top of page

【ACⅥ】rainy garden of miniature【習作】

湿度のある話が書きたかった話。生存ifスラウォル。当社比7割増くらい甘々ベタベタ誰おまイチャイチャしてる。

湿度のある話が書きたかった話

万字行かずに話をまとめれるように、の練習(要練習!)


生存ifスラウォル

甘々ベタベタ誰おまイチャイチャ(当社比7割増くらい)


何もかも捏造だし妄想


2ページ目はウォルのメンタルが弱り過ぎじゃね?って没にした分

でも生存ifのウォルて基本メンタル弱いと言うか隙あらば後ろ向きになってそうなとこあると思う。

構い倒して振り向かせないようにしなきゃ……振り向いても包み込ん()で「大丈夫だから一緒に生きようね」って引き留めなきゃ……(目ぐるぐる)


---


 ウォルターは雨の降る音に目を覚ました。しとしと、しとしとと軒先の向こうが煙っていた。

 首を反対側に回すと、スッラが眉間に薄く皺を寄せて寝息を立てていた。

 最近のルビコンⅢは蒸し暑くなってきていて、空調の欲しくなる日が多い。スッラは身体を鍛えている分、代謝が良いのだろう。昨夜は送風機くらい点けて寝れば良かった。

 暑いから、あまりくっつきたくない。けれど離れたくはない。そんな葛藤の見える距離で眠るスッラの顔をウォルターは眺める。スッラよりも先に目を覚ます、と言うことがあまりないから、少し珍しかった。

 昔から、スッラの眠っているところをウォルターは見たことがない。目を閉じているところや、術後や処置後に薬で意識を失っているところは見たことがあるけれど、自然な寝姿と言うのはつい最近まで見たことがなかった。それはたぶん、野生動物の生存本能のようなものだろうし、強化手術の恩恵でもあるのだろう。

 傷や皺を増やしてなお昔と変わらない、整った顔。

 自分にはもったいない男だな、とふと思った。

 ――朝の支度くらい、しておくか。

 毎回と言って良いほどスッラが拐っていく仕事を、今日こそは自分がしてやろうとウォルターは寝床を抜け出そうとする。けれど、それは、叶わなかった。

 「……」

 気付けば、腕が掴まれていた。

 ごそごそと衣擦れの音。ピ、と軽い音がして、少し旧い型の空調が動き始める。そしてもう一度、ピ、と軽い音がして、今度は廊下に面した硝子張りの引き戸が閉じていく。

 そうして寝室を「快適な空間」にした男は、ウォルターの腕を引いて自分の腕の中に閉じ込めた。

 「朝食は俺が用意する。寝ていてもいいぞ」

 「朝と共に消えるのは月と夢だけで十分だ。遣らずの雨が引き留めているのはお前だ、ウォルター」

 小さく唸り声が聞こえたと思ったら、こんなことを掠れた声が囁いた。まるで詠のようだ。

 ウォルターには多少、詠に親しみがあった。かつての恩師の影響だった。

 「……いつも目覚めるときに俺の前から姿を消しているくせに異なことを言う。お前こそ少しは雨に立ち止まれ」

 少しの郷愁と、ほんの少しの日頃の恨み言を囁き返せば「くふ、」とちいさな笑い声がした。目覚めたばかりながら、言葉遊びでじゃれあった自覚はあるらしい。くふくふ、とスッラの笑う度に身体が小さく揺れた。

 「いい。ここにいろ。どうしてもと言うなら棚に水と果物がある」

 「棚? また勝手に持ち込んだのか……寝室に食い物は持ち込むなと言っているのに」

 「こういう時だけだ。傷む前に片付けているだろう?」

 スッラを咎めるウォルターの声は、僅かな呆れはあれど怒気は無い。穏やかなものだ。

 だが、“こう”なることを予測していたかのような準備に、少し、悔しくなる。今日こそは休日の朝食を用意できると思ったのに。

 「まったく……。ほら、暑いんだろう。離れてやるから放せ」

 スッラの手のひらの上で転がっているのが悔しくて、せめてもの抵抗に身体を離そうとする。それで肌寒くなるようなら、ブランケットでもかぶればいい。朝の戯れだ。すぐに解放されるだろうとウォルターは思っていた。

 それなのに、腕の力は弱まらなかった。

 「ここにいろと言っただろう。空調も点けた、暑くはない」

 ぎゅむ、と身体を締められる。ウォルターが寝床を抜け出そうとしたことについて、随分ご立腹らしい。自分はいつも当然のように抜け出しているくせに。

 ――まあ、この男が独裁的に振る舞うのは間々あることだ。そしてそこには、大体何かしらの理由がある。

 ウォルターはわざとらしく溜め息を吐いて、抵抗をやめた。抱え込んだ身体から逃げる意思が無くなったことを察すると、その両腕は少しだけ力を緩めた。

 代わりに、するりといたずらな脚が絡んでくる。

 「……それで? 今日は何をする? 朝はこのまま流れてしまいそうだが」

 物資の調達に外出する必要はない。この住処を訪れるにあたって、日用品も食料も買い込んできたからだ。更に言えば、ここは打ち捨てられた山中の古い家屋を整備した場所だから、周りに娯楽施設はもちろん人の気配など微塵もない。端末もリビングのテーブルの上に放ってそのまま。そも、電波が入ったり入らなかったりする程度の通信環境だ。

 「夜まで、寝る。寝たら、食って、動く」

 なんて自堕落な計画だろう!

 生き物としての欲求を満たすためだけの計画――とも言えない予定にウォルターは言葉を失う。まるで動物にでもなるかのようではないか。いくら昨夜はただ寄り添って眠っただけとは言え、それほど飢えることがあろうか。

 「……せっかくの休みがもったいないぞ。せめて何か、食べたいものとかないのか」

 ウォルターは同じ空間で穏やかな時間を共に過ごすだけでも十分なのだが、やはりそれだけでは物足りないのだろうか。僅かな不安が過る。否、好きなものとか休日の過ごし方とかは人それぞれ好みがあるから、個の相違として割り切れば良いだけなのだろうが。……こんなことを、考える程度には絆されてしまっている。

 「お前」

 「……」

 「と言うのは別に冗談でも何でもないが――そうだな、むしろお前は何を“作りたい”?」

 そんなスッラの言葉に、色々な意味で、顔に熱が集まるのを感じた。

 なぜ、どうしてこの男(スッラ)はこう、こちら(ウォルター)の考えていることを見透かせるのだろうか。

 子供が拗ねるようにウォルターは目の前の身体に頭突きした。ゔ、と呻き声が聞こえたけれど、どうせフリだ。そのままぐりぐりと頭を押し付けてやる。ふ、はは、と低い笑い声が身体に響いた。

 「はは。ああ、そうだな、ホットケーキなんか、久しぶりに良いかもしれん」

 「ほっとけーき」

 スッラが挙げたのは“少年”でも作れるようなものだった。思わず反射的に復唱する。

 「バターを載せて、ハチミツもかける」

 贅沢で理想的なホットケーキの姿が目に浮かぶ。

 「アイスもつけよう」

 「コーヒーと紅茶、どちらにする」

 「コーヒー。ブラックで」

 ブラックでと指定したのはわざとだ。

 トントン拍子に甘やかな食卓が組み立てられていく。いい歳をして、と思われるだろうか。しかしここは誰の目も憚らなくていい場所なのだから、好き放題できる。

 だが、さて。一番の障害は、場所だ。

 話をしていて食欲は出てきた。やる気も、まあある。けれど――。

 「よし。では、作ってくるから放してくれ」

 「……」

 スッラはやはり部屋から出たくないし、ウォルターを離したくないらしい。迷う素振りはあるものの、ウォルターを抱え込んだ腕がほどける気配はない。

 随分粘ってくれるではないか。否この男はそもそもしつこい方だったな。

 この調子でこれからもっと蒸し暑くなったらどうするのだろうか。どこか別の地域や惑星に避暑に行くのだろうか。

 技研都市は都市全体が気候管理されていたから――多少の季節感は演出されたけれど――いつでも大体過ごしやすい環境だった。都市から出るにしても、ACなんかに乗ってプラントを通れば外気など関係無かったし。

 仕方がない、とウォルターは溜め息を吐く。幸い時間はまだまだある。少しくらい、良いか。それに二人で駄弁っているだけでも、有意になってしまう。眠っていたってそうだ。ふたりでいること、それ自体に意味がある。

 だが。

 「……スッラ、」

 食欲を別の欲に置き換えようとでもしているのか、絡んできてから大人しくしていた脚がにわかに悪戯を始める。寝床から出られないようにしてしまえば良い、とでも考えたのだろう。昔から、スッラにはそういうところがあった。

 「やめろ、するならシャワーを浴びに行く」

 「……」

 うだうだぐだぐだと、埒が明かない。

 そも、ホットケーキにしろ果物にしろ、食べたら片付けをするために部屋の外へ出なければならない。

 部屋の外に出るのは、結局避けられないのだ。

 空調の除湿が効いてきて、肌が触れてもさらさらと心地好い部屋で、スッラとウォルターは子供のようにじゃれ合っている。

 「仕方ない。座卓を出して……ホットプレートを持ってくるか。夜は少し涼しくなるらしいからちゃんとダイニングで食べるぞ」

 「まあ、妥協点か。呑もう」

 なんでそんなに偉そうなんだ、とは言わなかった。今さらだからだ。

 そうして、ようやっと二人はのっそりと起き上がる。

 普通よりも少し厚い敷布団。蕎麦殻を詰めた枕は高さも固さもちょうど良い。硝子張りの引き戸の向こうには水煙に朧気な深緑。薄暗い廊下では、磨かれた床板がぼんやりと光に照らされていた。

 ニホン家屋を元にしているこの隠れ家は、立地もあって常にどこか薄暗い。スッラはそれが嫌いではないけれど――少年時代のウォルターがここにいたら、薄暗さの中で軋む床板や僅かに開いたフスマの隙間を怖がりそうだな、なんて思ったりする。今でも時々、開いたフスマの隙間に小さく目を見開いたりしているから。

 布団は広げたまま場所をズラす。押し入れの方から折り畳まれた座卓を出してきて、棚にしまわれていた水や果物を出す。ダイニングスペースやパントリーから物資を運搬してこれば、寝室だった部屋は随分賑やかになった。

 「そう言えば、お前が初めて作ったのもホットケーキだったか? 端が焦げていたが、悪くなかった」

 手持ち無沙汰に果物をカットしながらスッラが笑う。

 昔の話だ。スッラとウォルターしか知らない、ふたりの話。

 ウォルターも過去を懐かしむように目を細めた。

 「仕方ないだろう。夜中にこっそり忍び込んで作ったのだから」

 「良い子の少年が夜中のキッチンでホットケーキ作りなど、職員たちにバレた時は面白かったな」

 「作り置きのできる、と言うか作り置いた方が美味くなる菓子を教えてもらったのは収穫だったが……まあ、あんなに騒がれるとは思っていなかったな」

 スッラが夜分に帰還する時、疲れているだろうからとウォルター少年は甘味を用意しようと思ったのだ。疚しいことではないけれど消灯後であったし、こっそり作ろうとしていた。けれど結局それは「友人」たちにあっさりとバレたし、作ったホットケーキも焦げていたしで、拙いことばかりの記憶だが――「友人」たちがああも騒いだのは「自分たちも少年の作ったお菓子を食べたい」と言う部分が大きいことを、当の少年は知らないようだ。わざわざ教えてやる義理などスッラにはないから、きっとこの先も知ることはないだろう。

 スッラの差し出したカットオレンジをむぐむぐ雛鳥のように食べながらウォルターはホットケーキを焼いていく。同じ手で自らもオレンジを食べ、指先の果汁を舐めるスッラには気付いていなかった。

 焼き上がったホットケーキはふっくらと厚みがあった。それを二枚三枚と重ねて、豪華にする。次にバターを適量……少し掬い過ぎたがそのまま一番上のホットケーキに載せてしまう。そしてハチミツを回しかけて、アイスはホットケーキの側に置く。スッラの手が、ウォルターの手が退いたのを確認した後にアイスの隣へポイポイとカットした果物を添える。そうしたら、贅沢なホットケーキプレートの完成だ。

 「……コーヒーを忘れたな」

 「水で妥協するか」

 仕事では見られない間の抜けたミスも穏やかな時間の一部だ。一本のミネラルウォーターを二人で分け合うことにする。

 イタダキマス、と食前の宣言を済ましてナイフとフォークでホットケーキを切り分けて口へ運ぶ。ふわふわふかふかで、あたたかくてとろりと甘い。知らず、表情が綻んだ。

 「美味い」

 「美味いな」

 完璧なホットケーキだ。腹がくちて、こころがまろくなる感覚。シンプルに、いいな、と思った。

 ふと気付けば、雨音が遠くなった気がする。窓に遮られて遠くなった音が、更に弱まったような。長雨が終わればもっと暑くなるのだろうか。それとも涼しさが戻ってくるのだろうか。何にせよ、目下の問題はこの後や夜だ。少しでも過ごしやすくなってくれると良い。

 「夜は何が良い」

 スッラが訊く。作るつもりらしい。

 「足の早いものから片付ける。基本だ」

 「火を通せば多少過ぎても平気だ。食べなければならないものではなくて食べたいものが重要だろう」

 とは言え、ウォルターはなんでも良かった。確認した食材におかしなものや嫌いなものは無かったし、スッラは料理が上手い。スッラの作るものなら、ウォルターはなんでも良いのだ。

 「……お前に、任せる。お前は料理が上手いから」

 たぶん、逸らされた眼にスッラはウォルターの考えていることをしっかり汲み上げた。愉快そうに目が細められて「Wilco」が返される。

 閉じられた空間に甘いにおいが満ちる。雨のルビコンの片隅に、ゆったりとした時間が流れていく。

 きっと、夜にこの部屋はまたひどく甘くなるのだろう。






「そう言えば少し寝苦しそうだったが……やはり暑かったか?」

「まあ、それもあるが、少しな。夢を見ていた」

「……どんな夢か、覚えているか?」

「四つ足の獣になってお前を食らう夢」

「……」

「……ふ、く、ははは! 期待の顔をされるとはな!」

「!? し、してない!」




 



没ver.


---


 水滴の屋根を叩く音で目が覚めた。室内は薄暗く、そのまま流した眼に入る外もまた仄青く煙っていた。ウォルターは細く息を吐いて額をシーツへ擦り付けた。

 ルビコンとて雨は降る。ウォッチポイント・デルタ、そのコントロールセンターに迫った時なんかも降っていた。ただ頻繁には降らない。だから――この長雨は、少し珍しいのだ。

 雨は数日の間降り続いていた。一昨日は晴れ間があったが、また昨日からずっと降っている。復興や開発が進み、氷原が溶けて海が増えてきたせいもあるだろう。積もるほど降る雪には慣れていても長雨には慣れていないルビコニアンたちは、種々の反応でもって空の様子を窺っている。

 ウォルターは彼らほど長雨を気にしてはいなかった。他の惑星で見た強酸性の雨や可燃性の雨に比べれば優しいものだからだ。それに、長雨のある有人惑星として代表的な地球では、雨に惑星が沈んだなんてアーカイブは残されていない。むしろガリア多重ダムなんかは今が本領を発揮する時ではないのだろうか。恵みの雨だ。

 けれど、中には雨を厭う者もいる。気圧の変化で身体に不調を来したり、水分が錆を呼んだり、何より濡れることを嫌ってのことだ。そしてウォルターの同衾者である男は――湿気を嫌った。

 そも、湿度も温度も適温に管理された場所の多い今世紀において、湿度や温度の変化に不快を示す者は多い。だからウォルターは、実を言うと件の男が「雨の日は湿度が高くて不快だからあまり好きでない」と言ったとき、その男の「普通」の部分を垣間見れた気がして少し嬉しかった。

 そして今、逃れようと思えば他所へ逃れられるだろうに、ウォルターがいるからとここに留まる姿に、申し訳なさと呆れとこそばゆさを感じていた。

 「……」

 目蓋を閉じた顔にそっと手を伸ばす。普段は気恥ずかしくて、タイミングが分からなくて、何より自分から手を伸ばすのが躊躇われてできないけれど、相手が眠っているときなら、少しくらい許されるのではないかと思うのだ。

 普段してもらっているようにすると起こしてしまいそうなので、人差し指の背で目元をそっと撫でる。最近高くなってきている湿度と温度に、微かに寄せられた眉が少しでもゆるんでくれると良かった。

 それにしても、とウォルターは思う。自分が、この男の寝顔を見られるようになるとは。

 傭兵全般がそうなのかは分からないが、人の気配があるところでこの男が寝ているところをウォルターは見たことがない。強化手術の後や怪我の手当てなんかで、麻酔で眠っているところは見たことがあるけれど、いわゆる自然な睡眠を取っているところを見たことはないのだ。(眠っていると思ったら目蓋を閉じていただけ、なんてことが何度あったことか!)

 それが、今は自分の傍で眠っている。相手よりも早く目が覚めることは、悔しいことに滅多に無いため、こうして見られることは多くないのだが、それでもこうして現実を前にすれば、ようやく少しは相手に報いることができたのだろうかと思う。これまでずっと自分(ウォルター)のために戦ってきた男を、休ませてやれる。

 そうだ。この男はウォルターのために戦ってきたのだ。自分で選んだ道だったけれど、そのために傷付く必要の無かった他人を傷付けてきたのだ、ウォルターは。(相手は否定するだろうけれど)

 ウォルターのために命を費やしてきた男。の、傍にいることを、許されているのだ、と思えば、ぽろりと目頭から雫がひとつ、こぼれ落ちた。

 最近は、気が緩んでいると思う。なんてことのない瞬間に、涙がこぼれたり心が遠くへ行く。

 ぽたぽた、ぽたぽた。とあふれた雫がシーツへ落ちていく。小さな水滴がシーツを叩く小さな音は、きっとウォルターにしか聞こえない。薄暗い室内も味方してくれるだろう。

 ウォルターは呼吸の乱れる前に伸ばしていた手を引っ込める。昨夜は何もせず、ただ並んで眠りについたのだ。そのままゆっくりさせてやりたい。

 そしてウォルターは小さく息を吐く。シーツに手をついて、ゆっくりと身体を起こそうとする。少し、衣擦れの音が立ってしまったけれど、不具のある身としては十分静かなものだった。

 朝食の支度をしよう。たまには自分がやらないと。

 そう思ってウォルターは寝床から出ようとした。

 「――!?」

 けれど、すぐに背後から伸びてきた腕に引き留められた。驚きか、あるいはそれでも「起こしてはいけない」と思ったのか、声も悲鳴もウォルターは上げなかった。

 シャツ越しにもぬくい人肌に顔が埋まる。少し肌寒さを感じる朝には心地良い温度。だが、眠っているうちにかいた汗は薄らと残っていた。

 息を飲むウォルターを他所に、ウォルターを抱え込んだ腕――とは逆の腕がもぞもぞと動く。そうして、ややあって、ピ、と軽い電子音が聞こえた。次いで、型の旧いエアコンが動き出す音。その音に満足したのか、カタンとリモコンの手放される音がして、二本目の腕が身体に回される。ぎゅむ、と抱き締められると同時に「んん、」と小さな声が聞こえた。髪に顔が埋められて、脚が脚で抱え込まれる感覚。

 「……スッラ?」

 名前を、呼んで良いものかウォルターは迷った。けれど結局その名前を呼んだのは、ここまで動いているならやはりもう起きてしまったと思ったからだった。

 「……どこへ行く」

 少しだけ、機嫌の悪そうな声が降る。ウォルターは肩を揺らして目を伏せた。

 「す、まない。起こしてしまった」

 「……。どこへ行くつもりだった? ウォルター」

 スッラが息を吐く。それが溜め息に聞こえて、ウォルターは身体を縮こまらせる。けれど、次に聞こえたのは穏やかな声だった。

 「朝食、を、用意……しようと思っ、て、」

 「なるほどな。偉いぞ」

 身体に回された腕がぽすぽすと背中を叩く。気を、遣わせた――と言うか、子供扱いされている気が、する。

 くすくすと聞こえる笑い声に、ウォルターは少しむっとした。

 「……暑いんだろう。離せ」


bottom of page