこを飾る慎ましい粒に触れる。ドラゴンの身体に乳首と呼ばれる部位はないけれど、人間の身体にはあるから、ウォルター曰く変な感じがしてあまり触れられたくない場所らしい。再現せずに済むならそうしたいけれど、突然の雨や汚れに襲われ着替えるために人間の前で身体を晒すとなった時、怪しまれないために仕方ないのだ――とスッラに丸め込まれた結果だ。おかげで人間姿の時にしかない部位でも、今や立派な弱点となってしまっている。

 「んぷ、ぅ、……っは、ぁ、あ……!」

 くるくる、とふくらみはじめの粒の周りをくすぐって、きゅっと先っぽをつまんでやる。そうすれば控えめに顔を覗かせていたウォルターの乳首は、もうその存在をはっきりと顕した。

 するりとシャツから手を抜いて、スッラは正面からその合わせに手を掛ける。やっぱり上等なシャツに縫い付けられた、綺麗なボタンをひとつずつプツリプツリと外していく。少しずつ露になっていく肌に、怖がるようにウォルターがその手を引き留めた。

 人間の姿の良いところは、ウォルターに2本の腕があるところだ。とは言え、片方は精巧に作られた義手なのだが。

 ドラゴンの姿のウォルターには、片腕がない。15世紀程前に人間に切り落とされてしまったらしい。その時色々あってスッラはウォルターから離れていたから、それを知ったのは全て終わった後だったのだ。

 人々を脅かす邪悪なる強欲竜よ! ――とか何とか。つまりウォルターが住処としていた山を欲しがった人間たちの横暴だ。ちなみに片脚が悪いのも12世紀程前に人間に襲われたせいなので、つくづくウォルターは人間運が無いと言える。

 それでも人間を忌避の対象としていない――だけでなくその技術を受け入れる柔軟さは特異にも思えた。

 「っひ、ぅ……、ひ、ぁ、す、すっら……!」

 平生強固な鱗や甲殻に守られているウォルターは、柔らかな身体を晒すことを本能的に恐怖する。普段肌の露出が最低限となる格好をしているのもそのためだ。ましてや今目の前にいる存在は自分を容易く殺せる位置に在るもの。叶わないと理解していても、請わずにいられなかった。

 「大丈夫。大丈夫だ、ウォルター」

 当然、スッラはその懇願を微笑して一蹴する。

 「ひっ! あ、ああっ!」

 スッラの指がウォルターの腹部を撫ぜた。スッラを引き留めていた手が、その手中のものを失い、そしてぴくんと跳ねて柔く握られる。さながら腹を晒す犬のような風情だ。

 「何度やっても慣れないところも可愛いなァお前は」

 柔い皮膚を撫でられるだけでキュウキュウ切なげに鳴くウォルターはまるで「初めて」のようだ。けれどスッラはウォルターが「初めて」でなく、またとても可愛らしくて素晴らしい身体を持っていることを誰よりも知っている。当然だ。スッラが作ったようなものなのだから。

 指先で、手のひらで、くちびるで肌を辿っていき、スッラはそしてウォルターのズボンに辿り着く。チラと様子を窺えば、恐怖と期待が半分ずつくらい混ざりあった顔があった。スッラは口端を上げて、するりと下履きごとズボンを下ろしてやる。

 露になるウォルターの下腹部には、スゥと一筋の線が入っていて――それだけ。

 相変わらず“綺麗”な下腹部にスッラは笑みをこぼした。

 スッラの指が線に当てられる。ウォルターの身体が、ぴくりと跳ねた。

 「うぁっ……、ぁ、ぅ、う……!」

 つぷり、と線――否、慎ましやかな割れ目に指が埋められる。そこはウォルターの陰部だった。

 「く、ふふ、……芯を持ちはじめているな。もう少しで顔を出すところだったか」

 くちくちと指を動かしながらスッラは楽しげだ。その指先は柔らかな肉を掻き分けて、そこに収まったウォルターのペニスをあやしていた。

 ドラゴンは常時性器を露出させるタイプの生き物ではない。爬虫類なんかとよろしく、普段は体内に収納している生き物だった。つまりウォルターは、人間の姿をしている時も――人目に晒すようなことも無いので――そうしているのだ。

 スッラがそれに特に何も言わなかったのは、もちろんウォルターの下半身を他者に見せる気など毛頭無いからであるし、こうして「夜」に楽しむためでもあった。

 「ひきゅっ……く、くひッ、ぃ、あ、ぁ……っ! スッラ、やめ……っ、そんな、さわるな……!」

 敏感なところをいじられてウォルターがキュイキュイ鳴く。カタカタふるえる手はスッラに置き去られて、ひくひくしている腹に添えられるだけとなっていた。

 「ほら、一度出しておけ」

 「やッ――ぁ、ひいっ、ひ……! ぃあ、ゃ、出せっ、出して、外、ぉ……っ! あ、ぁ、ぐ――ッ!!」

 スッラの長い指がスリットの中の――否。スリットの中にウォルターを押し込めたまま動かされる。

 ぐちゅ、ぐちゅくちゅぐぢゅ! と粘度のある水音が立つ。人間とは異なると言えど、生き物であることには変わりない。性器を押さえ付けられながらいじられるのは気持ち良くて苦しくて、ウォルターは爪先と両手でシーツをぐしゃりと握り締める。

 「はぅッ……、ぅ、ぐぅッ……ぁ、あああ!」

 ガクン、とウォルターの身体が跳ねた。天井に喉を晒して、胸や腹を大きく上下させている。カクンカクンと揺れる腰は、スリットに埋められたままのスッラの指と達したばかりのペニスを擦り合わせた。ふあ、あうぅ、と緩やかな快感を、蕩けた声をこぼしながらウォルターはそれをたのしむ。

 やがて、くち、くち、とウォルターの腰が快楽を追って動き始める。揺蕩うような快感には、離れ難さがある。

 そんな拙い自慰は、スッラの欲を大いに煽る。のを、このドラゴンは何時になったら覚えるのだろうか。

 「ふあ、ぁ、あ……、」

 ちゅぷりと音を立ててスッラが指を抜く。逃げていく快楽の元に、ウォルターが切ない声を漏らした。そして――スッラが指を抜いても、ウォルターのペニスはスリットの外に出てこなかった。精を吐き出して、幾分落ち着いてしまったのだ。ペニスを内に留め、とろりと蜜をあふれさせるそこは女性器のように見えた。

 「ウォルター。良い子だ。ちゃんと気持ち良くなれたな」

 濡れていない方の手で、スッラはウォルターの頬を撫でる。悪魔にあっという間に性欲を高められ沈められたドラゴンは、とろけた顔を晒していた。

 ちむ、と照明を照り返すくちびるに軽く触れてからスッラは服を脱ぎ捨てる。無造作にベッドの下へ放られた衣服は丸まって皺になってしまうことだろう。それらは流行りのブランド品だったけれど――そもそも悪魔に人間の流行りやブランドなどどうでもいいことだ。

 スッラがウォルターを覗き込む。身体が人間と変わらぬ見てくれなのは、ウォルターが人間の姿を保っているからに他ならない。別に獣や虫やドラゴンの似姿をとっても良いけれど、この人間用に造られたベッドルームではいささか不自由になるだろう。家具や壁が壊れかねない。壊れたとて魔法で直せば良いだけだが、生憎この家の持ち主はスッラではなくウォルターだ。

 にちゅり、とウォルターのスリットにペニスを擦り付ける。ここにこれを挿入れるぞ、と予告しているのだ。ふわふわとしていたウォルターの表情が、少しだけ強張る。

 スッラの半身は、スッラの姿と同じように形も大きさも何もかもスッラの思うがままだ。だからスッラはいつもウォルターの“好きな”かたちにする。ウォルターが泣いて叫んで懇願するかたちを選ぶのだ。

 「ゃ――、それ、そんな、はいらない、入るわけ……、」

 「はは、ウォルター。嘘はいけないな。入らないわけがないだろう? 初めてではないのだから」

 「あう――ぁ、ア……ッ!」

 じゅぷ、と、スッラの硬い熱が、ウォルターのスリットに割り入った。

 ドラゴンのスリットは非高揚状態の性器の収納部位であって、けして何かを受け入れる部位ではない。だから、広さや大きさはあまりない。もしもそこに何かを挿入れようものなら、中はもういっぱいいっぱいになることだろう。

 けれど、幾度となくスッラを受け入れているウォルターのそこは、通常の同部位よりも柔軟になっていた。

 「ひ、ひう……っ、ぁ、ゔ、ぅ゙……! くるし……ッ」

 スリットの内側が拡げられる。ウォルターの腹が薄くふくらんだ。

 「ほら、ちゃんと入っていくぞ」

 「あ、あぁ、ぁ……、ゃ、も、いれるな……!」

 にゅぐぐ、と押し入ったペニスは、その中で柔く芯を持っていたペニスと擦れ合う。内部を保護するために分泌された体液と、体外に露出させられることなくペニスが吐き出した精液でスリット内はぬるぬるになっていた。

 スリットは性交のための部位でないから、挿入したとして締め付けられることはない。けれど、柔らかくぬかるんだ肉に包まれはする。スッラは自分のペニスとウォルターのペニスが擦れ合ったのを感じると、蛇のように舌でくちびるを湿らせた。

 スッラが腰を動かし始める。に゙ゅり、と濡れた肉同士の擦れ合う水音が立つ。

 「ひあっ! あ! っゃ、ぃやだ……! なか、中のッ……、出せぇ……!」

 高められているのに狭い肉の中に押し込められたままのペニスが苦しい。先程はスッラの指で、今はスッラのペニスで押さえ込まれて、スリットの中のウォルターのペニスは揺らされる。そのときに、スリットの内側の柔らかく潤んだ肉がペニスの先や幹に擦れてまた快感を生む。

 「は、――出してやるとも。何もかも。最後には、な」

 スッラが笑う。ぐぢゅぐぢゅぐぢゅ! と泡立つような音がして、より速くペニス同士が擦れ合う。ウォルターは頭の横のシーツを握り込んで、引き寄せたシーツの影に目元を埋めた。溺れかけふるえるくちびるが覗いていた。

 「ぁう――、ぅ゙! ぅ゙ゔ……ッ! ぐ、ァ、ひうッ――~~~!」

 ウォルターが唸り、その身体がまたガクンと跳ねた。

 「――は、はッ、ァ、は……ッ、ゃ、ぁぁ……!」

 「はは。かわいいなァ、お前は」

 スッラの腰が動く度、スリットの縁からこぷりとぷりと白濁があふれて滴る。ひくひくと射精の余韻にふるえるペニスになおもペニスを擦り付けていたスッラはそして、グ、と腰をウォルターに押し付けのしかかった。ぬちりと互いの腹に挟まれ潰れ、塗り広がった体液が小さく鳴った。

 「ァ、あああ……ッ! ぁ、ぅあ、あ、は、っ、あ……!」

 とぷとぷとスリットに熱を注がれてウォルターが悶える。そんな場所じゃないのに。心地良い魔力を伴った熱が広がって、嬉しいやら悔しいやら、視界が滲む。


 「……ん。良い子だ」

 魔力の放出と共に目を細めていたスッラがウォルターの目元に口付ける。そのまま頬や耳や首筋を辿り、つんと起ち上がったままの乳首をちぅと吸った。それでまたウォルターは「ひうぅ!」と軽く気を遣る。

 「やら……、も、やだ、やめる、やめろ……、」

 二度も不本意な絶頂に導かれ、ウォルターはベッドから逃げ出そうとする。シーツを掻いて、身体を捩って、ほんの少しだけ、ヘッドボートに近付いた。細やかすぎる抵抗だ。

 つまり何も変わらない。くちゅ、と微かな音を立てて指の先程度、スッラのペニスが抜けただけ。悪魔から与えられた魔力と絶頂に緩んだ緊張に、ドラゴンは人間の輪郭をぼやけさせる。額に顕れる硬質な角に、悪魔は笑みを深めてその顔を覗き込む。くぷ、と抜けた分のペニスがスリットの中に再度潜り込む。

 「くぁ……ッ!」

 「ふふ。かわいいかわいい、私のウォルター。私のかわいい竜の子。ほら――ああ、角もずいぶん立派に伸びたなァ」

 額に口付け、それから角をくちびるで食む。それでウォルターは、自分が術の制御を手放しかけていることに気付いた。

 「――、」

 ハッとした様子でウォルターは自分の額に手を遣る。そして、案の定くしゃりと顔を歪めた。

 顔を隠そうとする手を退かしてシーツに縫い止めて、スッラはペロリとくちびるを舐めてやる。それから舌を咥内へねじ込んで、鋭く伸びかけた牙にすくい上げた舌を押し付けてやったりした。頭の横に押さえられた手の指先が、鱗を伴い長く伸びた耳を掠めたのは、きっと図られたものだ。

 「んぅ……、ぅ……、ゃ、やだ、おれ、」

 人間の姿を保てなくなっていくことにウォルターは怯えた。術が解けて、本来の姿のまま暴れてしまえば人間の作った建物など容易に壊れてしまう。そうしたら、住む場所が無くなる。どころか、何故こんなことが起きたのかと怪しまれて、街に居られなくなってしまう。ウォルターが、ベッドから逃げ出そうといよいよ抵抗しようとする。

 「平気。大丈夫だ。結界なら張ってある。壊れても直してやる。だから平気だ。心配なら私が縛ってやろう。ほら、ウォルター。こちらを見ろ。……良い子だ」

 悪魔の優しい声につられて、ウォルターはその赤い瞳を真っ直ぐに見てしまう。縦に割れた瞳孔、その暗い奥に自分が写っている。

 「手足と尾、翼も良いぞ。人間の骨格が大きく変化しなければ大きさも変わらんから部屋が内から壊れることもない。……ほら、これでどうだ?」

 クォン、と頭の中で金属の器が揺れるような音がした。そして、するりするりとウォルターの末端が変化する。

 服の袖から覗く腕には鱗が薄く並び、指先はグローブを貫いて鋭い爪が伸びる。爪先も同じような変化。背中からはシーツやマットレスを押し退けて飛膜を持つ翼が現れる。腰の辺りからは艶やかな甲殻の尾が伸びた。

 「ああ……きれいだな、ウォルター」

 スッラがうっとりと呟く。その頭部には一対の左右非対称な角が姿を現していた。弧を描く口許には鋭い牙。ゆらりと揺れる尾はしなやかだ。そしてウォルターを覆い隠すように広げられた翼は羽毛を舞わせていた。

 スッラはウォルターが、|自分《ドラゴン》は持ち得ない柔らかな翼や毛皮に、恋心にも似た憧憬を持っていることを知っていた。だから時々こうして存分に触れられる機会を作ってやるのだ。

 「ほらウォルター。もう少しだ。付き合ってくれ」


 ちゅ、ちゅむ、とくちびるをついばみながらスッラの手がウォルターの下腹部へ伸びる。ペニスを挿入されたスリットの横を通って、脚の間。色々な液体でぬるついたそこに、つぷりと指を押し込んだ。

 ウォルターと言うドラゴンは排泄をしない。することにはするが、排水――人間で言うところの排尿――だけである。と言うのも、ウォルターは鉱物食のドラゴンで、鉱物食のドラゴンと言うのは総じて食べたものを全て己が身体の一部とするためだ。鉱物を食べ、それらは新たな外殻となり、古い殻は抜け落ちたり剥がれ落ちたりするから――排泄と言う行為が必要ないのである。人間との交渉や商談でどうしても「食事」をしなければならない時は、スッラの使い魔を借りる。腹に一匹忍ばせて、代わりに「食べて」もらうのだ。

 だからスッラがいま指を挿入れたのは、本来ウォルターには無い器官である。柔らかな肉の奥に開いた柔らかな孔。それは人間の雌の生殖器によく似ていた。

 スッラがそれをウォルターに与えたのは、別に孕ませるためではない。やろうと思えばできるけれど、そもそもの目的は使い魔を作ってもらうためだ。そうした方が、より「良い」使い魔となる。何より、悪魔と竜の合の子を孕むなど、負担が大きい。

 「こちらにお前の犬どもを呼んでやろう。嬉しいだろう?」

 くちゅ、くちゅ、と蜜壺をいじりながらスッラが囁く。死んだり殺されたりして地獄へ追いやられた魔犬たちの魂を、ウォルターの胎に呼び戻すのだ。呼びかけに応じた魂を使い魔とする術式はすでに胎の中に描いてある。悪魔はドラゴンが魔犬たちを、未だに大切に思っていることを知っている。

 「は、ァ、ゃッ……そんな、」

 当然それは死者や魂への冒涜でもある。

 けれど――もう一度会えるなら、とか思ってしまうのは、たぶん人間もドラゴンも関係の無いことだ。ウォルターの脳裏に、4匹の親しい魔犬たちが過ってしまう。

 「クク――お前は本当に可愛いなァ……ほら、使い魔のために魔力を貯めてやろうな?」

 溺れるような目で見上げてくるウォルターに微笑みかける。身体やスリットへの快楽で蜜をあふれさせるそこは、ウォルターの意思とは裏腹に、己を埋めて侵して従わせてくれるペニスを待ちわびていた。

 「うあっ、ひッ! んくゅゥ! きゅッ――ひ、ひぐっ……!」

 ずりゅ――り、とスリットからペニスが抜かれて、にゅぶ、と擬似ヴァギナへ埋め込まれる。人間の雌の胎を真似てつくられたそこは、きゅうきゅうと悪魔のペニスを締め付けた。

 「ぁ……あぁ……、ぁ、ひ、ぁ、あつ、あつい……!」

 泣きそうな顔をしてウォルターは訴えた。まるで熱された鉄に貫かれたようだ。熱くて硬い悪魔の一部が、胎を侵している。

 「ん。きもちいいな? ウォルター。はら一杯にペニスを押し込まれて気持ち良いだろう?」

 角を触れ合わせ、くちびるをついばんで、スッラは笑う。少しの身動ぎでも、くぷくぷと気泡のつぶれる音がした。

 見た目ばかりは優しげな顔を見てしまい、それが自分を甘やかすのを知っているドラゴンの喉は、クゥ、と幼く鳴った。助けを求めるような許しを請うような、期待をするような眼。

 ――何もかも、悪魔の思い描いた通りだ。

 「んひぃっ! あ、ああ! んああ゙ッ゙! ゃッ、ゃァアッ! すっら! すっ――ァ゙、ゃ、ぉっきい……!」

 「はは。ほんとうに、お前は何度シても慣れないな……く、ふふ。ウォルター。私だけのパルテニアス」

 「あ゙! あぅ――ぐ、ぅ゙、あああッ!」

 ぐちゅ! ずちゅ! ばちゅ! いよいよスッラが腰を使い始めてウォルターの胎の中が掻き回され、ぶつかり合う肌に音が弾ける。

 「ッぐ! ひっ! っは、ぁあ! あ、んッ、ふぅぅッ――!」

 「堪えるな。楽にしろ。お前が善くなれば善くなるほど私の力になる」

 悪魔の感覚と人間その他の生き物の感覚は、違う。例えば性感。悪魔や天使に性感と呼ばれる感覚は無い。生殖行為を必要としないのだから当然だ。けれど快楽や喜びと言う感覚や感情は、それらを糧としている以上、ある。つまり悪魔たちは性行為そのものよりも、性行為で生まれる快楽――を感じている相手だったり獲物だったりの快楽――を目的に行為を唆したり実際に手を出したりするのだ。

 だからスッラはウォルターが気持ち善くなればなるほど力を増せる。もちろんウォルターを気持ち善くしてやれることも楽しくてするのだが――いずれにしろ、スッラにとってウォルターとのセックスは利点ばかりの行為なのだ。

 「ひぎゅっ! やッ! ゃぁあ……! 奥、ぉくっ! ごんごん、ゃらあ……っ!」

 ごちゅっ! ごちゅっ! と胎の奥底を剛直で殴り付けられてウォルターが咽ぶ。無駄にそれっぽく作られた胎は、その中にもうひとつ部屋が設けられていて、そこの入り口となる部位がスッラのペニスの先にぢゅぷぢゅぷとはしたないキスを繰り返していた。

 「ああ。降りて来ているな。それに、咲(ひら)きはじめている。良い子だ」

 「ぉ゙ぐッ! ォ゙――、かひゅっ、ぃぎッ! ぅぎ! ィッ~~~!」

 ずゅぼずゅぼずゅぼ! ひくひく喘ぐ胎奥を抉じ開けようとする掘削にウォルターの顎が跳ねる。なのに両足はこの苦しいほどの快楽を与えてくる身体にしがみついているし――両腕は背中を、翼ごと引っ掻いていた。汗の滲む手のひらに、薄く柔らかな羽毛がくっついている。

 「きもちいいな? もっと善くなれ。そうすれば私たちの使い魔はより強くなる」

 「んひいぃぃっ!!」

 さらりとスッラがウォルターの腹を撫でる。それだけでウォルターは目の前の身体に掻きすがった。

 ぎゅむう、と締め付けられるペニスはそれだけウォルターが感じ入っていると言うことで気持ちいい。ついでとばかりにスッラはその手をシーツの上でシャラシャラ踊るウォルターの尾へ伸ばした。時折ぱすぱすシーツを叩いていたところを受け止めて、自分がペニスを挿入しているのと同じところへ埋めようとする。

 「ひぎゃっ!? ひっ!? やッ……すっら!? きしゃみゃ、にゃにを――ぉオオッ!?」

 にゅぷぷ、と先端から埋められていくドラゴンの尾は、自分が自分の胎を侵す感覚にのたうった。そしてそれは当然胎の中を刺激して――悪循環。

 「はは! けっこう呑むじゃあないか、ウォルタァ?」

 「ひあァッ! ひゃうっ! やだ、やら、こんにゃ、ぁ゙――やめ、うごくなっ! うごくにゃあ……っ!」

 「ははは。うん? ああ――ダメだ。お前は少し、ひどいこと、をされる方が気持ちよくなるから、こちらももう少しこのままでいような」

 「ひぎゅっ!? ぁ――あ、ああっ……! や、すりっと、だすっ――だひた、ひぃい゙ッ゙!」

 スッラの尾がウォルターのスリットの中へ潜り込んで、ようやく外へ顔を出していたウォルターのペニスに巻き付いてスリットの中へ押し戻してしまう。透明な蜜と白濁にまみれたドラゴンのペニスが、にゅぷんっ、とスリットに押し込められる。

 「うあ、あーっ! あ゙あ゙ー゙ッ゙!゙ くるし、くるひい、い゙ッ゙!゙ オ゙、あ゙、や゙――ぐちゅぐちゅ、や゙あ゙ッ……!」

 そしてあろうことか、スッラはスリットの中で尾を使ってウォルターのペニスを扱きはじめた。スリットとその後ろの孔の両方から、聞くに耐えない水音があふれる。ウォルターの両目からはぽろぽろ涙が流れ落ちて、口端から飲み切れなかった唾液がだらだらこぼれ落ちていた。

 「ん、ふ、ふふ、」

 「んぷっ――ぁぷ、うあ、ふ、んむ……!」

 ちゅむ、くちゅ、と口付けの音までぬかるんでいる。互いの牙に舌の触れる度、舌を擦り合わせる度、特にウォルターの背骨に快感がはしって堪らない。

 そうして――

 「んん! んうっ、んー! ん゙ゔー゙ッ゙!゙!゙」

 「ふ、はッ――はは!」

 大きくウォルターが身体をふるわせて、強張らせて、深く重く気を遣った。だと言うのに、

 「ぷあ、は、ァ゙――、ひゅっ、ァ゙、ゔ……、くぁッ……! や、め、ぇ゙……!」

 スッラの手がウォルターを掻き抱いて、腕を回した背中の翼の付け根に沿わせるのだから快感が後から後からやってくる。重なった胸に起っていた乳首が押し潰されて、身体の揺れる度にくにくにと擦れていた。

 上機嫌にくふくふ笑うスッラと対照的に、ウォルターはもう息絶え絶えだ。

 「うん? ああ。よくやった、ウォルター。良い子だ……よく眠れ。後は私がやっておく」

 スッラが少し身動ぐだけでとっぷりと魔力を注がれた胎が揺れた。気がした。

 結局悪魔の思う通りになったことにドラゴンは悔しげにグルグル喉を鳴らす。が、悪魔にとっては可愛い仕草に他ならない。汗やら何やらに濡れた頭や頬を、子供にするように優しく撫でられる。それもまた悔しいことに心地好くて目蓋が重たくなる。

 「うぅっ……ゔー……」

 「明日は一日安静にな」

 とびきり甘い悪魔の囁きに、意識は黒く塗り潰されていった。


 次の日、ウォルターは案の定ベッドから出られなかった。

 綺麗に整えられたベッドの中で、重さを感じる腹を抱えて、使用人と言う体で来客対応をするスッラの動向に気を張っていた。

 ――オーナー・ウォルターは本日体調を崩しておりまして……

 ――ありがとうございます、レディ。お代は確かに頂きました。こちらがお約束の品……

 ――サー、困ります。ご友人と言えど予定の無いお客様をお連れになるなど……

 小さく聞こえてくるスッラと客のやり取りを聞いていれば、終に最後の客が品物を受け取って帰っていった。それから少しして、カチャリと扉の開く音。

 「客が多くないか? まさかいつもこれだけ相手にしているわけではあるまい」

 受け取る対価も渡す品も、何もかも理想的に仕事を終えたスッラは部屋に入ってくるなりそんなことを言った。服装は使用人のままだ。

 「……明日から数日休みを取っている」

 「だから今日は客が多かったのか。それで? 明日から何をするつもりなんだ?」

 ベッドのふちに座って、ウォルターの頬を指の背で撫でる。けれど当のウォルターは不満げだ。

 「……海を渡って、あの山へ行く。追われたとは言え、あそこは俺たちが管理すべき「領域」だ。放っておくことなど、できない」

 つまり里帰りをする予定だったらしい。スッラは鼻を鳴らした。

 「あそこにはもう人間が住み着いているだろう。何かあったとしても人間たちの自業自得だ。お前が責任を感じることも、負う必要もない」

 「……お前“には”関係の無いことだ」

 お前(スッラ)には関係無いけれど、自分(ウォルター)には関係がある。ムッとした表情でウォルターはシーツに潜ろうとした。その時だ。

 「――っ!」

 ウォルターの顔が苦しげに歪んで、額にじわりと汗が浮かぶ。

 スッラが口角を吊り上げる。

 「っぁ! っ、ぐ、うっ……!」

 「楽にしろウォルター」

 スッラの手がウォルターの下肢を覆っていたシーツを取り去り、ゆったりとしたネグリジェを捲り上げる。相変わらずすべらかなウォルターの下肢は、けれど今は薄く膨れていた。

 「先にこちらを出すか」

 くちり、とスッラの指がスリットを割る。立てられた膝の間に、胸元で必死にシーツを握り締めるウォルターが見えた。

 「ひいッ――、ィ、ぁ、あぅ……!」

 スリットの中をスッラの指がまさぐる。だがそれとは別に、スリットの中で動く「何か」をウォルターは感じていた。

 「あう、あっ、ふあ……っ、んんッ……!」

 くちゅりとスッラの指が何かを掴む。そしてそれを、ずりゅり、と引き出し始める。

 「んひっ! ひ――ふゃ、ぁ、ァァア……!」

 ウォルターのスリットから、しなやかな蛇が引きずり出される。ずりゅずりゅと内壁やペニスを擦りながら出てくる「それ」に、ウォルターはぽろぽろ涙をこぼす。

 「良い子だ。――ほら、お前のおかげでこんなにも艶やかな使い魔になった」

 ウォルターのスリットから取り上げた使い魔を眺めて、その主たる悪魔が満足げに言った。額に上機嫌なくちびるが押し付けられる。使い魔もまた感謝を示すようにウォルターの頬へ吻を押し付けた。

 「さて。ではあと2匹、頼むぞウォルター」

 額を合わせながらいとしげに囁かれた言葉に、ウォルターは言葉と呼吸を失った。


 「っう――、ひ、ひぐっ……、ひっ、はひ……、っ、」

 くったりとベッドに沈むウォルターの枕元には赤と黒と白の、3匹の蛇が寄り添っていた。ウォルターを気遣うように、あるいは甘えるように、頭や身体を擦り付けている。

 「頑張ったな、ウォルター。良い子だ。とても可愛らしくて愛らしくて――美味だったぞ」

 そしてそれらの主であるスッラは実に満足そうだ。それもそうだろう。蛇たちを引き出すのにウォルターが快感を感じて、それをまた喰べていたのだから。ツヤツヤニコニコとしている。

 だが。

 「それではお前の番だ。犬どもを取り上げてやろう」

 そわりとスッラの手が下腹部を覆う。胎の中で、温かい何かがくるりと動いたような気配。

 そうだ。終わりではない。まだ終わっていないのだ。

 ウォルターの呼吸が浅くなる。だってそんな、ダメだ。もう、今日はもう、だって、もういっぱい気持ち良くなってしまった。これ以上は。

 もうひくひくし始めた腹を撫でて、スッラは、今日はちゃんとスリットの外で射精をさせてもらえたペニスも撫でてやる。自分の伴侶になった上、雌の存在はおろか生存している同胞も耳にしないから、コレが誰かの中に入るなんてことは一生無いのだろう、と愛しく思う。

 「好きなだけ善がれ。潮を噴いても片付けてやろう」

 ――結局。

 ウォルターが昨夜の最中に想いを馳せた4匹の魔犬すべてがその胎から使い魔としてウォルターの元へ戻ってきた。その度に悶えてのたうって顔や身体を色々な液体でぐちゃぐちゃにしたけれど、最後には生理的なものではない涙をぽろぽろこぼして、戻ってきた使い魔たちを両腕で抱え込んでいた。そんな姿がやっぱりスッラは可愛くて愛しくて、ウォルターの頭を撫でてキスをした。

 さて後はどうやってこのドラゴンの里帰りを阻止するかだ。

 ……ところで数分後にスッラが、ウォルター以外に従う気のない魔犬たちに「私もお前たちを使う主人だが」と――そも魔犬たちが使い魔として帰ってこられたのはスッラの術のおかげでもあるし、何より使い魔としての魔犬たちはスッラとウォルターの魔力の上に存在しているのだ――悲しい現実を告げて一悶着あることを、ウォルターはまだ知らない。




 とある街の一等地。その中でも特に大きなバロック風の屋敷は、ウォルターと言う男が丸ごと買い上げて己がねぐらとしていた。

 そしてその屋敷には、広い地下室があることを、多くの人間は知らなかった。


 スッラが屋敷に帰って来たとき、ウォルターの気配はあるけれどその姿はどこにもなかった。

 風呂桶に沈んでいるわけでも、書斎の机で突っ伏しているわけでも、ベッドのシーツに包まっているわけでもない。はてどこへ――と首を傾げかけた時、ふと地下のことを思い出した。

 元々何のために用意された空間なのかは分からない。ただ、前の住民か、その前、前々の住民かが集めたらしい、鉄さびにまみれた悪趣味な丁度は日の差さない薄暗い空間にはお誂え向きだろう。今や出る幕は無しと空間の片隅へ乱雑に寄せられたそれを、時々スッラが獲物へ面白半分に試していることをおそらくウォルターは知らない。

 カツンカツンと音を響かせて石造りの階段を下っていく。明かりなど無くとも、悪魔の目には周りがちゃんと見えている。

 そうして、最後の段を下りた足がコツリと剥き出しの石畳を踏む。大きく広い地下の空間に、山のような影がもぞもぞごそごそと動いていた。

 それは人間たちがおとぎ話に謳うドラゴンそのものだった。

 ドラゴンは肢や尾で背中や翼を掻いているようだった。ぽろぽろと欠片や破片のようなものが床に落ちていく。けれどどうにも、失った前肢や不自由になった後肢の分、上手く古い殻を落とせない箇所があるらしい。どこかもどかしげに尾や翼が揺れている。

 スッラはそんなドラゴンの様子に苦笑して、コツンと高く足音を立てた。

 ぴくん、とドラゴンの動きが止まる。

 「ウォルター」

 トッ、と文字通り一息でスッラはウォルターの鼻先に姿を現す。ドラゴン――ウォルターは隠し事のばれた子供のように小さく首を竦めた。

 クルル……とどこか弱気な鳴き声はスッラに見つかってしまったからだろうか。何にせよ、スッラにとってウォルターはいつだって可愛らしい。

 人間たちにはまったく異形に見られる紅殻多眼の美しいドラゴンに口付けて、その吻を撫でて、背に回る。背角の根本や翼の付け根の周囲の古い殻が、半端に割れていた。

 「時期が来たら言えと言っているだろう」

 カリカリ、ペリペリパキパキとスッラの手が古い殻を取り去っていく。それが気持ち良いのかウォルターはぷるぷると身体をふるわせながら大人しい。目蓋も瞳も無い多眼が、心地良さげに細められているように見える。

 「角はどうだ? 見せてみろ」

 「グゥッ」

 ウォルターは首を横に振った。拒絶とか断りの意だ。けれどスッラは構うことなくウォルターの額の上、角の根本まで移動して具合を見始めてしまう。

 まるで子供の世話でもするかのような仕事振りにウォルターはグルグル喉を鳴らして不満を表す。物理的に振り払おうとしないのは、地下空間ひいては屋敷を壊さないためと、スッラを――悪魔がこの程度で傷付くことなんて無いのだろうけど――傷付けないようにと言う無意識なのだろう。

 そしてやっぱり角も表層が脆くなっていたから、スッラがカリカリペリペリと古い殻を落とし始めてくれた。

 「ンキュ……クゥ、……グゥッ、グウゥ」

 子供扱いするなとかなんとか言おうとして、けれど結局クゥクゥ甘い声が出てしまうのは仕方のないことだった。何故ならスッラはウォルターの身体をよく知っていた。スッラがウォルターの身体をそうしたとも言える。

 けれど――それをウォルターは知らないだろう。だからたぶん、もう一人でやる殻落としには満足できない。哀れなことだ。ドラゴンと言う種族が避けて通れない行為を、一人ではできなくなってしまっている。自覚の無いまま、悪魔に囚われてしまっている。

 「――やはりお前の殻は美しいな。人間たちが欲しがるのも頷ける」

 それでも――やはり愛されている、と言うことは、幸せなことなのだろう。


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