top of page

【R18】フェアウェル・トラジコメディ

生存if英スラウォル。ニキに横恋慕するモブ♀に罵倒されるウォルとか。
お仕置き、拘束、玩具責め、尿道責め(一瞬)、ローションガーゼ、潮吹き、濁点喘ぎ等有り。の割にえっちくないのはいつものこと。悲しい。

改行は試行錯誤


生存if英スラウォル

ニキが怒ったりウォルがどろどろになったりする感じ。

ニキに横恋慕するモブ♀有り。モブ♀はウォルを罵倒したり死んだりする。

お仕置き、拘束、玩具責め、尿道責め(一瞬)、ローションガーゼ、潮吹き、濁点喘ぎ等有り。の割にえっちくないのはいつものこと。悲しい。


ニキにわからせられるウォルが見たいです何度でも。

何度でもわからせてくれ。


諸々捏造と妄想(相変わらず)。

気を付けてね。


---


 「ハンドラー・ウォルター!」


 背後から甲高い敵意をぶつけられて、ウォルターは足を止めた。数ヶ月ぶりのまとまった休みを楽しむためか、杖を持っていない方の手には旅行鞄が提げられていた。


 「ハンドラー・ウォルター、あんたは……、あんたはっ! あのひとに相応しくなんてない!」


 振り返った先には女がいた。若い女だ。そしてその女はウォルターにかたちのいい指先を突き付けて、そんなことを叫んだのだ。

 当然、ウォルターは女が何の話をしているのか分からない。相応しいとか言っているから仕事の話だろうか。しかし「あのひと」と個人を指すような言い方が引っ掛かる。誰のことだろう。パイロットスーツとジャケットは見慣れないデザインだから、最近ルビコン入りした企業に雇われている傭兵か、そこの所属だろう。……ああやはりよく見れば最近耳にした記憶のある企業のロゴが見える。

 けれどやはり、その企業の関係者が自分に何の用があるのだろう。心当たりは何もなかった。


 「……?」


 振り返って、首をかしげて、何か勘違いでもしているのだろう、と女と関わらないことにする。


 「っ待ちなさいよ!」


 当然女はウォルターに追い縋った。コツンと音が近付いて、女の手がウォルターの腕を掴む。鞄の揺れる衝撃と腕を絞められる痛みに、ウォルターの眉が微かに跳ねた。


 「あんたがあのひとに付きまとってるのは分かってんのよ! 巷ではあのひとがあんたに執心してるって言われてるみたいだけど、そんなはずない! あのひとが誰か一人に執着するはずない! それもあんたみたいな男に! 理由がないもの!」


 女の喚く内容に、ウォルターはまさかと嫌な予感がした。


 「それに、なに? 杖? 戦場にも出られない「ハンドラー」なんて、お荷物もいいところだわ! あんたみたいな無愛想で後ろ楯になるような企業もない男に、コネや根回しなんてできないでしょうし!」


 女の喚き声はウォルターの左耳から右耳へ抜けていくばかりだ。女の言う「あのひと」が誰を指しているのか、何となく分かってしまって、もう嫌な予感を通り越して悪寒が背筋を這っている。

 だってそうだろう。嫌な予感ほど当たるものはない。あの男ほど、出てきて欲しくない時に出てくる男はいない。


 「なんとか言ったらどうなの!?」


 女が甲高い声で叫ぶ。耳がキンキンした。


 「……悪いことは言わない。お前がどこの誰で、どこの誰を好こうが構わない。だが、今すぐその手は離してくれ」


 「は?」


 女に掴まれた腕はミシミシギリギリ言っていた。たぶん、痕がついている。女性らしい細指からは考えられない握力は、やはり強化人間のものだろう。


 「は? あんた、なに言ってんの……!? 自分の立場分かってんの!? 離して欲しけりゃあんたが「あのひとにはもう近付かない」って言うのが通りでしょ!? ってかなに? あたしが誰なのかどうでもいいって? ほんとムカつく! あんたこそどこにでもいるオッサンのくせに……!」


 女の言葉がチクチクと突き刺さる。

 表情には出さないけれど、それは日頃ふとした瞬間にウォルターの胸を過るものだ。今は背筋の悪寒でそれどころではないけれど――ああいや、そうか、それでいいのだ。それがいい。考えなかったことではない。ならばいつでも、今でも良いはずだ。ならば、はやく。はやく逃げなければ。「ここ」から。

 ウォルターは「わかった」と平坦な声で言った。


 「分かった。そうだな。あいつにとっても、俺のような人間ではなく、お前、否、貴女のような若く美しい女性と人生を歩む方が良いだろう」


 その言葉に、女の口許がニィと弧を描く。その声の平坦さにも、その表情の無機質さにも気が付かず。


 「俺は、ハンドラー・ウォルターは、独立傭兵スッラと今後一切関わらな――」


 「ウォルタァ? 遅いから何をしているかと思えば……浮気か? はは、お前が浮気とはな。器用になったなァ?」


 蛇が鎌首をもたげるような声だった。

 ウォルターの身体がビシリと固まり、女の表情がパァッと明るくなる。

 渦中の人物であるところの、独立傭兵スッラが薄笑いを浮かべて立っていた。

 女はウォルターの腕からあっさりと手を離した。服越しだったと言うのに、くっきりと痕がついている。それを隠すように腕を下ろして、スッラに駆け寄る女の背中をウォルターは見送る。

 だが、当のスッラは真っ直ぐにウォルターの元へやってきた。両腕を伸ばして駆け寄ってきた女をするりと躱して――まるで元から擦れ違う場所を歩いていたかのように!――ウォルターの手から鞄を取り上げ、熱を帯びた腕をとる。


 「随分熱烈に迫られたようだな。痛みはあるか?」


 袖の下に顔を覗かせる痕にくちびるを寄せる姿はおどけているようにも見える。けれどウォルターは自分に向けられる眼の鋭さと冷たさに、カタリと身体をふるわせる。


 「な、なんでもない。大丈夫だ。彼女とは何もない」


 「ふぅん?」とスッラは目を細める。「そうか?」口唇だけで手首を食む姿は、丸呑みする獲物の大きさを測る蛇を思わせた。


 「そうよ! なんでもないわ! 何の問題も無い! だから、ねえ、そんな男放っておいてあたしと仕事をしましょう?」


 スッラの腕に女が絡み付きしなだれかかる。豊満な胸が押し付けられていた。ぽってりとふくれた唇はコーラルピンクで、声も同じような色をしている。ウェーブのかかった柔らかそうな髪も潤んだ大きな瞳も、何もかもウォルターには無いものだ。


 「仕事? それは指名の依頼と言うことか?」


 しかしスッラは、声をかけられて初めてそこに女がいると気付いたように――視線だけを女に向けた。


 「っそ、そう……そうよ、あなたを指名、するわ」


 「……内容は?」


 スッラに「仕事」を受ける気がないことなど、ウォルターにはすぐに分かった。そもそもスッラが「仕事」を受けたと言う話など、半世紀前に手術前のスッラ自身から聞いたものが最後だ。以降は「狩り」をしたと言う話ばかりで、「仕事」をしたとは聞いたことがない。ウォルターが出す「仕事」ですら、「仕事」としては取っていないようだった。


 「AC、の乗り方……戦い方、をもっと、知りたいの」


 それを聞いて、スッラは「ハ!」と盛大に嗤った。


 「それは「傭兵の」仕事じゃあないな?」


 「……っ!」


 一蹴されて女が息を呑む。スッラはその一瞬で女の腕から腕を抜き、ウォルターの腰を抱いて去ろうとしていた。ウォルターはまだどこか青ざめていて、されるがままとなっている。


 「まっ、待って! どこに行くの!?」


 けれど女は追い縋る。あろうことか今度はスッラの腕を掴んで引き留める。


 「……お前に関係あるのか?」


 スッラは見るからに面倒臭そう――どころか興味を失った顔をしていた。横顔だとて、それは十分見て取れただろう。


 「そ、そんな男! あなたには相応しくない! あたしは強化人間なのよ!? ACに乗れる! そんな男よりあなたに相応しいわ!」


 わなわなと女の身体は震えていた。おそらく、異性にぞんざいに扱われたことが今までないのだろう。悔しさとか怒りとか、その類いの感情が垣間見える。

 だがそんな矮小で低俗なプライドなど、スッラには取るに足りない塵芥だ。


 「知っている。最新式だろう? オートマニュアルのつまらんにおいがする」


 「つっ……!?」


 ましてや自分が強化人間であることを引き合いに出すようなパイロットだ。色々な意味で未熟なのだろう。


 「でっでも、あたしは強化人間だから……っ、「そいつ」にはできないことも、できるわ……!」


 それに加え、その執心はACや闘争ではないところにある。なんと愚かで哀れだろうか。

 だがスッラは憐憫も同情も女に対して持たなかった。スッラの、女に対する眼が空気が、ひたすら無機質で冷たいものになっていくのを、ウォルターだけが気付いていた。それは無関心よりもなお悪いものだ。けれど、口を出すことは、腰に回された手が禁じていた。


 「……私のために身体を張れると?」


 「! え、ええ! もちろん!」


 その言葉は、女にとって希望の光に見えたらしかった。

 そうしてスッラとウォルターとその女は、場所を移すことになった。

 移動する間、女は聞かれてもいないのに自分のことをペラペラとよく喋った。

 女は最近ルビコン入りした企業の社長の娘だと言う。社会勉強のためにルビコン展開部隊に同行し、そして入星の折り、スッラに助けられたのだと。眼が合った。微笑まれた。運命だった。だから自社で完成したばかりの最新式の強化人間手術を受けたのだと。もちろん手術のために親にはその動機を伝えて、その上で許可を得たのだから後はもうスッラと一緒になるだけだ――等々。

 世間一般的な感覚で考えて、社長令嬢と「一緒」になるのは良いことだ。金も地位も手に入る。安泰だ。

 だがそれは世間一般的な感覚であって、独立傭兵――それも半世紀以上前から活動している、第一世代!――の琴線には、端も引っ掛かりすらしない餌だった。

 スッラは女のことなど知らなかった。企業の名前も、聞いたことがない。試しにウォルターへ視線をやれば、すぐに逸らされて、微かに震える唇が数ヶ月前の日付だけを呟いた。それで「そう言えば船の護衛をした気がする」と朧気な記憶を蘇らせたのだ。ああそうだ、確かウォルター――ルビコン防衛戦線だとか言っただろうか――がそんな内容の公示を出していたから参加した。ウォルターと世間話でもするために。

 さすがだな、とスッラはウォルターを撫で回してキスの雨を降らせてやりたくなった。さすがウォルター、アイコンタクトだけで意図を汲んでくれるとは! ……まあ、その前に話しておくべきことがあるようだが。

 そして辿り着いたのはホテルだった。

 女が喜色満面でその大きな胸を、抱え込んだスッラの腕に押し付ける。ウォルターは青ざめた顔に冷や汗を垂らしてもう哀れな様だ。しかし逃げ出さないのはスッラに鞄を持たれているためか、逃げても無駄だと理解しているからか――逃げればより酷い目に遭うと知っているからか。

 観光のため、と言うよりも仕事のために建てられたホテルは、まだ満室であることが少ない。上層に設けられた、スイートとかスペシャルとか名前の付けられた部屋ならば尚更。

 カウンターへ真っ直ぐに向かったスッラは、慣れた風に空いていたスイートルームのひとつをその場で一晩買った。

 スイートルームを買う男と、青ざめた顔の男と、キャアキャアはしゃぐ若い女。奇妙な組み合わせではあるけれど――カウンターのスタッフは綺麗な営業スマイルを崩さなかった。それはそのスタッフが仕事にプライドを持っているからであったし、ここがルビコンⅢという場所であるからだ。

 部屋に入ると、スッラはウォルターの背を押した。ベッドへ行くよう促されていることは言うまでもなかった。カチャン、カシャン、と鍵の閉まる音とドアチェーンの落ちる音に、ウォルターは足を動かさざるを得なかった。


 「……」


 「脱げ」


 鞄をバゲージラックに下ろしたスッラが言う。ベッドの前で所在なさげに立っていたウォルターは小さく肩を揺らした。チラリと揺れる眼が、我が物顔でベッドの上に寝転がる女を見た。当然、スッラはそれに気付いている。それでも――。


 「脱げ」


 薄く浮かべられた笑みに、カタカタ震える指が服にかけられる。

 その日もウォルターは飾り気のない、地味と言ってもいい服だった。

 部屋まで羽織られたままだった上着をシングルソファにかける。そしてそのままソファに腰を下ろす。次は、シャツを脱ごうとしていた。

 けれど、そこでスッラが待ったをかけた。


 「下を先に」


 「なっ……!」


 「下を、先に、脱げ」


 にこやかで穏やかな表情と声音が、ひどく重い。もちろん下着も、等とはわざわざ言わない。言わずとも分かるだろう? とスッラは言外に言っているし、ウォルターもそれをちゃんと分かっていた。

 カチャカチャとベルトを外す音がする。ゴソゴソと言う衣擦れの音の合間に、ジッパーの下がる、焦げるような音がした。


 「……っ」


 もぞり、とウォルターは、ソファの肘掛けを支えに立ち上がる。そうして、ストン、とウォルターの履いていたスラックスが、下着と共に落ちた。

 スッラの口角が上がる。女が息を呑む微かな音が聞こえた。

 ウォルターの下肢には、その急所を戒めるモノが這っていた。衣服に隠れていた肢体は存外しっかりとしており、黒を基調としたソレに引き立てられている。だが当然他人に、それも異性に曝すようなものでもない格好に、ウォルターの頬や耳には熱が上り、双眸は潤みを増す。キュ、と噛まれた唇が、どこか幼い。


 「良い子だ、ウォルター。ちゃんと着けていたな」


 スッラが上機嫌に言う。女が口を開く前のことだった。


 「良い眺めだろう? 私が着けさせた」


 視線も投げずに――まるで独り言のように語る。

 コツ、コツ、とスッラは踵を鳴らしてウォルターが支えとするソファの後ろへ回る。そして何をするのかと眼で追っていたウォルターの肩を掴むと、ソファに腰を下ろすよう促した。

 ウォルターは、戸惑いながらも応じる。座れば、足を閉じて、多少は醜態を隠せると思った。

 しかし淡い期待は呆気なく踏み潰される。

 掴まれたままいた肩が引かれ、そのまま背凭れに深く沈められる。何を、と言う思考を、シュルリと硬い布の擦れる音が遮る。ほとんど同時に、手首に黒いものが巻き付いていくのが見えた。

 スイートルームには複数の「衣装」があった。アロハやローブや浴衣。宿泊客がどこの誰だろうと、好きな格好、寛げる格好ができるように、用意されているのだ。

 自分の腕に巻き付くそれが浴衣の帯だと気付いたのは、少なからず馴染みがあったからだ。昔々、恩師に教えてもらった遠い場所の伝統衣装。それが今、自分を辱しめるために使われている。


 「スッ、ラ……! 貴様っ……、」


 あっという間に腕を括られて、足もあっさり絡め取られていく。バタつかせようとして羞恥に縮こまり、広げられようとしてなけなしの抵抗をする。

 そうして出来上がったのは、シングルソファの上で自由を奪われたひとつの痴態だ。


 「まあ――この程度なら「誰にでも」できる」


 スッラは自分が作り上げたオブジェを指の背で撫でながら語る。ギシギシ帯とソファを軋ませるウォルターが、その目にははっきりと写っている。


 「なあウォルター、残念だが今日は……いや、今回は甘やかしてやれそうにない。しかしそれが何故か、お前は分かっているだろう?」


 「ひっ――!」


 それなりの重さがあるはずのソファがグルンと回る。ベッドの上に投げ出された、柔らかそうな女の肢体がウォルターの視界に入る。それはシングルソファに押し込められた、硬い義肢を持つ男の身体とは対照的だった。

 鼻の奥が、ツンと痛んだ。

 直後、カチリ、と安っぽいスイッチの音がした。途端に、ヴヴヴヴヴ、と鈍いバイブ音が、ウォルターの秘所から。


 「ほんとうは、ちょっとしたスパイスにでもなればと思っていたのだが……まあ、たまには良いだろう。死にはしない」


 「死ッ……!?」


 「何を怯える? お前はこいつよりも身体能力の優れた強化人間なのだろう? ならば何を怯える必要がある」


 「い゙ッ゙――、ァ゙、ぐッ、ぐぅぅう……ッ!」


 ガタッとソファが揺れる。ウォルターが藻掻いていた。

 頭や頸は固定されていない。必死に、秘所からの刺激を散らそうと、手足の指をぎゅうと握り込みながら、頸を振る。整えられていた髪が乱れていくのが見て取れた。


 「ひっ、ひ、ィッ、ぎ、っ、ぅ゙あ゙、ァ゙……!」


 ウォルターの様子からは、それが痛いのか気持ちいいのか、第三者からは判りかねた。

 普通、いまウォルターが着けている――着けられている――ようなものには性感を刺激されるはずだ。それなのにウォルターと言う男は悲鳴のような呻き声ばかりを上げている。女には、それが「好い」ものには見えなかった。


 「ア、ァ゙ッ、ひゅッ、ゔ、ん゙ぅ゙……っ!」


 ガクン、とウォルターの身体が跳ねた。達した――のだろうか。だが、機械の音の止まる気配はない。

 ポケットから出てきたスッラの手には小さなリモコンが握られていた。つまり、やはり「ソレ」の持ち主はスッラなのだろう。

 相棒を失ったローテーブルの上へそれを放って、スッラはシングルソファの肘掛けに腿を乗せる。戯れに投げ出された手はウォルターの顔の側へ垂れてその甲で頬を撫でていた。

 薄く笑う男の顔が、ベッドの上の女を向く。

 ああ。

 ひどい画だ。


 「なあウォルター。私からお前を奪おうとしたのはこの女か?」


 そして――ああ、ひどい話だ。

 男(スッラ)は女の方を向いていながら女を見てはいない。すりすりと手の甲で優しく頬を撫でているウォルターへ意識(ことば)を向けている。


 「あ゙……っ、ァ゙、ひゅっ、ぁ゙、が、ァ゙ッ、っち、ちが、ぁ゙あ゙ッ!」


 「なっ……!?」


 悲鳴のかたちに崩れた言葉を拾って女が目を見開く。ウォルターが何を言っているのか、一瞬わからなかった。


 「お゙ッ、ぉ゙お゙れっ、おれ゙ッ、が、ァ゙ッ、じぶン゙ッ、でえ゙ッ……!」


 「私から去ろうとした?」


 相変わらず薄笑いのスッラが引き継いだ言葉に、ウォルターは真っ赤に色付いた首を縦に振った。


 「そうか?」


 しかしスッラはウォルターの言葉に納得していない、もとい、真実や本心ではないと考えているようだった。見え透いた嘘を吐く子供を追い詰めるように、音だけは優しく相槌を打つ。


 「やはりお前は優しいな、ウォルター。だがその優しさというやつは、時に侮辱や無理解にもなると言っただろう?」


 スッラの言葉に女はハッとした。

 そうだ、いま、ウォルターは、ハンドラー・ウォルターは女を庇おうとした。女が「スッラから離れろ」と迫ったのに、ウォルターはそれを無かったことにしようとした。ただ「自発的にスッラの元を去ろうとした」のだと言った。そんなはずはないのに。

 それは女からすれば圧倒的優位からくる哀れみでありプライドを傷付けられることだった。女は無意識のうちに「噂」が本当なのだと認めてしまっていた。

 そしてそこで――スッラにウォルターとのやり取りを聞かれていたことに、女は気付かなかった。


 「――ふッざけないでよ! 何様!? あたしに言われるまでもなくこのひとの前から消えるつもりだったなんて言うつもり!?」


 それはつまり女がウォルターに言わせたという自白でもあった。スッラの目が微かに細まったことに、女は気付かなかった。

 良い子だ、とスッラがウォルターを小さく褒める。その指先が、ウォルターのペニスを塞ぐ細い棒へ伸びた。

 先端の輪に指をかけ、引き上げる。ちゅぷぷ、と音ばかりは愛らしく、球の連なったかたちのそれが、ペニスの中を擦りながら顔を出す。かと思えば、ちゅぽぽ、と引き出された分を押し戻される。案の定、ウォルターは顔を真っ赤にして身体をガクガクふるわせた。


 「あ゙、ふァ゙、ァ゙、ぐ、ぅ゙……ッ!」


 ウォルターが散々達していることは分かりきっている。半身に触れられもせず、と嗤うこともできただろうが、そうしてしまえば――その言動から――スッラがウォルターを真実「そう」したのだと認めてしまうことになると、女は本能で理解して口を噤んでいた。

 ちゅぽ、と小さく音が弾ける。次いで、カチャカチャと小さく硬い音。シャラリと外されたのは、ウォルターの下肢を縛っていた器具だった。


 「ひゅっ――、ひっ、はッ、は、ひ、ひッ――」


 栓と抑えを失って、ウォルターのペニスが起ち上がる。トロトロとあふれる涎は幹を伝い会陰を濡らし、ひくひくと無機質を咥え込む後孔をぬらりと光らせた。


 「っ! ぐ、ぅ、ぅ゙……!」


 スッラの指が、トントン、とウォルターの後孔を埋める物の頭を叩く。それから、ぐ、と下腹部を手のひらが押した。

 かは、と乾いた空気が吐き出される。スッラの手のひらに、ウォルターの胎の中で硬い機械が動いているのが伝わる。


 「ひっぐ、ぅ゙! あ、ァ゙! ぃ゙や゙ッ……ゃ、やめ、ぇ、え゙……!」


 ぐ、ぐ、と気紛れに腹が押され、ウォルターは咽んだ。


 「あ、あ゙――、っァ゙、」


 スッラの手の甲に顔を擦り付けながら喘ぐウォルターを見下ろす眼は穏やかで、それがむしろ恐ろしい。


 「ふふ。好さそうで何よりだ」


 好い――で済んでいないことは明白だ。玩具が、好い場所に当たってばかりなのだろう、ずっと身体を跳ねさせるウォルターが達し続けているのは見ればわかる。だって一度達してから、ずっと玩具に攻め立てられている。達して敏感になった身体をなぶられて、どうして達さずにいられよう。

 ぴゅくっぴゅくっと吹き上がる白濁に、結局まだ脱がれていない上の服が汚れている。スッラはそれに気付いたようだった。あるいは、布に覆われたままの身体に用があったのだろう。


 「ああ、随分汚したな? まったく仕方のない……これ以上汚さないようにな? ウォルター」


 するすると服を捲り上げながら、世間話でもするようにスッラは言う。苦しげな唸り声は抗議だった。

 地味な服の下から現れた胸の飾りは既に起ち上がっていた。充血したそれは汗に濡れて果物を思わせる。うっとり笑って、スッラはそれをグリリと押し潰した。


 「ひっ――ぐ、ぅ、あぁあ゙ァ゙ッ!」


 びぐびぐ! とウォルターの身体がまた跳ねる。とぷっとペニスが白濁を吐き出した。


 「おっと。いけないな、ウォルター。出すなと言っただろう?」


 無茶を――言っている。

 スッラがウォルターをいじめていることは、もう女も分かっていた。


 「仕方のない子だ。私がきれいにしてやろう」


 言いながら、スッラはポケットからガーゼハンカチ――それはいつかウォルターが持たせたものだ!――を取り出してそこへトポトポと潤滑剤を垂らす。溢れるほど、執拗なくらい。

 そしてその潤滑剤でひたひたになったガーゼハンカチをウォルターのペニスに近付けて、そこで、ふと女の方を見た。


 「そう言えば――」


 弧を描きつつも、笑っていない目が女を写す。


 「クリトリスにはペニスの倍の神経が通っているらしいな?」


 どうでも良いことだが、と言って、スッラはべちゃりとハンカチをウォルターのペニスに当てて動かし始めた。その眼に写るのは既にウォルターだけだ。


 「ひぎゃっあ゙ッ――」


 「もしもお前のペニスに通る神経の数が倍になったとして、これと同じことをしてやったら、お前はどんな風に悦んでくれるんだろうな?」


 もはや声になっていない悲鳴が上がる。シングルソファがガタガタ暴れて、自由を奪われた四肢が哀れに藻掻いていた。反った喉仏と天井を仰ぐ顎先が、見えていた。

 びしゃり、ぱたたっ、と透明な液体が飛んでスイートルームを汚す。とける、くるしい、もうだめだ、やめろ、やめて、と獣の言葉で啼くことしかできないウォルターには気にしていられないことだった。


 「ウォルタァ、出すなと言っただろう」


 愉しそうなスッラの声の影で、バタバタ、バタンッと物音がした。

 スッラは横目で部屋を出ていく女の後ろ姿を確認して、すぐにウォルターにニコニコと声をかけ始める。物音も声も、当然ウォルターには聞こえていなかったけれど。


 「……」


 「や゙、や゙ァ゙ッ、ぎひッひゅっ、カハッ、ア゙、ア゙ア゙ア゙!! ン゙ッゔ、ぐ、ァ゙! ォ゙ッひゅっ! ッァ゙、ァ゙――~゙~゙~゙~゙~゙!!」


 女が消えて少し。

 スッラは何か考え事をしている様子で、片手間に片手を動かしているような状態だが、ウォルターはどこもかしこも真っ赤にして、びしょびしょにして、ぐちゃぐちゃになっていた。


 「ふむ」


 「ァ゙、がッ」


 ひとつ頷くと、スッラはあっさりとウォルターを苛む手を止めた。ずりゅんと乱雑に粘膜を擦られてウォルターが啼く。その声にスッラの目が丸くなり――悪い、と素直な謝罪。けれどウォルターはもう意識を飛ばしてくたりと身体を弛緩させていた。

 それを知ったスッラはウォルターの自由を奪っていたすべて――後孔で動いていた玩具も含めて――を取り去る。散々暴れたお陰で肌は毛羽立ち赤くなっていた。労るように、あるいは誘われるようにくちびるを落とす。

 ソファから抱き起こしても、まずは頬やこめかみにくちびるを落とした。

 弛緩した身体を抱えて風呂場へ行き、どろどろになった身を清める。安全丁寧を取れば飛沫の避けようはなく、ついでとばかりにシャワーを浴びた。

 それからふかふかのバスローブを着て、着させて、僅かに皺のついたベッドへウォルターを下ろす。シーツを被せたウォルターから一旦離れたのは、端末を取りに行ったからだった。

 女のスーツに書かれていた社名を検索すれば、あっさりとホームページが検索結果に現れる。そこには当然、社長の顔や名前もあった。

 そこからは先は「裏」のネットワークだ。社長の「個人的な」連絡先を探して、メッセージを送りつける。名前はない。サーバーもいくつも経由させる。けれどエンブレムは添えてやる。誰からのメッセージなのか分からなければ意味がないからだ。

 トタトタと画面を叩いてメッセージを組み立てるスッラの横で、もぞりとシーツの擦れる音がした。眼を遣れば、ウォルターが薄くまぶたを開いていた。そしてその薄い唇がはくはくと動いているのをスッラは見とめたのだ。

 「うん?」と首をかしげて、言葉を促しながら、端末から離れた片手は手の甲、指の背で眠りを誘う。


 「――……、かのじょ、は……、なにも……、なに、も…………、だめ、だ……す……ら、」


 それでも何とかウォルターは掠れた声で喘いだ。

 言わんとすることは分かっていた。そもそも、予想できていた。

 だからスッラも、用意していたと言っていい答えをウォルターに返す。


 「心配するな。何もしない」


 それを聞いたウォルターは安心したようにまぶたを閉じる。最後の「私はな」と言う部分は、おそらく聞こえていなかっただろう。

 穏やかな寝息が聞こえてきたのを確認したスッラはメッセージを綴る作業に戻る。この度は貴殿のご令嬢がご健勝であられること大変喜ばしく云々。敵対陣営としての妨害ならともかくプライベートの邪魔をされるのはさすがに如何なものか云々。私から私のパートナーを奪おうとするなら相応の覚悟をお持ちなのでしょう云々。これは私の傭兵としての活動にも関わることである云々。そもそも勝手な思い込みと妄想も大概にしろ云々。

 文面からひしひしと怒りと苛立ちの伝わるメッセージを組み立てて――しかしスッラは「礼をしに行く」だとか「首を洗って待っていろ」とか、そういう文言は綴らなかった。

 メッセージに今一度目を通し、ある程度形式や文章が整っていることを確認したら送信ボタンを押す。そうすれば、しばらく端末は休暇の時間だ。ベッドサイドのチェストの上へ放り、スッラもまたシーツに潜り込む。ふかふかの寝具に沈んでうっそりと笑みを浮かべる。今だけは良い夢を、なんて思いながら。



 件の企業の「対応」は早かった。社長のプライベート端末に、尾を食む3匹の蛇のエンブレムが添えられたメッセージが届いてすぐに「粛清代行」へ依頼を出した。その企業はルビコン星外の企業であったけれど、ルビコン星系内の企業でもあった。だから尾を食む3匹の蛇のエンブレムを使う独立傭兵のことを知っていたのだ。その傭兵が、入星の際にエスコートしてくれた者たちの一人であることも。

 コールドコールは久しぶりと思える「仕事」に驚いている節もあった。コーラルを巡る争乱の後、ルビコン入りをしてきた企業たちは、今のところルビコン「防衛」戦線と惑星封鎖機構の調査や手続きを潜り抜けた「優良企業」ばかりだ。地盤作りに注力し、謀略や駆け引きなんかにはまだリソースを割けない状態。まだしばらくは「傭兵業」をするものだと思っていた。

 だが――この依頼も異例なものであることにコールドコールはすぐに気付いた。

 渡されたのはメガバイトにもならない小さなファイル。標的の顔写真と名前だけ。殺す相手のことなど知って何になろう。しかし、その名前が依頼主と同じ名字を持つことに、微かに眉が動いた。


 「……」


 「依頼者、ターゲット共にそこにある情報で相違ない。依頼者……社長と通話でもして確認するか?」


 コールドコールの沈黙に、スーツの男が口を開く。


 「我々としても予想外のことではある。お嬢様は元々お転婆だったが――今回は一線を越えてしまったようだからな。仕方がない」


 仕方がない、と。切り捨てるのか。娘を。この辺境の星で。

 スーツの男は、己の勤める企業の令嬢に対するその処遇を受け入れているようだった。そこに嘲笑や憐憫はない。ただ事実を事実として受け入れている。


 「お嬢様一人と社員数千人。どちらを守るべきか、社長は理解しておられるのだ」


 連絡役曰く、今回の標的ことお嬢様は元々「お転婆」であったらしい。つまり、おそらく企業に取っては「良い機会」だったのだ、お嬢様がこの星で一線を越えたのは。補足情報として伝えられた「標的は自社製の強化人間である」の、「自社製の強化人間」と言う部分は、ねだられたからと言う以上に実験を兼ねていたから許可されたのだと言う。積極的に殺しはしないが、いつ死んでも構わない。そんなところだろう。

 いやはや不憫になってくる――。

 復興の手が届いていない廃ビルに入り込み、人の気配を辿るコールドコールは思わず苦笑を浮かべる。想像はしていたが、お嬢様には取り巻きがいるらしい。

 だがどうやら内輪揉めがあったことが、瓦礫や塵の上に散らばる血痕や死体から察せられた。本社に見捨てられたことを察した者がいたか、あるいは元から本社側だったか。何にせよ、ここであった戦闘は相討ちかそれに近い終幕となったらしい。人の気配も物音も、今やたった一つばかりだ。

 ジャリ、とわざと音を立ててコールドコールは部屋の前に立つ。その部屋の中には、赤と灰にまみれた、薄汚れた女がいた。


 「誰よッ!?」


 ギラギラした眼がコールドコールを睨む。その側にも、死体が転がっていた。


 「ご機嫌よう、お嬢さん」


 コツ、と踵を鳴らして部屋に入る。


 「来ないで! 来ないでよ! 嫌ッ! 嫌ぁ!! 来るな! 来るな来るな来るな来るな来るな!!」


 コールドコールが何故自分の前に現れたのか、女は本能的に理解しているようだった。近付いてくるコールドコールを遠ざけようと、言葉も感情も、瓦礫や何かの破片すら、触れられるものは手当たり次第に投げつける。

 それら全てを小さな動きで躱しながら、コールドコールは女にコツリコツリと歩み寄る。なるほど素人だ。


 「さて――お嬢さん」


 「ひっ!?」


 「せめてもの情けだ。冥土の土産を持たせてあげよう」


 コールドコールは懐からナイフを取り出す。けれど女は、目の前に立つ男を見上げるばかりでその動きに気付いていない。


 「君を殺すのは「粛清代行」だ。この意味が分かるかな? 君は――「企業の暗部」になってしまったんだよ。お嬢さん。君は、君の価値は、この星以下だと「企業」に判断されたのさ」


 やけに穏やかで優しげな声音で歌うように告げて、コールドコールは女の左胸を一突きした。


 「えっ……あ……?」


 どうと女の身体がくずおれる。

 呆気ない幕切れだった。



 「裏社会」のネットワークを眺めていたスッラは小さな記事の見出しだけを見て端末から顔を上げる。


 「ウォルタァ、いい加減分かってくれたか?」


 その視線の先にはウォルターがいた。

 けれど、スッラの言葉に返事は返ってこない。返せないのだ。言葉ではなく――それでも辛うじて――声に反応したらしいくぐもった呻き声が聞こえた。ぎしり、と硬い何かが軋む音。

 そもそもそこは手洗いだった。

 スッラが使っている、大型ヘリの手洗い。複数人で使われることを想定した、複数ある個室の一つの便器の上に、ウォルターは括られていた。

 複数人で使えると言っても、スッラの他に乗員はいないからスッラ以外がこの場所を訪れることはない。それに、まずこの大型ヘリ自体、使われることは少なかった。

 だからこの手洗いは、手洗いにしては随分綺麗なものだった。

 しかしそれでも、便器に括り付けられる人の姿と言うのは、とてもとても背徳感を煽る。おまけに水分や栄養の補給のために点滴が繋げられているのが異様でもあった。

 清掃用のバケツに腰かけてスッラは口角を上げる。

 スイートルームをチェックアウトしてヘリに移動した。ヘリを使うのは予定外だったが、元より取っていた船のチケットはもう使えない。ならば仕方あるまい、と。そしてまたウォルターを括ったのだ。痕がついてしまっているところには、ちゃんと薬を塗ってガーゼと包帯を当てた。その上からだ。

 いわゆるちんぐり返しの体勢にして、下着ごとズボンの股座を切り裂いた。晒された秘部はまだやわらかく解れていて、スッラはそこへ躊躇うことなく白濁した潤滑剤と件の企業から送られてきた「お詫びの品」を突っ込んだ。医療器具も扱っていることと、あのメッセージに「パートナー」の存在が示されていたことからの「お詫びの品」だろう。

 かくしてウォルターはまた快楽の暴力に曝されることとなっていた。


 「ん゙……ッふ……ぅ゙、ぅ゙ぅ゙……、」


 猿轡は舌を噛んでしまわないようにと言う「配慮」だった。


 「もう少し我慢してくれ。あと数時間もすれば着く」


 数時間かかる、と言うのは余裕を持った表現だ。ヘリを目的地までまっすぐに飛ばせばもっと早く着く。だがスッラは旅路を急がなかった。補給と休憩をこまめに繰り返した。そしてその度に外の音をウォルターに聞かせた。

 無論、ヘリに誰かを入らせることなどしない。何より外を出歩く人間も――復興の中心部から外れているから――多くない。ただ外の音や人の話し声や気配を「聞かせる」だけだ。

 それでもウォルターはヘリが止まり外との距離が近くなるたびに身体を強張らせ、挿入されたものを喰い締めてがくがくふるえた。目隠しをされているのだから仕方のないことだった。

 そうやって気を張っていたから、ウォルターはもうぐったりとしてしまっていた。

 スッラは苦笑する。まるで散々はしゃいで遊んで疲れ果てた子供を見るように。


 「ウォルター、苦しいな? だがこれはお仕置きだ。分かるな?」


 頬を撫でる手付きもやわらかく笑む目もかける声音も全て優しげだ。同じ手で、眼で、口で、ウォルターをいじめておきながら。

 霞がかかった意識の奥、するりとまぶたの向こうが明るくなって、肌を冷たい空気が触れた。気まぐれに、目隠しが外されたのだ。

 スッラの手と声に、ウォルターのまぶたが重たげに開き、潤みきった目がゆっくりと動く。そしてスッラを写すのとほとんど同時に「ひゅっ」と喉が浅く鳴って、がくんと身体が跳ねた。


 「ン゙ッぅ゙、ォ゙……! ぉ゙、ふッ、ぅ゙ォ゙、ォ゙ん゙……っ!」


 意識が戻れば遠く霞んでいた快感も鮮明に戻ってくる。今のウォルターにとって覚醒と絶頂は同義だった。それをスッラは――そうした張本人なのだから、当然知っている。頚を反らして目を見開いて、腹や後孔をひくつかせるウォルターをいとおしそうに眺めている。ウォルターのペニスが吐き出せるものは、もう無いと言っても良いだろう。

 くぷっくぷっと後孔から溢れた分の白濁、よりも多い量を、スッラはとぷとぷと継ぎ足した。

 そんなことをしながらルビコンの空を移動して、辿り着いたのは、氷原の端に建てられたコテージのひとつだった。観光客向けの計画のひとつである氷原ツアー、その宿泊コースで使われる予定の宿泊施設を、テスター名目で借りたのだ。

 ヘリから降りるとスッラはウォルターの身体を簡単に清め、ベッドへ放り投げた。今回は全ての衣服が剥ぎ取られていた。

 拘束など無くともウォルターは動けなくなっていた。日常生活ではまずする機会のない体勢を取らされていたことと、執拗な責めによる疲弊と消耗の結果だ。うつ伏せに体勢で、シーツを握ろうとする指先だけが唯一の「逃げ」だ。

 ぎしりとマットレスが鳴いて、影がかかる。誰かが――否、捕食者が、背後を陣取っていた。


 「ウォルター」


 耳朶に熱い吐息がかかる。怒りと興奮と、微かな呆れ。正と負の感情がドロドロと混じりあった声だ。ウォルターは、その声に答えようと口を開いた。


 「――ッ、あ゙、ぐ……ぅ゙、っォ゙、」


 けれど人間らしい言葉は出てこなかった。

 やわらかくとろけたままの後孔に、張りつめた剛直が突き込まれたからだ。じゅぷり、と胎を押し拡げるその質量に、ウォルターの身体はみっともなくふるえる。ここに来るまでずっとお預けされていた「熱」が、身の内を焼く。


 「ウォルタァ」


 今一度名前を呼ばれる。のしかかる重さが、触れ合う体温が、自分を喰らう存在を思い知らせる。


 「ァ゙――、ぁ、あ゙ぅ゙、っ、ん゙、っぅ゙……!」


 相手の僅かな身動ぎにすら、ぐぢゅ、と水音は鳴った。そして相手の僅かな身動ぎにすら、背骨にはびりびりと快楽が走った。

 過ぎた快楽を、少しでも逃がそうとウォルターは頭をシーツに擦り付ける。だらだらと口端から唾液があふれて垂れていた。

 スッラは構わず、のそりと身体を乗り出す。ウォルターの、シーツをかしかし掻く手に手を重ねた。その影でぬぢりとペニスが泥濘を抉る。手を重ねると同時にぎゅうと握り込まれたのは、そのせいだった。

 その手を受け入れながら、スッラはくすくす笑う。


 「ウォルター。お前があの女のために「ああ」言ったことはわかっている。わかっているが――お前、「私のために」と言うのは本気だっただろう?」


 カリ、と耳殻を齧られてウォルターは悲鳴を上げる。熱と刺激が耳からピリピリと広がっていく。


 「ああウォルター。お前は優しいな? 優しいが、その優しさはあまりに傲慢だ。お前は誰かのため、他人のためと言うし実際に動いてくれるが、その「相手」のことは考えていない。そうだろう? お前の考える最善最良に、お前はいない。それでは意味がないと言うのに」


 「――っ、ぐ、ァ゙……! ひぎゅッ! ぅ゙ッあ! ァ゙、ん゙ぎ、ィ゙ッ――ァ゙、ァ゙ッ~~~~~!!」


 ぬち、ぬちゅ、と緩やかな腰の動きは、ペニスが深くまで届く体勢とそれを受け入れる熟れきった粘膜にむごく突き刺さる。


 「なあウォルター。だからお前は、自分で自分の首を締めると言うんだ」


 「ひッ――! がッ、ァ゙、ァ゙ァ゙、ひぐっ……ぅ゙、ぁ゙、」


 ぬぢ、ぬぢ、とスッラのペニスがウォルターの胎の中を擦る。襞のひとつひとつ、ふくらんだしこり、ウォルターのやわらかいところを、ごりゅごりゅと引き潰していく。

 なによりうつ伏せの体勢は、これまでに躾られていた胸の飾りが擦れて、もう力の入らないペニスが身体の下敷きになって圧されて堪らない。

 首筋から真っ赤になった背中には珠のような汗が浮かんでいた。


 「ぉ゙、ぉ゙れ゙、っおれ゙、が、ぜんぶ、ぅ゙ぅ゙……っ! わりゅっ、わりゅいっかりゃ゙っ……!」


 「いいや? ウォルター、お前が悪いのは「私から去ろうとした」その点だけだ」


 「あ゙ッ! ァ゙、あ゙、っひッい゙ァ゙ァ゙ァ゙……ッ!」


 曲がりなりにも共に生きていく仲になったと言うのに、ウォルターはあっさりと手を離そうとする――それも「お前のためだ」とか何とか言って!――のだから困ったものだ。

 ぐぐぐ、と身体を沈めながら、ペニスをより深く挿入しながら、スッラはウォルターに覆い被さる。

 絡めた手ごと抱き込んで、全身で全身に触れてやる。首から肩の線を食もうと俯きがちになったスッラの頭と、最奥を抉じ開けられて天井を仰ぐウォルターの頭が対照的な影を作った。


 「がッ、ァ゙――、っぐ、ぅ゙、ア゙、ァ゙、オ゙ッ――~~~~っぐ、ぃ、ひッィ゙っぐ、ィ゙ぎゅ、ッ、ッ! ン゙ぐぅ゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙!」


 「今や私からお前を奪うものは、たとえお前自身であっても許さない。私にとってお前がどんな存在か、その身をもって理解してもらう」


 「ひいっ! ひっ! ひぎゅッ! ぅア゙、ァ゙、ゃ、ゃ゙ら゙、やめ、え゙ッ、すっ――」


 ぢゅぷっぢゅぷっと胎の奥で、身体の真ん中に近付くところで音がしている。たぶん、鳴ってはいけない音だ。拓かれるべきではなかった場所を穿たれて、捏ね繰り回される音。相手のその執着を、理解させる音。


 「だから安心しろ、ウォルター。今更私がお前以外を選ぶことはない。私からお前の元を去ることもない」


 だからもう、余計な心配はしなくていい。


 「――~~~~~!!」


 ばちゅんっ! と音がしてウォルターの目の前にまぶたの裏に頭の中に星が舞った。

 全身を強張らせて、声にならない悲鳴を上げて絶頂する。

 その、時に。

 背後の男が自分を掻き抱いて肌を焼くような熱い吐息をこぼしているのが、頭のすぐ傍で聞こえた。

 そして――ぐっぽりと嵌め込まれたペニスがふくらみふるえて、しかし胎の中に広がる気配の無い白濁した欲望は、間違いなく愛の表れなのだろう。


 「はッ……、はは、……ウォルター、」


 予定も行き先も何もかも変わってしまったけれど、ふたりの愛を確かめるには丁度良い休暇になりそうだった。

 フェアウェルは――お呼びでないのだから。

 

bottom of page