けもの-ひと-けだもの
セックスすると出られない部屋 in くっついてるスラウォル。本番が無ければエロもない。ご都合部屋とご都合展開に巻き込まれたスラウォルが噛んだり舐めたりドライハンプしたりするだけ。
セックスすると出られない部屋 in くっついてるスラウォル
本番はないです。エロくもないです。
噛んだり舐めたりドライハンプしたり。
ふわっとした感じの与太話。
何もかも妄想と捏造とご都合イェー✌(’ω’✌ )三✌(’ω’)✌三( ✌’ω’)✌
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獣が二匹、ベッドの上。片方が片方を押さえ付けて、グルグルと餓えた喉を鳴らしていた。けれど片方も片方で、押さえ付けられたままグルグルと渇いた喉を鳴らしているのだからお似合いだ。
事の発端は少し時を遡る。
気付けばここにいた、としか言いようがない。
スッラはガレージへ向かおうとしていた。ウォルターは執務室へ向かおうとしていた。ふたりとも別々の場所にいた。
そして目的の扉を開いたら――このわけの分からない部屋だったのだ。
慣れた道のりに、周囲の風景など大して見もせずに歩いていたふたりはそうしてあっさりと奇妙な部屋に踏み入ってしまった。端末や書類など見ながら歩くものではない。
ほとんど同時に別々の場所からふたりが入室すると、入ってきた扉は壁と同化して消えてしまった。叩いてもなぞっても、周りの壁と同じ「壁」があるだけで、扉の痕跡や気配など微塵もない。それでも未練がましく壁を一通り調べたふたりは顔を見合わせて、どちらも狐に摘ままれたような顔をした。
部屋には大きなベッドが置かれている。外へ出る扉は無かったが、浴室や手洗いへ続く扉はあった。そしてベッドのあるメインルームには、大きなモニターと何やら色々置かれたテーブルがあった。
モニターがパッと光を放つ。どこぞの砂狐のような顔をして、スッラとウォルターはモニターを見上げた。
「テーブル上の瓶をすべて飲め? 毒か薬かも分からんものを「そうか分かった」と飲めるか?」
「……ここから出たければ飲め、と。何であるのかはこっちの紙に書かれているな。…………崔淫剤と、本音しか言えなくなる薬……?」
「馬鹿馬鹿しい」
本音しか言えなくなる薬、とは自白剤と何か違うのだろうか。違うのだろうな。自白と本音は似て非なるものだ。そんなことをウォルターは考えた。現実逃避だ。その横ではスッラが大きな溜め息を吐いていた。
「で? これを飲んでセックスでもしろと?」
片や常にコーラルをキメているようなものの旧世代型強化人間。片や様々な薬品と探求者たちに囲まれた研究所で育ち、若年の頃より裏社会に飛び込み危険な橋を渡ってきたハンドラー。薬剤に対する耐性が、常人よりもあるふたりは「さっさと部屋を出る」と言う目的の元、テーブルの上の薬を雑に空けていく。自棄酒でもしているかのようだ。
けれど――ふたりが用意された薬を片付けると同時に切り替わったモニターの文字は、なんともふざけたことを言っていた。
薬の入った小瓶を傾けていたウォルターがゴフッと噴き出した。
モニターには、24時間セックス禁止、の文字が映し出されていた。セックスをすれば、この部屋からは出られなくなる、と。
その文字を見とめて、その意味を理解した瞬間、スッラはウォルターの口に指を突っ込もうとしていた。
お前を吐かせて私も吐く。だから吐け。さあ吐け今さっき飲んだものすべて。
床が汚れるとかまったく考えていない行動の速さだった。だがウォルターも、そんな無体を易々と許す筈もなく――やるなら自分でやる、と抵抗した。大の男ふたりがギャアギャアと喧しくなる。
そうして、時間ができたことが良かったのだろうか。モニターの文字が、また切り替わる。
薬を摂取した状態で。吐いたらおかわりの供給有り。なお相手への口淫、手淫等もセックスの一部と見なす。云々。
その文字列を目を丸くして読んだふたりは、盛大に顔をしかめた。思わず行儀も品もよろしくない言葉が喉まで出かかった。
とにかく逃げ道を塞いでくる――……。
つまりもう、腹を括るしかないようだった。
幸い、手洗いについての制限はない。ささやかではあるが、多少の排出はできるはずだ。そもそも薬の類いには常人(ひと)より強いのだ。気にくわない、腑に落ちない状況ではあるが――大層なことにはならないだろう。
そして数刻。
部屋の中には立派な獣が二匹、出来上がっていた。
変化自体は緩やかだった。
何か暑くなってきたな、腹の辺りが落ち着かないな。そんな感覚が強まっていった。
奇しくもその日の夜は逢瀬だった。久しぶりにふたりが時間の取れるタイミングだったのだ。
だと言うのに、なんて事態に巻き込まれたのか。どちらが悪いわけでもないと言うのに、どちらもむっすりと口を閉じてそっぽを向いていた。
それが徐々にそわそわと落ち着かなくなり、相手に触れたがり、身を寄せ合いたくなり、重ねたくなった。
スッラがウォルターへ手を伸ばし、ウォルターもそれを受け入れ、しかし何とか肌は晒さず、児戯のような攻防を少し。結局――セックスの導入のように――ベッドの上でスッラがウォルターに覆い被さる姿で落ち着くかたちになったのだ。
餓えた獣の唸り声が、どちらからともなく溢れる。綺麗に整えられたベッドが、その完璧なメイキングに恥じない上等なものであることが鼻につく。
スッラがシーツに押し付けたウォルターの手首には既に痕が浮かんでいる。けれど時々手のひらの方へ上り、文字通りシーツに手を縫い止める手の甲にも痕が残っていた。
身体を触れ合わせると、ただでさえ熱い身の内が、そこから更に焼かれて堪らない。だからと言ってずっと浮かせていてもズクズクとした熱が腰や頭にのし掛かってきて堪らない。
だからスッラは、ウォルターを見下ろしたりその胸元や首筋に顔を埋めたりを繰り返していた。何にせよ、ウォルターの上から退くと言う選択肢は無いらしい。それにしても――ああ、腰の辺りが触れ合う度に腰が揺れる。
服は着たままだ。いくら腰を振ろうと直接肌が触れることはない。終に欲を吐き出そうとそれはセックスにならない。しかし今のふたりに着衣での擬似セックス(ドライハンプ)で済ませるという思考はなかった。抱きたい。抱かれたい。だが、そうして良いのか。そればかりが頭を埋めていた。服を着たまま腰を振る、無為な行為を、馬鹿馬鹿しいと思う余裕もないのだ。
幸いと言うべきか、愛撫とキスについては何の制限も言われなかった。
スッラは時に服越しに、時に直接、ウォルターに触れた。手の甲で首筋を辿れば血潮の熱さに焼かれ、手のひらを胸の上に置けば鼓動の早さと大きさに愛しさが募った。腹を、脚をなぞればひくんひくんと大袈裟に跳ねる様が目に毒となる。いつもしてやっていることなのに頭の中で陽炎のように揺れるやり方で胸の飾りをいじくってやれば、それだけで悲鳴のような嬌声が聞こえた。
その声に誘われるように、スッラはウォルターの身体に何度も牙を立てた。
ウォルターは厭がらなかった。むしろスッラの服を握り締めて、その身体を引き留めて――己を喰わせているようにすら見えた。そこでかりかりと立てられる爪もまたスッラの欲を煽っていた。
ギチリ、と強化人間の顎に噛み締められた肌は赤を滲ませた。
その痛みは、しかし正気を呼び戻すモノにはならなかった。自身を抉る牙にウォルターは熱い息を吐いてうっとりと目を細めるばかりだった。鋭い牙の後、あつい舌が噛み痕を舐るのもまた、悶えて悦んだ。
触れ合う双方の中心は言うまでもなく兆していた。服越しにも分かる互いの熱さと硬さはやけにハッキリと感じられた。
溢れる涎を飲み下しながら茹だった思考が廻る。もう、良いのではないか? と。
だって、ウォルターも、こんなにツラそうにしている。こんなことがなければ数時間の後には身体を重ねられていたはずなのだ。渇く。ああ。酷く渇く。目の前の男を抱きたい。抱いて、抱き潰して、余すところなく喰らって、喰い尽くして、舐ってしゃぶって何もかも全て味わいたい。この渇きを鎮めてくれるのはこの男――ウォルターだけだ。
それに、そうだ。部屋から出なければ、使命とやらも無関係の業も、清算せずに済む。ウォルターが、傷付いて苦しんで悲しむことも無くなる。ウォルターはウォルターとして生きていける。生きる……この部屋の中、で? だけで? 今後、これから、この部屋の中でだけで過ごして、それでウォルターは幸せか? それがウォルターの幸せか?
だが関係のない責任に食い潰されて最期を迎えるよりはマシだろう。今は小康状態と言うか、一先ずウォルターが以前のように死に物狂いで「使命」を果たさずとも良い状態だ。しかし結局、現状は一時的なものでしかない。ウォルターが既に傷だらけの足で再び歩き出さない保証など、真実どこにもない。やはり破綻する、という状況になれば、ウォルターは間違いなく、迷いなく、友人たちとやらに託された使命を、今度こそ果たそうとするだろう。その命に代えても。
そうなるくらいなら。
そんなことになるくらいなら、もうセックスしてこの部屋から出られなくなっても良いのではないか?
自分は良い。傭兵業は、できなくなるのは、少し惜しいけれど、ウォルターをこの鳥籠に押し込める責任なら取る。当然だ。そもそもあのウォッチポイントで、そのつもりもあった。こんな部屋でなくともいいのだ、別に。私は。ウォルターがウォルターとしてウォルターのために生きられるなら。
ああ――渇く。抱きたい。喰いたい。暴きたい。ウォルターの何もかもを。
目の前の男は、酷く剣呑な眼をしている。けれどそれが敵意や殺意からではないことを、頭は理解していた。今までいちどもそうしたことが無いように、この男は、やはりこちら――「俺」に敵意を向けない。それを知っている今、俺を睨み付ける鋭い眼が、むしろ心苦しいものですらある。
抱かれたい。抱いて欲しい。腹が、その奥底が疼く。浅ましい欲望が思考を埋める。のみならず、普段は必死に押さえ付けている願望まで表に出てこようとしているから、それがこぼれないようにふぅふぅ歯を喰い縛るのに必死になる。
抱かれたい。喰われたい。遠慮も加減も無く。――スッラの、好きなように、気の済むように。なんて。
だって知っているのだ。分かっているのだ。スッラがいつも優しいことを。気遣って、慮ってくれていることを。
意地の悪い抱き方をしても、趣向を変えた抱き方をしても、決して乱暴には扱わず、人体や精神が音を上げるまでの無理はさせず、行為を終えた後の片付けや始末も丁寧にしてくれていることを。
だから――だから、遠慮しているのではないかと思うのだ。俺はいつもいつも甘やかされてどろどろにみっともなくなっているけれど、スッラはずっと我慢しているのではないかと。
そうだ。きっと、そうだ。だから今も“見ているだけ”なのだ。
受け止めてやりたい。満足して欲しい。それは傲慢な、思い上がり甚だしい願望なのかも知れない。だけど俺は「伴侶」になったのだから。身体だって、多少乱雑に扱われても大丈夫だから。スッラの、本能とか獣性とか、そういうものを、ほどいてやりたい。
だから今ここで本能だけのセックスを――……。
……だめだ。セックス、しては、だめだ。
だって、セックスをしてしまえば、部屋から出られなくなると言うではないか。それはだめだ。部屋からは、出なくてはいけないのだ。
まだ、やるべきこと、すべきこと、がある。
復興のこと。やはり破綻が避けられなくなった時のこと。猟犬たちに普通の人生を取り戻させること。あらゆる償い、清算、投資。俺にはまだ、仕事がある。
それに――他、にもある。この部屋の外、で、する……否、“したい”こと、が。
だから、だめなのだ。セックスしては。スッラにめちゃくちゃに抱かれたい。でも、今は嫌だ。抱かれたくない。ここでは。
うう、とウォルターは唸った。耳元で聞こえる呼吸音が、首筋にかかる吐息が、触れ合う肌の何もかもが、熱い。身の内の衝動を押さえ付けるように、自分に覆い被さる身体に爪を立てた。
それからシャツを引っ張られるのに気付いて、スッラは顔を上げる。空調が効いているはずなのに、顎先から汗が滴り落ちていった。
「ぅ……、き、キス……、きす、して、くれ」
ウォルターが何度目かの口付けをねだる。熱を表に出さぬまま、互いの粘膜を擦り合わせられる現状唯一の手段。喉をグルグル鳴らして、スッラは番の希望に応えた。
かぷ、ぐちゃり、と水音が立つ。元よりだくだくと濡れていた互いの口内は熱くぬかるんでいた。片やぐじゅぐじゅと相手の口を喰らう勢いで、片やはふはふと涙声を鼻と相手の背中にひっかけながら、夢中になって貪り合う。ひくひく、ゆるゆると動く腰が酷く重く熱く、服越しにもこの上なく昂っているのが感じられた。
スッラにとって今のウォルターは何もかもが毒だった。キスをねだるのも、必死に応えようとするのも、鼻にかかった吐息も、潤んだ瞳もこぼれる喘ぎも背中に縋る指先も腰を捕まえていようとする脚も控えめに動く腰も、何もかも! やはり種を吐くならこの番の胎の中でなくては。
――だから、もう、身体が勝手に動くのだ。
「っあ……!」
スル、と身体の上を、熱い手のひらが動くのを感じてウォルターはふるえた。
その手は良からぬ意図を持って動いていた。そうだ、ウォルターには分かるのだ、その手の動きが、夜の帳の中で幾度となく自分に触れてきたものだと。
「ッ……!」
ああ、だめだ。それは、だめだ。いけない。
ウォルターはすがっている背中へ立てている爪に力を込めた。服越し、だから痕は付かないだろうけど、少しでも怯んでくれればいい。
「……」
けれどそこは、やはり傭兵と言うべきなのだろうか。スッラは微かにも怯むことなく、服をたくしあげようとする。ウォルターは咄嗟に指先に引っ掛かっていたそのまま、シャツを引っ張った。
火事場の馬鹿力とか、その類いだろうか。あるいは、スッラの理性の強さだろうか。
名残惜しさを多分に見せながらもスッラは手を止めた。熱に翳り、淀み、しかしギラギラと光を放つ双眸がウォルターを映す。それが、ああ、あんまりにもあわれに思えて、ウォルターは焦燥の浮かぶ顔を抱え込むように引き寄せてやる。堪えるように閉じられた目蓋に、真っ赤になったくちびるを押し付ける。
「ぐぅ……っ、」
お預けをされた獣が呻く。
ウォルターは縺れる舌を必死に動かして訴えた。
「だめ、だ、……だめだ、スッラ、だくな、」
「……」
スッラは葛藤しているようだった。けれど、それに気付ける余裕などウォルターには無かった。
「いやだ、だかれたく、ない」
抱かれたくない、と、その言葉だけはやけに鮮明に茹だった頭に突き刺さった。
あたまを抱え込まれたまま、スッラはウォルターの喉元に牙を立てた。まったく獣じみた抗議の仕方だった。義肢を掴んでいた片手は、ビシリと熱の移った無機物に罅を入れる。
ウォルターが息を呑む。けれど、かろじて自由な方の手を汗ですべる頬へ添えた。
「ここでは、嫌だ。ここ、へやから、出る……、でたい、から、」
いとしげに動く指先は手負いの獣を宥めようとしているよう。ふるえながら紡がれる言葉と併せて、無謀にも思える仕草だ。
「ここから、出、ない、と……、おまえが、言っていた、教えてくれた、こと、や……、もの、を、何も、なにも、できない」
言い訳なら聞かせてもらおう、と耳をそばだてていたスッラは、その言葉にハッとした。喉を噛み締めていた顎が緩む。
ウォルターはポツポツと語った。
この部屋から出なければ、スッラが言っていた風景を見に行けない。教えてくれた料理や食べ物を食べに行けない。連れて行ってくれるのだろう。食べさせてくれるのだろう。見せてくれるのだろう。「そこ」へ行くのだろう。この部屋から出られなければ、何もかも叶わないではないか。嫌だ。それは、嫌だ。
「――だから、すっら、抱かないでくれ。部屋を、出るまで、だめだ、」
身動ぎひとつせず――できず――聴いていたスッラはもう、何も言えなかった。その時だけは、陽炎の見えていた頭がはっきりとしていた。
「…………そうか。ならば、抱いてくれと乞われても、抱いてはやれないな」
「あ、っあ……たの、む」
数年ぶりに喉を使ったのかと思うほど、声は掠れていた。労るように、味わうように噛み痕を舐る舌に、ウォルターは肩を跳ねさせた。
そしてふたりは部屋を出る。
奇妙なことに「外」の時間はさして経っていなかった。扉も部屋も跡形もなく消えていた。
しかしあの部屋での記憶はすべて残っていたし、痕跡もあった。薬は抜けたらしいけれど、暴力的なその痕は言うまでもなく熱と欲を煽った。何もしなかったからこそだ。
ああ夜は、夜はまた――もう一度。今宵こそは本能と衝動に身を任せても良いだろうか。
「…………セックス、でないなら、……お前が、俺を気絶、させて、つかう……とか、」
「は? ……は? おま、お前、そんな……、馬鹿なことを言うな」
「だ、って、ツラい……、ツラい、だろう? つらそう、だから、おれは、」
「…………馬鹿なことを、言うな……、もう、これ以上、」
「……ぅう、」